第二十九話 綴VS氷霞 Ⅱ
常田先生の合図と共に地面を蹴り駆け出す。
先手必勝!!
「はあっ!!」
気合いと共に剣を下段から上段に振り上げる。が、氷霞は難なくそれを受け止め斬撃の勢いを利用し後ろに跳ぶ。
綴は、剣を振り上げた状態のまま氷霞に向かい突っ込んでいく。剣を持った右腕を引き左足で踏み込み突きを放つ。だが、それを剣で軌道をそらし受け流される。
勢いを殺されていないのを利用し体を丸め左足で思い切り跳ぶ。半回転し右足で氷霞に踵落としをする。跳ぶ直前に氷魔法でコーティングされているので剣によるダメージは受けないだろう。
氷霞は、焦ることなくそれをかわし体を捻る。まずいと思ったときには遅く、氷霞の回し蹴りが綴の脇腹に突き刺さる。ろくにガードもできずに吹き飛ばされる。うまく受け身をとり立ち上がる。受け身はとれたものの軽くせき込んでしまう。
せき込みつつも氷霞に視線を向け警戒する。剣を構え直し隙をうかがうが、全く隙を見つけられない。見つけてもそれは罠で、それに付け込むことはできない。
このまま膠着状態が続いても埒があかない。そう思いあえて氷霞の作った隙に飛び込む。ただ突っ込んでもやられるのは目に見えているので、剣先に魔力を込め魔法を発動する。
「火文字!!」
横一閃に炎の刃を飛ばす。それを縦、斜め、横と複数回繰り出す。その攻撃にも冷静に対処する氷霞。全てを剣で斬り伏せている氷霞は火文字で作った死角からの綴の攻撃を難なく受け止める。
鍔迫り合いに持ち込み対峙する。氷霞見るとその顔は笑顔であった。
「随分と嬉しそうだね!」
「ええ!なんたって、また綴と剣を交えることが出来ることが嬉しくてね!」
「それは、どうも!」
剣を引き氷魔法でコーティングした右足でローキックを放つ。剣を引かれたことにより体制を崩した氷霞であったがそれを剣で受け止める。が、勢いは殺せずに吹き飛ばされていく。
受け身をとり着地した氷霞に一言。
「お返し!」
そう言いながらまた駆ける。駆ける間も間髪入れずに火文字を放つ。だがそれは氷霞の数メートル先で撃ち落とされた。
それを見て危機感を覚え駆ける足を無理やり止め横に跳んだ。すると、顔の横を何かが通り抜ける。着地しバックステップをし距離を取る。
距離を取る間も不可視の何かが綴に飛来する。綴はそれを魔力感知で弾道を見極め避ける。時には火文字で撃ち落とし無事距離を取る。だが、氷霞の攻撃は止まらない。
不可視の何かをいくつも飛ばしてくる。それを切り落とし防ぎ続ける。防ぎ続けるが数が段々と増えていく。今は対応出来ているがその内対応できなくなる。そう考え綴は火文字を数発撃つと剣を地面に突き立てる。
「氷障壁!!」
剣を突き立てた地面の少し先に氷の壁ができ不可視の攻撃を防ぐ。
取りあえず防げたけどどうするか…。
即席で作った氷の壁は薄く時間稼ぎにしかならない。こうしている間も不可視の攻撃を浴びその耐久値をガリガリ削っている。
氷の壁の後ろに新しく氷の壁を作り補強する。今度は充分に魔力を込める事が出来たので強度は先ほどの物と比べ物にならないほど硬い。だが、やはりそれも一時しのぎにしかならないだろう。一枚目の氷の壁は砕け不可視の攻撃は二枚目を蹂躙し始める。
と、そこで違和感が生じる。なぜ氷霞はわざわざ氷の壁を攻撃し続けているのか?氷の壁が邪魔なら回り込むか上から攻撃すれば、
「!?」
そこまで考えると綴は即座に後ろに跳び風魔法で威力を付けその場から離脱する。すると綴が居た場所に上空から幾つもの水の球体が飛んでくる。威力は抑えてあるのか地面を抉ることなく魔法は弾けるがそれでも当たったらかなり痛いことは明白であった。
上を見るとそこには氷霞がいた。その身体はふわふわと浮いていて重力に逆らっていた。
「忘れてた、氷霞って飛べるんだっけ…」
以前、病院の屋上に飛んで連れて行ってもらった事をすっかり忘れていた。
「どーしよ」
向こうは飛べて魔法の種類も多種多様、力を抑えているにも関わらず魔法はあの威力。主観的に見ても客観的に見ても綴の勝機はかなり低かった。
*********************
青い顔をして控え室に向かう綴を心配そうに見つめる良子や他のメンバー。勿論元親も心配をしていた。
綴は心配事を全部自分の中で溜め込んでしまう事が多々ある。本当に軽い相談事なら元親にも話してくれるのだが重い内容は一切話してくれない。
「もっと頼ってくれてもいいのによぉ…」
「ん?どうかした?」
「いや、なんでもねぇよ」
口をついて出てきた言葉に隣に座る夏彦が反応したが誤魔化す。夏彦は「そう」と言って試合に視線を戻す。
「ただいま」
すると、いつの間にかいなくなっていた緋日が帰ってきた。
「おか~」
元親が返事をすると他のメンバーも返事をする。返事を聞きつつ夏彦の隣に腰を下ろす緋日。座ると緋日は試合を見る。
「今何試合目?」
「十九。次が綴」
「そう、ありがとう」
そう言うと緋日はまた試合に意識を向ける。その横顔には苛立ちが見て取れたがまだ仲がいいとは言えない元親が聞いても意味は無いだろうと思い視線を試合に向けた。
しばらく試合を見ていると夏彦に声をかけられた。
「なあ、元親」
「なにさ?」
「試合前にも聞いたんだけどさ、オルトロスを倒したのって元親じゃないんだよな?」
「おう、そうだぜ」
再確認してくる夏彦にめんどくさがる風でもなく答える元親に夏彦は続ける。
「それじゃあ誰が倒したの?」
「それは「柊くんなのだよ!」だ」
夏彦の質問に答えを返した元親だが美来が被せて言ってくる。美来の方を見ると得意気な顔をして説明を続けた。
「一回やられちゃったんだけど立ち上がってオルトロスをズバーーンって一刀両断したのよ!あの時は格好良かったよ~!」
それを聞いた夏彦は目を丸くして言った。
「それは、意外だったよ。俺はてっきり退魔師の方が倒したのかと思ってた」
「それじゃあ、なんで俺に聞いたわけ?」
「それは、基礎の時の身のこなしがうまかったからもしかしたらと思って聞いてみたんだ」
「なるほどな、そのもしかしたらが外れたわけだ」
「そういうこと」
元親は夏彦を軽く茶化した後、夏彦に質問の続きがないと分かると気になることがあったので聞いてみた。
「それで、綴が意外ってのは?」
「綴は身のこなしはうまいけど元親と比べると若干練度が低かったから、それでね」
「なるほどな…」
確かに綴の身のこなしは元親よりも下手だ。毎日修行している元親と週一で稽古をつけてもらっている綴ではそう言われても不思議はない。実際徒手格闘なら元親の方が強い。だが、それは、徒手格闘ならの話である。
元親は不適に笑うと夏彦に言った。
「確かに身のこなしは俺の方がうまい。でもそれは徒手格闘を基本にした動きだからだ」
「というと?」
「つまり、あいつは剣を持った動きを基本に稽古をつけてもらってるから手ぶらじゃへたってこと」
「なるほど」
感嘆したように夏彦は言う。だが、実際のところ元親は綴の動きが練度が低いとは思っていない。寧ろ上達が早すぎて怖いくらいだ。夏彦は知り合ったばかりで知らないだろうが綴は徒手格闘の稽古を数回しか受けたことがない。その数回でこつを掴み今の状態までいったのだ。末恐ろしいことこの上ない。
「あ、終わった」
夏彦が言った言葉を聞き意識を試合に向けると確かに試合が終わっていた。
「じゃあ次か、楽しみだな~」
「そうだな。俺もさっきの話を聞いてがぜん興味がわいてきたよ」
「そうだね!綴ちゃんがどう戦うのか興味ある!」
「そうね、楽しみ」
皆綴の試合を心待ちにしていたのか少しテンションが高くなっている。綴にここまで興味を持ってもらえて元親は友人として嬉しかった。だが、そう思う反面考えてしまうこともあった。
それは、皆が綴の能力を見てどう思うかである。良子や美来、緋日は知ってて友人をしているのだから心配する必要はない。逆に心配してしまったら失礼である。
だが、他の皆は違う。皆はまだ綴の能力を知らない。そんな皆は綴の能力を見たらどうするのだろうか?怖がる?嫌う?拒絶、否定…。
悪い考えだけが頭の中を渦巻いてしまう。綴には友人関係に諦めを持っている節がある。元親は綴に他人を諦めてほしくなかった。なのに、更に周りから浮いてしまうような能力を持ってしまった。綴の諦めにさらに拍車がかかったらどうしよう。
「元親、どうかしたか?」
そんなことを考えているとふと夏彦に声をかけられる。顔を上げてよく見ると皆元親の方を向いていた。その事に少したじろぎつつ答える。
「んにゃ、なんでもねぇよ。ボーッとしてただけ」
「そうですか、具合が悪いのかと思って心配しました」
「四季さんは優しいね~良い奥さんになると思うよ~」
「え、えっと、ありがとうございます…」
元親が軽口を叩くと良子は顔を赤くしてうつむいてしまう。
「ちょっと元親!からかわないの!」
「へいへい、悪うござんした~。でもからかってないぜ、事実を言ったまでだ」
「それは、まあ、あんたの言うとおりかもしれないけどね」
「もう、やめてよ美来ちゃんまで!」
そんなことを話しているとフィールドに人影が見えた。見てみると綴が上がってきていた。
「お、始まる!」
元親がそう言うと皆静かになりフィールドを見つめる。
綴と氷霞は少し言葉をかわすと戦闘態勢に入る。そして始まりの合図が響いた。
*********************
綴が氷の壁を作ったことで周りがざわめく。それは当然だ。なにせ使い手が二人しかいない氷魔法だ。驚くのも無理はない。が、驚くだけに留めてほしい。
嫌ったりはしないでくれ…。
そう願い元親は周りのメンバーを見る。緋日、良子、美来は感嘆の表情だ。三人の考えに変化は無いようで安心する。だが、問題は残りの三人だ。恐る恐る見ると三人とも目を見開き驚愕している。
次のアクションが出るまで元親はえもいわれぬ緊張感に襲われた。他人のことでこれだけ緊張したのは初めてかもしれない。
そして、夏彦が口を開いた。
「マジかよ…」
その言葉に元親の緊張は増した。その言葉はどっちの意味にも捉えることが出来るからだ。
そしてついに答えが聞こえる。
「凄いな、氷魔法か。初めて見たよ。…綺麗な魔法だな、綴にピッタリだ。うん」
「へ?」
悪い方ばっかり考えていた元親は夏彦の賛辞の声を聞き呆けた声を出してしまう。
「すっごぉぉい!!見てあれキレ~!あれ私も使えるかな!?」
「麗奈が使えたらみんな使えるわ。…でも綺麗ね、本当に」
「だよね!綺麗だよね!綴ちゃんに似合ってるよ~」
と興奮したような二人の会話に更に呆けてしまう。そんな元親の態度に夏彦がむっとした顔で言う。
「へ?ってなんだよへ?って」
「いや、別に、何というかだな、その~」
煮えたぎらない元親の態度に夏彦は何かに気づいたのか言葉を紡ぐ。
「お前、氷魔法を見たら俺が綴を嫌うとかそんなこと考えてたろ?」
「いや、そう言う訳じゃ…」
「見くびるなよ元親。俺はそんなことであいつを嫌いになんてなったりしない。寧ろ興味がわいた。あんなに綺麗な魔法を使う奴がどんな奴なのか、どうなるのか見たくなったくらいだ」
「そうだよ!そんなことで嫌いになんてなったりしないよ!」
「そうですよ。それにあんなに可愛い子を私が嫌いになるわけ無いじゃないですか」
「そ、そうか」
珍しく熱弁する夏彦と頬を赤くして熱っぽく言うセレナに驚きつつも気の抜けた返事をしてしまう元親。
だが、何はともあれ綴を嫌いにならなくて良かった。
そう思いついついふうっと気の抜けた息を吐く。
「「ふう~」」
その声が重なったことに驚きその方向を見ると緋日と目があった。どうやら同じ事を考えていたらしい。二人して苦笑してしまう。
視線を綴に向け思う。
良かったな綴。お前を嫌うような奴らじゃないぞこいつらは。皆見方だ。
その声が届いたのかあるいは全くの偶然かは分からないが綴の気合いの一声と共に強力な魔法が放たれた。
きっと声が届いたのだとそう信じている元親であった。
*********************
間髪入れずに放たれる魔法をなんとかいなし、回避し、撃ち落とし防いでいた。だが、直撃じゃないにしろダメージは受けているので動きは鈍くなる一方だ。
観察していて分かったが、不可視の攻撃は風魔法だ。ドッジボールくらいの大きさの風の弾丸を放っていたのだ。上にいるときに氷の壁を攻撃していたのは遠隔操作で魔法を精製していたためらしい。
だが、攻撃の正体が分かったところで攻撃を防ぐので手一杯であった。そして攻撃しようにも空中に浮いていて剣は届かない。火文字を撃ったところで途中で落とされ氷霞には届かない。
「ヤバいな…」
こちらは防戦一方でしかも完全に防ぎ切れている訳ではない。そして向こうはいまだに無傷。状況は見るからに綴が劣勢であった。
だが、綴には一つ勝算があった。それにはまず氷霞を下に降ろさなくてはいけない。だが、下ろすにはそれ相応のリスクが伴う。
「このままじゃジリ貧だし、やるしかない!」
そう決意すると綴は氷霞のできるだけ真下で止まり上を見る。だが、止まったことにより風の弾丸が綴を襲う。
「氷壁!!」
迫り来る風の弾丸をアイスウォールで防ぐ。四方からもくると思われるので四方をアイスウォールで囲む。だが、強度が足りずせいぜい数発しか防げないだろう。
だが、今はそれで良い。氷の弾丸を精製し氷霞に向かい放つ。すぐに迎撃してくるがその迎撃を物ともせず進む氷の弾丸。
それに、珍しく氷霞は焦ったがもう遅い。氷の弾丸は氷霞の足に当たると足を氷で覆う。氷霞はそれを砕こうと剣を奮おうとしたが下に引っ張られバランスを崩してしまう。
実は氷の弾丸には氷の鎖《氷鎖》をつけておいたのだ。できるだけ真下で止まったのは氷霞が下を向くことで鎖を弾丸の下に隠し認識しづらくするためであった。
その鎖を思い切り引っ張り下に落とす。風魔法を使い下に向けて風の方向を作りアシストする。その結果氷霞は下に降ろされ地面に足を着ける。
今!!
そのタイミングを見逃すことなく綴は魔法を発動する。
「氷結の棺桶!!」
氷霞のいる地面から氷の棺桶が出現し氷霞を飲み込む。だがそれでは終わらない。
「拘束氷鎖!!」
氷の鎖が棺桶をぐるぐる巻きにして拘束する。そして、その氷がふれた部分が徐々に凍結されていきくっついてしまう。
「四方陣!!」
そう言うと棺桶を囲むように四つの巨大な氷の柱が現れる。その柱は内側に吸い寄せられるように迫りやがて棺桶を固定する。
「拘束氷鎖!!」
そしてそれを更に拘束氷鎖で拘束する。棺桶に巻き付いた氷鎖が柱にくっつき固定する。
「氷設の墓碑」
綴が編み出した拘束魔法により氷霞を拘束することに成功した。
「…やったか?」
息の上がった声でそう呟く綴は静かに氷の墓標を見つめる。しばらく待っても氷の墓はひび一つはいらない。それを見届けた常田先生は声高らかに宣言する。
「勝者、ひいら「待った」」
だが、それは氷の砕ける轟音の中で不思議と良く通る声により遮られた。
「!?」
驚愕に目を見開く綴。自分の最高強度を誇る拘束魔法を破られたのだ、無理もなかった。
氷の蒸発する水蒸気の中から氷霞が姿を現す。その顔には不適な笑みを浮かべている。
「今のはさすがに焦ったわ。桶が閉まる前にひびを入れとかなかったら負けてたわ」
あの一瞬でひびを入れたって言うのか!?
桶の蓋が完全に閉まるまでにはほんの一、二秒の時間もなかったはずだ。その少ない時間に渾身の強度を誇る氷結の棺桶にひびを入れた。
侮っていた訳ではないがこれほどまでの強さとは予想外であった。
「それじゃあ、私もとっておきを見せるわ」
そう言うと氷霞は構えをとり左手に剣を精製する。
二刀流か?
そう思ったが違った。氷霞の後ろに地面に刺さるように剣が精製される。その数六本。
「!?」
驚愕に目を見開く綴。なんと地面に刺さった剣が宙に浮いたのだ。その剣は円を作るように氷霞の背中から少しの所に浮いていた。両手の剣と背中の剣合わせて八本。
「戦剣乱舞」
その光景は氷霞の恰好がジャージにもかかわらずどこか神々しさを感じさせられた。




