第20話 アルマカイタウン
首都である城塞都市ウィルバーナへ向かう列車に乗車する為、ガクウ達はバスに乗っていた。
車内にいるのは、ガクウ達を含めても十人程度だ。
随分と近代的なモノがあるなと思うアオイだったが、科学ではなく魔導という学問が発展しており、機械などは一般にも普及している様子だったのを思い出す。
もっとも、町で一般車を見たことは無かった。
いくつか気になることが頭の中に浮かびだし、アオイは隣に座るガクウに質問してみることにした。
「ねえ、このバスって魔力で動いているのかしら?」
「違うよ。乗り物は、大体砂状にしたマギアニウムで動いてるんじゃないかな。これを爆発させて生まれた衝撃でからくり動かすんだ」
ガクウの説明を聞く限り、地球で言うガソリンのような物らしいとアオイは解釈した。
何千億光年と離れた星で、似たような技術仕組みでモノを動かしていると思うと、アオイにも感慨深いものがある。
アオイの好奇心はそれでも尽きず、ガクウに質問をし続けた。
「それって、一般人は手に入れられないの?」
「んー、マギアニウムには純度っていうのがあって、純度と比例して値段とかも高くなるんだ。乗り物で使うような高純度の物だと、すっごく高い! このバスが満タンになるぐらい入れるとなると……どれくらいになる? 家建つぐらい?」
前に座るジャグーダの肩を叩き、補足を求めるガクウ。
ジャグーダは溜息を付くと、どれくらいだったかと考える。
「さすがに家建てる半分ぐらいだろ」
「そんなに高価なのね……」
ジャグーダの答えに、アオイは驚いた。
アオイが知る限り、地球のバスはガソリンが大体四〇〇リットルまで入る容量がある。
補助タンク等もあるはずだが、今回はそれを除外とした。この星のボスにそれがあるか不明だからである。
ガソリンを一リットル130円だと仮定すると、地球では五万二千円でバスのガソリンを満タンにすることができる。
とても家を建てられるような値段では無かった。
つまり、高水準のマギアニウムは地球が一般的に普及しているガソリンよりも高い値段で市場に回っていると考えられる。
もちろん細かい条件を詰めれば結果も変わってくるだろうが、別に屈託した老人に論文を出すわけでもないので、アオイは大雑把にその価値を理解するだけにとどめた。
「この星で家を建てるのって大変なのかしら? 岩をくり抜いた様な印象を受けるのだけど」
続けて質問するアオイに、ジャグーダが答える。、
「ああ、基準がわからないか。まあ土属性の魔法使えるやつなら小屋ぐらいは作れるが、専門の建築士を呼んで一軒家建てるとなると……一般人の月給の十倍ぐらいじゃねえかな」
「月給で例えてくれるのは分かりやすいわね。大体一般だと月給ってどれくらいなのかしら?」
アオイからすれば、軽い質問だった。
この星の物価や相場などを把握する為には、必要と言える知識ともいえよう。
「そうだなぁ。まあ三万マッチぐらいじゃねえの?」
だが、ジャグーダから返って来た答えに、アオイは顔を青ざめさせる。
自分で選んで買ってもらった服だけでも、五桁の数字が並んでなかったかしら? と。
「……ねえ、私買ってもらった服の合計総額って……?」
恐る恐るガクウに問いかけるアオイに、ガクウは笑顔で答えた。
「大丈夫大丈夫。全部で四〇万マッチ程度だよ」
「私の服で家が建つの……!?」
そんな高額だと思っていなかったアオイは、思わず頭を抱えてしまう。
「どうして私にここまでしてくれるか、本当に分からないのだけど……?」
見ず知らずの人間に優しくする。
ここまではアオイでもまだ理解の出来る範疇だ。
しかし、家を建てられる程のお金で服を買うというのは、どう考えてもおかしいとしか思えなかった。
アオイが悩む姿を見ても、ジャグーダとガクウは平然と答える。
「まあ、俺ら割と高給取りなのに、あんまり金使わねえからな」
「暮らしのレベル上げると、戦場での生活が辛いしね。女の子に服をプレゼントする時ぐらい、奮発しなくちゃ!」
二人の答えを聞いて、なるほど金銭感覚が狂っているのかとアオイは納得した。
だが、自分以上にこの星でお金の価値を学ばなければいけない可能性がある二人に、アオイは頭を抱えずにはいられない。
「普通はそこまで一般女性に貢がないのよ。少なくとも私の故郷では……!」
熱弁するアオイだったが、この星の基準だとこれが本当におかしい事なのか確信が持てず、段々と口を小さくしてしまう。
お前その乳で一般女性名乗るの? と疑問に思ったジャグーダだったが、そんな事を言っても女性を怒らせるだけなので口にはしなかった。
しかし、ここでアオイにはもう一つの疑問が生まれる。
「……ちなみに二人の仕事って、何なのかしら?」
「聖騎士だな。軍隊一つぐらいなら自由に使える程度の権力」
具体的にどんな職業かはわからないアオイだったが、国家権力である武力の一部を行使可能ということは、相当に地位の高い役職に違いないと確信する。
『チーター』襲撃の際の事を思い返し、道理で官憲達が素直に言う事を聞くわけだと納得した。
「まあ今は休職中だし、好き勝手に軍隊出せるってわけじゃないからね。指揮権があるってだけで」
「十分凄いわよ」
弁解になっていないガクウの言葉に、すかさず指摘するアオイであった。
◇
――――アルマカイタウン。
ガクウ達の家の周辺で、一番近くにある列車の通る町。
昨晩襲撃された町、ヨカルイマタウンと比べると商店街の規模は小さいが、駅の構内にある商店は高い売り上げ叩きだしていると言われている。
さらには、この町にはホテルが多く、泊まっていくものも多い。
何せ、列車を使うのであればこの駅から降りた方が、彼の勇者ジオーグの聖剣が眠る神殿へと行きやすいからである。
観光地の近くにホテル街や土産屋を置くのは、商人達にとっては当然の判断と言え用。
もっとも、その観光スポットは『虐殺遊戯連合』の手によって瓦解し、聖剣はガクウが手に入れてしまっていた。
だがそれは、まだ彼らも一日二日では把握できていない話である。
そしてこのアルマカイタウンの駅から列車に乗ると、そのまま直通で首都である城塞都市ウィルバーナへ向かう事ができる。
――――はずだった。
「……避難場所になってる」
駅に溢れかえる人々を見て、ジャグーダは思わず苦笑いを浮かべる。
この町にも昨晩に『虐殺遊戯連合』の襲撃があったらしく、その際避難場所として地下鉄へと入っていく人々が多いということだった。
更にはこの人々が捌けたとしても、『虐殺遊戯連合』の襲撃の際に線路が雪崩で埋もれてしまったところもあると言う。
運転がいつ再開できるかは、駅員たちにもわからない様子だ。
日を見ると、そろそろ夕方に差し掛かると言ったところだった。
「仕方ないか。そろそろどっか泊まるか考えておく?」
そう言って三人が宿泊施設が立ち並ぶ方を見れば、その大半が瓦解している。
まともに営業できるホテルも少ないだろう。避難所扱いされている可能性もある。
三人はまともに泊まれるホテルは無いと判断した。
「……こりゃ野宿だな。町外れに掘っ立て小屋を建てるぞ」
「了解!」
ジャグーダの提案に返事をするガクウだったが、地球の現代的価値観を持つアオイは素直に首を縦に振れなかった。
「……許可なく勝手に建てていいの?」
「片付ければ大丈夫だよ。それに、今回は緊急事態だしね。魔法使って家を建てられる人は、使えない人にされる施しを受け取りにくいんだ」
この星ではそういう認識なのかと、アオイは頭のメモ帳に書き込んだ。




