第19話 勇者討伐ミッション
ガクウ達の故郷、惑星ティルナディア。
その衛星軌道上を回る月の表面上には、ティルナディアから見れば瞳に見える巨大建造物が顕現していた。
一つの巨塔を中心に、円に広がるように均一に建物が建てられている。
それはまるで、巨大な都市の様にも見えた。
その『虐殺遊戯連合』の基地を、彼らは月面基地アラモサーラと呼んだ。
その月面基地を一望できる巨塔の天辺にある一室。
そこに『虐殺遊戯連合』を統べる者はいた。
身体は白く、どこか無機質さを連想させる。
だが欠陥の様なものが体中に赤く浮き上がっており、彼の呼吸と連動するかのように脈打つ。
その顔は髑髏の仮面に覆われて見えることは無い。
だが、それを知る者は、見た目で判断するかなど、どれだけ烏滸がましいかを知っていた。
彼こそがチートを作り上げ、チートを与える神とも呼べる存在。
誰もがそれを、GMと呼び畏怖した。
GMは空中に数多の画面を表示し、それぞれの情報を読み解いていた。
「……勇者の芽を潰す為にS級の『チーター』を30人程送り込んだというのに、全員倒されてしまうとはな。まともに仕事をしたCh.1も本体が再起不能か。全くもって嘆かわしい。そうは思わないか?」
自分の部屋の前にやってきている誰かに、GMは優しく問いかける。
手を振れずにドアを開くと、そこには黒い甲冑に身を纏う、騎士のような素体だった。
問いに答える為、黒騎士のような素体は口を開く。
「私でしたら、聖剣も勇者の血筋も、全て消し去っていました」
「さすがだな」
GMが手の動作で招き入れると許可すると、黒騎士のような素体は部屋の中へ入って来た。
「クロウ。お前も好きだな。その恰好が」
「今回は魔法がある世界との事でしたので、いつでも出撃できるようにと」
GMにクロウと呼ばれた黒騎士の素体は、軽い会釈を返す。
「素晴らしい精神で何よりだ。それでクロウ。Ch.1の詳しい死因については分かったのかな?」
子供に言い聞かせるようにGMが問いかける。だが、そこにあるのは圧倒的威圧感。
下手なことを言えば、死を見るよりも恐ろしい目にあうのは明らかだった。
「……それが、どうも魂に干渉されたようでして」
「なら、新しい魂を入れれば解決のはずだが?」
言葉を選ぶながら話すクロウに、あくまで優しく問いかけるGM。
彼の問いの一つ一つに答えられなければ、どのような目にあうか。
それを考えるだけでも、クロウは恐ろしかった。
「……それが、Ch.1の本体が、魂の器として使い物になっておらず、脳も使い物になりません。死者蘇生の技術を一通り確認しましたが、全て失敗に終わりました」
「時を戻してもか?」
この月面基地には、GMからチートを授かった『チーター』達が百億人程在中している。
その中でも巧みにチートを扱えるものは半分にも満たないが、時間を操作できる『チーター』は数多く存在していた。
その返答に、クロウは困ったように返答した。
「はい。どうも、生という時間に辿り着けないようでして……」
「辿りつけない? あの聖剣め。死と生の時間を断絶でもしたか? クククク……フハハハハハハハハハ!!」
奇怪な報告に、GMは腹を抱えて笑う。
なぜ笑うかわからないクロウは、ただ狼狽えるしかなかった。
「魂はどの星のルールにおいても、貴重なエネルギー源だ。あの聖剣は、素体の微かな繋がりさえあればそれに干渉できるらしいな。想定よりも厄介だ。『チーター』の天敵と言えよう。何せ、チートは魂に刻まれるのだからな。違うか?」
「全くもってその通りでございます」
GMの言葉を肯定するクロウ。
それに気をよくしたGMだったが、困ったように指を動かす。
「ともかく、Ch.1の本体を再利用できないというのは痛い。やつのチートは回収できたが、あれを扱える精神性を持つ者は少ない。実に惜しい者を亡くした。任務達成率一〇〇%を誇る、よい『チーター』だった……」
GMはCh.1がお気に入りだった。
強さで言えば、S級の中でも弱い方だ。
だが彼に命令を下せば、何の不足も無く任務を達成してくる。
セーブを巧みに操り、一〇〇パーセントのチャートを作り上げ、命令を遂行する。
部下としては、最も使える男だった。
良く切れるハサミがさび付いてしまった時の様に、GMは悲しんだ。
「それでは、その聖剣使いはいかがいたしましょう。他の『チーター』には、干渉しないように伝えますか? それとも、私自ら内密に首を取ってまいりましょうか?」
クロウの提案に、GMは首を横に振う。
「それではゲームが面白くない。相手を陥れ、自分が優越感を得る為のプロ達の沽券にも係ろう。奴らにはこう伝えろ。『聖剣使いリクライト・ガクウを殺した者には、Ch.1の地位をやる』とな」
「随分と大盤振る舞いですね」
GMの提案にクロウは驚いた。
Ch.1の称号を得た者は、GMの次に高い権限を持つことが許される。
更には素体の身体機能やチートを向上させる為の経験値というポイントを、GMに直談判する権利を持つ事が可能となるのだ。
実質、無限に素体を強化できるということになるのだ。
「千回目となるゲームだ。になれる一発逆転の機会を設ければ、『チーター』達も大いに喜んでくれるだろう。奴らは他人の上に立つ為ならば、どんなことでもするからな。いやはら、他人を笑いものにするほど、素晴らしいエンターテイメントが無いのは同意するがね」
そう言って、GMは愉快そうに笑った。
彼からすれば、『チーター』も道化でしかないのだ。
自分が力を貸してやらなければ、偉そうに弱い者いじめもできない彼らを見て笑うのは、GMが楽しめる娯楽の一つである。
そもそも『チーター』とは、侵略ゲームをした星からGMが選んできた人物だった。
虐げられている者、劣等感を持つ者、殺戮を楽しむ者、不満を持つ者、苦痛と努力を混同してしまっている者、自分を本当は優秀だと勘違いしている者等、挙げてみればきりがない。
そういった者達は、他人を傷つけることに何の躊躇もない。
何の努力もせずに手に入れたチートを、我が物顔で振る厚顔さをも持つ。
そしてどんな卑怯な手を使ってでも、全力で他人を地獄に落としにいく。
まさに『チーター』に相応しい者達を、GMはその晴眼で選び抜いていたのだ。
そんなGMを傍目にクロウが、目の前の空中にウィンドウを開き、『チーター』達に『勇者討伐ミッション』と題された文面を飛ばす。
「勇者討伐ミッションか。いい謳い文句だ。彼らは優しくて誠実な人間が、大嫌いだからね。女連れとなれば尚更だ」
クロウの送った文面に、拍手を添えて褒めたたえるGM。
お褒めに預かり光栄です、とクロウは会釈するが、もうGMの興味は別の物に移っていた。
「それでは諸君、勇者討伐ミッションを始めよう」
一体これからどんな悲劇を起こし、自分を楽しませてくれるのか。
GMはそれが楽しみで仕方が無かった。
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