ジュナとネコさん。おタマさん!
「来たわね」
夜の空に手を広げる大木を、ジュナが見つめていると。
不意に声が響きました。
「だれ?」
草の葉を揺らして吹き抜ける風に頬をくすぐられながら、ジュナは辺りをきょろきょろ。
しかし周囲には衣桜がいるだけで、他に声をかけてくる人物は見当たりません。
「アンブレラ、いま……」
「はい。たしかに声が聞こえました」
アンブレラはジュナの肩にとまると、瞳を閉じて意識を集中させました。
「どこから……」
「ここよ。異世界から来た吸血鬼のお嬢さん」
「ジュナ様っ。うえです!」
「うえ?」
聴覚により居場所を突き止めたアンブレラの指示にならい、ジュナが天を見上げます。
太い幹がのびのびと繁り、夜空を隠す無数の葉。
しかしジュナが瞳に力を込めて注視すると、暗闇に紛れて姿を隠す声の正体に気づきました。
「あっ! ねこっ!」
「ふふふ。ご名答ね」
猫はそう呟くと、軽やかに身を宙に任せ、そして地面に着地しました。
「さすが吸血鬼。夜目が効くのね」
「あ、あなたは……?」
「よっ。おタマさん」
「衣桜。お使いご苦労様」
戸惑うジュナの後ろから、気心知れた様子で衣桜が猫に声をかけました。
対する猫も、衣桜のことを知っているようです。
長くて、気品に溢れた尻尾がゆらりと揺れました。全身黒ずくめの猫は柔らかい土の上に座ると、黄色いふたつの瞳でジュナを見上げました。
「あなたが木由良戸 ジュナね。話は聞いているわ。邪神と仲良くなって、この世界を救ってくれたそうね」
「は。ええ……?」
「ダメだよおタマさん。ジュナはまだ記憶をなくしてるんだから」
「ああ、そうだったわね。ごめんなさいね、ジュナ」
「い、いえ」
なんのことかさっぱりなジュナは、胸の前で両手をふりふりおタマさんの言葉に応えます。
そんなジュナを見るおタマさんは、瞳を細めて微笑んでいるように見えました。
(な、なんの話かわかんないよぅ……!)
(ジュナ様ジュナ様。落ち着いてください)
「そうよ。なにも焦ることなんてないわ」
「ひぇっ! また念話がっ!?」
「記憶をなくしたのはあなたのせいじゃないもの。大丈夫。すぐにわかるわ」
~『ジュナの愉快な次回予告!?』 ~
おタマさん:「木由良戸 ジュナ。キウラド。ラ。キュラ……。ふふ。いい名前ね」
ジュナ:「あ、ありがとうございます?」
おタマさん:「ところで吸血鬼の力を使うと、瞳の赤が濃くなるのね?」
ジュナ:「え、えっと。一応吸血鬼なので。えへへ」




