ジュナ、じゆうな! 翼をゲット! 輪廻を超えた結果です!
「んむむむむむむむ……!」
とある暗い地下室で、ゆらゆら揺らめく松明の灯りに見守られながら、女の子が身体に力を入れていました。
両手はグー。瞳をギュッと閉じ、わなわなと震える様子は地面に顔を出そうと頑張る新芽のよう。
「そうよジュナ。もうひといき」
「むななななななななななな!」
傍らで腕を組み、悠然と様子を見守るジュリアが励ますように声をかけました。
ジュナは最後の力を振り絞るように気合いを入れます。
「んありゃあああ!!!」
そして、パッと。
もうどうにでもなれと言わんばかりに両腕を天へ突き上げると、ジュナの背中からは黒い翼がぶわっ! と飛び出て広がりました。
「うあっ!? あっ! できたっ! つばさだぁ! やったぁぁぁ!」
まるで蝙蝠の翼のよう。
出てきたばかりで上手く動かせもしませんが、腕よりも長く左右に伸びる羽を見たジュナはとても喜びました。
「やりました! おめでとうございます、ジュナ様!」
「えへへ~! やったよアンブレラ!」
その周囲を、興奮気味な従者がパタパタと旋回。祝福の言葉がジュナに降り注ぎます。
ジュナは思わずVサイン。確かな成長の証である翼を見れば、もう誰もジュナを「見習い」『見習い』だとは言わないでしょう。
「おめでとう。ジュナ」
「おかあさん! どう!? 出てきたよ~!?」
「そうね。立派な翼だわ。身体が成長してきたのね」
しかし、ただ一人を除いては。
「この調子で、呪文の課題もクリアして欲しいわ」
「うっ……! せっかくの喜びに水差し!」
「だって。呪文のひとつも唱えられないまま飛べても……。ねぇ?」
ジュリアがアンブレラに同意を求めますが、困ったアンブレラは控えめにパタパタ。
「うぬぬぬぬぬ~! おかあさんのけちんぼー!」
「とはいえジュナ様。今夜こそはできるのではないですか? チャレンジなさってみては」
「んー。そうだねぇ。翼も生えたことだし、いっちょやってみようかな!」
「その意気です! ジュナ様!」
言うとアンブレラは、ジュナが集中できるように部屋の隅へ飛んでいきました。
翼を広げたままのジュナは、今度は両手を胸の前で組み、祈るように瞳を閉じて詠唱を開始しました。
「ナルキニ ナルキニ イコノトヒ……」
ゆっくりと唱えられる呪文に、以前の躓きを乗り越えたことを知ったジュリアは静かに一度頷きました。
(ようやく言えるようになるのね……)
(ジュリア様?)
(時が繰り返される間にもずっと教えてきたけど、あの子自身が勝ち取った未来で、こうして結実すると思うと感慨深いわ)
ジュリアの差し出した右手の甲にアンブレラが留まり、羽を休めます。
(ジュリア様は、あのループの件をご存じだったのですか?)
(もちろん。子供のすることだからギリギリまで様子を見ているつもりだったけど)
(……。あの、ひとつ質問が)
(なに? アンブレラ)
(ということは、あの何百万回と繰り返された時のことを、すべて覚えているのですか?)
ノタナア、とジュナが呟き終わる瞬間、ジュリアはアンブレラに向かってウィンクをしました。
(永久の時を生きるのだから。忘れることもお手のものよ)
(ははぁ。さすがは、偉大なる吸血鬼……)
(おかげで、優作やジュナとも、ながい時間を過ごせたわ)
「コナキス レーア ダ!」
カッ! とジュナが輝きました。
「あら」
「ジュナ様……!」
「……………………。で、できたぁぁぁぁぁ!!!!!」
そして、部屋の中央に現れる女性。
いつかの時よりも、少しだけ大人びた姿。
吸血鬼としての身体に完全変身したジュナが、喜びいっぱいにぴょんぴょんとジャンプを繰り返していました。




