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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第三十話 綴VS氷霞 Ⅲ

 大きな拘束魔法を作った綴を見て元親は声を出せずにいた。


「……まさか、これほどまでとは…」


 硬直からいち早く回復した緋日が呻くように呟いたその言葉は元親も同意見だった。


 氷魔法を間近で見たことのある元親はその凄さを知ってはいたが、それがまだ力の一端であったことにこの魔法をもって気付かされた。


「これは、脱出不可能…?」


 美来が呟く言葉には皆納得の表情であった。が、それは唐突に覆された。


「んな!?」


 突如、氷の墓標が轟音をたて崩れ落ちたのだ。蒸気をあげ崩れ落ちるその中から氷霞が姿を現した。その顔には余裕の笑みをたたえていた。


 圧倒的な魔力で放たれた拘束魔法をこんなにも早く崩壊させるなんて氷霞はいったい何者なのだろうか。戦っている最中も崩さない余裕の表情。そして、オルトロスを倒した綴をも圧倒するその力。彼女の底の知れない強大な力を感じ取り元親は寒気がした体を身震いさせた。


 夏彦も何かを感じ取ったのかその表情を強ばらせている。


「綴も綴だけど、彼女はいったい…」


 その声には確かな畏怖の念が混じっていた。


「…どうすんだ、綴」


 底の知れない相手との戦いを元親はこれ以上続けてほしくなかった。だが、綴が諦めていないことは遠くからでも分かった。


「せめて大怪我する前に降参してくれよ…!」


 そう願い、元親は試合の行方を見守った。


*********************


 背中に六本、両手に二本の計八本の剣が綴に襲いかかる。その剣はまるで生きているかのように宙を舞い綴に迫る。


 剣と魔法を駆使しそれを何とか凌ぎ続けるが、それが出来なくなるのも時間の問題だろう。実際、綴はいくつかの攻撃に対応しきれなくなり剣をその身体で受け止めている。


 刃の潰された剣だからまだ我慢出来る、それに向こうも手加減をしてくれているので骨は折れていない。が、刃が生きている剣ならばこんな事は出来ないだろう。直ぐに腕と身体がさようならしてジ・エンドだ。


「くっ!」


 剣が綴の腕を打ち剣を落としそうになるが力を込め持ちこたえる。


 先ほどから防いでばかりで防戦一方。しかも、初めての大技を発動して満身創痍。とてもじゃないが勝てそうにない。氷霞が手加減してくれている攻撃ですら防いでいるのが奇跡だ。


 だが、それでも…。


「諦めるのは性に合わない!」


 大きくバックステップをしながら今の剣を手放し新しく氷剣を精製する。氷剣に魔力を込め構える。


「はあっ!」 


 迫り来る宙を舞う剣を氷剣で防ぐ。本来ならばこの時点で剣は弾かれ宙を少しばかり舞うのだが今回は違った。


「!?」


 氷霞が目を見開くのを見てしてやったりとほくそ笑む。氷霞は驚愕する理由、それは、


「…なる程、剣と剣を氷でくっつけた訳ね…」


 氷霞の操った剣が綴の氷剣にくっついたままなのだ。


「ご名答!」


 そう言う間にも剣を振り次々と宙に舞う剣をくっつけていく。そして宙に舞う全ての剣をくっつけるとそれを氷で覆い使い物にならなくさせる。その剣を捨て新しく氷剣を精製し氷霞に肉迫する。


 このまま突っ込んではまた剣を精製され反撃されるのでは無いかとも考えたがたぶんそれはないだろう。なぜなら、氷霞の剣の精製速度はそんなに早くなかった。それに剣戟をしている間にうまく精製できるとも思えない。


 しかい、これはそう思えないだけで一種の賭みたいなものだ。だが、この賭け以外に綴は突破口思いつかなかった。だから、賭に出るしか方法はない。


「はぁっ!!」


 気合いとともに剣を振るう。相手に反撃の隙を与えないために素早く剣を振るう。


加速アクセル!」


 自身に加速魔法をかけその速度をさらに上げるが、氷霞は二本の剣でそれについてくる。様々な角度から攻撃をしても氷霞はその体制を崩すことなく応じる。それでも綴は猛攻し続けたが、その猛攻は終わりを迎えた。


 もう、保たない…!


 加速魔法が解け一瞬隙が出来てしまう。その一瞬をつかれ剣を弾かれ手から落としてしまう。綴の氷剣をはじいた氷霞の剣も同時に粉々に砕けたが氷霞にはもう一本ある。


 綴は左手で優しく、だがしっかりと抱き止められ喉に剣を突きつけられる。数秒の静寂が続くが、常田先生により静寂は破られた。


「勝者、姫乃祗!!これにて全模擬戦終了!!」


 その宣言の後どこからか拍手が鳴り響く。その方を見ると元親が拍手をしていた。ちょうど、さっきと立場が逆だなと思っていると、拍手は段々と大きくなっていく。


 氷霞が手を離して聞いてくる。


「どうしたの?顔赤いわよ?」


「いや、何というか、こんなに拍手されると照れるというか…」


「なんだそんなこと?開き直って手でも振ったら?」


「無理、はずい…」


 そう言うと下を向いてしまう綴に氷霞は微笑んだ。


「上にいる者も降りてきて外に出てくれ!」


 常田先生がそう言うと観覧席にいる人はゾロゾロと移動を始めた。それを見て綴と氷霞も外へ出る。


 外に出て整列すると常田先生は軽く締めの話をした。いろいろ話した後「今年も期待通りの良い大会になりそうだ!」と言い皆の実力を褒めていた。褒められた当人たちは嬉かったのか少々色めき立っていたが綴もその内の一人なのでそれはご愛嬌と言うことで。


 話が終わると解散と言い締めくくった。挨拶をし教室に戻ろうとすると夏彦と元親がよってきて、元親に背中をバシバシと叩かれた。


「凄かったぜ綴!お前もうあんなに使いこなしてたんだな!」


「痛いよ元親!……でも、ありがと」


「本当に凄かったよ。今度俺とも手合わせしてくれないか?」


「喜んで。僕も夏彦と戦ってみたいと思ってたんだ」


 そんなことを話していると周りのクラスメイトも集まって来て賛辞の言葉やどうやって使えたのかとかいろいろ言われた。


 あわあわと慌てつつも一つずつ丁寧に返していく綴。と、あることに気づく。


 氷霞がいない。


 そう、どこを向いても氷霞がいないのだ。綴が大技を出したんだからその事について何か言ってくるかと思っていたのだがその姿はどこにも見えない。綴の背が小さいから周りの人で見えないという可能性もあるのでクラスメイトに聞いてみた。


「ねえ、ちょっと。氷霞を見てないか?」


 そう、問いかけるとクラスメイトの女子は少し顔を強ばらせていった。    


「ひ、姫乃祗さん?ごめんなさい見てないわ」


 そう聞き周りの数人にも聞いてみたが皆一様に顔を強ばらせていた。その事を不思議に思い夏彦に聞いてみることにした。


「なあ、夏彦。皆に氷霞の事聞くと顔を強ばらせるんだけど、なんかあったのか?」


 そう言うと夏彦は言いづらそうな顔をしつつもちゃんと答えてくれた。


「多分、皆怖いんだと思う」


「怖い?なんで?」


「綴の拘束魔法。あれはちょっとやそっとじゃ破れない代物だろ?かなりの魔力を使ってたしな」


「そうだけど、それが何か関係してるのか?」


 夏彦は少し間を開けると言った。


「自分より強過ぎる者は恐怖の対象でしかない。例えそれが身近な人だとしても」


 その言葉に冷たく、だが、どこか悲壮を帯びていて綴は声を出せなかった。


「綴の魔力の殆どを使った拘束魔法。それを見た何人かは確かにお前を恐れただろう。絶対に適わないと分かったから。俺ですら背筋に冷たい物を感じた。だけど」


 一拍の間を置いて夏彦は言う。


「それをも上回る奴が現れた。しかもそいつはまだ底の知れない力を秘めてる。そんな力は人に羨望よりも恐怖を植え付ける。多分、いや、確実にそのせいだ」


 その事を聞いて綴は愕然とする。綴は全くその事を考えてもいなかった。だが、長年そんな力を持っていた氷霞なら予想は出来たはずだ。なのになぜそんなことを?


 考えを巡らせる間も夏彦は続ける。


「そう言えば、魔法が崩れる霧の中で見たよ」


「見たって…何を…?」


「姫乃祗の悲しそうな顔を…」


 それを聞いた途端にある考えが浮かびやがてそれは確信に変わる。


 そうだ、それしかない。氷霞がこんなことした理由はこれしかッ!!


「なあ、あいつはお前のためにやったんじゃないか?」


「ああ、今僕も同じ結論に達した」


「そうか、じゃあ、行ってらっしゃい」


 そう言うと夏彦は綴の背中を軽くはたく。その事に目を丸くしつつも夏彦に感謝する。そして笑顔を向けて言った。


「ありがとう!行ってくる!」

 

 そう言って綴は走り出す。解散宣言があってまだそんなに経ってない。経ってて精々四、五分だ。


 靴を履き替え階段を上る。一年は教室は三階だ。三回に着くと制服の氷霞がある部屋入ってくのが見えたのでそこまで走りドアを開ける。


「氷霞!!」


「つ、綴!?」


 突然の綴の登場に驚いたのか目を見開く氷霞に早足で近づいていく。


「氷霞、僕のためにあんな事言ったのか?」


「あんな事って…」


 言っている最中に気付いたのか黙ってしまう氷霞。だが、誤魔化すように言う。


「何の事かしら?よく分からないわ。私は全力のあなたと戦いたかったから言ったの」


「恐怖の上書き」


「っ!!」


 それを聞いて言葉を詰まらせる氷霞。


「僕の異端な力は恐怖の対象になりうる。だから、それを薄めるために自分の力を使った。そうなんだろ?恐怖の対象を自分に向けるために」


 それを言うと氷霞は諦めたように息を吐き、言った。


「そうよ、その通り」


「どうして?」


「あなたの為よ。あなたが一人にならなくていいように、あなたを孤独にしないためによ」


「そんな必要は無かったよ!姉さんや緋日、元親達は変わらなかった!だから」


「クラスメイトは?」


「っ!」


 その言葉に今度は綴が言葉を詰まらせる。


 実際にそうだった。六武神、ひいては妖魔の知識すら全く知らない前の高校の同級生。彼らは綴を遠巻きに見るだけだった。


 そんな彼らよりも数倍、下手したら数十倍以上妖魔の知識を持っている人たちから見たら綴はどう映るのか。その答えは考えずとも分かった。


「あなたがそうなるくらいなら私がなった方がまし、それだけよ」


「私はそんなこと思ってないけど?」


 突然、声が割り込んできた。見るとそこにはセレナが立っていた。 


「私は別に姫乃祗さんを怖いなんて思ってないわよ?」


「セレナ」


「だって、敵じゃないんだしこっちに剣を向けるなんてしないでしょ?それが分かっててどう怖がれっていうの?」


 その言葉に賛同するかのように周りにいた人は頷いたり返答したりする。氷霞の事で頭が一杯だったから気付かなかったがこんなにも周りに人がいたのだ。今更になり迂闊なことを言わなくて良かったと少し安堵する。


「勿論そう思わない人もいるかもしれないけどそんな人達気にするだけ損よ」


「そうだよ氷霞。こう言ってくれる人もいる。だから僕も安心して力を使えたんだ。だから、氷霞はもう少し僕と僕の周りの人を信じても良いんじゃないかな?」


 そう言うと氷霞は押し黙ってしまう。氷霞が何かを言うのを待っていたが続く静寂に耐えきれず声をかけようとしたが氷霞の溜め息に遮られる。


「…分かったわ。これからは信じてみることにするわ」


「氷霞!ありがとう!」


「お礼なんて言われるようなことしてないわ。…セレナさん」


「なに?」


「ありがとう…」


 氷霞が笑顔でお礼を言うと、セレナは顔を赤くして答えた。


「べ、別に、お礼言われることはしてないわ。と、当然の事を言っただけだもの。うん」


 そう言うとそそくさとその場を去ってしまう。耳まで真っ赤にしていたので照れてしまっていたのだと一目で分かった。その事が微笑ましくクスリと笑ってしまう。


「それと、綴」


「ん、なに?」


「あなた溶け込みすぎよ」


「へ?何が?」


 突然、意味の分からない事を言われたので何がなんだかよく分からない。


「ここ、どこだか分かってる?」


「どこって…」


 そう言えばどこなのだろう。氷霞を見つけた勢い出来てしまったからそんなこと考えてもいなかった。


 周りを見渡すとそこには壁一面にロッカーがある。そして周りには制服やジャージ姿の女子がいる。と言うか女子しかいない。


 そこまで認識するとサーッと血の気が引いていく。錆びたロボットのように首をガタガタと回し氷霞を見る。


「もしかしてここは…」


「女子更衣室よ」


「…やっぱり!」


 そう認識すると綴は振り返り皆に謝罪をしようとするが、


「ご、ごごごごめんなさい!無我夢中でって、なんで着替え始めてるのさ!!」


 女子が着替えの続きを始めたのでその行為は止められてしまう。


 すぐさま手で両目を覆い見ないようにしその場にうずくまる。


 綴が叫んでも衣擦れの音は止まない。


「ちょっと、一回止めて!出てくから一回止めて!」


「別に同じ女子に見られたくらいじゃ何とも思わないわよ」


「そうそう。て言うか、何恥ずかしがってるの?」


 口々に告げる女子達。


 なんで?なんでかって?それは、


「僕が男の子だからだよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「「「あっ…」」」


 綴がそう叫ぶと女子達は今更気づいたように声を発する。数秒の沈黙が続く。が、すぐにまた衣擦れの音が聞こえてくる。


「ちょっとまって!男子!男子いるってここに!何でまた着替え始めるの!?」


 綴の悲痛な叫びに女子が恐らく苦笑しながら答える。


「なんか、別にいいかな~って。だって柊君、見た目完全に女の子だし」


「見た目女の子でも中身男の子だから!」


 自分で見た目女の子と言ってしまったことと、女子に見た目女の子と言われたことで若干、いやかなり傷つきつつも言う。が、全く取り合ってくれず。結果、着替えに来た良子により無事救出するまで綴はずっと女子更衣室でうずくまっていた。


 うずくまっている時に氷霞とセレナに助けを求めたが両者とも「おもしろいからやだ」と断られてしまった。救出されるまで助けを求め続けたが皆取り合ってくれなかった。余りに取り合ってくれないので若干涙目で良子に助けを求めたことは忘れてほしい事である。




     

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