第13話 たった一人の地球人。その懺悔
町から一番近いシェルターの付近では、官憲達が集まり話し合いを行っている。
なお、その付近ではガクウによって預けられたアオイが、女性の官憲が護衛をしていた。
当のアオイは、表情を曇らせて体育座りをし俯いている。
それを心配した女性の官憲が、水の注がれたコップを差し出すが、アオイの表情が晴れることは無かった。
アオイの耳に、官憲達の話声が聞こえてくる。
「リクライト兄弟がやってくれたようだ。現在、念の為に安全確認が行われている。……だが、リクライト・ボンジャーグ殿が敵の策略により、お亡くなりになったらしい。『別離の儀』は、ジャグーダ殿と行ったらしい」
「勇者の子孫でもあるあの人もか……人類の損失は大きいな」
そう話しながら、ガクウが簡易的に作った墓を見る官憲達。
聞き耳を立てていたアオイも、つられて墓を見た。
その墓は、誰でもないベルゼフォンの為の物だ。
この星の墓の形は、円柱形の棺桶になっており、頭上部分に蓋が備え付けられている。
そして、蓋部分を上にして地面に埋めるという形式になっていた。
だが、ベルゼフォンはガクウに心臓を捧げると、そのまま光の泡となって散ってしまった。
、それ故にガクウが作った墓は小さな円柱であり、蓋部分に『我が友ベルゼフォン、ここに眠る』と刻まれている。
官憲達の一人の鏡話が鳴り、その官憲が応答する。
「異物が盗まれた!?」
保管所の異物。
アオイがそれを聞いて思い出すのは、自分がこの星に来たあの宇宙船の事だった。
「どうも、何の話してるの?」
官憲達がその話題で話し合っていると、ガクウがひょっこりと平気な顔をして帰って来た。
思わず声を聞いて顔を見たアオイは、目が合う前に視線を逸らす。
「実は今ヤバいんです」
官憲の一人が大雑把な説明をすると、ガクウは顔をしかめた。
「一体誰が異物を……」
傍から見たらおかしな会話だが、『読声』を使えば言いたいことは完全に把握できる。
状況を一刻も早く把握しなければならない場合、これほど便利な不思議な力も無かった。
「とりあえず俺、保管所に行って手がかりが無いか調べて来るよ。何かベルゼフォンの力もある程度使えるようになったし、臭いとかでも辿れれば役に立つかも」
自分に出来ることを模索し提案するガクウだったが、官憲達は首を横に振った。
「いえ、ガクウ殿は休んでいてください。近隣の町も、『チーター』の襲撃は収まったようですし」
「え、いや。皆無理して頑張ってるのに、俺だけ休むっていうのはちょっと……」
官憲達が圧を込めて話すが、それは申し訳ないと引き下がらないガクウ。
人の厚意を無下にするのは忍びないガクウだったが、今は皆が大変なので自分も何かをしたいというのが本音だった。
「全身黒焦げの状態で活動してた人が一番休むべきなんですよ。それともガクウ殿は、全身黒焦げで今にも死にそうだった人間に、あれやれこれやれと言うんですか?」
ぐうの無い正論を繰り出す官憲に、思わず口をつぐむガクウ。
「……言わない、です。でもほら! 俺は治ってるし! 『チーター』も倒して来たし!」
「禁術を使われた貴方は、本来施設にぶち込んで一カ月程身体検査をしなくてはならないんですよ? 我々がどれだけ寛大な処置をしているのか、わかっていただけませんか?」
最後の抵抗もむなしく、
イジメているようにも見える光景かもしれないが、彼らが言いたいのは「無理してたんだから休め」ということであり、むしろ親切心から言っている。
それをガクウも分かっているので、これ以上強くは出れなかった。
「……それじゃあ、後はお任せします。家にいるから、何かあったら呼んでね!」
「そうならない事を期待してお休みください。それと、こちら連絡コードです」
「あ、じゃあこっちのも教えておくね」
官憲達と細かい事を話し合うと、ガクウは別れの挨拶をしてアオイの元へとやって来る。
自分の元へガクウがやって来るのが分かると、アオイは体育座りしている手に力が入ってしまった。
「ごめんごめん。町の方の助っ人に行ったら、色々とごたごたとしてて……」
ガクウが話しかけるが、アオイは顔を伏せたままで何も言おうとしない。
それを見たガクウは、アオイと同じ目線になるようにしゃがんだ。
「守るって言ったのに、官憲さん達の所に預けてごめん。でも、俺は戦えるから戦わなくちゃならないし、アオイちゃんの安全の事を考えると、頼れる人達に預けるのが一番だったんだ。本当にごめんね」
そうガクウが謝ると、アオイは目だけを出してじっとその目を見る。
ガクウの目は、相も変わらず優しく、そして心配そうにアオイを見つめていた。
「……うぅっ」
それを見てしまった段々と目が滲みだし、ついには静かに泣きだしてしまう。
「あ、アオイちゃん!?」
突然泣き出すアオイに戸惑うガクウ。
アオイに付き添っていた女性の官憲の目が痛かった。
そして、ついには全力で走り去ってしまう。
「ちょっと、アオイちゃん!?」
戸惑いながらも、ガクウはすぐさま追いかけた。
◇
アオイの足は速く、戦闘で疲れているガクウは、追いつくのに思いの外手間取ってしまった。
ようやくその手を掴むと、アオイはようやく走るのを辞める。
それでも、一向にガクウの顔を見ようとはしなかった
「そりゃ、俺が悪かったけど、一人で森の中は――――」
「違うの!!」
謝ろうとするガクウの言葉を、アオイは大声で遮る。
「貴方は、何も悪くないの。悪いのは私。全部、私が全部悪いの!」
「……どういうこと?」
涙ながらに訴えるアオイだったが、ガクウにはその言葉の意図がわからず、思わず聞き返してしまう。
自分の手で涙をぬぐいながら、アオイは静かに話し始める。
まるで、罪を懺悔するかのように。
「……私は、あの瞳が浮かぶ月を見て、記憶を全部思い出したの」
「あ、そうなんだ! よかった。アオイちゃん、思い出せなくて不安そうだったもんね」
ただの前置きだったというのに、ガクウは自分の事の様に喜ぶ。
それを見ると、彼女は心臓が刃物で突き刺されたような痛みを感じた。
アオイは「喜ばなくていいから、最後まで聞いてほしい」告げると、そのまま言葉をつづける。
「私の地球も、あんな風に月を拠点にされて『虐殺遊戯連合』から訳の分からない侵攻を受けたの。でも、私達はあの理不尽なチートに負けてしまった。既存の法則が、全く通じない力に」
それを聞いてガクウが思い出したのは、マナもオドも使わずに不思議な力を使う『チーター』の姿だった。
宇宙を渡れる彼女の技術を持ってしてもわからないというのは、とても不気味に思えた。
「その後アイツらは、好き勝手に『国家ゲーム』をし始めたの。既存の国の頂点の椅子に座って、戦争をしだしたのよ。その上、自分達の文化を押し付けて、私達の文化は劣っていると罵った。それなのに、アイツらは私達の文化の良いと思った部分は、自分の物の様に扱ったわ。……そうやって、『チーター』達は私達の国を滅ぼしていった……!」
アオイは憎しみを込めて話すが、ガクウはその内容を聞いて、開いた口がふさがらなかった。
今までの『チーター』達との交戦経験から、ガクウはその様を容易に想像できてしまう。
基本的に彼らの人間性は、自分勝手に遊ぶことだけしか考えていない様に見えるものだった。
「最後にGM……『虐殺遊戯連合』の親玉は、何て言ったと思う?」
ガクウはその問いの答えがわからず、首を横に振う。
「『もう遊んでもつまらないので、この星は花火として再利用する。ゲームクリアの記念にね』よ」
アオイは、歯ぎしりの音が聞こえそうなほど険しい表情をしていた。
だが、ガクウにはわからないことが一つあったので、ついそれを口にしてしまう。
「……ごめん。花火って何?」
そう、彼の国に花火の文化は無かった。
ガクウは『読声』で彼女の言いたいことを把握しようと思えば、いとも簡単に把握することができる。
けれども、泣いている彼女を見て、自分の口から吐き出させればいいと彼は考えた。
それゆえに、花火の意味が分からず質問をせざるえなかった。
もっとも、『読声』を使っても理解できていたかは怪しいが。
配慮が足りなかったわ、と彼女は少し考える素振りを見せると、話を続けた。
「夜空に爆弾を飛ばして、火の花を咲かせるの。アイツらはその爆弾を、地球でやろうとしたのよ」
前半の説明の時点では興味を持った顔をしたガクウだったが、後半の説明を聞いて青ざめる。
スケールのデカいバカなことだとは、ガクウにだって理解が出来た。
「……ああ、だからアオイは宇宙を飛んでこの星まで来たのか」
話が繋がり、宇宙船でやって来た理由に納得するガクウ。
しかし、アオイは顔をくしゃくしゃにしながら頷いた。
「……でも、アイツらは私を追ってきた。地球人を完璧に滅ぼす為に! 私が逃げた所為で! なのに、私は施して貰ってばっかりで、何も貴方に返せないばかりか、貴方の大切なものを、たくさん奪ってしまった! 自分の皮膚に、友達に、家族に、故郷の平穏さえ……!」
そう言って、アオイはまた涙を流し出す。
自分が奪ってしまった物に、後悔しながら。
「ごめんなさい! 生きたいだなんて思って、ごめんなさい! 私、アイツらに殺されていればよかった……!」
何もない自分を心の底から心配をして、優しくしてくれた人。
嬉しかった。胸の内が温かくなった。彼といると、笑顔になれた。
けれど、そんなことをされる価値は自分にはなく、存在していたせいで多くの人を傷つけた。
その事実に、小さな少女の心は耐えきれなかった。
「アオイちゃんは何も悪くない!」
だが、ガクウはアオイの懺悔を真っ向から否定した。
突然の大声に、アオイはビクリと体を震わせる。
そんなアオイの肩をガクウは優しく掴み、涙がこぼれる目にまっすぐ覗き込む。
「悪いのは、全部『虐殺遊戯連合』だ。怖い物から逃げるのは当然だ。生きたいって思うのは、当然の権利だ! だから、アオイちゃんは悪くない。泣く必要なんて無いし、謝る必要だって無いんだ」
そう言って、ガクウはハンカチを取り出し、アオイの涙を拭った。
初めて会った、あの時と変わらずに。
「でも、アイツらがここに来てしまったのは、まぎれもない事実で……」
それでも自分を責めるアオイ。
ガクウはアオイから少し離れると、腰に差していた聖剣を抜いて大地に突き立てる。
「リクライト・ガクウが、罪無き少女アオイに誓う!」
そう声を張り上げるガクウにおふざけの色は無い。
彼は本気で、アオイに誓いを立てる。
「――――『虐殺遊戯連合』は、俺が全部ぶっ壊す!」
少女にこんな涙を流させた者達を、聖剣に選ばれた勇者が、許す筈も無かった。




