第11話 聖剣が選んだ者
Ch.1は、ボンジャーグとジャグーダの想定を完全に上回る動きをしていた。
相も変わらずオドやマナを使わずに炎や光線などを操ってくるが、Ch.1の真の脅威はそこではない。
ボンジャーグとジャグーダの動きを、完全に熟知しているのだ。
まるで、何年も打ち合ってきたかのように。
「お前さん、時を巻き戻しているな?」
ボンジャーグは雨雲を作り、雨と雷をCh.1に降り注がせながら問いかける。
降り注ぐ攻撃を慣れたように避け、ジャグーダが飛ばす闇の斬撃を切り落としながらCh.1は口を開いた。
「御名答」
Ch.1が手をかざすと、世界が氷結する。
ボンジャーグとジャグーダは、辺り一面を炎で燃やしそれに拮抗した。
「お前達は俺を、七万六千八百五十六回も殺した。誇っていいぞ」
そう言いながら、Ch.1は閃光弾を作り出し炸裂させる。
光属性の魔法で咄嗟に視界を確保するボンジャーグとジャグーダだったが、Ch.1の姿を見失ってしまった。
「だが、決して許さん」
ボンジャーグの背後から、Ch.1の声がした。
振り向きながら剣を振り、背後にいるものを切り裂くボンジャーグ。
だがCh.1の剣も素早く、斬られると同時に一太刀を打ち込まれてしまう。
互いに致命傷を抱えながらも、眼前の敵を倒そうと見据える。
「……マスター・ボンジャーグ? 一体、何故?」
しかし、ボンジャーグの目の前にいるのは、斬りつけられたジャグーダが困惑している姿だった。
思わず剣を握る手が緩み、義理の息子を手にかけてしまったことに一瞬茫然としてしまう。
それも一瞬の事で、ボンジャーグはすぐさま辺りを見回す。
だがその一瞬は、この戦場において致命的だった。
「《最愛の者に殺意を》。お前達の認識を、狂わせた」
二人の横ですぐ横であざ笑い、笑み浮かべながら業火を放つCh.1。
業火は二人を包み、決して逃がすことは無いよう天高くまで柱を作り出す。
十分焼き尽くしたと確認すると、Ch.1は業火を払う。
だが二人の焼死体どころか、姿形すらそこにはなかった。
辺りを調べると、二人の生命反応は近くには無くなっている。
確かに業火の中に二人を取り込んだはずだった。
しかし、あれが幻覚の類だとすれば?
「……やり返されたか」
Ch.1は、すぐさま二人を見つける為探索し始めた。
◇
「……おい、ジャグーダ。しっかりしろ」
ジャグーダを担ぎ声をかけながら、ボンジャーグは崩れた建物の物陰に隠れる。
腹が切り裂かれたジャグーダ物陰に座り、手を上げ意識があることを意思表示する。
喋る余裕は無さそうだったが、治癒魔法で何とかふさげそうだった。
対してボンジャーグは、ジャグーダに心臓を中心に体を切り裂かれている。
今までは何とか血流を操作して何とか活動していたが、他の臓器にまであまり手が届かなかった。
治療魔法を自分に施そうにも、ジャグーダの繰り出す闇の斬撃には、肉体組織の働きを鎮静化する効果がある。
いくらかけても、自分一人ではどうにもできそうになかった。
今生きているのが不思議なほどの一撃に、息子の成長を感じて笑みを浮かべてしまう。
「おい、ジャグーダ……」
ジャグーダに声をかけながら、隣に座る。
そうして、両手でジャグーダの手を優しく握った。
「……何だよ。気持ち悪い」
精一杯悪態を突くジャグーダだったが、いつもの元気さは無かった。
自分を治療するのに、相当体力を使っているようだった。
「……俺の全てを託す。受け取ってくれ」
そう言いながらボンジャーグは手を取り、自分のオドをジャグーダに注ぎ込む。
戦場では死にかけた戦士が、自分の余力を味方に託すことが稀にあった。
全てのオドを生きている戦士に流し込むことによって、その者の身体能力やマナを相乗的に上昇させることが可能となるのだ。
戦士はこれを、『別離の儀』と呼んだ。
「……オイ、やめろ。何やってんだ。まるで死ぬみたいじゃねーか」
手を振りほどこうとするジャグーダだったが、ボンジャーグの手は力強くそれを許さない。
「やめろっつってんだろ! なあ!! やめろォ!!」
震えた声を懸命に張り上げるジャグーダ。
そんなジャグーダの頭を抱き寄せ、ボンジャーグは優しく撫でた。
泣いている子供をあやすように。
お前なら、きっと大丈夫だと。
「……親父」
ジャグーダが父の顔を見上げると、安らかに眠っていた。
もうその手からはマナは流れ込んでこず、熱が引いていくのを体で感じる。
「……行って来るよ」
ボンジャーグの身体を横にして、ボンジャーグは立ち上がった。
マナを注がれたことで治癒魔法での回復速度も向上し、傷も完全にふさがっている。
ここで立ち止まる理由は、もうない。
ふと、何かが近づいてくるのを感じ聖剣の眠る山の頂を見る。
ジャグーダの視界に、信じられないものが映った。
台座に刺さっていた筈の聖剣が、光を放ちながらこの町に飛んでくるのが見えたのだ。
「――――俺に答えてくれるのか! 聖剣!」
頬を緩ませ、聖剣へと手を伸ばす。
だが、聖剣はジャグーダの頭上を無情にも通り過ぎた。
「……は?」
ジャグーダは大きく口を開けて、聖剣がどこへ向かったのか目で追ってしまう。
視力を魔法で強化し、町の入り口まで見渡した。
そこには、上半身全裸のガクウが聖剣を手にしているのが見える。
真っ白な肌を晒しているガクウは、不思議そうに自分の手に収まった聖剣を凝視していた。
「――――なんで、なんでお前なんだよ!!」
それを目撃したジャグーダは、思わず声を張り上げてしまう。
「俺は力を望んでいる! そいつは望んじゃいない! なのになんで俺じゃないんだ! なぜガクウを選んだ!! ――――答えろ聖剣!!」
声はむなしく、崩れた町の中に響き渡る。
「声を張り上げるとは愚かな」
背後からCh.1の声が聞こえた。
すぐさま剣を構えるジャグーダだったが、すぐさま考え直し視力を強化していた魔法を解く。
そこにはCh.1ではなく、聖剣を握るガクウの姿があった。
どうやら、視力を強化する魔術を使うと、Ch.1に五感を狂わせられてしまうようだとジャグーダは分析する。
こういう時こそ、冷静に対処しなければならない。
ボンジャーグの教えを思い出しながら、ジャグーダは辺りを見回す。
「やるぞガクウ」
言葉に伝えたい真意を込めて、ジャグーダはガクウに話しかけた。
『|読声』を持つガクウは、それで伝えたいことが全て頭の中に流れ込んでくる。
敵が使ってくる攻撃の情報の数々や、卑劣の罠でボンジャーグが死んでしまったこと。
そして、父を殺してしまったという無念が、しっかりとガクウには伝わった。
「……ああ、兄ちゃん」
ガクウはそれに頷いて、光線をあられもない方向へ放つ。
空間が歪んだかと思えば、Ch.1がそこから姿を現した。
見つけられたことにCh.1は舌打ちをしながら、二人に迷わず襲い掛かる。
「「――――敵討ちだ!」」
ガクウとジャグーダは声を揃え、Ch.1に剣を構えた。




