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第23話 対カーミラ作戦会議


 数時間後、調査キットで傘の先端に取り付けられている薬を大まかに解析し終えると、アオイはが二人に報告をする為リビングへやって来る。

 二人は鏡砂(きょうさ)を仕掛けて盗撮している映像を、隅から隅まで調べているようだった。


「あ、アオイちゃん」


 二人がアオイがやって来たことに気が付くと、彼女は二人の近くに座って説明を始める。


「科学的に説明すると一日あっても足りないから、細かい事をすっ飛ばして結論から言ってしまうと、これはゾンビ化薬ね。『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』がゾンビパニックを起こしたい時に使う薬品と酷似しているわ」

「……ぞんび?」


 ガクウはよくわからない、といった様子で首を傾げる。

 ファンタジーな世界で、ゾンビという存在の認知が低い事にアオイは驚いた。


「……ゾンビ、いないの?」

「聞いた事無い。兄ちゃんは?」


 ガクウはアオイの問いに首を横に振うと、ジャグーダに同じ問いをかける。

 ジャグーダは眉をひそめて、恐る恐る口を開く。


「……存在を知ってる事だろ?」

「それは存知(ぞんち)じゃないかしら」


 アオイが指摘すると、ジャグーダは肩をすくめた。

 この二人が揃って知らないとなると、認知の問題ではなくそもそもそういう文化が無いと言えるかもしれない、とアオイは結論付ける。


 知らないのであれば、とアオイは二人に説明をし始めた。


「ゾンビと言うのは、私の星だと一般的に動く屍のことよ。創作上の存在だったけれど、『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』はその概念を面白がって、それになるように作った薬ね。この薬を体内に含んでしまえば、その人物は死に至る。その後に、仲間を増やす為に噛みついたりして他の人間に薬を摂取させる。そうやって、倍々と増えて行く存在よ」

「要するに、自分勝手に増える死体兵か。悪夢だな」


 アオイの説明を聞いて、お手上げとでも言わんばかりに寝転がるジャグーダ。

 ガクウは、歯ぎしりをしながら俯いてしまった・


「……治す手段は?」


 半分諦めが入ったような声で、ガクウは俯きながらも問いかける。

 死に至るという説明はちゃんと聞いていたのだろう。それでも彼は、何か方法は無いかと悩んでいる様子だった。


「『チーター』の能力で生み出された薬なら、『チーター』を倒せば可能性はあるわ」


 だが、アオイの言葉はガクウの予想とはまるで違うものだった。

 思わぬ希望に、ガクウは目を丸くしてアオイを見る。


 その目も、その声も、何一つの偽りはなく、真剣に話している者のモノだった。


「いや薬なのにどうしたらそうなるんだよ」


 あまりに都合のいい話に、ジャグーダは鼻で笑う。


「そういう前例があると言うだけ。どうしてそうなるかは、私でもわからないわ。『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』が使う力、チートは既存の法則性とかけ離れているものが多いのよ。でたらめな理論で構築されている力もあるわ」

「本当何でもありだなアイツら。世界の法則とかちゃんと守ってくれっつーの」


 アオイの説明を聞いたジャグーダは、今更ながらとんでもない相手が攻めてきたなと頭を抱える。

 だが、ガクウは打って変わって、希望を見出していた。


「……それって、『チーター』が薬を媒介にして『死体になって動け~!』って命令信号みたいなものでも出してるのかな?」

「さあ、そこまではちょっとわからないわ。そう言う説があったのは否定しないけど」


 ガクウの問いに、アオイは自分の知る範囲で答える。

 まだ地球人達に戦う意思があった頃、様々な討論があちこちで行われていた。

 その中の仮説を、アオイはあらかた覚えていたのだ。


 その言葉に、ガクウは笑みを浮かべた。


「それなら、聖剣で何とかなるかも!」

「いや、魂を切り裂いた所で、どうにもならないだろ」


 ガクウの元気いっぱいな声に、ジャグーダは鋭い指摘を入れる。

 だが、ガクウは首を横に振った。


「いや、この聖剣にはそれ以外にも、力を調整することができるんだ。それは大気中に広がるマナを攻撃的なモノに変換したり、ベルゼフォンの心臓が作り出すオドの出力を下げたりとかね」


 そう、夢の中でガクウは人工女神ティルナディアカリバーから、直接話を聞いていた。

 あの夢を見た後、自分のオドの流れを調べてみたところ、確かに心臓から送り出されるオドに、制限を感じていた。


 もっとも、その制限は常人からすれば膨大で、普通ならば制御できずに枯れるように死に絶えてしまうだろう。

 だがガクウからすれば、この程度のオドであれば自由に操作することが出来た。


「もし、それが純粋な薬だけの物だけではなく、『チーター』の使うチートが含まれているなら、ゾンビになった人を元に戻せるかもしれない! 駅に潜りこんでも、俺が相手をすれば道中の人を殺さなくて済む可能性がある!」


 ガクウは喜々として力説した。


 現在はオドとマナを操ったことしか例がない。


 しかし、『力を調整するのが得意』とティルナディアカリバーは言った。

 マナやオドの調整ではなく、わざわざ力と言って。


 それはガウウに取って、今にもすがりたくなるような、希望の糸だった。


「……試してみる価値はあるか。どうせ死んでるんだしな。だが欠損してる奴はどうする? お前一人が全員再生できるわけでもない。そのまま戻っても死ぬだけだぞ」


 厳しい現実を突きつけるジャグーダ。

 そう、鏡に映っていたのは、欠損や穴が空いている人々。

 怪我をしていない者も中にはいたが、それ以外は人になっても、処置をしなければすぐに死んでしまうだろう。


「俺一人じゃ無理だ。でも、あそこには人がたくさんいる。中には医者や回復魔法が使える人がいるはずだ。実際に鏡にはそういう人が彷徨っているのも映っていた。全員は助けられなくても、そういった人達と協力できれば、助けられる人は増やせると思うんだ」


 出来るだけ理想を叶えていくために、現実をしっかりと観察し出来る限りの計画をガクウは立てる。

 それを聞いたジャグーダは、満足そうに笑みを浮かべた。


「ハッ、そこまで考えているならいい」


 そう言うと、ジャグーダは起き上がり鏡を手に取る。


「それとアオイ。お前に朗報だ」


 その鏡に映っていたのは、大量のカードの様な装置が棚に保管されている所だった。


「……データ変換装置!」


 アオイには、それに見覚えがあった。

 物体をデータに変換して、カード型の装置に収納するという超テクノロジーの産物。


 これを使って『チーター』はアオイが乗って来た宇宙船の残骸を回収しようとしていた、とアオイは話に聞いていた。

 つまり、それが大量にあるということは――――


「もしかしたら、宇宙船の残骸がザックザクに手に入るかもなぁ?」


 ジャグーダは、嬉しそうにほくそ笑んだ。


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