第26話 対ゾンビ防衛戦線
「ちょっと貴方! 失礼だと思うわないの!? 乙女の顔に! 机! 机って!!」
「知るか」
カーミラの訴えを、剣の一撃で返すジャグーダ。
剣で襲い掛かるジャグーダに対し、カーミラも細い剣で対抗してくる。
ジャグーダは相手の剣筋をしっかりと確かめるように、軽く打ち合った。
この程度の強さなら、ジャグーダならいつでも倒せる。
しかし、彼が倒しても別の素体で『チーター』は復活する。
殺す前にしっかりと相手の動きを覚えておけば、次に出会った時楽に対処できるだろうと考え、ジャグーダはわざと手加減をしているのだ。
もっとも、ガクウを呼び出せばいいだけの話なのだが、そのガクウは陽動兼治療の為奔走中である。
鏡話で呼び出そうにも、空間が歪んでいる影響が繋がりにくかった。
「ったく、陽動は失敗かよ」
そう言いながらジャグーダは、カーミラの剣を斬り飛ばした。
真っ二つに切断された剣は、すぐさま床に落ちるが、カーミラは面白そうに笑うだけだ。
「貴方、結構強いじゃない。素敵だわ! 私はカーミラ。貴方の名前をお聞かせ願えないかしら?」
目を輝かせながら問いかけて来るカーミラに、ジャグーダは飽き飽きとした目で見る。
「教えてなんかやんねーよっ!」
ジャグーダとしては、この女の戦闘パターンを見れればそれでいい。
今はカーミラから聞きだしたいことは何もない。相手にするのがとても面倒だし、何より自分の情報を晒す等考えられなかった。
「なるほど! つまりツンデレなのね! 私はAランク『チーター』のカーミラよ! よろしくね名前の無いキミ!」
訳の分からないことをほざくカーミラに、いら立ちを覚えるジャグーダ。
「知るか!」
そう言って首を斬りはらおうとするが、突如現れた血の盾に阻まれる。
カーミラの目線からして、彼女の使うチートだろうとジャグーダは推測した。
血の壁は蠢くようにして形を変え、ジャグーダの剣を飲み込もうとする。
だがジャグーダは、それを一瞬にして引き抜いた。
彼からすれば、毎日通って引き抜けない聖剣よりも、簡単な動作でしかなかった。
「《天が恵む灼熱よ》!」
ジャグーダは剣を振い、赤い光の斬撃が蠢く血の塊を蒸発させると、返す刀で闇を纏った剣をカーミラに振う。
その間、驚愕の瞳でジャグーダを見ようとすることしか、カーミラにはできなかった。
もっとも、ジャグーダが十字に切ろうとする動きを、彼女の目では捉えることができなかったが。
「《暗黒十字斬》!」
カーミラに刻み込まれた十字の傷口から、闇が噴出する。
彼女の素体は、ジャグーダの注ぎ込んだ闇に耐えることができなかったのだ。
「また、リベンジしてやるからね! 名前の無いキミィィィイイイイイイイイ!!」
カーミラが縋りつくように絶叫するが、ジャグーダは闇の壁を作りだし、アオイや貴重品ごと身を守っていたので、返答どころではなかった。
彼女の言葉がジャグーダに届くことは無く、その素体はあっけなく爆散した。
「……我の強い奴だった」
一片も敵が残っていないことを確認すると、剣を鞘に収め、闇の壁を消しながら一人呟くジャグーダ。
「あんなロクでもないのばっかよ。『チーター』って」
「滅入ること言うなよな」
アオイの指摘に
「でも、これでとりあえずここを支配していた『チーター』は退治できたわけね。急に人に戻ったら、治療とか大変そうだけど」
ああ、とジャグーダがアオイの言葉に同意しようと頷きかるが、すぐさま眉を顰める。
「おかしい。人の気配が全くしない」
「……まさか」
ジャグーダの言葉に、顔を青ざめさせるアオイ。
試しにアオイが机の上の羽ペンを適当に放り投げると、何かに吸い込まれるように消えてしまう。
それを見た二人は、信じられない現実に目を丸くした。
「……どういうことだ。『チーター』を倒しても、空間の歪みは収まらないのか?」
「そんなわけないわ! 『チーター』の素体を倒せば、能力の影響は無くなるはず……!」
想定していない事態に慌てだす二人。
そして、嫌な結論に二人は辿り着いた。
ガクウの陽動は成功していたのかもしれない。
ただ、『チーター』が二人以上居たというだけで。
すぐさま来た道を戻ろうとするジャグーダだったが、自分達が入って来た空間から、何かが現れるのを察知し、すぐさまアオイの傍に立つ。
そこから出てきたのは、体中が継ぎ接ぎだらけのゾンビ達だった。
恐らくは、ここの住人を戦闘できるように作り替えたのだろうと、二人は察してしまう。
「……アイツら、人体を何だと思ってやがる」
それを見たジャグーダは、いら立ちを隠せないでいた。
「『チーター』って、こういうことするわ。彼らからすれば、オモチャでしかないもの」
アオイの言葉を聞いて、カーミラと名乗った女を、もっと甚振ってから殺せばよかったと後悔した。
◇
一方ガクウ達は、ゾンビを人に戻す作業を行っていた。
医学や回復魔法の使える人々も増え、効率が良くなってきている。
回復魔法の類で血液を増やす事などは出来るが、身体の部位そのものを作るとなると、手持ちにある道具ではどうすることもできない。
今ガクウ達ができる治療は、大怪我した人の命をかろうじて繋ぐことだけだった。
「どうして俺を殺してくれなかったんだ……!」
「ママを! ママを食べちゃったのに!」
「こんなんじゃ、何も作れない……」
ゾンビになった時の事を覚え、大怪我をしている人々は、それを嘆き悲しむ者もいる。
それを聞いたガクウがすぐさま駆けつけようとしたが、嘆く者の隣にはそれを聞いて励まそうとする者もおり、ガクウはゾンビを人間に戻す事に集中した。
歪んだ空間の中奔走していたガクウは、ゾンビが見えなくなった事もあり、治療しているスペースに戻ってきていた。
そこではゾンビを食い止める為にバリケードが作られており、軽傷な者は守りの番についている。
地上に出ようという案もあったが、空間がねじ曲がっている現状だと、いつどこではぐれてしまうか分からない。
その為、自由に身動きができず、駅の中にとどまるしかなかった。
「助けて! 助けて下さい!」
そんな時、どこからか一人の女性が、治療していたスペースに走ってやって来た。
剣を持つガクウを見つけると、ゾンビがやってきた時用にバリケードをよじ登り、女性はすぐさま縋りつく。
「た、助けてください! あちらから、魔法を使うゾンビの大軍が……! 私、もう怖くて……!」
「なんだって!?」
治療し、されていた人々が慌てふためく。
だが、ガクウは冷静に逃げて来た女性に話しかける。
「俺さ、君を治療した覚えは無いんだ」
「え、ええ? 私も剣士様と出会ったのは初めてです」
ガクウの言葉に、恐怖の表情を浮かべながらも、逃げて来た女は首を傾げる。
「ゾンビなんて、どこで知ったの?」
「はい? それは――――」
そこまで言うと、女の表情が固まった。
恐らく、彼女は知らなかったのだろう。この惑星ティルナディアでは、ゾンビなどと言う概念等無い事に。
ガクウも、初めから疑っていたわけではない。
自分が誰かに伝えたのと同じように、『チーター』が彼女に言いふらした可能性もある。
だが、その一瞬の仕草で、ガクウは目の前の女性が何であるかを判断した。
「お前、『チーター』だな?」
ガクウが静かに尋ねると、女の顔から恐怖の表情が消えた。
その次に現れたのは、妖艶の笑みと、禍々しい邪悪な気配。
女は指から爪を伸ばし、即座にガクウの喉仏を貫こうとする。
「鎧化」
だが、ガクウの全身に竜の鱗が鎧の様に纏わり、それを難なく防いだ。
そして女――――『チーター』が伸ばした腕を、決して逃がさんとばかりに掴む。
竜の鎧の下から、ガクウは『チーター』を睨みつける。
「俺はお前は許さないぞ」
ガクウの声には、怒りが込められていた。




