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第15話 旅立ち前の夜に


 ガクウ達三人は、闇の魔法で身を隠しながら家へと帰って来ていた。


 (ナール)に描かれた不気味な瞳は、依然見開いたままだからである。

 アオイは月からの発射される極光に注意すべきだと進言したが、それなら結局どこにいても同じなのでは? と意見がまとまり、家に帰って来た次第である。


 現在はリビングにあかりを付けて、一緒のソファに座りガクウとアオイは談笑をしていた。


「そういえばさ。アオイちゃんの本当の名前って何なの?」

「え?」


 ガクウの質問に、不思議そうにするアオイ。

 何かおかしなこと言ったかな? と思いながらも、ガクウは話を続ける。


「ほら。記憶戻ったんでしょ? だったらアオイちゃんの本当の名前、俺知りたい!」

「まあ、そうよね……」


 気まずそうに目線を逸らすアオイ。

 しばらく悩んでいた様子だったが、意を決したように口を開く。


「……私の本当の名前は、(ひいらぎ)(アオイ)というの」

「……んー?」


 アオイの言葉を脳味噌が咀嚼しきれず、ガクウは真顔で固まった。

 しばらくして、ようやく理解すると、ガクウは驚愕の表情を浮かべた。


「もしかして俺、名前を当ててたの……!?」

「そうよ。どうりでしっくりくるわけね……」


 ガクウの言葉に、アオイも感慨深そうに頷く。

 これは大変だと、ガクウはお風呂場に向かって大声を上げた。


「ねえ兄ちゃん! アオイちゃんの本当の名前アオイちゃんだった!!」

「うるせー! 大声で言わなくても聞こえてんだよ! それと弟面をやめろお前は!!」


 ガクウの報告を受け、風呂場から出て来たジャグーダがパジャマのボタンをつけなが吠えた。


「ったく、さっさと風呂入って寝ろ。明日は朝早いんだからな」


 この星では風呂の順番が、基本的には男性の方が優先される。

 肉体労働などで汗をかくことの多い男たちは、早急に体を洗ってもらわなければ臭いからである。

 女性が匂わないというわけではないが、男の方が大衆がキツイのだ。


「わかってるって。お城行くんでしょ? 準備は出来てるから大丈夫だよ」


 三人は、宇宙船の部品を集めて敵の本拠地に攻め入る為、国の重鎮達と直接話しあう事になっていた。

 ボンジャーグが既に宇宙船技術の事を鏡話で伝えていたらしく、話がしたいと言えばすぐに席が用意される。


 しかし、現在地から城のある都市までは交通機関を使っても数日かかり、すぐに出発する必要があった。


 そこまで遠いのであれば、鏡話で全部打ち合わせすればいいのでは? とアオイは提案したが、敵が魔神の可能性があるとなると盗聴される可能性があると説得されその案は流れた。


「わかってるならいい」


 ジャグーダはそう言うと、自分の部屋へと戻っていった。

 ガクウも風呂に入ろうと立ち上がるが、何かを思い直し、アオイの方へ振り返った。


「アオイちゃん。俺、一緒にお風呂入った方がいい?」

「――――……一緒に、お風呂?」


 ガクウの突然の提案に衝撃を受け、アオイはたどたどしく言葉を繰り返す。


(え? 待って? それはつまりどういう事なのかしら? 恋人同士でもないのに一緒にお風呂に入るとか、この星では普通の事柄なの? それとも彼、意外と肉食系だったりするのかしら? いやでもそれは話が急過ぎるというか、良いか悪いかで言えば――――)


 脳内で凄まじい思考速度で真意を導き出そうとするアオイだったが、ガクウはあっけらかんとした様子で話しを続けた。


「だってアオイちゃん。まだ火傷残ってるでしょ? 身体洗うの大変じゃない?」


 アオイは頭の中で考えていた事柄全てを、すぐさま脳内ゴミ箱に放り投げる。

 変なことを考えていたことを、彼女は無かったことにしようとしていた。


「ええ、わかってるわ」


 そう頷くアオイだったが、完全にわかっていなかった。

 すっかりその事が頭から抜け落ちる程にテンパっていたのは、言うまでもない。


 だが、ガクウが心配していることが分かれば後は簡単。

 アオイが持つ知識から、火傷している人物が風呂に入る際にどうすればいいかを引きずりだす。


 さすがに年頃の男性と一緒にお風呂に入ると言うのは、彼女としても恥ずかしいので避けたい。

 何より、ガクウに醜い火傷を見られたくないという想いがあった。


「……まあラップでも巻けば、一人でも別に平気よ。背中に手を回すと痛みはあるけれど、そこまで大変でもない――――」

「らっぷ?」


 アオイの言葉に首を傾げるガクウ。

 そしてアオイは、その言葉に表情が凍り付いた。


「……無いのかしら。残り物が出た時に、蓋をするラップフィルム。それか、水をはじく布みたいなものとかは……」

「ちょっとよくわかんない」


 ガクウがわからないのであれば、アオイでもこの星で風呂場での対処方はわからない。


「……火傷部分にお湯が漬からない様にする際は、どうすればいいのかしら」

「風の魔法を使ってお湯がかからないようにするんだ。これが使えるだけで、医者や介護の仕事からはかなり重宝されるんだ」


 丁重に教えてくれるガクウだったが、アオイには不可能な方法である。

 心臓にある魂からオドを出す方法すらわからない彼女が、魔法など使える筈も無かった。


「……今度覚えるから、今日はお願いできるかしら?」

「いいよ!」


 天真爛漫な笑みでアオイの言葉に頷くガクウ。

 アオイも笑みを返すが、脳内は混乱の嵐だった。


 何度でも言おう。同世代の異性に裸を見られるとか、恥ずかしい以外の何物でもない。

 それが年頃の少年少女であれば、なおさらである。

 さらには、それと同じぐらい見せたくない火傷まであるのだから、彼女としては複雑であった。


 ガクウが善意から言っているのは彼女にもわかる。

 だがしかし、それだけと言うのも彼女としては腑に落ちない所もあった。


 タオルを体に巻けばいいという者もいるだろう。

 だが、タオル一枚では防御としてあまりに弱い。ふいにずり落ちてしまう可能性が高い。


 そして何より、彼女のバストは豊満であった。

 タオル一枚程度では、一般女性と比べて心もとなくなってしまうほどには大きいのだ。

 昔から彼女はこの大きすぎるバストに苦労させられてきたが、今日ほど困った日も無い。


 脳が感情を処理しきれず、アオイは顔を赤くして俯いてしまう。


「じゃあアオイちゃんの風呂水着持ってくるから、ちょっと待っててねね」


 水着と言う単語に、アオイは顔を上げてガクウの服の裾を咄嗟に掴む。

 何事かと驚くガクウだったが、有無を言わせる前にアオイが問いかける。


「……水着、あるの?」

「そりゃあるよ。風呂入る時に無かったら、襲撃時とか裸で逃げないといけないじゃん」


 そう答えると、ガクウは風呂水着とやらを取りに行った。


「……戦争があったようだし、そういう文化が出来ていてもおかしくはないわね」


 そう自分に言い聞かせるアオイだったが、あふれ出る徒労感を誤魔化すことは出来なかった。


本作が総合評価100ptを突破しました!

いつもも読んでくださっている皆様、評価やブックマークをしてくれている方々、本当にありがとうございます。

こうやって目に見える形でわかり、更新の励みとなっております。

これからも簡潔に向けて頑張っていきますので、これからも本作をよろしくおねがいします。

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