第25話 アルマカイタウン駅、戦いの幕開け
※今回は序盤にグロテスクな描写を含みます。
苦手な方は◇が見えるまで、飛ばしてお読み下さい。
ティルナディアカリバーで助けた筈の医者の男は、自分で状況を理解すると、みるみるうちに顔を青ざめさせていく。
そして、恨めしい様な、縋る様な目を向け、笑みを浮かべるガクウの胸元を掴んだ。
「どうして私を、あのまま殺してくれなかったんだ……!」
「……え?」
突然のセリフに、ガクウは理解が追い付かなかった。
助けるのが遅い、と言われることぐらいは想定していたが、まさか助けられること自体を避難されるとは、ガクウにとって思いつかないことだった。
「私は、私は、息子の腕を……ォウヴェ!」
ガクウを突き飛ばし、医者の男は口から大量の肉と骨を吐き出す。
その中に、子供が着る様な服の切れ端があるのを、ガクウは見てしまった。
どうしてゾンビの中には大怪我をしている者がいるのか? その答えがそこにあった。
悍ましい想像をしてしまったガクウは、思わず自分も吐き出しそうになるのを何とかこらえる。
医者の男は、贖罪を求めるかのように涙を流し、その場に崩れ落ちた。
「私は、息子が嫌がっているのに、あの子は必死で抵抗してたのに、私はおやつを食べる様な感覚で……っ! 私は、私は生きてていい親じゃない。あの子に、合わせる顔が無い……!」
胸ポケットから羽ペンを取り出し、医者の男は自分の胸に突き立てようとする。
「死んじゃダメだ!」
だが、ガクウがそれを許さない。
すぐさま羽ペンを取り上げ、医者の男の肩を掴む。
「大切な人を傷つけるのは、誰だって辛い。でも、今回のは貴方の所為じゃない。こんな事を引き起こした『チーター』の所為だ! 薬で脳をどうにかされてたんだ。人じゃどうしようもない!」
「だが、私は息子を傷つけたという事実は、何も変わらない……!」
ガクウは決死の説得を試みるが、医者の男は自分がやったという事実に苦しんでいるようだった。
「……辛いよね。もう休みたいよね。それでも、貴方にやってもらいたいことがあるんだ」
本当なら、元気が出るまで休んでもらいたかった。
だがガクウは、一人でも多くの命を救うために、彼の心を動かそうと言葉を紡いでいく。
「こんな私に、何をしろって言うんだ……」
そう言う医者の男の目には、何一つの光も残ってはいない。
「俺と一緒に、命を救ってほしい」
そんな男の目を、ガクウは真っすぐに見ながら答えた。
自嘲気味に、命、と医者の男は呟く。
「そんな資格、私にはない!」
「あるから貴方は医者なんだ!」
大声で自分を非難する医者の男に、声を張り上げて否定するガクウ。
「貴方には、人を救う技術がある。お願だ。今なんだ。今、貴方の力が必要なんだ……!」
そう言うと、ガクウは腰に差していた聖剣を抜いて、床に突き立てる。
「その代り、リクライト・ガクウがこの聖剣に誓う! 貴方達の無念は、俺が晴らす……!」
誓いを立てるガクウの目には、確かな決意の色と、暴虐を働く者達への怒りがあった。
医者の男は、最初こそ勇者ジオーグの聖剣に驚いている様子だったが、誓いを聞いて、その目に吸い込まれてしまう。
目を伏せて、ようやく医者の男は何かを考え出したようだった。
「……私は何をすればいい?」
そう言う医者の男に、ガクウは強い笑みを浮かべて手を差し伸べる。
少し怯えたようだったが、医者の男はその手を握り、立ち上がった。
◇
一方で、ジャグーダとアオイは目的地へと到着する。
道中、突然視界の景色が変わり混乱したが、なんとか歪む空間の中の道順を間違えずに再現することが出来た。
そこはどうやら駅務所らしく、駅員が仕事をする為の机が並んでいる。
その中に、異様な存在感を放つ、大きい竈のような機械が鎮座していた。
ゴォンゴォンとい様な音を小刻みに放つそれは、まるで重い鐘が鳴り響いているようにさえジャグーダは錯覚する。
それを見てジャグーダは剣を構えて警戒するが、アオイは何のためらいもなく大きい竈のような機械へと歩み寄る。
「オイお前、何やってんだ! 危険物かもしれないんだぞ!?」
慌てて肩を掴んで引き留めるジャグーダだったが、アオイは依然と平然とした表情だった。
「大丈夫。あれはパソコンよ」
「……ぱそこん?」
異様な発音に首を傾げるジャグーダ。
それを気にすることなく、アオイはパソコンと呼んだ機械のボタンを打ちこんでいく。
すると、彼女を中心にして円になるよう、様々な四角い光のビジョンが浮かび上がる。
「……鏡の無い鏡話か?」
他にも絵が載せてあるオーロラともジャグーダは思ったが、どうもそこまで幻想的なモノではないと察して言い方を変えた。
「立体映像と私は呼んでるわ。これにデータ変換装置を差し込んで読み込むと、月にある本拠地までデータを送ることができるの」
アオイの言葉に、ジャグーダは舌打ちをする。
「……送られたってことは、時既に遅しか。無駄足踏んだか」
「いえ、メールの送信履歴が残ってるし、これをコピーすれば大丈夫そうね。破損している様子はないし」
今にも頭を抱えそうなジャグーダの言葉を、即座に説明してアオイは否定する。
「……送られたんじゃなかったのか?」
納得がいかない、と言わんばかりにジャグーダは首を傾げた。
「紙を重ねて文字を書くと、その下の紙にも筆跡痕が残るでしょう? あんな感じよ」
本当は色々と正しく説明したいところだが、時間の関係上とにかく納得させることをアオイは優先する。
それが伝わったのか、ジャグーダは曖昧な顔で頷いた。
「それと、そっちでデータ変換装置を確保しておいてくれないかしら。私はこっちで何か情報が無いか探してみるわ」
「……ああ、わかった」
こいつが居てよかったな、と心底思いながら、ジャグーダは指示通りデータ変換装置のある棚へと歩み寄る。
その時だった。
アオイの頭上から、『チーター』が現れる気配をジャグーダは感じ取る。
ジャグーダは後ろ回転蹴りで、机を蹴り飛ばした。
「――――ぶへぇ!?」
どこかで見たことのあるゴスロリの少女にクリーンヒットし、少女はそのまま壁に打ち付けられる。
「甘いんだよ」
すぐさまアオイの隣に立ち、ジャグーダは神妙な顔で剣を構えた。
「誰よその女!?」
ゴスロリの少女――――カーミラが吠える。
「俺のじゃねえよ。弟弟子のカノジョだよ」
溜息をつき、遠い目をしながらジャグーダはカーミラに斬りかかる。
「……まだ彼女ではないのだけれど?」
アオイは即座に否定するが、その声が裏返っていた。
わかりやすい動揺だな、と思ったが、ジャグーダはそれを口にはしなかった。




