第29話 青少年の悩み
ガクウ達三人は、取り敢えず掘っ立て小屋に戻っていた。
アオイは個室で着替えており、ガクウとジャグーダは居間でくつろいでいる。
そんな中、ガクウが青い顔を部屋の隅っこに体育座りをしていた。
まるで、この世の全てに絶望しているかのように。
ジャグーダは何かあったのかと察し、話しかけず読書にいそしむ。
こういった時、下手に話しかけるのは悪手だと彼は知っているのだ。
「……兄ちゃん、俺はもうダメかもしれない」
「……どうした急に。それと、弟面をするな」
だが、ガクウはジャグーダに相談に乗って欲しいらしい。
ジャグーダはどんな悩みなのかと、本を下げてガクウの顔を見据える。
そうすると、ガクウは静かに話し出した。
「……俺、アオイちゃんが眠った時はさ、身体の汗を拭くときとか普通に障れたり見れたりしたんだ」
斜め四十五度からの話の始まり方に、面食らうジャグーダ。
どうやらガクウの悩みは、青少年によくあるそれらしかった。
「……いや、あの三桁バストを前にそれって、ちょっとおかしくないかお前?」
すかさずジャグーダが指摘するが、ガクウの話は止まらない。
「でも、アオイちゃんが目覚めてから、やましい気持ちでアオイちゃんの身体を見てるって事に気が付いたんだ」
真剣に悩むガクウの姿を見て、ジャグーダは首を傾げる。
いや、それは真っ当な青少年として当然な反応では? と。
「特にあの大きなおっぱい! あの圧倒的質量を誇るおっぱいが、俺の心を狂わせるんだ! 俺は、俺はどうすればいいんだ兄ちゃん! こんなんじゃ大地で眠る父さんに顔向けできないよ……!」
至極真面目に悩みを吐露するガクウ。
しかしジャグーダには、酷く滑稽な悩みにしか思えなかった。
「いや、俺はそれ聞いて逆に安心したが? あの日から性欲消滅したんじゃないかと、俺は気が気じゃなかったしな」
明るくて元気な事が取り柄なガクウだったが、女っ毛がこれと言ってなかった。
もしかしたら複雑な性的な悩みを抱えているのではないか? そうボンジャーグと話したこともあるぐらいには、ジャグーダは心配していたのだ。
しかし、こうして真っ当な青少年の悩み吐露され、杞憂だったなとジャグーダは肩の力を抜いた。
真面目に取り合っていないと思ったのか、ガクウがジャグーダを睨みつけて来る。
さすがに放置するわけにもいかず、ジャグーダも真面目に返すことにした。
「……まあ、そいつはあれだろ。意識がない時、お前はアオイの内面を知らなかった。だが、目覚めてからはそうはいかない。お前はアオイを、一人の女として意識した。お前も男だ。女の身体の事を意識しちまう。当然の摂理だ」
その言葉に、ガクウは恐る恐る
「……俺? おかしくない? 大丈夫?」
「別に何もおかしくねーよ。いや、まあそんな疑問は、もうちょっと前に自己解決してほしかったが……。えっ、何? まさか子供の作り方知らないってわけじゃねーよな?」
一般的な保健体育はボンジャーグが教えていた筈だが、途端に不安になるジャグーダ。
その言葉に対し、ガクウはますます目を細め怒りを訴える。
「兄ちゃんが女性関係で問題起こすから、嫌でも知ってるよ」
「……ならいい」
皮肉を込めたガクウの言葉に、ジャグーダは目を逸らす。
実際、ジャグーダは女性関係でのトラブルが多かった。
もっとも、ジャグーダはその殆どが被害者である。
ストーカー被害や、監禁計画を実行されたり、性的暴行を受けそうになったりなど、挙げて見ればキリがない。
戦争を終わらせた英雄として男女ともに人気なジャグーダは、ファンサービスの一環で愛を囁いたりもする。
その際、調子に乗って少し過激なことも言ったりするので、実行した女性側に全部非があるとは言えない面もある。(だからと言って犯罪に手を染めるのはいけない事である)
そう言った事柄に触れることで、性的な感情にここまで嫌悪してしまったというのであれば、ジャグーダは反省せざるを得なかった。
ガクウも戦争を終わらせた英雄として有名ではあるのだが、戦争の際心に傷を負ってしまい、休職してボンジャーグやベルゼフォンと山で過ごすことが多かった。
その為、戦争後の人交友関係は浅いのだ。
微妙な空気が流れる居間。
着替え終えたアオイがこの後入って来るのだが、この空気に戸惑ったことは言うまでもない。
◇
居間に集り、微妙な空気の中、何とか会議を始めようとする三人。
アオイの手にはいくつかのデータ変換装置が握られており、それを二人に見せならアオイは話し出した。
「こちらの情報収集でわかったことを言うと、私が乗って来た宇宙船の残骸の大半は、『虐殺遊戯連合』が確保しているということよ」
「え、それマズくない!? 俺達宇宙に行くの難しくなるってことだよね!?」
焦るガクウに、アオイは首を横に振う。
「それに関しては問題ないわ。メール……情報共有のやり取りの痕跡を見ると、どうも私の宇宙船は厳重に保管することになっているらしいの。データを複製して月に送るけど、『チーター』も万が一の為に、地上の方で保管してるの。だからそれを奪えれば、なんとかなると思うわ」
アオイの発言からは、ガクウ達が負けるとは微塵も思っていないことがうかがえた。
その前提にガクウも異論が無いらしく、その話にホッと一息吐く。
だが、ジャグーダには何か考えている様子だった。
「……肝心の管理している『チーター』だが、何人いる?」
ジャグーダのもっともな質問に、アオイは平然として答える。
「三人ね。三つあるマナ神の神殿という場所を拠点に管理しているそうよ」
マナ神の神殿。
その言葉を聞き、ガクウとジャグーダは顔を引きつらせた。
二人の顔を見て、何かマズい事態なのだとアオイは察する。
「……いいか? お前の星じゃどうかは知らないが、この国でマナ神の神殿は、宗教上とても大切なんだ。マナ神ってのは、魔法を使う際に必要なマナを生成する神の事。神殿に各々の属性の神がたてた祀られていて、そこからマナを生成し世界に満たしている。そいつはどこのマナ神の事だそれは!!」
ジャグーダはアオイにも緊急事態だと伝わるよう、懇切丁寧に説明した上で疑問を叩きつけた。
「ええと……火、水、土を司る? マナ神らしいわ」
アオイの返答に、ガクウとジャグーダは頭を抱えた。
「アオイちゃん、それマズいんだ。凄いマズい事態なんだ! その三つは、一般人で使う魔法TOP3に入るんだ! 料理とか食物とか、大変なことになる!!」
「今すぐマナが枯渇することは無いだろうが、間違いなく人類が終わる! 神殿が支配され、神が死んだとなれば、もうこの惑星ティルナディアはお終いじゃねーかクソがァアッ!!」
ガクウとジャグーダが、この世の終わりと言わんばかりに身悶える。
珍しく二人同時に慌て様に、アオイは事の重大さを冷静に理解した。
要するに、このままだとライフラインが無くなる、ということを二人は言いたいのだ。
しかし、一つ勝手に勘違いしている点があるので、アオイはすぐさま否定する。
「いえ、別にマナ神は死んでないみたいよ。全員神殿の奥に引きこもって、『チーター』でも追い出せないらしいわ」
その言葉に二人の動きがピタリと止まり、すぐさま背筋を正して話し始める。
「……予定変更。近くに水を司るマナ神の神殿があるから、そこ行って水の紙を救出して、ついでに宇宙船の残骸を回収。その後、船で城塞都市ウィルバーナと向かう。いいな?」
「了解」
ジャグーダとガクウが、神妙な面持ちで勝手に話を進める。
アオイとしても特に異論は無いので、頷いて肯定した。
「他の神殿はどうする? さすがに遠いよ?」
「他の騎士団に任せる。素体ぐらいならどうにでもなる。お前がに全部の奪還作戦に参加されても、アイツらからすれば余計なお世話だろうさ」
先程の取り乱しようが嘘かのように、冷静に話し合っうガクウとジャグーダ。
その切り替えの早さが、アオイは羨ましかった。
「つーか、なんでアイツらお前の宇宙船とか欲しがってるんだ? 自前のがあるじゃねーか」
突如湧いたジャグーダの疑問に、アオイも同意するように頷く。
「私も不思議に思っていたわ。私が技術開発の一人として捕らえられた時、『虐殺遊戯連合』から教わった科学技術を応用したに過ぎないもの。私がそこから発見したのは、ワープ機能と永久機関の理論の確立。その完成品が私の宇宙船に搭載されてる……ということぐらいかしら」
「一目瞭然じゃねーか! それだろ!! 理論確立させてその完成品があるとなりゃ、誰だって欲しがるだろうがッ!!」
ジャグーダの捲くし立てている指摘に、アオイはなるほど、と言いながら頷く。
こいつはこいつで抜けてるところがあるよな、と思いながら、ジャグーダは溜息を吐くのだった。
「それと、いい情報が一つあるわ。パソコンを手に入れたので、ある程度宇宙船を修復しながら旅を勧めるようになるわ」
アオイの説明に、何故それがイコールになるのだと首を傾げるジャグーダ。
打って変わってガクウの方は、手を挙げて喜んでいた。
「よくわかんないけどやったー! つまり早く宇宙船に乗れるようになったって事でしょ?」
「そうね。普通に現実で修理するより、仮想上でデータを構築し直す方が効率良いのよ。もっとも、データが膨大だから、一から構築すると私一人じゃ何年かかるやら……。このパソコンもあまりいい物じゃないし、既存の宇宙船の残骸をデータ変換して効率化を図りたい所ね」
丁重にアオイが説明するが、もはやガクウやジャグーダの理解を超えた領域の話である。
「お前らの技術力本当わかんねえよ!!」
「いえ、このデータ上での構築技術は、『虐殺遊戯連合』のものなのだけど……」
アオイは弁明するが、吠えるジャグーダの耳には入っていなかった。




