第12話 亡き人々に勇者は謳う
Ch.1の主なチートは、セーブである。
彼が死ぬと、セーブした時間まで意識を飛ばせるという物だ。
飛ばせるのは意識だけではない。死に戻る前に得た経験値も持ってこれるのだ。
この経験値を使う事によって、彼には色んなスキルを取得してきた。
何度負けようとも死に戻り、パターンを解析し試行錯誤を繰り返しながら勝利を得て来たのだ。
目立つつもりは無かったが、いつの間にかチーターの中でもナンバーワンと注目されてしまう。
そうして、Ch.1という地位をうっかり手にしたのだ。
いつしか様子見だけで勝利を収めることの方が多くなったが、今回ばかりは違った。
辺境の星のたった一人のボンジャーグに、七万六千八百五十六回も殺されてしまった。
――――俺に恥をかかせるのは、誰だって悪い奴だ。
――――だから俺には、復讐する権利がある!
だから彼は、できるだけ無惨な死に方を用意して復讐を完遂した。
息子と刺し違えると言う、無惨な死に様を。
だというのに、そのガクウとジャグーダが敵討ちだと湧いて出てくる始末。
Ch.1にとっては、不可解な事この上なかった。
「敵討ちだと? 奴は俺を殺した。だからこれは、正当な復讐だ! 正義の鉄槌だァッ!」
二人に言葉を投げかけながら、Ch.1は近距離で飛ぶ斬撃を繰り出す。
「お前のどこに正義があるんだ!」
ガクウはそれを聖剣で切り払い、すぐさまCh.1に斬りかかる。
もちろん、ガクウは『読声』で彼の言いたいことは伝わった。
だが、余りに自分勝手な理屈に、理解することができなかったのだ。
「俺の敵が悪なのだ。それがこの宇宙の、真理なのだ!」
Ch.1はガクウと剣戟を交えながら吠える。
その言葉に、ガクウは激怒した。
「自分勝手な事ばっかり言うな! 毎日を平和に生きることが、悪なわけないだろ!!」
ガクウは聖剣を力一杯振い、Ch.1に叩きつけようとする。
いい加減うっとおしくなってきたCh.1は、一瞬で辺り一面を水で満たし、町を湖の下に埋めた。
これにより、ただがむしゃらに動くだけのガクウの斬撃など、どうとでもなる算段だ。
だが、ガクウの斬撃は辺り一面の水を剣圧で切り裂き、Ch.1の腹を抉った。
「――――ガハッ!?」
事態の把握ができないCh.1。
辺りを見回せば、彼が作った水は全て霧散していた。
筋肉チートでもここまでのデタラメはしない。
一度撤退し、体勢を立て直すことを視野に入れるCh.1。
「俺達は、お前みたいな卑怯な悪党から、皆を守る……守って見せる!」
だが、ガクウの放った言葉は、Ch.1がそれまで考えていたことが吹っ飛んでしまった。
あんまりな綺麗ごとに、あんまりな屈辱に、あんまりな正義感に――――
「――――反吐が出る!」
Ch.1怒りを込めた業火を放つが、これもまた聖剣で切り裂かれ霧散してしった。
次の一手を出そうとした瞬間、背後に気配を察知し、隠していた尻尾で攻撃しようとする。
だが、いつの間にか体には蠢く闇が巻き付いており、Ch.1が動く力を奪っていた。
「よう間抜け。俺を忘れんなよ」
動けなくなっているCh.1の肩に落り立ち、ジャグーダは流れるように剣を頭に突きさした。
「正論ぶつけられて、俺の事が見えなくなってたか? ざまぁみろ」
そういいながら、ジャグーダは剣から闇の力を注ぎこんでいく。
あっという間に許容量を突破し頭がはじけ飛ぶはずだった。
「俺を舐めるなぁ!」
だがそうなる前に、Ch.1は全身から未知のエネルギーを放ち、闇の力ごとジャグーダを吹き飛ばした。
「俺をここまで怒らせるとは大したやつだ。誇っていいぞ!」
そう言いながらエネルギーの刃を形成し、Ch.1は二人にマシンガンの様に撃ちこむ。
「《侵略不可避の輝きよ》!」
「《眠りの守り手よ》!」
二人は光の壁と闇の盾を顕現させ、その攻撃を打ち消す。
だがCh.1の猛攻は止まらない。
エネルギーの刃を放ったまま、空中に圧縮エネルギー弾をいくつも形成し、壁や盾を迂回して二人に放つ。
すぐさまガクウが聖剣を振り払い、いとも簡単に霧散させた。。
そんな結果お見通しだと言わんばかりに、Ch.1は笑い出す。
「これで、終わりだァ!」
Ch.1は声を高らかに、手を天に掲げた。
天を確認すれば、月の瞳が再び赤く光っているところだった。
ジャグーダは、あれこそ神殿を吹き飛ばした極光だと直感した。
「バカが! お前も死ぬぞ!」
それを見て焦ったジャグーダは、Ch.1を言いくるめて極光の射出を止めさせようとする。
最初の宣戦布告の時は、たくさんの人間が一斉にして対抗することにより、被害拡大を防ぐことが出来た。
しかし今は、『チーター』達がこの町だけではなく、あちらこちらで暴れていることだろう。
そんな状況下で、もう一度力を揃えて防ぐのは不可能に近かった。
だが、Ch.1は不敵に笑みを浮かべるだけだ。
「俺は死なん……っ!」
そう、彼には平気な理由が二つもある。
セーブもそのうちの一つの理由であった。
それを聞いたガクウは、一瞬眉をひそめる。
言葉の裏にある真意を『読声』で読み取ったのだ。
「……させるかっ!」
自分の中で考えをまとめると、ガクウは凄まじい勢いで空へと飛び出す。
「は?」
ジャグーダはそれを見て、目を丸くした。
それは当たり前のことだったのだが、彼が驚いたのは速度だ。
その速度は一人で出せるものではなく、まるでベルゼフォンが飛んでいるかのような錯覚さえする。
ガクウが上空に飛び出したのと、月が破壊の極光が放たれたのは同時だった。
極光とガクウがぶつかり、空が再び大きく震えた。
そう、ガクウは空で極光を受け止めたのだ。
極光を撃ちこまれたガクウが、光の速度で地面に墜落する。
崩れた町の中心に衝撃が走り、大きなクレーターが生まれた。
「ガクウーッ!」
ジャグーダは弟の名前を叫びながら、一目散にクレーターの中心に走り出す。
「まだゲームの途中だぞ!」
だがそのすぐ横から、Ch.1が光線を放つ構えを取る。
「――――違う! これは戦争だ!」
クレーターの中心から、凄まじい勢いで何かが飛び出す。
その何かは、聖剣をCh.1に突き刺した。
「……何だそれは!?」
刺されたCh.1は、それを見て疑問を叩きつける。
その声は確かにガクウの物だ。
しかしその姿は、竜の鱗を鎧の様に纏う人型の何かだった。
「……友達が、最期に託してくれたものだ!」
竜の力を身にまとったガクウは、Ch.1を蹴り飛ばし聖剣を引き抜く。
「もうお前には、死に戻ることさえ許されない! 永遠に死に続けろ……!」
宝かに声を張り上げると、ガクウは聖剣を構えた。
その場に満ちているマナが、全て聖剣に収束し、この星で最もまばゆい輝きを放つ。
――――勇者ジオーグの聖剣には、世界で一番の力が秘められている。
それが今、解放されようとしていた。
これは明らかにマズいと、すぐさま逃げ出そうとするCh.1。
しかし、隠れ潜んでいたジャグーダが、Ch.1の足を切り裂き、闇の中に溶けるように消えていった。
自己再生は可能だった。彼からすればあまりに容易い。
だが、それが完了する頃には、ガクウの準備も整っていた。
「――――《託された希望の聖剣》!」
聖剣の名を高らかに挙げながら、Ch.1へと振り落とした。
攻撃的に活性化したマナの奔流が溢れだし、Ch.1を呑み込む。
必死で足掻こうとするCh.1だったが、すぐに馬鹿らしくなってやめてしまう。
(……まあいいか。セーブしてあるし)
だが、Ch.1は気付かなかった。
もう自分が、魂ごと消されてしまっていることに。
それを、ガクウは憐れむ様に見届けた。
マナの奔流が収まり、聖剣を鞘に納めるガクウ。
彼が知覚する限りでは、もう『チーター』はいないようだった。
それを確認すると、鎧の様になっていた竜の鱗は消え、ズボンしか履いていないガクウが姿を現す。
竜の心臓から生まれるオドを初めて使ったガクウ。
土壇場に魔法の効かない竜の鱗を形成し全身に纏ったが、まさか無傷だとは夢にも思っていなかった。
「聖剣ティルナディアカリバー。魂ごと切り裂くことを可能とする、勇者ジオーグの切り札。……それを知らなかったのが、アイツの敗因だな。魂が無くなっちまえば、意識もぶっ飛んじまうからな」
静けさを取り戻した町の中で、ジャグーダはガクウの隣に立ちながら呟く。
「まだ泣くんじゃないぞ。新たなる戦争は始まったばかりだ」
ガクウに気を抜くなと忠告するジャグーダ。
その言葉に、ガクウは静かに頷いた。
「でも、ちょっと言いたいことがあるんだ」
ガクウはそう言うと、崩れた瓦礫の中で、一番高い場所に立つ。
そして、聖剣を天に掲げた。
「――――みんなー! 仇は取ったぞー! 生きてる皆は、俺が守ることを誓う! だから、安心して眠ってくれー!」
死ぬことでしか出会えない人々に、ガクウはひとまずの勝利を高らかに伝え、そして誓う。
ジャグーダは何も言わず、それをただ静かに見守った。
この声が天にまで届きますように、と。




