第28話 積み重なる約束
ガクウが異形のゾンビ達の墓を作り、急いで駅に戻ると、多くの人でごった返していた。
官憲や騎士団が怪我をしている人々の治療や、搬送などを行っている。
事前にジャグーダが連絡をしていたというが、対応が早いなとガクウは感心していた。
「ああ、ガクウさん。丁度良かった」
そう言ってガクウに呼びかけてきたのは、最初に助けた医者の男だ。
「ああ、どうしたんです?」
何とか笑顔を取り繕うガクウだったが、その笑みからは疲れがにじみ出ていた。
医者の男もそれを察したのか、申し訳なさそうに話し出す。
「実は、息子が貴方に会いたいと申しておりまして……」
ガクウはその申し出を快諾すると、急いで医者の息子の元へと駆けつけた。
医者の息子は、魔法で浮かばせている担架の上に寝転んでいる。
歳はまだ一○にも満たないだろう。左腕は無かったが、その断面の傷は綺麗に塞がっていた。
「ショウク、勇者さんを連れてきたぞ」
医者の男が息子の名前を呼びかけてガクウを紹介すると、ショウクはガクウの顔をマジマジと見つめて来た。
「……お兄ちゃんがパパを助けてくれたんでしょ? ありがとう」
ショウクの言葉に、ガクウは何と言えばいいのか分からなかった。
ただ笑みを浮かべ、頷くガクウ。
「お兄ちゃん、聖剣に勇者なんでしょ? 『チーター』みたいな悪者を、みーんなやっつけてくれるの?」
「うん、そうだよ。俺が全部やっつけてみせる」
寝転んでいるショウクと目線を合わせる為、ガクウはゆっくりと腰を落としながら答える。
その言葉に一切の揺らぎは無く、それゆえに少年は笑みを零した。
「そっか。それじゃあ、僕の武器あげる。世界で一番強いんだよ」
懐から短剣を取り出すと、ショウクはガクウに差し出した。
その短剣は、どこにでも売っているような安価なものだっだ。
恐らくは、両親にそういった謳い文句でプレゼントされたのだろう。
「そんな凄いなモノ、俺が貰えないよ!」
それを察したガクウは、首を横に振う。
「もう剣士はできないから、僕が持ってても仕方ないんだ。だから、助けてくれたお兄ちゃんが使ってよ」
ショウクにそう言われ、ガクウは困った表情を浮かべて医者の男を見上げる。
貰ってやって下さい、と言われて、ガクウはその短剣を受け取った。
「……ありがとう。大事にするね!」
「ちゃんと使ってよ!」
しまわれたらたまったもんじゃないと言わんばかりに、ショウクは頬を膨らませる。
「大事に使う! 約束だ!」
ガクウは右手の人差し指を差し出すと、ショウクも笑顔を浮かべて右人差し指を差し出した。
そうして、互いに指の先をくっつける。
「「絶対の絶対!」」
この星でよく使われる、約束の挨拶を二人は交わした。
救護に来ていた騎士団の一人が、すまなそうに「そろそろ搬送します」と申し出てくる。
「がんばってねー!」
「がんばるよー!」
少年は搬送されながらガクウに手を振り、ガクウもまたそれに応えた。
「強い子ですね……」
ショウクの父に言葉を投げかけるガクウ。
「私も助けられっぱなしです。申し訳なくも思いますが……」
そう言って、ショウクの父は顔を俯かせた。
息子の腕を奪ってしまったという罪悪感は、そうとれるものではない。
その事実は、いつまでも彼の心を苛ませることだろう。
「……俺がお二人に出来ることは、そう多くないです。でも、絶対に『虐殺遊戯連合』は壊滅させることは約束します。お二人が、これからをゆっくり話し合っていけるように」
嘘偽りなく、ガクウは真剣な顔つきでショウクの父に誓う。
その言葉に、ショウクの父は涙を流す。
「……ありがとうございますっ!」
ガクウの手を握り、彼は涙を流しながら感謝をした。
その光景を、ガクウは自分の目に焼き付けるのだった。
◇
「おっ、いたいた」
ジャグーダとアオイが駅の前を歩いていると、簡易的な墓の前で、胸に手を抑え黙祷するガクウの姿を見つけた。
ガクウも二人が近づいたのに気が付くと、笑みを浮かべて歩み寄って来る。
「ゾンビを作るCh.9ってやつは倒した! そっちはどう?」
「そりゃ見ればわかる。こっちの成果は……よくわかんないからアオイに聞け」
ジャグーダは説明を放棄すると、背を伸ばして壁に寄りかかった。
そう言われてガクウがアオイの方を見ると、何故か両腕で胸を押さえつけている。
正直に言ってしまえば、ガクウには溢れんばかりの胸部を強調しているようにしか見えなかった。
ガクウの目線で察したのか、アオイは顔を赤くして目を逸らしながら口を開く。
「……違うのよ。走ってたら、その……ブラの紐が千切れてしまって。こうやって抑えないと、その……揺れて大変なのよ」
ブラの紐が千切れる。
揺れて大変。
多感な時期のガクウには、脳内を埋め尽くしてしまう程のパワードだった。
ブラの紐が千切れるとはどれ程の質量なのか。揺れるとはどのようにして揺れて大変なのか? 邪な考えが浮かんでは消えを繰り返す。
更にはお風呂場やベッドに潜りこんできた時の出来事が脳裏を駆け巡り、ガクウの顔を真っ赤にするには十分な効果を表した。
「……一度、掘っ立て小屋戻る?」
「……ええ、お願い」
ガクウができるだけ冷静に問いかけると、アオイは顔を赤くしながら頷いた。
出来るだけアオイの方を見ないようにと、ガクウは急ぎ足で掘っ立て小屋へ歩こうとする。
だが、ガクウの裾をアオイが掴んだ。
「……どうしたの?」
振り向かずに問いかけるガクウ。
「……あの、凄く申し訳ない事を言うのだけれど、私の事、おぶって欲しいの」
「オブッテホシイノ?」
予想外な申し出に、思わず素っ頓狂な言葉で聞き返してしまうガクウ。
その言葉に、アオイは恥ずかしながらも「ええ」と言って頷いた。
「その、さっきも言ったのだけれど、歩くと大変なのよ。だから、その、おぶって貰えれば、そういうのは大丈夫だから……」
「……そっか。それじゃあ仕方ないな!」
「そうなの。これは仕方ないことなのよ」
二人がそう結論付けると、ガクウはすぐにしゃがみ、アオイはその背中に抱きつく。
ガクウはすました顔でアオイをおぶるろうとするが、その顔は真っ赤になっており脳内では大変なことになっていた。
背中に押し付けるかのように感じる、二つの圧倒的な質量。
お風呂やベッドにいる時も感じたそれだが、その豊満に実った果実にガクウはまだ慣れていなかった。
冷静に取り繕おうとしても、どうしても意識してしまう。
先程悲惨な光景が焼きつけられたというのに、思わずやましい事をガ考えざるえなかった。
「……俺じゃなくてもよくない?」
思わず逃げるように発言するガクウ。
「……貴方じゃなきゃ嫌よ」
だが、アオイは腕をガクウの前に回し、決して逃がさなかった。
「……じゃあ仕方ないな!」
「ええ、仕方ないわね」
ジャグーダは、この茶番早く終わんねえかなぁと、顔を赤くしている二人を眺めるのであった。




