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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第三十四話 拷問

 倒れて直ぐに氷霞は目を覚ました。時間にしては一分もかかってないが、引き延ばされた時間の中にいた氷霞には十分は経過しているような感覚であった。


「おい、大丈夫か?」


「ええ、大丈夫です。すみませんご迷惑おかけしました」


 起き上がると自分がソファーの上に寝かされていたことに気づいた。どうやら、わざわざソファーの上まで運んでくれたらしい。


 そのことに気づいて座り直しお礼を言う。


「わざわざここまで運んでいただいてありがとうございます」


「そんなことは別にいいんだが…本当に大丈夫かい?」


「はい、何ともありません。大丈夫です」


 氷霞がそう言っても真子はまだ心配そうな顔をしている。どうやら、真子は粗野な態度で振る舞っているが実は心配性なのだろう。見た目とは随分正反対な性格性格をしているものだと思う。


 まだ心配そうな顔をしていたが氷霞が大丈夫だと言うと話の続きを始めた。


「それで、どうする?今日は止めておくかい?」


「はい、少々所用が出来てしまいまして…後日日を改めさせて貰ってもかまいませんか?」


 所用とは勿論綴のことだ。綴に移植した自分の目を通して確認したことだが、どうやら綴のところにA級の妖魔が襲来したらしい。


 力を解放させたので負けることは無いと思うが念には念を入れて自分が向かった方がいいだろうと判断したのだ。


「こちらは構わないんだがね…準備は出来てるし、後必要なのはあんたのコアだけだしね」


「ありがとうございます。それでは」


「ちょ、ちょっと待ちな!」


 すぐさま出て行こうとする氷霞を慌てて真子が静止の声をかける。まだ何か言うことがあるのだろうかと真子を見る。


「あ~出て行くのは構わないんだがね……きちんと服を着てからにしなさい…」


「あっ…」


 真子に言われ自分の服装を確認すると、自分の格好に気づく。コアを取り出すために服を脱いでいたので、シャツのボタンが全て外れていて下着が見えてしまっている。


 自分が精神を飛ばす前にしていたことを忘れるくらいに自分は焦っていたのかと分かったと同時に、自分は今までこんな格好でかしこまった言葉で話していたのかと思うと恥ずかしさがこみ上げてきた。


 若干顔を赤くしながらも服装を整える。


「すいません。それでは、また」


「ああ、また来なね」


 小屋から出ると氷霞は山を滑るように降りていく。


 加速魔法を自身にかけながら降りると一分とかからずに下山する。勢いそのままに走るとすぐさま港が見えてくる。


 港には船はついて無い。これで自分が魔法を使っても見られる確率は格段に減るだろう。


 波止場まで走ると勢いを殺さずに思い切り地を蹴り跳躍する。


「《空中飛行エアフライト》」


 重力に引かれ落ちる前に飛行魔法をかける。その飛行魔法にも加速魔法をかけ速度を上げる。


 海に出ると方角が分からなくなるが氷霞にその心配はいらない。自分の左目を目印に飛べばいいのだ。体を離れていても自分の体の一部だからか場所が何となくだが分かるのだ。しかも綴が力を解放したからか今はその場所がいつもより正確に伝わってくる。


 魔力を惜しげもなく使いどんどんスピードを上げていく。


 氷霞には誰がオルトロスをけしかけたのか分かっていた。オルトロスには刻印が付いていた。その刻印は視界に入れるのも嫌なほど嫌いな奴の刻印だった。


「ミリアム・マクスウェルっ!」


 自分が最も愛する者を狙う害虫に激しい怒りを覚えぎりっと歯噛みをする。


 焦りと怒りから更にスピードを上げる。


 三十分ほど飛ぶと陸が見えてきた。それを確認するとスピードを緩め波止場に着地すると着地したその足で走り出す。


 魔力を感知されても面倒なので自身の脚力だけで走る。目立たないよう人通りのないところを選び走りつづける。


 走り続けること一時間と少しで綴の居場所に辿り着く。


 そこは病院だった。病院からは綴の魔力を感じることが出来る。


 病院に綴がいると言うことは戦いは決着したということだ。勝ったにせよ負けたにせよ病院にいると言うことは綴は生きているということになる。


 まあ、綴が生きている限り綴に移植した目とはパスが繋がった状態なので死んでないことは分かっていたのだが、頭で分かっていても実際に近くで感じるまでは安心は出来なかった。


「……はぁ~」


 緊張から解け張りつめていた息を吐く。何にせよ綴の無事を確認できたのは良かった。


 気が付けば荒くなっていて呼吸もついでに整えておく。


「…よし」


 氷霞は息を整えると病院の中へと入っていった。せっかく来たのだから綴に一目会おうと思ったのだ。


 院内に入ると受付に場所を聞いたりせずに綴のところまで向かう。場所は分かるので聞く必要はないのだ。


 綴の病室が近くなると今まで捉えられなかった魔力の反応を確認した。角を曲がったところにいる。


 場所的に綴の病室の前だ。ここまで自分が感知できなかったのだから相当手練れなのだろう。


 でも、なぜ綴の病室に…。


 そこまで考えると氷霞は自分が失念していたことに気づく。

 

 綴が氷霞の力を使えば軍が動かないわけ無い。監視するなり捕縛するなりと人員を配置して来るに違いないことは容易に考え付く。


 そんな、敵がいるところにのこのこと入っていった自分の迂闊さに自分で呆れてしまう。取りあえず出た方がいいだろう。


 そう思い綴に会うのは一端諦める。他にやらなければいけないこともあったのでそれを先にやると決め、病院を後にした。




 氷霞は夜の街を徘徊していた。勿論、何となくぶらぶらと夜の散歩をしているのではない。マクスウェルを捜しているのだ。


 マクスウェルは氷霞の大切な者に手を出した。その報いを受けさせるために捜しているのだ。


 微かに感じる魔力を頼りに街を歩く。街中を歩き回り夜も更けたころにやっと見つけた。


 気配を完全に消して背後から近づく。充分に近づくといきなり魔法を放つ。


「ーーーっ!?」


 マクスウェルも普通の退魔師相手だったらかわせただろう。だが、相手は氷霞だ。油断しているときにかわせるような甘い相手ではない。


 氷魔法がマクスウェルの四肢に当たる。当たった所から凍っていき四肢を完全に凍らせる。


 凍った四肢を鎖で吊り上げ正面を向かせるとすぐさま精製した氷剣でマクスウェルのコアを貫く。


「ぐあああああぁぁぁぁぁぁああああぁあああっ!!!!」


「五月蝿い…」


 そう言うと氷霞はマクスウェルの口を凍らせ声が出ないようにする。あまりの痛みに涙を流し苦しみ悶えるマクスウェル。


 マクスウェルに氷霞は底冷えするような声音で話しかける。


「私言ったわよね?綴に手を出したらただじゃおかないって…聞いてなかったの?」


 マクスウェルは未だ涙を流す双眸で氷霞を睨む。そして魔法を発動し攻撃を仕掛ける。


「させるとでも?」


 魔法が発動する前に氷霞が二本目の氷剣で二つ目のコアを貫こうとするもマクスウェルは体を揺らしてそれを何とか回避する。だが、それでも体には刺さっているので肉が裂かれる痛みがマクスウェルを襲う。


 痛みでマクスウェルは発動しかけてた魔法を霧散させてしまう。


「おイタをするのはこの手かしら?」


 そう言うと氷霞は剣を二本精製しマクスウェルの両の腕を貫く。  


 貫くと同時に凍ったマクスウェルの腕が砕ける。それにより、またくぐもった絶叫をあげるマクスウェル。


 腕が砕けたため絡めていた鎖が解けてしまったので逃げられないように身体に鎖を巻き付けて吊す。


「彼に近寄る悪い足はこれかしら?」


 そしてまた、剣を二本精製し両の足を貫く。手同様に砕け散る両足。くぐもった絶叫をあげるマクスウェル。


「まあ、コアを破壊すれば足なんて壊す意味もないのだけど…」


 新しく剣を精製し今度は正確にマクスウェルの二つ目のコアを貫く。


 声に魔力が籠もっていたのか口を閉じていた氷が砕ける。


 恨みのこもった目で氷霞を睨み付けるマクスウェル。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロォォォォォオオオスッ!!」


 聞いているだけでおどろおどろしい声を発するマクスウェルに氷霞は言い放つ。


「自業自得でしょう?」


「五月蝿いだまれっ!!貴様は絶対にコロス!!私みたいに四肢を裂いてコアを破壊してそこらの有象無象に生きたままその体を喰わせてやる!!」


 涎をまき散らしながら叫ぶマクスウェルに汚いものでも見るかのような視線を向けて言う。  


「そう、それは困ったわ。私まだ死ねないのよ。彼を守らなくちゃいけないから。だから……代わりに死んで?」


 そうして剣を振り上げる氷霞。


「辞世の句は…聞くだけ無駄ね」


 言い放ちコアに向かって剣を振り下ろす。が、それは何者かによって腕を掴まれ止められた。


「そのくらいにしておきな、氷霞」


「姉様…」


 突如現れた瑞樹に驚きを隠せない氷霞。瑞樹は氷霞から剣を取り上げる。


 驚きから我に返り瑞樹をキッと睨む。


「どうして止めるのです!」


「ミリーが六武神だからだよ」


「それがどうしたというのですか!?」


「六武神の一角が消えれば人間が優勢になる。そんなこと言わなくても分かるだろう?」


 確かにその通りだった。マクスウェルは六武神の中でダントツで眷族が多い。マクスウェルが管理しているため知能の低い妖魔も無作為に人里には降りないため殺されずに数を保っている。が、マクスウェルが死んだら方々に散って妖魔に何の得も無く殺されてしまうだろう。


 そのことを言ってるのは氷霞にも理解が出来た。だが、頭では理解できているのだが感情がそんなことは関係ないと氷霞をけしかけてくる。


「私はこの人を殺さないと気が済みません!!綴に手を出した報いは受けさせるべきです!!」


「これ以上やるんなら私はあなたを止めなくちゃいけないんだがね…」


「ーーっ!?」


 それは、瑞樹が一時的にとはいえ氷霞の敵になると言うことを示していた。


 綴に手をかけたマクスウェルは許してはおけない、だが、このままでは瑞樹に阻まれマクスウェルを殺せない。瑞樹の力は氷霞がよく知っていた。今の氷霞では絶対に適わないということも分かっていた。


 歯を砕かんばかりに歯噛みをする。


 姉様は綴のことなどどうでも良いというのっ!?


 瑞樹も綴のことを好いているはずなのに綴のことを味方してくれない。その事が氷霞を苛立たせた。


「あああああああああっ!!」


 剣を精製し力任せに地面に叩きつける。地面には半径数メートルに及ぶクレーターが出来たが瑞樹は動じない。


 苛立ちにより上乗せされた殺意を孕んだ眼をマクスウェルに向ける。


「次は…本当に次は無いですよ……!」


 全ての魔法を解き踵を返す氷霞。この時ばかりは損得勘定で考える姉が心底恨めしかった。


 マクスウェルの殺意を孕んだ視線を背中に受け氷霞はこの場を後にした。       


   

 やれやれ、まだまだ青いな…。


 そう心の中で呟き瑞樹は首を振る。


 氷霞は綴の事になると感情的になりすぎるときがある。毎回綴が傷つけられたときになるのだが、三年前と同じでそれは変わっていないらしい。


 瑞樹はマクスウェルに近付くと担ぎ上げた。


「よっこいせっと」


「…ババ臭ぇぞ、瑞樹…」


「失礼な、私はまだ百八歳だよ。ずいぶん若いじゃないか」


「ババアじゃねえか」


 瑞樹は高く跳躍すると浮遊魔法をかけてその場から離れる。


「何で手を出したんだい?」


「……」


「なんだい、だんまりかい?…まあ、何が目的かは大体予想は付くけどねぇ」


 それなりに離れたビルの屋上に着地する。マクスウェルを下ろしてやると治癒魔法をかける。


 すると、瑞樹がかけた途端に体の傷が一つも無くなった。


 立ち上がり体の調子を確認すると呆れたように言った。


「相変わらずチート臭いねあんたは」


「褒め言葉として受け取っておくよ。っと、流石にコアまでは修復できないよ」


 そう言うと瑞樹はマクスウェルに背を向ける。


「あんたもあまりあの子を刺激するんじゃないよ」


「…私から手を出したとは言え引けないところまで来ちまったのは事実なんだ。報復くらいはさせて貰う」


 マクスウェルのその殺意を乗せた言葉に苦笑しながら瑞樹は答える。


「程々にな……ああ、後ね」


「なんだ?」


「次綴に手を出したら私も容赦はしないよ?」


 氷霞以上の殺意を孕んだ笑顔でそう言われマクスウェルは蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。


「それじゃあねぇ~」


 そう言うと瑞樹はビルから飛び降りる。


 屋上にはしばらく動くことの出来なかったマクスウェルだけが取り残された。

 


なんだか氷霞がヤンデレっぽくなったなと思ってます

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