第21話 作るモノ
アルマカイタウンから離れ、日が沈んできた。
三人が町を一望できる場所にまでやってくると、ガクウは傘で落書きするように、聖剣で魔法陣を描く。
「ほいっ!」
それを媒介に、ガクウは土属性の魔法を行使すると、地中から巨大な岩が顔を出した。
ガクウが岩の一部を軽く叩くと、長方形の穴が生まれた。
それはちょうど、ドアとも言える部分だ。
アオイがその中を覗くと、廊下のような道ができており、いくつか長方形の穴があった。
それを見て、アオイは確信する。
「……家ってこうやって作るの!?」
あまりの建築方法に、確信しても驚きを隠せないアオイ。
道理で建築物の多くが、岩をくり抜いたり、彫刻刀で削って作られたかのような印象を持つはずだった。
「専門の機械があれば、もうちょっと凝った感じにできるんだけどね」
扉が無ければ巨大な岩にしか見えない掘っ立て小屋を見ながら、苦笑いするガクウ。
「ちなみに大きな建造物は、こういう魔法で作った部品を組み立てる感じだな」
補足をしながら、そこら辺にある樹を一刀両断するジャグーダ。
そうしてできた切株に手を当てて樹のオドを操作すると、その切株はすぐ元の大きさの樹に戻った。
「……凄いわね」
もはや感嘆の息しか出ないアオイに、
「床どうする? 岩のままじゃ痛いでしょ?」
「一泊だし土足で良いだろ」
木々を切り刻み、ドアなどを作っていく二人。
アオイが感心している間に、家はあっという間に完成してしまった。
ガクウ達が住んでいた家と比べるとこじんまりとしているが、個室まで完備している。
家として比べると家具が無いのであれだが、雨風も完全に凌げるので、アオイの知るテント等と比べると十分すぎる代物だ。
こんなに簡単に家が建つなら、魔法や魔道といった技術が発展していくのも、アオイには納得ができた。
「私に魔法の使い方を教えてくれないかしら」
「いいよ!」
「やめとけ」
アオイの提案に肯定するガクウと、否定するジャグーダ。
「なんでだよ兄ちゃん。覚えておいて損は無いだろ」
「変に自信を付けて、『チーター』に特攻されても困る。下手すりゃ死ぬしな。どうしても知りたいっていうのなら、知識ぐらいにしとけ」
ガクウにそう返すと、ジャグーダは面倒くさげに掘っ立て小屋の中へと入っていった。
「知識だけでもありがたいくらいだわ」
アオイが隣にいるガクウにそういうと、ガクウは喜んで話しだした。
「えーと、魔法を使う力っていうのは、基本的に八つあるんだ。まずはオド。魔法を使うにあたって、一番基礎的な力だ。これは前にも言ったと思うんだけど、心臓に宿る魂が源になって生まれるんだ。これを使って、自分の回復力とか身体能力を向上する魔法を使う事が出来る」
「私の火傷を請け負った際も、その力で自己回復してたの?」
あの夜に見た火傷は、アオイが見ても生きているのが不思議な身体だった。。
それこそ魔法のような力が無ければ、とても動けないと思えるほどに。
アオイの問いに、ガクウは頷いて肯定した。
「そういう事。まあ普通はあんな火傷で生きていられるのは、凄い特殊な人間か化け物みたいなやつしかいないから、出来ると思っちゃダメだ。いい?」
「わかったわ。マネしない」
自分をそういった回復方法で救わなかったのは、一般人だからだったのかとアオイ納得する。
そしてそれができてしまうガクウは、凄い特殊な人間か化け物に該当するということにも納得が出来た。
「後の七つは、世界に満ちてる神様が作った力で、マナって言うんだ。火、水、土、風、光、闇、星の七つの属性がある。このマナの力を使うには、使いたい属性を選んで、自分のオドをその属性に染める必要がある」
「オドに属性に染める?」
意味が分からないと思う部分を、アオイは復唱して示す。
ガクウはそれを『読声』で察し、彼女の疑問に答える。
「人間がマナの力を使うには、オドっていう土台がどうしても必要なんだ。機械とかならマギアニウムとかで代用してとかできるんだけどね」
バスなどの乗り物に使われていると言われているマギアニウム。
地球で言うガソリン辺りに該当すると思っていた燃料だったが、アオイが想定しているよりも使い道がありそうだった。
「注意しなきゃいけないのが、属性を抽出せずマナそのものを取りこむと、魂にまで汚染されて壊れちゃうんだ。自然の圧倒的な力の前に、生命は無力って事を忘れちゃダメだ」
魂を壊す。
ガクウが言ったワードに、アオイは最近似たような現象を聞いた覚えがあった気がした。
「聖剣はそれを利用して魂を壊しているのかしら?」
「大正解。普通マナっていうのは、自分が認めた属性以外オドを染めることは出来ない。意識的にやろうとしないと、他者や機械でが強制的に注入しようとしても、自己防衛機能が働いて弾いちゃうんだ。でも聖剣はそのマナを更に攻撃的にして、相手の魂に無理やり捻じり入れることができるんだ」
聞いてみるだけだと簡単そうに聞こえるが、聖剣にしか希望を託せないとなると、相当希少な技術なのだろうとアオイは推測した。
彼女としては聖剣を量産して『チーター』を一掃できれば、どれだけいいかと考えていたのだ。
「……マナを攻撃的にできれば、魂を壊すことができるらしいけど、一体どうやるのかしら。聖剣に聞いておいてくれない?」
しかし、今朝アオイが聞いた話だと、聖剣は夢に語り掛けて来ると言う。
ジャグーダはその話を話し半分に聞いていたが、彼女としては縋れるものには縋っておきたかった。
「ちょっと聖剣に聞いてみないとわかんないな。今度夢で会ったら聞いてみるよ」
快く引き受けるガクウ。
アオイからすれば騙すなどそういう気はさらさらないのだが、何でもかんでも引き受けてしまうのは少し心配になってしまった。
「兄ちゃんはあんなこと言ったけど、ちょっとオドの活性化だけやってみようか。これが使えれば、火傷も早く治るだろうし」
そう言って、ガクウはアオイに魔法の指導をし始めた。
◇
アルマカイタウンの裏道に、一人歩くゴスロリの少女がいた。
傘をくるくると回して、夜の散歩を楽しんでいる様子だった。
「お嬢ちゃん、何やってんだ。ガキはさっさと帰んな。あぶねえぞ」
それを見た人相の悪い男が、ゴスロリの少女の前に立つ。
実際、『チーター』に襲撃に有ったばかりで、誰もが気が立っていた。
そんな所にこんなおめかしをした少女が入ったとあっては、変な男達に何をされるかたまったモノじゃない。
「絡まないでよ」
そう睨みつけると、少女は冷たい目で傘の先を、男の胸に突き立てる。
「な、何を……!? うぐっ!?」
困惑する男の言葉など気にせず、ゴスロリの少女は足で男を地面に転がした。
男は胸に空いた胸を押さえながら、もがき苦しむことしかできない。
「恨まれたら困るし、後で襲われるのも嫌だし、不安だから殺しておくだけ。男って何するかわからないし~」
世界の中心を自分に据えたような、悍ましい暴論だった。
だが、男が立ち上がるのを見て、ゴスロリの少女はにっこりと微笑む。
「大丈夫。その後は私の忠実なしもべになるだけよ!」
立ち上がった男の目には、狂気が宿っていた。
胸の風穴を気にすることもなく、男はフラフラと表通りへと出る。
「さあ、楽しい楽しい、ゴーストタウンを作りましょう!」
傘の柄の底の部分の蓋を開け、そこから流れ出る血を啜る。
ゴスロリの少女――――Aランク『チーター』カーミラが作る、地獄の釜の蓋が開きだす。
◇
「あ! 『チーター』が出た!」
「え?」
魔法の訓練の最中、ガクウが眼下に見えるアルマカイタウンを眺めながらぽつりと呟く。
「俺先行ってるから、兄ちゃんに待っててって言っといて!」
言うや否や、ガクウは町へ飛び降りた。
それを見送ったアオイは、その凄まじいポテンシャルに目を見張る。
「……私も鍛えればこれぐらいできるのかしら」
そう言いながら、掘っ立て小屋に入りジャグーダに言伝を伝えようとするアオイ。
しかし、そこにあるのは一枚の紙だった。
その紙には、
『なんか『チーター』いるっぽいから、敵情視察に行って来る。俺が変えるまで待機』
と書かれていた。
「兄弟!!」
やることなすことが同じで、アオイは思わず苦い顔をしてしまった。
ここで大人しく待つべきか、それとも追いかけるべきか頭を抱えて悩んでしまう。
「ただいまー。何か兄ちゃん、先に行ってたっぽい」
そんなところに、ガクウが声を上げて掘っ立て小屋へ帰って来る。
思わず目を見張って、ガクウを凝視してしまうアオイ。
「……さっき飛び降りたばかりじゃなかったかしら?」
「うん、だから登って来た。何かメモない?」
アオイは驚くのをやめて、そっと紙を渡した。




