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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第三章 順位戦編
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第三十六話 話し合い

 ダンボールを抱えて少年は小走りに部屋へと入っていく。


「やっとだ…やっと…」


 嬉しそうに呟きダンボールを広げる。その目はとてもキラキラしており、ダンボールの中身をとても待ち望んでいたのだと一目で分かる。


 少し長めの髪に小柄な体躯、男の子にしては高めの声、そして美人の姉に似て綺麗な顔。そんな外見を持つ彼は男の子にはとてもじゃないが見えないが、れっきとした男の子だ。


 そんな外見を持つ少年は歓喜していた。


 ダンボールに入った未開封の衣服を取り出し広げる。その服は黒をベースとした色に青が少し入っているブレザーとズボン。どうやら、学校の制服らしい。


 それを見て満足げに頷くと少年は感極まったのか大きな声出言った。


「やっと男子用の制服届いた~!」


 そう、少年、柊綴が待ちに待った男子用制服が届いたのだ。


 よほど嬉しかったのか制服を抱きしめる綴。


「はあ~、待ってたよ~制服~。これで、ようやくこそこそと移動しなくてすむよ。トイレに入るにもこそこそしなくてすむし、移動教室の時に周りの先輩や他のクラスの連中にもいぶかしげな視線を向けられることもなくなるだろうし、町の人にも変な目で見られなくてすむし。うぅ~、こそこそしなくてすむよー!ヤッホー!」


 早口で独り言をまくし立てる綴。よほどこそこそしていたのかやけにこそこそという単語が多い。喜びの余り制服を抱きしめたまま部屋をゴロゴロと転がる。


 しばらくゴロゴロ転がっているとテーブルの足に勢い良く頭をぶつけて頭を押さえて丸まってしまう。


「いった~、調子に乗りすぎた…」


 ようやっと興奮が冷め体を起こす。すると、ドアが少し開いているのに気づき、隙間から覗いてる人物に気づく。


「あ」


「…」


 覗いていた人物は綴と目が合うと声を上げた後、気まずそうに目をそらす。す数秒の後ドアを開いて部屋には行ってくる。


「おはよう綴くん。その~楽しんでるところゴメンね?」


 覗いていた人物、霞のその台詞を受け綴は今朝起きた後も挨拶したじゃんと思いながら、そして結果を半ば諦めつつも聞いてみる。


「おはようねえさん。因みに聞くけどどこから?」


 要約して言ってしまったが霞には伝わっていたらしく間を空けずに答えが返ってくる。


「最初から?」


 そう返ってくるや否や綴は顔を赤面させ両手で覆うと呟いた。


「自分の部屋でやればよかった…」


 綴がダンボールを開けたのは自分の部屋ではなくリビングだ。最初は部屋で開けようかと思ったのだが早く確認したかったのでリビングで開けることにしたのだ。


 綴はさっきの奇行はどうあっても止められなかったと判断して部屋で開ければよかったと思ったのだった。


 独り言のつもりだったがそれをばっちり聞いていた霞は、


「あ、あはは…」


 乾いた笑いで答えることしかできなかった。



 しばらくして綴は立ち直った。


「…さっきのは忘れて…」


 まだ、恥ずかしいのか軽く赤面はしていたが、それを言うほど霞は嫌な奴では無いので黙っていた。


「分かったわ。でも、嬉しかったんだからしょうがないと思うわよ?」


「言ったそばから触れないでよ!」


「あら、ごめんなさい」


 早速傷口を抉ろうとする霞に、綴は霞は天然だからと言い聞かせる。


 小さくため息をはくと、綴は制服をダンボールに閉まって二階の自室に置いてきた。


 リビングに戻りソファーに寝転がる。何となく時計をみる。時刻は午前九時半を少し回ったところだ。


 今日は土曜日なので朝からまったりしている。さっきは心が舞ったりしていたが、今は普通にまったりしている。別にうまいこと言ったとは思ってない。でも、ちょっとうまかったんじゃないかと思う。


 テレビを付けて見ていると緋日が降りてきた。日課のトレーニングを終えた後自室でまったりしていたらしい。


「さっき騒いでたみたいだけど何かあった?」


「何にもないよ~?」


 あからさまに目をそらして答える綴を訝しみながらも緋日は「そう」とだけ答え綴の対面のソファーに座った。


 特に何をするわけでも無くお昼まで過ごした。


 いつもなら姉さんに稽古を付けて貰ったりするのだが今日は違う。今日は氷霞が家に来るのだ。


 実は昨日の家に『話し合いは明日にしましょう』とメールが来ていたのだ。そのため来たら直ぐにでも始められるように何もしていないのだ。


 一時近くになるとチャイムが鳴る。恐らく氷霞だろう。


「はいは~い、ちょっと待ってて~」


 そう言って玄関まで向かう。ドアを開けるとそこには案の定氷霞がいた。


 服装は昨日と違い私服だった。


「いらっしゃい氷霞」


「ええ、お邪魔するわ」


「取り敢えず僕の部屋まで行ってて」


「分かったわ」


 氷霞は過去に僕の家を訪れたことがあると言っていたので僕の部屋の場所は知っているだろう。


 リビングまで行って飲み物とコップ、お菓子を持って二階に上がる。


 部屋に入ると、氷霞が正座で待っていた。


「足崩しても平気だよ?」


「こっちの方が慣れてるから大丈夫よ」


「そう?」


 テーブルに飲み物などを置いて対面に座る。


 コップに飲み物を注ぎ氷霞の前に置く。


「それじゃあ、早速始めましょうか」


「そうだね」


「それで、何が聞きたいの?」


 少し考えてから綴は口を開く。


「まずは僕の能力の事かな?僕の能力に使用制限があるのか?とか、何らかの代償があるのか?とか、取り敢えず分かることを教えて欲しいかな。使えば使うほど命が削られますよってのだったら嫌だし」


「そうね…まずはあなたが何故能力が使えるのかを話した方がいいわね」


 そう言うと氷霞は話す前に飲み物で喉を湿らせる。


「あなたが能力を使えるのは、あなたのその左目が原因って事は大体察しが付いてるんでしょう?」


「うん。目にキスしたからそうなんじゃないかとは思ってたよ」


「あなたのその目は『人工魔力核コア』とでも言うべきかしらね」


「『人工魔力核』?」


「そう。その目がまだ私の体にあるときに私が魔法で作り上げた人工的な魔力核よ。あなたは普通の人間だったから魔力核が定着するまでに三年近くかかったのよ。あなたの魔力が急激に跳ね上がったのはその魔力核が原因。その跳ね上がった魔力に耐えられたのはあなたの体に完全に定着していたからよ。元々、少しだけ魔力が漏れ出ていて、その量を日に日に増やしていって徐々に徐々に体を強化させていった。だから耐えられた」


 なるほど、僕は三年近くかけて徐々に魔改造されていたのか。


「ただのコアだからあなたの命が削られますよってことは無いし使用制限も無いわ。まあ、魔力が尽きれば当然使えないけど」


「それを聞いて多少安心したよ」


 取り敢えずは自身の身に害が無いことが分かり一安心する綴。     


 力を使う度に命をすり減らしてたんじゃ碌に戦えないだろう。他の魔法も使えるが今一番火力があるのは言わずもがな氷魔法だ。その火力が碌に使えないんじゃ戦うときに役立たずになってしまう。皆の足手纏いは御免だ。


「それじゃあ、次は……僕の記憶のこと何だけど…」

 

「そうね…どんなところから聞きたいの?」


「なんで記憶が無いのか、なんで僕に目を渡したのか…とかかな?」


「…まず、記憶が無いのは、前にも言ったと思うけど姉様の魔法よ。それと、なんで目を渡したのかはあなたを…殺させないためよ」


「殺させない?死なせないじゃなくて?」


 綴の思い出した限りでは、あの状態、つまり、燃え盛るデパートの中では、僕は放っておけば死んでいただろう。だから、表現的には死なせないためと言うのがあってる。でも、氷霞は殺させないためと言った。つまり、あの場所に僕を殺す存在が居たと言うことだ。


「誰が…僕を殺そうと…?」


「それをあなたは今知るべきでは無いわ」


 思いの外強い言い方が返ってきて戸惑う。


「…理由は?」


「聞いたらあなたは身を守る術がないもの。『あの人』には…まだ適わない…」


「『あの人』?」


「何でも無いわ……今は、あなたの命を脅かす者が居ることを理解する。それだけにとどめておきなさい」


 話して渇いた喉を湿らせる氷霞を見て綴自身も喉が渇いていることを自覚し、喉を湿らせる。


「それで、他は?」


「…なんで、僕らの前から姿を消したの?」


「それは、あなたと私の関係を探られないためよ。記憶を消したのもそのためってのもあるわ」


 その他にも色々含むところはあるのだろうが、残念ながら綴はもうキャパシティオーバーだ。一気に色々と詰め込みすぎて少し頭がこんがらがっている。


 こんがらがったままでは碌な事を思いつけないし分かることも分からなくなる。


 なので、今まで話した内容を頭の中で整理する事にした。能力の理由や思い出せない記憶のこと。そして、何故自分の命が狙われたのか。誰に狙われているのか。狙っている人物は誰なのか。もう、狙われることはないのか。


 様々な疑問が頭を巡り、整理どころではなくなってしまった。


 取り合えずば聞けることは聞いておこう。 


「僕は、もう狙われることはないの?その、氷霞の言う『あの人』に…」


 氷霞は難しそうな顔をすると答える。


「…それは…正直、分からないわ。全ては『あの人』の匙加減で決まるから…」


「…そう…なんだ…」


 自分が狙われているならどうするべきか……答は決まってる。


「それじゃあ、強くならないとね…」


「え?」


「誰にも負けないくらい、強く。誰も泣かせないために、強く。後悔しないように…強く」


 自分の手のひらを見つめながら呟き視線を氷霞に向ける。


「取り敢えず、今後の進路は決まった!強くなる!守りたい人を守れるように、強く!…そのためには日々鍛錬、日々努力!よっし、頑張るぞー!おーっ!」


 勢いよく拳を上に突き上げる。綴の突然の行動に目を丸くする氷霞。


 綴は何となくだけど目標が見えた。


 今までは、ただ、皆を守れるくらいになりたいと思っていたけどそれじゃあ足りない。守りだけでは敵は倒せない。また、次から次へとやってくる敵に守り続けるだけじゃきりがない。


 それに、氷霞の言う『あの人』を倒さない限り終われない。何故だか、そんな気がする。


 だから、倒す術を身に付ける。昨日みたいな拘束系の魔法じゃなくて攻撃系の魔法も考えないと。


「氷霞、改めてお願いする」


「何?」    

 

「僕を強くして欲しい。そのためには、君みたいな圧倒的な攻撃力と圧倒的な防御力が必要なんだ。だから、お願い」


 頭を下げる綴に氷霞は言う。


「頼まれるまでもなく、力を植え付けた時からそのつもりよ」


「ありがとう、氷霞!」


 顔を上げてお礼を言う綴。それに、微笑みをもって返す氷霞。だが、氷霞の心は笑みとは裏腹に、曇っていた。


 人工的とはいえ魔力核を体に植え付けると言うことは、体が妖魔に近づく(・・・・・・)と言うことだ。しかも、六武神たる氷霞の作り上げた魔力核だ。そこら辺の妖魔の核とは文字道理、格が違うと言えるだろう。


 もし、綴の目が人工の魔力核だと分かればそれを奪おうとする輩は相応にして現れることだろう。マクスウェルがそうであるように。


 そうしたときにいつも氷霞が守れるわけでもない。しかも、今の氷霞は本領を発揮出来ない。いくら魔剣があろうとも他の六武神はおろか、桐生にだって勝ち目はないかもしれない。


 それだけ、綴と氷霞は危ない橋を渡っている。


 一寸先は闇で直ぐ後ろは落ちればそこは全てを飲み込む奈落の穴。


 氷霞はその危険性を説明するかどうか迷っていた。本当ならば危険を教えた上で今後の方針を決めた方が良い。だが、綴がそれを聞いてもなお闇を歩き続けるか、それとも、奈落の穴に落ちるか。氷霞にはそれが分からなかった。

 

 氷霞としては一緒に闇を歩く覚悟だった。だが、綴が違っていたらどうしよう。綴に嫌われたくは無い。


「どうしたの、氷霞?」


 そんな思想が顔に出ていたのか綴が心配そうな顔で見つめていた。


「なんでも…」


 何でも無いと言い掛けた氷霞の言葉が止まる。綴が氷霞の手に自らの手を置いて悲しげな目をしていたからだ。


「何かあるなら、話して欲しいな。氷霞一人で背負い込まないで、僕にも話して欲しい…何があっても、僕は氷霞の味方だから…」


「綴…」


 なぜだか分からないが綴の最後の一言で迷っていた自分が消えた。氷霞は覚悟を決め、心の内を明かした。


 全部話したら綴はどうするのだろう?そんな不安を抱えつつも全てを話す。話を全て聞き終えた綴は少し難しい顔をするが、直ぐに決然とした表情で言った。


「僕は誰かを守る力の代償が人間を捨てることでも構わない。人間を捨てても、人間らしさ(・・・・・)が残ってたら皆は、僕を仲間と…友人と受け入れてくれると思うんだ。根拠はないけどね。だから、これからも背負い込まないで今みたいに話して欲しい」


「…分かったわ。あなたを信じるわ」


「ありがとう。…それと、ね」


「なに?」


「どんな敵が来ても君がいれば僕は負けない…そんな気もするんだ。根拠は、やっぱり無いけどね」


 そう言って照れくさそうにはにかむ綴を見て氷霞に方も照れくさそうに微笑む。


 話し合いは二人の照れくさそうな笑顔で終わった。

 


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