第24話 アルマカイタウン駅、突入作戦
ガクウ達三人は、アルマカイタウンの駅前に歩いて向かっていた。
町から人の声が聞こえることもなく、駅にすら誰かがいる様な気配は感じない。
これが空間を弄られるということかと、ガクウは戦慄する。
気配を隠す手段ならガクウもいくつか知っていた。
だが、町一つ分の人間の気配が察知できないとは、ガクウの経験上一度も無い。
それほどまでの異常事態だった。
「作戦の最終確認だ」
ジャグーダが静かに告げると、ガクウとアオイも静かに聞き入る。
それを確認したジャグーダは、そのまま話を続けた。
「まず俺とアオイがデータ変換装置を手に入れに行く。その間にガクウは陽動の為でゾンビ達を治療、それが不可能なら殺しまくる。実にシンプルな作戦だ。何かわからない点があるなら言ってみろ」
その作戦を聞いて、ガクウは苦い表情を浮かべる。
「さっきも聞いたんだけど、同じ道順を踏んでも、あのデータ変換装置がある部屋まで行けるのか、ちょっと心配だな……」
「大丈夫よ。私がちゃんと道順は覚えたから。それに、何らかの法則性があるのは確かよ。もし違うのなら、わざわざ別の場所に移動しながら動くだなんてしなくていいもの」
ガクウの不安の言葉に、アオイが理路整然と答えた。
ただし、と付け加えアオイはそのまま話を続ける。
「私としては、これが私達を誘い出す罠なんじゃないか、ということが心配よ。途中で映像が途切れてしまったのでしょう?」
ガクウ達の話によれば、どこかに移動している際に鏡話に送られてくる映像が途切れてしまったのだと言う。
仕掛けた鏡砂にも映像を送れる距離にも限界があり、それを超えてしまったのではないかと二人は言った。
だが、こうして近づいてアオイが鏡を見ても、映像が送られることは無い。
「空間が捻じれちまってるからって可能性もあるが、別に罠なら罠で構いやしないさ。んなもん俺がぶっ壊してやるよ」
剣をオモチャの様に振り回しながら、ジャグーダが答える。
「……随分と自信があるのね。貴方のお兄さん」
少し驚いたような声でガクウ耳打ちするアオイ。
今までジャグーダは堅実で慎重な動きをしてきていた。
だと言うのに、罠と言う可能性には力尽くで解決しようという胸の発言をしている。
「兄ちゃんはちゃんと考えて動くんだけど、細かい所はノリと勢いで何とかするところがあるよ」
「常にその場の勢いで言われてるお前に言われたかねえよ」
ガクウの頭に軽く手刀を叩きこむジャグーダ。
軽くと言うが、ガクウが思わず悶絶するレベルの強さである。
「ま、何事にもデメリットってのは存在する。俺達は一般人の命も助けて、宇宙船の残骸まで全部手に入れようとしてるんだ。全部が全部上手くいくわけがない。いざとなれば、自分達の生存だけを考えろ。いいな?」
ジャグーダの言葉に、ガクウとアオイは頷き肯定する。
そうして、三人が歩きながら作戦を詰めていくと、駅の前に着いた。
ここまで近づいても、人がいる様な気配など三人が感じることは出来ないことが、事の異常さを物語っている。
「それじゃあ、俺行って来る!」
聖剣を引き抜き、駅の扉の前に立つガクウ。
「精々引っ掻き回せよな」
「無理はしないで」
皮肉な笑みで送り出すジャグーダと、心細そうな声で見送るアオイ。
そんな二人にガクウは笑みを返し、躊躇なく駅の中に突入した。
一瞬にして、目の前にいた筈のガクウの姿形が消えてなくなる。
ジャグーダとアオイにも、気配がまるで察知できなかった。
「……大丈夫かしら」
「ああ見えて、昔は戦場で大暴れしてたんだ。生半可な事じゃ死にやしねぇよ」
そう言って、二人はデータ変換装置を手に入れる為、別の扉から入っていくのだった。
◇
「うおおおおおおお!?」
一方、ガクウは早速ピンチに陥っていた。
何が彼にそこまで大声を張り上げさせるかと言うと、ゾンビの圧倒的な多さである。
鏡で観察していた時よりも、圧倒的に数が多いのだ。
大きな怪我をしているゾンビしか見当たらず、このまま治そうとしても死に至るだけ。
さらには噛まれてしまえば自分もゾンビ化してしまう。
勝つか負けるかで言えば余裕で勝てるのだが、少しでも手を払おうとすれば手足がおかしな方向に向いてしまう程に脆い。
迂闊に手を出すことができず、逃げ回って治療ができそうな人間を探すしかなかった。
こんな時何か便利な魔法や戦法は無かったかと考えるが、瞬時に出てくるのは一網打尽するような物騒な考えだけ。
それも当然。勇者の子孫であるリクライト・ボンジャーグから学んだのは、敵を殲滅する為の戦い方だけだからだ。
それでもなお何かないかと模索すると、一つこの状況を打破できる可能性のある魔法に思い当たった。
「《閃光をその目に》!」
ガクウの目から、誰もが眩んでしまうような極光を放つガクウ。
だかこの光に、痛みを訴えるような効果は無い。ただただ眩しいだけである。
その光に、ゾンビ達が顔を抑えてたじろいだ。
「よしっ!」
その内に、ガクウはスタコラサッサと人ごみの無い方へ逃げだした。
どうしたものかと逃げていると、その視界に医者の格好をしているゾンビを発見した。
しかも、大きな怪我なども見当たらない。
幸先がいい! とこの幸運を神に感謝すると、ガクウはすぐさまそのゾンビの背後に回る。
「ティルナディアカリバーさん、治療の為に力を貸してください……!」
そう言って剣をゾンビの背に当てる。
別に、こう言えば聖剣が答えると言うわけではない。
無茶振りは重々承知しているが、どうにかして欲しいという申し訳なさと、願いを込めての物だった。
だが、剣を当てても何も起こらない。
ダメだったか、とガクウが諦めかけたその時、唐突に自分の頭に情報が流れ込んでくる。
その情報は、聖剣を使ってのゾンビの治療法。
それはティルナディアカリバーからの、メッセージとも言える物だった。
要約すると、『切ったり刺したりしてくれないと干渉できないんですけど!?』というものだった。
「ありがとうございます! よしっ、今助けるから、ちょっと我慢して……!」
聖剣にお礼を言うと、ガクウは指示通り軽くゾンビ斬りつける。
すると、ゾンビの顔はみるみるうちに血色がよくなっていく。
「……あれ? 私は、一体?」
そして、それはとうとう人の言葉を取り戻すまでに至った。
意識も段々と覚醒してきているようで、もはやそれはゾンビではなく、ガクウの知る人の姿である。
「よかった……!」
ガクウは一先ずの前進に、思わず喜びの笑みを浮かべた。




