ジュナ、バイバイ! でも変わらず騒がしい日々!
朝昼輝く太陽が、地平線へと沈む頃。
夕焼け小焼けの濃いオレンジが、夜を招いて闇に染まります。
住宅街の、とある道路。ブロック塀に挟まれた、街灯灯る、とある道。
危ないぞぉ。夕暮れ深まる逢魔が時は、なにと出会うかわからない。
自然が遠のき、機械が満ちる、距離の縮まるこの時代。
最先端の今この時にも、もしかしたら、いるかもしれない。
妖怪。魔女。時空の管理者。
そう。それはまさに、帰路を歩む彼の後ろから――――。
「がおおおおおお!」
「なーにやってんだ。お前」
あらら。渾身のおどかしは失敗の様子。
元気に小さい手を広げ、牙をむいた女の子は、タカハルの反応にピタリと止まってしまいました。
「バレバレなんだよ。毎度毎度飽きないのかよ」
「ぬぬぬっ……! ぬななぬな! 今日こそはいけると思ったのに―!」
呆れた様子で話すタカハルに、ジュナは地団駄を踏みました。
「くやしいくやしいくやしいくやしい! くやしいー!」
「ジュ、ジュナちゃん。落ち着いて……!」
「詩惟花の言う通りだ。見苦しいぞ」
「残念だったねジュナちゃん~」
「むぅーん! ルラァ―! 未来可も黙ってて!」
ジュナと同じく草むらに隠れていた詩惟花が、たまらず飛び出してジュナをなだめます。
しかしタカハルの隣を歩いていた未来可とルラァ―が慈悲も無くジュナをけちょんけちょん。
ジュナは思わず叫ぶと、パッと夕陽の待つ背に振り返りました。
「明日こそ! 明日こそはぜーったいタカハルを驚かせてみせるんだから!」
なんとも残念な、吸血鬼。
いえ違いました。正しくは、吸血鬼『見習い』。
吸血鬼である母親と、人間の父親を両親に持つ半妖怪の女の子。
「明日覚えてろよタカハル!」
「もう忘れた!」
「んなろぉー!」
変化の魔法はようやく覚えましたが、『好きな人の心を奪う』課題は継続中。
まだまだジュナが『吸血鬼』を名乗るには時間が必要なようです。
「くやしいー!! こうなったら変身をみせてやろうか……!」
(い、いけませんジュナ様! 自暴自棄には早すぎます!)
(わ、わかってるよアンブレラ! 言ってみただけだし!)
ランドセルの革紐をギュッと握り締めたジュナは、遥か上空にいるアンブレラへ返事をしました。
「いこっ! 詩惟花ちゃん! 撤退だー!」
「う、うんっ! ジュナちゃん!」
詩惟花の手を引いたジュナが、燃える地平線へと駆け始めます。
しかしそこに、ひとつの影が勢いよくよぎりました。
「うぉっと!?」
「わひゃああああ! なになに!?」
「なんだジュナじゃねーか。あぶねーな」
「い、衣桜!」
ドッ、ドッ、ドッ、と唸りを上げるバイクを停めた少女が、揃えた二本指でキザな挨拶。
乗っていたのは、異世界の少女、衣桜でした。
「ど、どうしたの?」
「いやなに。世界を救ってくれたお礼を言いたいって、きかなくてさ」
「誰が?」
「ボクが!」
言うと、衣桜の後ろに座っていた誰かが、ぴょん! と華麗にジャンプしました。
そのまま宙を一回転。そしてストンと降り立ったオーバーオール姿の女の子。
「じゃじゃーん! 聞いて驚け見て騒げ! ネコ娘の音猫だぞぉー!」
「えっ!? あっ! 頭にネコミミ!」
「そうそう。イタズラで男の子に耳を生やしたのにいつのまにか消されちゃって」
「あ、あれあなたのせいなのー!?」
くっくっく! と可笑しそうに身体を揺らして笑う少女へ、ジュナが思わずツッコミ。
「まぁまぁ。いいじゃないジュナ! これでようやくめでたしめでたしなんでしょ?」
「え。う、うん。まぁ、そうなのかな?」
「ジュナちゃん。わたしを見られても困るよぉ」
「というわけで! 以前中止された野球大会を、キミを加えてもう一度やり直したくってね!」
「え、えー!? なにそれぇ!」
「大丈夫大丈夫! サクもいるし、フィリカもいるから! さ、急いで一緒にくるんだ!」
「ちょ、ちょっと待って! 音猫ちゃーん!?」
はてさて、どうなることでしょう。
どうやらジュナのこれからも、今までと同じくらい騒がしくなりそうです。
「ジュ、ジュナ様ぁー!?」
「アンブレラ! なんだか大変なことになっちゃったよー!」
いえ、もしかしたら今まで以上かも?
「ジュナ! どうしたんだ!」
「ジュナちゃん!?」
「ルラァー! 未来可も! 助けてぇ―!」
「ジュナ! うっ!?」
「タカハル!?」
「…………。ジュナ、待ってて。いま助けるから」
「ゆ、結だぁー!? 変身したぁー!」
飛びかかるようにジュナを助けようとみんなが手を伸ばす瞬間、衣桜の目の前が白く世界を開きました。
「じゃあ、行くぜ!」
「ちょ、ちょっと……。うああー! もうどうにでもなれー!!!」
ジュナの叫び声が、夜の空に響きます。
一番星につられて輝き始めた星たちの中。
様子を見に来ていたジュリアがやれやれとばかりに微笑んで、ジュナの行く末を見守っていました。




