第二十八話 綴VS氷霞
控え室に着きベンチに座る。次の試合の事を考えなくてはいけないのだが綴の頭には先程の緋日と氷霞の会話が頭から離れなかった。二人に何があったのか、二人は何を知っているのか絶えずそんな疑問が頭を埋め尽くした。
「…はぁ」
思わずため息が出てしまう。頭の中がぐちゃぐちゃで何から考えていいのか整理がつかない。
すると、控え室の扉がコンコンとノックされる。元親だろうか?元親はあれで結構心配性なので様子を見に来てくれたのかもしれない。その事を嬉しく思いながら返事をする。
「どうぞ」
扉が控え目に開かれ隙間から顔を出す。その人物は綴が思っていた相手とは違った。
「氷霞?」
「……今大丈夫かしら?」
そう、綴の控え室を訪れたのは元親では無く綴の対戦相手氷霞であった。思っていた人物とは違ったので軽く面食らってしまったが取りあえず招き入れることにした。
氷霞を招き入れベンチに座らせる。氷霞は少し間隔を開けて綴の横に座った。用があって来たのだろうと思い氷霞が口を開くのを待つ。が、一向に口を開こうとしない氷霞。少しの間気まずい沈黙が続いた。沈黙に耐えかね氷霞に何をしにきたのか尋ねようと口を開きかけたがそれを遮り氷霞が口を開いた。
「次の試合のことなんだけど…」
「ん、ああ」
「能力を使えって言った理由、説明してなかったから」
いつもと違う氷霞の態度にいくら鈍感な綴でもそれが本題じゃないことはすぐに分かった。だが、向こうが話たがらない以上こちらから聞くのも何だか気が引けてしまうので黙って話を聞くことにした。
「前に桐生から聞いたと思うけどあなたのことを快く思わない者って言うのはそんなに数が多いわけじゃないの」
「そうなんだ、そこまでは聞いてなかった」
「自分のことなんだからもっとちゃんと聞いておきなさいよ…」
「ごめん」
軽い綴の態度に若干呆れつつも氷霞は続ける。
「さっきの話この学校も例外じゃないわ。寧ろ軍とかの組織に属してないから学校の方がそう言う人の数は少ない」
「それじゃあ、力を使って邪険に扱われたりしないって事?」
「ええ。ただ、それも全く居ないわけじゃない。固定観念からかなり毛嫌いしてる人も居るはずよ。…まあ、完全に孤立するようなことは無いから安心してちょうだい。いざとなったら私もいるし」
「うん、分かってる」
「まあ、私から言わせれば、魔法なんて使われてる数が多いか少ないか、妖魔も人間も使ってるんだから少ない者を毛嫌いする必要なんて無いと思うけどね~」
そう言うと足をパタパタと揺らし上を向いて目を瞑る。それに対して綴は苦笑しながら答える。
「仕方ないよ。誰だって情報が少ない物は怖いものだよ。僕だって、昔を知るのは怖いしね…」
綴がそう言うと氷霞はこちらを向き悲しそうな目をして言った。
「そろそろ、魔法の効力が切れてもおかしく無いのだけど…。まだ、思い出せない?」
「残念だけど進展は無いよ」
「そう……思い出すために無理はしないでね?ゆっくりで構わないから」
そう言う氷霞の顔には落胆となぜか安堵の色が見て取れた。その表情になぜか苛立ちを覚えて問い詰める。
「ねえ、氷霞は何か知ってるんでしょ?僕や皆を裏切ったって何なのさ?あんな事って何?隠してることがあるなら全部教えてよ」
「やっぱり、聞いてたのね…」
そしてまた落胆の色を濃くする氷霞。その表情に綴は更に苛立ちを覚えて感情的になってしまう。
「何でそんな表情をするのさ!僕に思い出して欲しいって言っておきながら思い出せないと安堵した顔をして!どっちなんだよ!君は何がしたいんだよ!」
感情的になっても意味はないと頭では分かっていた。だが、考えても答えの出てこない苛立ち、急に襲ってくる頭痛に終いには吐いてしまう始末。思うように物事が進展してくれない苛立ち。知ってることを教えてくれない周りの人。その事もあり綴の感情の波はとどまることを知らず次々に溢れ出してくる。
「突然僕の前に現れて、ずっと会いたかったなんて言われても僕は知らないよ!覚えてないんだから!君に悪いと思って思い出そうともしたよ!でも、思い出せなかった!夢でだけで君が出てきて目玉をえぐり取られて!眠る度にほぼ毎回そんな夢を見た!そんなこともあったから僕は必死になって思い出そうとしてるのに、君は、君らは何も教えてくれない!一体何がしたいって言うのさ!?」
息を切らしながらまくし立てる綴。だが、これだけ言っても氷霞は下を向いたまま何も語ろうとしない。その事が綴をさらに苛立たせる。
「何か言ったら、っ!?」
何も話そうとしない氷霞にしびれを切らした綴が詰め寄ろうとしたとたん、氷霞が綴に抱きついてきた。
「なっ、ちょっ!」
突然のことに困惑する綴。引き剥がそうと肩を掴むがその手は氷霞から聞こえる嗚咽に遮られた。見ると氷霞は涙を流していた。氷霞に急に泣かれてしまい先程の苛立ちや怒りはどこかに行ってしまい戸惑いだけが残される。
「うっ、ひっく、ううっ…」
綴の肩に顔を押しつけ泣き続ける氷霞に毒気を抜かれた綴は何もすることができずなすがままになっている。
「ごめんなさい…」
「……謝るだけじゃ、分かんないよ」
そう言うと氷霞は嗚咽混じりに話を始めた。
「うっ、私の、せいで…あなたを、酷い目にあわせてしまった…だ、だから、思い出したら、嫌われるんじゃないかと、思って。私はあなたに嫌われたく、無くて…!せっかくまた会えたのに、また離れなくちゃいけなくなるなんて!そんなの…嫌よっ…!」
そう言うとまた泣き出してしまう氷霞。それを見た綴は氷霞の頭を優しくなでた。
僕は、自分の事で一杯になってて氷霞の事を考えてあげてなかった。教えられないって事は向こうにも事情があるはずなのにその事を考えてあげることができなかった。泣いてしまうほどその事を思い詰めていたのに無神経にその事を聞いてしまった。結果、僕を手伝ってくれていた氷霞に酷いことを言ってしまった。
その事に気づき綴は自分の心の弱さを思い知った。自分の事で手一杯で氷霞の気持ちを汲んでやることが出来なかった。それは明らかに、綴の心の弱さだ。
「…ごめん、氷霞。僕も一杯一杯だったんだ。君を責める気は無かった、完全な八つ当たりだった。だから、ごめん」
「…ううん、いいの…綴の言うことも、もっともだから…私の方こそごめんなさい。言えないことをちゃんと説明しとけば良かった…」
「…どちらも、悪かったのかもね…。お互い物事を心の内にため込んじゃうタイプみたいだね……これからはさ、ちゃんと話し合おうか?思い返してみたら僕達まだそんなに会話してないしね」
「それも、そうね…」
「会話もしないでお互いに怖がって…話さないで分かる事なんて無いのにね」
すると、モニターから常田先生の試合終了の合図が告げられる。次は僕らの番だ。
「この試合が終わったら一杯話そう。今まで何があったのか、これからどうするべきなのか、話すことは山ほどあるよ」
そういい氷霞の体を剥がし氷霞の目を見る。
「今まで話せなかった分全部話そう。どんな事を聞いても僕は君を嫌ったりしない。だから、ね?」
笑顔を見せそう言う綴に氷霞は指で涙を拭い綴に笑顔を見せる。
「そうね、そうしましょう。私は、あなたが私を嫌いになっても、勝手について行くから。…それから、緋日も交えて話しましょう」
「…そうだね。まあ、取りあえず今は」
「試合に集中ね」
氷霞はそう言うと立ち上がり扉に近づいていく。
「私は向こうから入るわ。一緒に出てって変に勘ぐられてもイヤだしね」
そう言い残し氷霞は綴の控え室を後にした。
綴は息を吐き立ち上がる。取りあえずは綴の懸念材料はこの試合が終わったら解決するのだろう。氷霞と緋日に知っていることを全部話してもらってこれからのことを考える。
どうして、こんな簡単なことを今までしてこなかったのだろうか?転校したてで色々忙しかったからだろうか?
「いや、それも言い訳だな…」
そう、言い訳だ。答えはもう出ていたのだ。ずっと前からこの手段は用意されていた。氷霞の名前に霞と緋日が反応したあの日からずっと用意されていたのだ。それをしなかった理由は、
「僕が、怖がってただけか…」
緋日や霞との関係が壊れると思ったから?それもあるだろう。だが、只単純に怖かったのだろう。自分が忘れていた過去を知ることが。皆が話したがらないから余計に恐怖が増えていったのだろう。その恐怖に蝕まれ続けた結果がこれなのだろう。
軽くストレッチをしながらそんなことを考える。
「まあ、今は考えても仕方ない。集中集中」
そう言うと綴はフィールドに向かい足を進めた。そろそろ氷霞も戻った頃合いだろう。
「取りあえずは、氷霞を倒す!無理でも一撃加える!よしっ!」
意気込み歩く足に力を込める。込めすぎてフィールドに出るためのちょっとした階段を踏み外し駆け力が抜ける。意気込みすぎたようだ。苦笑して今度は適度に力を込め歩く。
フィールドに出ると丁度、反対側から氷霞が出てくる。定位置に立ち氷霞を見ると、氷霞の目元がうっすらと赤くなっているのがわかる。それに気づかない振りをして話しかける。
「知りたいことは山ほどある。だから、早く終わらせよう」
綴がそう言うと氷霞は勝ち気な笑みを浮かべ答えた。
「ええ、そうしましょう。勿論、勝つのは私だけど」
こんな時に場違いかもしれないがやはり氷霞は泣き顔より笑顔の方が似合ってると思う。
「やっぱり氷霞は笑顔の方が可愛いよ」
そんなことを思っていたからかそんな台詞が口をついて出てくる。それを聞いた氷霞は顔を若干赤くすると言った。
「それはありがとう。あなたも笑顔の方が可愛いわ」
「それはちょっと複雑な気分…」
そう言うと氷霞は軽く笑っていたがすぐにキリッとした表情になった。
「それじゃあ、そろそろ」
「ああ、始めようか」
そう言うと、構えをとり剣を精製する。精製する剣はいつもと同じ鉄の剣だ。氷霞も氷ではなく鉄の剣を精製している。
「力は使わないんだ?」
「手加減よ。綴が消し飛んだらこの後お話できないでしょう?そっちは何でかしら?」
「秘密兵器だからね!」
「そう、まあいいわ」
そう言うと構えをとる氷霞。
二人を見やり常田先生が右手を振り上げる。
「始めっ!!」
それを合図に氷霞との初めての戦闘が始まった。
メリークリスマスとだけ言っておきます。
サンタサンクルカナ…。
バッドボーイな僕には来ないかもしれません。
フーズバッド!!




