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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第三十三話 真子と魔剣

 氷霞は夜道を歩いていた。綴の家で料理を作った後夕飯を食べた帰り道だった。それなりに遅い時間なので周りには誰もおらず氷霞は暗い夜道を一人歩いていた。


 綴の送っていくという提案を断り一人で帰宅するには理由があった。その理由が、


「随分とぬるま湯に浸かってるみたいだね~プリンセス」


 こいつだった。暗闇に浮かぶ人影。比喩でも何でも無く事実浮いているのだ。氷霞はこいつにずっと見られていたため一人で帰っていたのだ。


 暗闇を月明かりが照らし人影の姿が露わになる。それは、この間の事件を起こした張本人、ミリアム・マクスウェルであった。


 自分を見ていた正体が自分の思っていた人物と変わらないことに少し安堵する。もちろん態度には出していない。


「ぬるま湯も悪いものじゃないわ。まあ、熱湯に浸かって火傷をしているようなお馬鹿さんには分からないかもしれないけど」


 マクスウェルは舌打ちを一つすると苛立たしげに口を開く。


「ぬかせ、クソガキ。お前とて今は何も出来ないだろう」


「あら、それでも今の私の方が強いわよ?なんなら……試してみる?」


 氷霞の挑発的な態度に相手は一瞬好戦的な態度をとるが何かに気づいたのか忌々しげな顔をする。


「…いやあ、止めておこう。またあいつが見てるからな、流石に今の状態でお前と瑞樹に勝てるとは思わない」


「今の状態じゃなくても私と姉様には適わないと思うけど?」


「調子に乗るなよ腰巾着が、全快したら殺してやる」


 そう言うと、暗闇に消えるように踵を返し歩き出す(といっても浮いているので歩いている訳ではないが)。その背中に確かな殺意を載せて氷霞は言い放つ。


「次は、その程度では済まさない。コアを全て(・・)破壊してあげる」


 マクスウェルは歩みを止めて首だけで振り返る。その目には怒気と殺意がこもっており常人が見れば体がすくんで動けなくなるほどの圧迫感があった。


 氷霞はそんなもの何でも無いように立ち振る舞っている。


「…次にこうなるのはお前の方だ。覚えておけ」


 そう言うと今度こそ闇に消えていくマクスウェル。


 氷霞はそれを見届けると歩き始める。マクスウェルと会ったせいか自然とあの時の事を考えてしまう。


 あの時、つまり綴がオルトロス戦を終えた後のことである。


*********************


 氷霞はあの日、とある離島にいた。この島は人口約四百人の小さな島である。


 氷霞は島に着くとすぐさま島にある一番大きな山に向かった。その山は道が補強されてない上に妖魔が住み着いている。そのため島人は近づきたがらないような山だ。


 まあ、最上級の妖魔である氷霞には山の急勾配も低級の妖魔も取るに足らない存在なので何の問題もない。


 山のふもとまで行くと山からこちらを伺う視線を感じる。どれも、低級の妖魔のものだ。いくつか山の獣のものも混ざってはいるが、脅威的にいえば差して変わらない。


 山に入り頂上付近を目指す。


 まだ五月とは言え山にはそれなりに虫がいて少々鬱陶しかった。虫除けスプレーでも持ってくれば良かったと考える頃山頂付近にある小屋が見えた。と言うことはもう山頂なのだろう。


 普通の人が緩やかなところを選び山頂を目指せば一時間半はかかるであろう山を十分足らずで登ったことになる。


 我ながら大した体だと思いながらも小屋に近づいていく。


 小屋は平屋程度の高さでそれなりに大きかった。小屋の二メートル上には木が覆い被さっており空からは見づらいようになっている。その木も不自然にならないようにうまくカモフラージュされていた。


 多分、瑞樹がやったのだろう。今から会う人物は瑞樹とは旧知の仲と瑞樹本人からは聞いていた。そのため力を貸したのだろう。


 よく見れば、小屋にはつなぎ目らしいつなぎ目もない。おそらくは小屋も瑞樹が建てたのだろう。


 そんな考察をしながら玄関の戸を叩く。だが、しばらく待っても出てくる気配がない。


 留守なのだろうかと思いもう一度、今度は先ほどよりも強く戸を叩く。だが、やはり出てこない。


 おかしい。瑞樹には小屋の主はいつも家にいて引きこもってると聞いたので居ないはずは無いのだが、と、そこまで考えて氷霞は瑞樹に教えて貰った合い言葉を思い出す。


「ニートのまーちゃん出ておいーーっ!?」


 合い言葉を途中まで言うと突如危機を感じて上半身を後ろへと反らす。すると、先程まで上半身があった場所をドアを突き破り何かが飛んできた。


 すぐさま体勢を整え後方に跳びドアから距離をとる。


 距離をとった直ぐ後に中から誰かが扉を蹴破り一言言った。


「あたしはニートじゃない!引きこもりだ!!」


 そう言って出てきたのは、乱暴に結われたボサボサの髪によれよれの白いシャツ、すすだらけになったつなぎから片腕だけ出したスタイルの女だった。


 彼女こそこの小屋の主、佐久間真子さくま まこであった。



 何とかして部屋の中に入れて貰うことができた。


 あの合い言葉は瑞樹本人がふざけて使っているものらしく普段は別の合い言葉なんだそうだ。そのため、瑞樹かと思い鉈を投げたらしい。


 すんなり部屋に上がる事が出来たのもさっきの合い言葉で瑞樹の関係者だと分かったかららしい。


 部屋の中を見回すと真子の見た目とは裏腹に簡素だがしっかりと整頓されていた。

 

「見ても何にも面白いのなんか無いよ」


 そう言って真子はテーブルの上にマグカップを二つ置いた。


「何突っ立てるんだい。こっちに座りゃあいいだろう」


 言われて自分がまだ玄関に立っていることに気づく。


 部屋に入れた時点でソファーなりに座ってくれと言ってほしかったものだが今更言っても仕方がないので口には出さなかった。


 言われた通りにテーブルを挟んだ向かいのソファーに腰を下ろす。


「それで、あんたは?」


 真子がマグカップを氷霞の方に寄越すと聞いてきた。


「申し遅れました。私は姫乃祗瑞樹の妹の、姫乃祗氷霞でございます。以後お見知りおきを」


 綺麗に会釈をすると面食らったような顔になる真子。


「あんた瑞樹の妹だったのかい。なるほど、よく見りゃ目元がそっくりだ」


 そう言って氷霞の顔をまじまじと見るとけっと言って勢い良くソファーにもたれかかる。


「それで、瑞樹の妹が何のようだい?どうせ、ろくなもんじゃ無いだろうけどね」


「今日は真子さんにお願いがあって来ました」


「だぁから、その用をちゃっちゃか言っちゃいな。こちとら暇じゃないんだ」


「魔剣を造って欲しいのです」


 面倒臭そうにしていた態度が一変し今までの気怠げな目つきから一転、剣呑な目つきへと変わっていった。


「あんた、自分が何言ってるのか…分かってるのかい?」


「はい、重々承知しております」


 二人は睨み合った。時間としては数秒だったのかもしれないが真子から放たれる圧迫感が瑞樹のそれと同等のものであったため、数秒よりもかなり長く感じた。


 しばらくして圧迫感が消えて真子の態度も先程の面倒臭そうなものに戻っていた。


「…はあ、分かったよ。造ってやる」


「ありがとうございます」


「と言ってもまあ、もう造ってある」


 その言葉に今まで表情を崩すことの無かった氷霞が初めて表情を崩した。


 それを見た真子はニヤリと人の悪い笑みを浮かべると言った。


「実はね前もって瑞樹には頼まれてたんだよ」


「そうだったのですか」


「ああ、三年前くらいになー」


 またしても氷霞の顔が驚愕に染まる。


「いつ頃ですか?」


「夏くらいじゃなかったかな?」


「そうですか」


 と言うことは綴に魔力を与えて直ぐか少し後、と言うことになる。瑞樹はいずれ魔剣が必要になることをあの時から予想していたのかもしれない。


 どこまでも自分の先を見越しているのだなと感嘆していると真子がマグカップを呷ると言った。


「あの日にな、三年後に妹が来るはずだからそれまでに何とか見繕って欲しいと頼まれてな…あたしはあまり気乗りしなかったんだが、どうしてもって頼まれてな。まあ、あいつには恩があるからいいっちゃいいんだがな」


 そう言うと真子は席を立った。


「ついてきな」


 そう言うと奥の部屋に引っ込んでいく真子。慌てて立ち上がりついて行く氷霞。


 氷霞が入った部屋は工房だったらしく、炉やハンマーなどの道具が揃っていた。どれも年季が入ったものと一目で分かったが古臭い感じはせず丁寧に手入れが施されていることが分かる。


 真子は、その部屋の更に奥の部屋に入っていった。入った部屋をのぞき込むとそこには幾つもの武器が丁寧に保管されていた。


 パッと見ただけでもどれも相当な一品になっていた。


「これを…全て真子さんが?」


「ああ、そうだよ。まあ、どれも売り手がつかないけどね。まあ、そんじょそこらの奴に売る気はさらさら無いけど」


 真子は部屋の奥に置いてある木箱を持ち上げて手近な台の上にそれを置いた。


「これが、瑞樹に頼まれて造った剣だよ。サイズは片手直剣ぐらいかね。ほれ、持ってみな」


 真子から剣を受け取り少し離れて軽く振ってみる。その剣はちょうどいい重さでとても振りやすかった。自分の体の一部のように扱える。


「凄い…これだけの剣を造れるなんて…」


「そりゃあ当たり前よ。何たってあたしは天才鍛冶師なんだからね!」


 得意気に豊満な胸を反らす真子。それを見て自分の普通サイズの胸を見比べる。


 まだ、成長期…まだ、おっきくなるはず…っ!!


「どうしたんだい?そんなに自分の胸を凝視して」


「な、何でも無いです…」


 真子は、訳が分からないと言う顔をするが、急に声音を真剣なものに変えて言う。


「何でも良いけど…本当に良いんだね?」


「はい、覚悟は出来てます」


「それじゃあ、あんたのコアを二個・・頂くよ」


 コア、それは通常の妖魔には一つしかない。普通の個体では一つだけしか受け入れられない。複数あると身体という器が多過ぎる魔力に耐えきれずに崩壊してしまうのだ。


 だが、稀に複数個を持って生まれる者がいる。それが氷霞だ。氷霞は生まれながらにしてコアを三つ所持している。規格外の魔力と身体能力はこの三つのコアに起因している。


 コアの強大な魔力に耐える為に身体は成長とともに強化されていった。また、体を鍛えていけばコアを収める器が大きくなったと脳が判断し生成する魔力も多くなった。


 だがこれは、氷霞だけに限った話ではない。氷霞の姉である瑞樹、他六武神の面々、人間が一番忌まわしく思う仇敵の九尾、そして今目の前にいる真子も例外では無かった。他にも世界中で複数体それらしき妖魔が確認されている。


 その、強大な魔力を持つコア、これがなぜ必要なのかとうことだが、それは魔剣の構造が関係している。


 魔剣の剣自体がコアが宿る妖魔の肉体の代わりをしている。そして、動力源として妖魔のコアを使用している。刀身だけならば普通の剣だ。いや、造られている素材を考えれば普通の剣とは言えないだろう。


 魔剣は妖魔のコアを定着させるために複数の妖魔のコアを刀身に混ぜている。妖魔のコアは妖魔の肉体にしか定着する事がない。そのため、刀身に少しでも妖魔のコアを混ぜるのだ。


 魔力の動力源とするコアが低級妖魔の物であったら混ぜるコアは一つで足りるのだが、今回の氷霞のような者のコア、それも二個を動力源として定着させるとなると混ぜるコアは質の良いもので百や二百、質の悪いものだと千は軽く越えてしまうだろう。


 質の良いコアで揃えようとすれば必然、より強い妖魔と戦わねばならない。それも百や二百を倒さなくてはいけないため難易度は高く、あまり建設的ではない。


 質の悪いもので揃えるのであれば、それらを千は倒さなくてはいけない。そのため、こちらもあまり建設的とは言えない。


 しかも妖魔から取り出したコアは採取後一時間、長くても二時間で消滅してしまうのだ。そのため、どちらを行おうにも生け捕りにしなくてはいけないのでやはり建設的とは言えなかった。


 因みに、コアが消滅してしまう理由はコアに妖魔の体内を通った魔力が流れないためだ。どう言うわけかコアは妖魔の体内を通った魔力に反応して魔力を生成しているらしい。そのため、肉体から抜き取られたコアは数時間足らずで機能を停止してしまうのだ。


 魔剣はこれを防ぐべく刀身に魔力の通る道を造っておきそれを循環するようにして自己保持をさせている。コアの混ぜてある刀身は妖魔の肉体と同じと認識されるらしくそれで自己保持が成立する。


 話を戻そう。瑞樹は妖魔のコア集めを前者で、しかもいっぺんに妖魔を連れてきた。自主的に付いてきた者もいれば戦って隷属させて連れてきたものもいた。その、誰も彼もがS級以上の大物であった。


 瑞樹曰わく「世界中を飛び回ってきちゃった」らしい。可愛く言っていたが所行が所行のため毛ほども可愛くは無かった。


 連れてきた後は、その場でコアを抜き取り鉄に混ぜていく。この鉄も勿論最上級の物を使った。コアを抜き出す時には激しい激痛が伴う。そのため、抜き出す度に絶叫を上げられ五月蝿くて真子は大変苛々させられた。なので途中から喉を切ってからコアを取り出して貰った。


 コアは百を少し越えたあたりで充分だったため、瑞樹が連れてきた三百二十九体・・・・・・のうち約二百体余りは解放となった。


 瑞樹の解放宣言に、ホッとする者もいれば安堵で気絶するもの、残念そうな顔をする者と妖魔によって反応は千差万別であったが残念そうにする者が圧倒的少数だったと言うことは言うまでもないだろう。


 後は、コアを充分混ぜた鉄を約二年かけてゆっくりと慎重に打っていく。


 そしてつい先日ようやく完成したのだ。


 このように、魔剣は同族・・を生け・・・にして完成させる。このことがあって真子は魔剣を造るのに気乗りしなかったのだ(コア摘出の際に五月蝿いというのもあったが)。


 なので、魔剣を持っている者は妖魔からは忌避の眼差しを向けられ嫌悪され、人間からは実力者扱いされる。

 

「それじゃあ、コアを取り出すから服を脱ぎな」


 氷霞は思考を止めて服を脱ぎ始める。が、何の前触れも無く氷霞の背中に冷たい悪寒が走る。


 その悪寒の正体を瞬時に確信し氷霞は綴へと繋がっているパスに精神を通した。


 身体から精神を離したことにより身体の制御を失い足から崩れ落ちる。真子が慌ててその体を受け止める。


「おい、どうした!おい!」


 真子は必死に声をかけたが精神が離れた体はその声に反応することはなかった。

   


   

今回は説明文が多いですが勘弁してください。


不明な点がありましたら改善したく思います。



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