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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第二十七話 警鐘

 戻ってきた二人に綴は先ずは労いと賞賛の言葉を贈った。


「お疲れ様二人とも。とても良い勝負だったよ」


 綴の言葉に二人は満更でもない風に返事する。


「おう、まあ負けちまったけどな!」


「俺もギリギリだったけどな」


「それでも格好良かったよ二人とも」


 謙遜する二人にそう言うと二人は照れたようにそっぽを向いてしまう。珍しく照れたように振る舞う二人に思わずクスリと笑ってしまう。


「そーそー、格好良かったわよ二人とも!!ビシッ、バシッと格好良く戦ってたわ!」


「そうですね。お二人は強いと思ってましたけどまさかこれほどまでとは思っていませんでした」


 立て続けに美来と良子から褒められて更に照れる二人。


「ほんとに凄かったよお兄さん達!こう、心躍る物があったね!うん!」


「そうね、私達じゃとてもじゃないけど真似できないわ」


 後ろの席にいた麗奈とセレナにも賞賛の言葉を貰い、元親は耐えられなくなったのか「あぁぁぁぁぁぁ!」と叫び照れて真っ赤になった顔で言う。


「分かった!分かったからもう止めて!むず痒くてしょうがないから!」


 その反応を見て綴と女性陣は思わず笑ってしまう。綴達を見て「はあ」と一息吐くと美来の横のベンチにドカッと座る。夏彦も元親に続き座る。


 元親は実は褒められるのが苦手だ。イケメンだ何だと自分で言っている元親だがそれは本気ではなく冗談だ。そんなことを言ってばっかりいるのは、相手が自分に呆れるように仕向けて緊張感を和らげたりするために言っているのだ。それを言うことで呆れられることには馴れている。だが、褒められることには馴れていないため褒められるのが苦手なのである。


 それを知っている綴には分かるが元親は今嬉しいのだろう。口の端が微妙に上がっているので間違い無い。褒められるのが苦手だとしても嬉しいものは嬉しいのだろう。それを見て更に笑みを深くする綴。


 そんな綴の視線に気づいた元親は咳払いを一つして話題を変えた。


「そう言えば、夏彦は精製魔法しか使わなかったのはなんでだ?」


 急に話題を振られた夏彦だが話題転換を待ってましたとばかりに直ぐに答える。


「先に言っとくけど手加減とかじゃないぞ?自分の剣技だけで元親と戦いたかったんだ。…迷惑だったか?」


「迷惑なんかじゃないさ!俺も楽しかったしな!それに、俺まだろくに魔法も使えないから逆に夏彦が満足いかなかったんじゃないかと思ってな…」


「そんなことはない。剣技だけで戦って分かったことも多いし満足のいく戦いだったよ。元親の最後のあれには度肝を抜かれたしね」


 最後のあれとは多分隠し持っていた短剣のことだろう。あれには綴も驚嘆せざるを得なかった。


 だが、元親はそれを聞くと苦い顔をして言った。


「あ~あれか…。あれ失敗だしな…」


「確かに、直ぐ壊れてしまったけどアイデアとしてはうまいものだよ。その証拠に俺は焦って距離を取るしかできなかったわけだしね」


「でも、壊れちゃ意味ないだろ。即席で作ったから中身ほぼ空っぽだったしな」


 溜め息を吐きながら言う元親。その元親の言葉に聞き捨てならない事を聞き問いただす。


「え?あれ戦ってる最中に作ってたんじゃないの?あの、一回距離置いたときに」


「んあ?そんな事考えてなかったわ。最後の悪あがきでとっさに思いついて実行しただけだよ。まあ、失敗だったけどな~」


 その言葉を聞き唖然とする綴と夏彦。とっさの精製であそこまで外観を綺麗に仕上げたことにも驚きだが戦闘中のその判断にも驚きだ。焦ることもなく次の手を考える。そんなこと並大抵の人にはできることではない。元親には戦闘のセンスがあるのだろう。


 唖然としている二人に元親は言う。


「どうした?変な顔してるぞ?」


「お前よりはましだよ」


 驚嘆したことが悔しく、つい軽口が口をついて出てしまう綴。だが、元親は気にした風でもなくいつものノリで返す。


「ひでぇ!俺イケメンだし!顔酷くないし!」


「自分のことをイケメンとか言う奴は大抵変な顔なんだよ。イケメンってのは桐生さんとか夏彦とか、あ、あと生徒会長みたいな人のことを言うんだよ」


「なんだと!」


 それを聞くと元親は勢い良く立ち上がり夏彦に指を突きつけて言った。


「よし、夏彦!もっかい勝負だ!勝った方が真のイケメンだ!さあ行くぞ!」


「イヤだよ、疲れたし。それに俺はイケメンじゃないぞ、綴?」


「お前、僕よりかなり顔が整ってるくせによくそんなことを言えたな…。よし戦争だ!表に出ろ夏彦!僕自ら引導を渡してくれる!」


「柊くん自分で言って自爆してるよ…」


 そんな綴達のやり取りを美来と良子は苦笑しながら見ている。すると、麗奈が何かに気付いたのか美来に質問をする。


「ねえねえ、美来ちゃんはなんで綴ちゃんのこと『くん』って呼んでるの?」


「あれ?まだ気づいてなかったの?て言うか柊くんちゃんと説明したの?まさか…」


「したよ!何回も!麗奈が全く聞く耳持たないんだよ!」


 あらぬ嫌疑をかけられそうになり慌てて弁解をする綴に麗奈は小首を傾げる。


「説明って?」


「だから、僕が男の子だって事!」


「男の娘の間違いだろ」


「元親は黙ってろ!話がややこしくなる!」


「へいへい」


 麗奈は元親の言葉に更にその可愛らしい小首を傾げてしまう。


「男の子が男の子の間違い?んん?よく分かんないよ~」


「ほら、元親どうしてくれるんだよ!」


「いや、ごめん。俺も流石に予想外だったわ…」


 元親の言い分も確かに分かる。何せ男の娘の部分に気づいていないのは麗奈だけなのである。他の皆は「元親うまいことを言うな~」という顔をしていたため分かってないという事は無いはずだ。


 因みに言っておくが元親全然うまくないからな!それにまずい方向にシフトしてるよ!


 そんな三人のやり取りを見て見かねたのかセレナが助け船を出してくれる。


「麗奈、元部くんが言った男の娘とは『男』の『娘』と書いて男の娘よ。意味は女の子みたいな男の子という意味ね」


「なる程~そうなんだ~!ありがとセレナ!」


「どう致しまして」


 セレナの助け船のお陰で納得してくれた様子の麗奈。これでようやく元の話しに戻れると思うと、余計な労力を使わせた元親を人睨みする。元親はごめんごめんと目で言いながら苦笑する。


 はあと溜め息を吐き麗奈への説明を再開する。


「まあ、と言うわけで僕は男の子なんだよ。冗談とかじゃなくてね」


「え?…本当に?」


「ああ」


 数秒間見つめ合うと美来と良子に視線を移す。二人がうんうんと頷くのを見ると突然麗奈の顔がくしゃりと歪み泣き出してしまう。誤解が解けて驚かれることはあっても泣かれたことはないのでオロオロと慌ててしまう綴は、取りあえず泣いてしまった理由を聞いてみることにした。


「ちょ、なんで?どうしたの?」


「……い……」


「ごめん、聞こえないよ。もう一度お願い」


 そう言うと麗奈は声を大にして言った。


「よく考えたら綴ちゃんにおっぱいいっぱい触られてるぅぅぅぅ!!」


「はあっ!?」


 突然そんなことを言い始める麗奈に流石に驚きを隠せない六人。だが驚いているのも少しの間で女性陣は鋭い視線で綴を見てくる。


「柊くん。麗奈ちゃんのおっぱいを触ったってどういう事かな?そこの所くわ~しく聞いてみたいかな?」


「そうですね…女顔なのを良いことにセクハラなんてするなんて…」


「君…麗奈になんて事を……っ!!」


 絶対零度の視線を向けてくる女性陣に綴は声をひきつらせながらも弁解する。


「ちょ、ちょっとまって!触ってない!断じて触ってない!」  


「言い訳は後で聞こうかしら?」


 そう言いながら拳を握り指の骨をバキバキ鳴らせながら詰め寄ってくる美来。慌てて身を引くが後ろには良子が居るので肩を両手でがっしりと押さえられてしまう。肩がメキメキと音を鳴らすので結構痛い。


「ちょっとまって!本当に誤解だから!ちょっとセレナ!悪ふざけしてないでちゃんと弁護して!」


 綴がセレナに言うと彼女は作り物の怒気を引っ込めてイタズラっ子なら笑みを浮かべて言った。


「ごめんなさい。ちょっと悪乗りしちゃった。大丈夫この子のことだから自分からハグをして当たったり腕組んだときとかの事を言ってるんでしょ。そうでしょ?」


 そう言うとセレナは麗奈の頭をよしよしと優しくなでる。


「…うん、思い出したら恥ずかしくて…」


 それを聞くと美来と良子は怒気を納めて手を離してくれる。


「なんだそんなこと…」


「分かってくれた?」


「ええ、早とちりしてしまってすみません」


「分かってくれればいいよ…」


 捕まれた肩を押さえぐるぐる回してならす。良子はその細腕に似合わない怪力であった。


「て言うか、セレナはいつから気づいてたの?」


「うん?」


「僕は説明したけど二人とも冗談だと思って流してたでしょ?それにさっき怒る前に口元が少し笑ってたから。だから、どこで気づいてたのかなと」


 セレナは可愛らしく微笑むと言った。


「最初から」


「だったら麗奈にちゃんと説明しといてよ!」


「それじゃあ面白くないでしょう!?」


 物凄く理不尽な理由で黙っていたらしい。そのあまりの開き直りっぷりに綴は言葉が出ずに固まってしまう。


 と、綴が固まっているうちに復活したのか麗奈が両手で覆っていた顔を上げる。


「ううっ、ごめんね綴ちゃん?ずっと冗談だと思ってた」


「いや、分かってくれれば大丈夫だよ」


 その言葉に元親もうんうんと頷き肯定する。


「分かる。分かるよその気持ち。俺も小学生のころ初めてあった時は女の子だと思ったしな。因みに初恋の相手も綴だ。告白したら男だという事実を知ったと言う苦い思い出付きだ」


「え!?そうなの!?」


 流石の夏彦も今の発言には驚いたらしく声を大きくする。


「え、告白とされたの?本当に?」


 信じられないのか美来も綴に聞いてくる。綴は嫌そうな顔をするが、もう今更隠しても仕方がないと思い言った。


「本当だよ。僕も今の今まで忘れてたよ…」


「俺は忘れたこと無いぜ。お前を見る度に思い出すからな。あの時のショックのデカさといったらもう…」


 元親としても苦い思いでである事は変わらないのでイヤそうな顔をする。嫌なら言わなきゃいいのに。


「二人とも付き合い長いんだね」

 

「ああ、まあね。小学校の頃からの付き合いだよ」


「そんなに?」


「緋日も小学生以来の知り合いだよ」


「確かに、仲いいしな二人とも」


 と、そんな話をしている内に五つほど試合が終わっていた。話に夢中で全然見ていなかった。


「試合、全然見てなかったな…」


「試合に集中するか…」


 そう言うと皆試合を見るのに集中する。だが、やはり二人の試合の後だと迫力に欠けてしまう。そう思いながら観覧席を見回すと緋日と氷霞が居ないことに気づく。


「悪い、ちょっとお手洗い行ってくる」


 そう断り席を立ち通路に出る。観覧席から出て二人を探す。しばらく探していると声が聞こえてきたので声の方に進路を変更し歩く。段々と近づいているのか声が徐々に鮮明に聞こえてくる。二人分の声が聞こえるので二人いるらしい。


「緋日か?」


 どうやら片方の声の主は緋日のようだ。探していたので丁度良い。


「それと、氷霞か?」


 こちらも探していた相手なので丁度良いが、


「二人とも喋ってるだけみたいだし、ほおって置いても大丈夫かな」


 そう判断し踵を返そうとしたが次の緋日の発言に返そうとした足を止めてしまう。


「それじゃあ、六武神であるアナタが綴にまた近づく理由はなに?三年前も裏切っておいてまた綴を裏切るの?」


 止まってしまった足。この話は聞いてはいけないと頭の中で警鐘が鳴り響く。警鐘に従ってその場を去ろうとしても足が固まってしまって動かない。思考と体が真逆のことをしている感覚。


「…綴だけじゃない。霞さんだって陽子さんだって…私だって信じてた!」


「私だって悪いとは思ってるわ…。でも、姉様が」


「そうやって!困ったら直ぐ姉様姉様って…!私は、瑞樹の話をしてるんじゃない!アナタの話をしてるの!アナタの考えが聞きたいの!瑞樹の考えなんて聞いてない!」


 氷霞が息を飲む音が聞こえる。綴は、ここまで緋日が感情的になるのは珍しいなと現実逃避気味に考える。


「私だってあんな事したく無かった!それにあんな目に皆を巻き込むのも嫌だったから!………だから、離れたの…皆から…」


 あんな事?あんな事って何だ?


 綴にはいくら考えても分からなかった。それどころか考える度にその思考を邪魔するように頭痛がしてくる。その頭痛は考える度、二人の会話を聞く度に激しくなっていく。もうイヤだ聞きたくないと思っても二人の会話は耳に入ってくる。


「…綴は、今もアナタを信じてる。過去のことじゃないわ、今のアナタを信じてるの。だから、もうあんな思いはさせないで。あんなに抜け殻になった綴はもう見たくない…」


「分かってるわ、もうあんな失敗は繰り返さない。力も制御できるようになった。あの日みたいな事はもう起こらない」


「そうじゃない!力のことは、どうでも良くはないけど、今はそんなことを聞きたいんじゃない!……もう、綴を裏切らないで」


「っ!!…ごめんなさい。私はもう綴のそばを離れないから。それだけは信じて」


 二人の会話の殆どは理解ができない。いや、したく無いだけかもしれない。それとも本当に理解できないのかもしれない。ただ、自分のことを話しているのは理解できた。だから、二人が感情をむき出しにしていた理由を知らないままなんて二人に悪い事をしているのだ。


 やまない頭痛に苛まれ続けるも無理矢理に頭を働かせる。瑞樹、三年前、裏切り、力の制御、あの日…。


 綴が思考している間も二人の会話は続く。


「私が綴のそばに来た理由は彼に私の力を制御させるためよ」


「やっぱり、あの力はアナタが…。なぜあんな事を?」


「あの日、彼はあのままだと死んでいた。そうさせないためにも必要な処置だったの」


 瀕死の自分、必要な処置。その二つのワードには引っかかるものがあった。それを辿っていくと思い出す。


 夢で見たデパート火災事故か…。


 それに思い至った瞬間ビジョンが見える。


 涙に塗れて鮮明ではない視界には吹き飛ばされる自分映った。それを見てうずくまる視界の主はしばらくするとふらふらと立ち上がるとゆっくりとした足取りで綴に近づいていく。綴の服は所々が裂けて血が出ている。綴は上体を少し起こすとこちらを見て弱々しく微笑む。そこでビジョンが消えた。


「……っ!!ハァハァ…ハァ…」


 荒くなる息を整える。今のビジョンは何だったのか、そんなことを考えていると今まで感じていた頭痛が治まっている事に気づく。


「おっと」


 軽く目眩を起こしふらつくと前に足をだし踏みとどまる。どうやら足も動くらしい。そこまで考えると急激な吐き気に襲われ急いで少し先のトイレに駆け込む。足音で二人に気づかれるのではないかという懸念が頭をよぎったがそんなことを気にかけている余裕は無かった。


「うっ、おえぇ、えっ、うっ…………ハァハァ…うっ」


 トイレに駆け込むや否や洗面台で吐く。お昼ご飯を全て吐き出し胃が空っぽになると吐き気も止まった。鏡を見ると自分の蒼白になった顔が映る。


「何だって言うんだよ、一体…」


 二、三回うがいをしてトイレから出ると二人の所に行こうかとも考えたが皆の元に戻ることにした。


 観覧席に戻り皆の所に戻ると綴に気づいた元親が話しかけてきた。


「おう、遅かったな綴…ってどうした?顔色悪いぞ?」


 目ざとく綴の顔色に気づいた元親に周りの皆も反応する。


「大丈夫か?保健室行くか?なんならおぶってくけど」


 心配してくれる夏彦にいいと首を振り席に着く。心配そうに見つめていたが、ダメそうなら保健室に行くようにとくぎを差すと試合に視線を戻した。


「そう言えば、今何試合目?」


「十八。そろそろ綴の…って終わったな。次の次綴の試合」


「ありがとう。それじゃあ、僕は控え室に行くよ」


 そう言って立ち上がり移動しようとする綴の手を誰かが掴む。振り返ってみると良子が心配そうな顔をして綴の手を掴んでいた。


「あの、無理しないでください。もしダメなようでしたら無理しないで保健室に行ってくださいね?」


「うん、分かってるよ。それじゃあ、行ってくる」


 そんな良子の手を優しく振り解くと歩き始める。


「頑張れよ!」


「頑張って!」


 と、元親達の声援を背中に受け控え室へと向かった。


 色々と考えねばならないこともあったが今は試合に集中しようと意気込んだ。だが、綴の頭には先ほどのビジョンや二人の会話などがこびりついて離れてはくれなかった。



 


 


 


  

その内桐生さんの過去編も書いていきたいと思います。

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