未来可、おかえりなさい!
アンブレラが、再びマントへと姿を変えました。
空間を駆け抜けた衣桜のおかげで、再びジュナはアンブレラのマントをまとうことができました。変身は解いており、既に未来可の姿ではありません。イタクが憑依し、紫色の虹彩を対の瞳に宿らせるジュナは、V-ライガーの座席に座り、衣桜の後ろについたところでした。
(ジュナ様。準備はいかがですか?)
(うん。もう大丈夫)
空間へ浮かび続ける肉体を正面に見やりながら、ジュナがアンブレラの声に応えました。
衣桜はスロットルを絞り、V-ライガーは今にも走りだせる程の力を蓄えながら静止し続けます。未だ白く染まったままの空間は、まったく変わる様子がありません。
(衣桜。OKだよ)
ぽんぽんと、ジュナが衣桜の背に合図を送りました。
触れられた衣桜は、返事をする代わりにガォンとバイクを咆哮させました。
(では、いきましょう。ジュナ。これが最後の仕上げです)
(うん! イタクさん!)
イタクの声に頷いたジュナは、フィリカから受け取ったブレスレットをはめている腕を、そっと伸ばしました。
腕の向こうには、鏡から出た肉体。
(ブレスレット! 行って!)
ジュナが強く念じると、ブレスレットはパッと光り輝きました。
そして、一瞬の閃光。走り抜けた先には、力のない右手首。ブレスレットは無事に移りました。
(ジュナ。最後です。未来可のことを想いながら、唱えてください)
(うん)
ジュナは瞳をつぶり、胸の前で両手を合わせ、祈るように精神を集中させます。
(未来可。ミラカ。みらか――――)
セーラー服に身を包んだ少女。詩惟花と似た、どこか掴めない少女の姿。
確かに触れ合った時間を呼び起こしながら、ジュナは願いを込めます。
(会いたい。未来可。もう一度、お話がしたいの)
得体の知れない、コートに身を包んだ変身後の未来可。
詩惟花のことを一番に考える、姉としての未来可。
魔女としての未来可。
ひとりの存在としての、未来可。
(いないままなんて、いやだよ。だから、お願い)
たとえ、本来存在しないのだとしても。
いない今の方が、正しいのだとしても。
(声を。視線を。足音を――――)
ジュナの祈りに合わせて、ブレスレットが輝きを増します。
それは、衣桜に直視を許さないほど強くなりました。
輝きは星のように、白く、優しく、そして次第に大きくなり――――。
(集え。未来の可能性――――!)
衣桜が、ジュナさえも包み込むほどに。
生まれいずる時は、今。
(ハッピーバースデイ! 未来可!)
「――――ぅん?」
心音に呼応するよう身体を震わせた後、未来可はそっと、瞼を広げました。
気がついた彼女は、黒髪を揺らしながら、眠たげに瞳を瞬かせます。
「あ、起きた? 未来可」
「……。ジュ、ナ?」
「うん。そうだよ! わかる? わたしのこと」
泣きそうになりながら、それでも我慢して笑顔を見せるジュナを、未来可は不思議そうに見つめます。
「わかる、よ。とうぜん、とうぜん。だってわたし、ずっと、そばで見てたから……」
風が吹き抜けました。草木を揺らし、大樹の傍らを通り抜けて、地平線へと走っていきます。
未来可を覗き込むように見つめるジュナの向こう側には、明るい月がほんのりと笑っていました。夜空には星がいくつも散らばり、小さな雲に隠れながらもキラキラと明かりを灯しています。
「そうかぁ。わたしは、また、話せるんだぁ……」
「そう。そうだよ。ごめんね。未来可。今まで、忘れちゃってて、ごめんね……」
「ばかだなぁ。ジュナが泣くこと、ないじゃんね……」
髪を項垂らせながら呟くジュナの頬を、未来可は持ち上げた指でそっと拭いました。
涙は、ジュナの頬から未来可の指に移り、そして風によって運ばれていきます。
「もともといない存在なんだって。可能性が象っただけなんだって」
「それでも、未来可は未来可だもん」
涙を拭ってくれた手を、ジュナはそっと両手で、しかし力強く抱き締めました。
温かさが、ありました。確かに血の通う、そこに存在していることの、なによりの証明。
「おかえり。未来可ぁ……」
「ただいま。ジュナ」
未来可はそう言って、ふと瞼を閉じ、幸せそうに微笑みました。
そんな様子を、周囲に立つ各々は、静かに、静かに、優しく、見守り続けていました。




