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第14話 目指すは月!


 ガクウの言葉に、アオイはすぐにでも縋りつきそうになる。

 けれど、ガクウへ伸ばそうとした手は、すぐに引っ込められた。


「そんなの、絶対に無理よ……。だってアイツらは、自分で戦ってさえいないんだもの」


 顔を俯き、アオイは静かに語り始める。


「……アイツらは強い人形を作って、遠くからそれを操ってるだけなのよ自分達は安全な月に陣取って、虐殺を楽しんでるだけ。だから、いくら地上で人形を壊しても、何の意味も無いの。無いのよ……」


 意味が無い。

 それを強調するアオイの声は、今にも吐き出してしまいそうな程辛そうな声だった。


 励まそうとガクウは彼女に近づこうとするが、それだけではダメだと思い直す。

 今アオイに必要なのは、もっとわかりやすい希望なのだ。


 そう考えて、ガクウは考えながら口を開いた。


「戦闘機械人形(オートマタ)なら、まあ何となくわかる。でも、それなら表情をどうやって操作してるのか? 痛みを感じてるように見えたのは演技だったっのか? それと僕は彼らが生きているようにしか思えなかったりとか、色々と疑問を感じるんだ」


 いつしかガクウが参戦した戦争でも、敵が機械人形(オートマタ)を試験導入したことを思い返す。

 竜に匹敵すると噂されていたそれの破壊力はすさまじく、味方は多大なる被害を受けた。

 しかし、表情や痛みという機能は無かったし、もちろん生きてるとさえ思えない代物だ。


 そうやって彼の知る機械人形(オートマタ)と比べて見ると、『チーター』の使う人形は無駄な物が多すぎる気がした。


「襲ってきた人形……素体(アバター)と言うのだけれど、あれは操縦者の五感と共有できるの。確かに痛みを感じるのはリスクがあるわ。でも同様に、快楽を感じる事もできるのよ。私の星でも、被害にあった人の話は聞いたわ」


 その話を聞いて、ガクウの眉に力がこもってしまう。

 だが、今この場で一番つらそうなアオイの顔を見て、ガクウは冷静さを取り戻す。

 彼女の笑顔を取り戻す為にも、彼は決定的な希望を見出さなければならないのだ。


 何か無いかと考えていると、聖剣でCh.1(チーター・ワン)の魂を消し去ったことを思い出した。

 ただ五感を共有するだけなら、あれは何だったのかと疑問に繋がる。


「……五感を共有してるって、つまり魂を共有してるって事?」

「……魂? ごめんなさい。ちょっとそれはわからないわ。どうしてそんな事を?」


 ガクウの意図がわからず、首を傾げるアオイ。


「いや、死んだら時間をさかのぼることができる『チーター』と交戦したんだけど、その時魂を切ったんだ。だから、魂も共有してるのかなって」

「……もしかして、Ch.1(チーター・ワン)を倒したの!?」


 驚愕して大声を出すアオイに、ガクウも驚きながらコクコクと頷く。

 その目が、輝いているかのようにガクウには見えた。


「魂の定義を教えて頂戴」

「生命の力の源の事。心臓に宿ってるって言われてる。俺達は自分の魂からオドを取り出して、魔法を使うんだ」


 その説明に、不可解な表情を浮かべるアオイ。

 先程までのしおらしさはどこへやら、彼女は己の知的好奇心に従う獣になっていた。


 その様に、自分が何をしてしまったのかとガクウは怯えるしかない。


「……貴方、今心臓ベルゼフォンの物じゃなかったかしら? その場合、魂はどうなるの? 記憶は?」

「え? いや、確かに今の俺の心臓はベルゼフォンのものだ。竜のオドを生み出してる。でも、魂は俺色に染まったから人の俺でも使える。魂が消えれば、体に蓄積された記憶や意識といったものも一緒に消えるはずだよ」


 アオイの質問に、何かおかしなこと言ってる? と不安になりながらも答えるガクウ。


「つまり――――魂はオドというエネルギーを作り出す物でしかないのね?」

「普通はそういう考えでいいはずだけど……?」


 アオイが何を言いたいのかわからないガクウだったが、彼女が間違っている事を言っているわけでもないので、恐る恐る肯定した。


「……確かCh.1(チーター・ワン)は、勝率100%を謳っていたGMの次に強い男と称されている最強の一角よ。自分の素体(アバター)が壊された時、彼は指定した時間まで精神や経験を過去にタイムリープするとも聞いた事があるわ。でもそれを倒して今があるなら……。五感を共有しているということは魂というオカルト的生体コネクタと繋げていたという事? それをガクウが破壊できるのであれば、もしかして――――」


 急に早口で何かを理解したかのように喋り倒す姿に、ガクウはさらに圧倒されてしまう。

 だが考え直すと、彼女が元気になっているということだ。


 アオイの顔を見れば、まるで少女が宝箱を開き、そこに美しいアクセサリーが詰まっていたような笑みを浮かべているかのようだった。

 ならいいか! とガクウも笑みを浮かべる。


「恐らく、お前さんの『聖剣でぶっ殺せば本体も死ぬんじゃね?』説は大当たりだ」


 木々の物陰から、ひょっこりと顔を出してくるジャグーダ。

 その声に、思わずガクウは背筋をピンと伸ばしてしまう。


「兄ちゃん! どこから聞いてたの!?」

「さて、どこからだろうなぁ? 聖騎士らしいところは見ちまったかもしれないなぁ?」


 慌てるガクウを見て、ジャグーダは意地悪そうに笑みを浮かべる。

 そしてそのまま、言葉を続けた。


「まあ、今はそんな事はどうでもいいんだよ。問題は死ぬこと……正確には、あばたーが壊れることで時間を巻き戻る機能を持つやつが、それをしていないってことだ。

 だってそうだろう? そんなことしてたら、俺達がアイツを倒してこうやって話すことは無い。つまり、アイツは魂を消されちまって、遡れなくなっちまってる可能性が高いんだ。

 聞けば、アイツは俺とマスター・ボンジャーグに七万六千八百五十六回も殺されたらしい。

 そーんなネチネチ野郎が、ガクウの聖剣で諦めるだなんて考えられないからな」


 その説明に、「確かにアイツらってそういう事する」とガクウとアオイは頷く。

 一晩だけの関係だが、ガクウもそう思えてしまう程に、彼らは人でなしだった。


「そしてもう一つ大事なのが、聖剣が眠る神殿が(ナール)からの極光によって吹き飛ばされた事実。偶然じゃないかって? アイツらに対抗できそうな剣が眠る場所にだぞ? どんな確立だよ」

「……確かに。アイツらならどさくさに紛れて、自分達の不快なものを壊すでしょうね」


 ジャグーダの弁に、賛同を示すアオイ。

 そして、それらを聞いていたガクウは一つの可能性がひらめいた。


「つまり『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』は、勇者ジオーグの聖剣を危険視してるってことだ!」

「そういうこと」


 ガクウの導き出した結論に、ジャグーダは満足げに頷いた。

 しかし、納得がいかないとアオイは口を開く。


「……それが本当だとして、何故彼らはそれを知っているの?」


 その疑問に、ジャグーダはやれやれと言った様子で話しだす。


「じゃあ逆に聞くが、お前どうしてこうやって俺達と話せてるんだ?」

「それは『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』に捕らえられて、アイツらの言葉に合わせるように言われた――――」


 そこまで言って、一つの可能性にアオイは思い当たる。


「……まさか」


 気が付いたアオイは、信じられないものを見るような眼でジャグーダを見る。


「俺の推測が正しければ、『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』の中心人物は、この惑星ティルナディアの出身だ」


 ガクウは自分の頭が吹き飛ぶような思いをした。 

 あんな奴らの発生源が、自分達の故郷から生まれたことが、とてもじゃないが信じることができない。


「待ってくれ。そうなると、少なくとも六百年ぐらい前の人物って事になる。俺、黒き空の果てを渡れそうな歴史的人物とか知らない」


 ガクウは必死になって拙い反論を繰り出す。


 そう、この星の言葉は時代ごとに言葉を変えていった歴史がある。

 今彼らが使っている言葉は現代語は、ガクウの言う通り六百年ほど前から使われ始めた者だ。


 だが、それを聞いたジャグーダは、ため息をついた。


「いるだろ。勇者ジオーグの聖剣を危険視するやつが。五百年くらい前に」


 そこまで限定されると、ガクウも認めざるを得なかった。


「……勇者ジオーグが倒したはずの、魔神」


 五百年前、この大陸の人間を一掃しようとした謎多き神。

 現代の人類でも理解できない魔法を使い、素質のある人間を魔族に変えて従えさせたと言われている。


 今回の『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』と、ガクウは似ているような気がした。


「それなら、勇者ジオーグの聖剣を警戒するのも納得だろ? GMは『ゲームマスター』の略じゃなくて、『ゴッドマジカル』とかの略かもな」

「そういえばゲームマスターとは言ってたけど、GMの略が何かとは言ってない……? ねえ、アオイちゃん! GMって何の略!?」


 慌てて問いかけるガクウに、アオイは首を横に振った。


「不明よ」

「どうしよう。本当に勇者ジオーグが倒したはずの魔神かもしれない……」


 まさかの伝説の存在の復活の可能性に、思わずガクウは頭を抱えてしまう。


「謎は解明したし。対抗手段があることも分かった。けれど、聖剣一本じゃ、今の『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』倒せるとは、とてもじゃないけど思えないわ」


 それに、と言葉を続けて、アオイはガクウの顔を見る。


「貴方だけに無理をさせるわけにはいかない」


 見ず知らずの少女一人の為に、命をかけられる少年が、己の故郷にどれだけ身を投げ出してしまうのか。

 アオイはそれだけが心配だった。


 そして、その心配はガクウにきちんと伝わる。

 参ったように、ガクウは自分の頭を掻いた。


「それこそ楽勝だ。俺達が直接、大人数で月まで行っちまえばいい。本体を叩けば、二度手間にはならないだろう?」


 ジャグーダはそう言うが、それは無理じゃないかとアオイが口を開く。


「でも、宇宙船を作る技術は、この星に無いんじゃないの?」

「お前がいるじゃないか」


 なおも余裕な態度のジャグーダに、アオイは申し訳なさそうに言葉を続けた。


「……私の場合、宇宙船が作れたのは部品などを作る製造ラインがあったからよ。『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』に捕まってたから、部品をちょろまかして作ることが出来たの。一からだなんて無理よ」

「オイオイ。お前の乗って来た宇宙船があるじゃないか。あれ集めてを修理すれば、一から作るよりはマシなんじゃないか?」


 ジャグーダはご尤もな意見で反論するが、アオイはそれが無理なことを知っていた。


「……無理よ。保管所にある異物が盗まれたと聞いたわ。あの操縦席には、さまざまな重要な機関が備え付けられているの。あれが盗まれたんじゃ、他の物を集めて見ても時間がかかり過ぎる。ジリ貧よ」


 絶望するアオイの言葉を聞いて、ジャグーダはますます笑顔の皺を深める。


 辺り一帯を魔法で完全な暗闇に塗り替えるジャグーダ。

 三人の姿以外は、ただひたすらに真っ黒な世界に変えてしまった。


「じゃじゃーん! これ、なーんだ?」


 そういってジャグーダが取り出したのは、カードの様に見える装置だった。

 彼が最初に戦った『チーター』から、奪い取った戦利品である。


「データ変換装置!? なんで貴方がそんなものを!?」

「データ……何?」


 思わずアオイに聞き返してしまうガクウ。

 彼が『読声(どくせい)』を使っても、把握できる情報が専門用語だらけでさっぱりだったのだ。


「要するに、この木とかを文字の羅列に変えて持ち運べるようにする装置よ」

「……これ、そんな装置なのか。てっきり便利な収納道具かと」


 アオイの説明に、何かをぼそっと呟くジャグーダ。

 兄の威厳を尊重し、ガクウは聞かない事にした。


「まあ、そんな細かい仕組みはどうでもいい。俺が見せたいのは、これだ」


 ジャグーダが装置のボタンを押すと、ピクセル状の光子が舞い、それが姿を現す。


 それは、アオイが乗って来た、宇宙船の操縦席だった。


「この星には、『機密は自分で持つべし』って言葉がある。お前の星じゃどうだ?」

「『敵を騙すにはまず味方から』って言葉をお返しするわ」


 盗んだのお前か! と睨みつけるアオイだったか、ジャグーダは平気な顔をして受け流す。


「素敵な言葉だな。俺の座右の銘にしよう」


 図々しい事この上ないジャグーダの言葉に、アオイは口喧嘩の敗北を認めた。


「でも、これで俺達がやるべきことが分かった!」


 快晴の様な笑みを浮かべながら、ガクウは大きな声を張り上げる。


「散らばった宇宙船を全部集めて、作り直してもらう! そして目指すは――――乗っ取られたあの月だ!」


 美しい月面に描かれた、不気味な赤い瞳を思い浮かべながら、ガクウは真っ暗な空間で天を指さした。

 敵に対し、待ってろよ、と言わんばかりに。


 そんなガクウを見て、アオイは自然と笑みを浮かべた。


「……ありがとう。私もがんばるわ」


 アオイはそう言うと、右手袋を外しガクウに手を差し伸だす。

 ガクウは『読声(どくせい)』で、その意図を理解した。


「うん! 一緒に頑張ろう!」


 同じ形で手を差し伸べ、手を握り合う。

 アオイの故郷では、これを『握手』と呼んだ。


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