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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第二十六話 元親VS夏彦

 

 避けて、いなして、反撃しそのまま攻める。相手のカウンターを避け距離を取る。戦闘を開始してから僅か五分。二人の戦いはその勢いを留めることを知らない。自分の思いのままに自らの武器を奮う。考えることは只一つ、相手に己の剣を届かせること。


 戦闘を始めてから、始めて距離を置き睨み合う両者。たった五分だが密度の濃い戦闘により互いに疲れた顔をしている。だが、二人の顔は最初から笑みを張り付けたままだった。疲れなど微塵も感じさせないかのように笑う。


 剣劇の間も互いを賞賛しその技を奪い自らの糧にする。そのような関係を


好敵手ライバルって言うんだろうなきっと…」


 感嘆の声が綴から漏れる。


「そうなんでしょうね…。二人とも、きっととっても疲れてるのになんだか、良い顔をしています」


 答えを求めた質問ではなく只の独り言だったので答えが返ってきて多少驚いたがその内容はすんなり綴の耳に入ってくる。その言葉に自然と口元が綻ぶ。


「そうだな、二人ともとっても良い顔だ。なんだか羨ましいよ」


「きっと柊くんも直ぐに見つかりますよ、ライバル。いいえ、もういますね二人も」


 今は隣に座る良子のその言葉に軽く目を見開く綴であったが、すぐに笑顔に戻り二人の戦いに目を向ける。


「そうだといいなぁ…」


「きっとそうですよ」


 そんな会話をしている中でも二人の戦闘は続く。お互いに笑顔を張り付け心の底からこの闘いを楽しみながら。


*********************


 喉がカラカラだ。唾を飲みのどを湿らせる。緊張している。それを自覚したとき自然と笑みが浮かんだ。緊張してると言うことは慢心していないという事。自分の心から自惚れが消えて元親は嬉しかった。

 

 正直に言ってまだ不安はあった。心のどこかでオルトロス戦を生き抜けたのだからこれくらい楽勝と思っている自分がいるのではないかと。だが、それは杞憂だったと知って素直に嬉しかった。


「そこまで!!」


 控え室のモニターから響く常田先生の声。どうやら、試合が終わったようだ。次は自分たちの番だ。そう思うと先程湿らせたはずの喉がまた急速に渇いていく。身体が勝手に萎縮してしまう。そんな感覚すら嬉しくて一層笑みが濃くなる。


 両手で自分の両頬を叩き気合いを入れる。


「よしっ!行くか!」


 勢いよく立ち上がりフィールドへと向かう。相手は見知った顔。つい一週間ほど前に出会った気のいい友人。そんな相手と全力でぶつかり合える。そう考えるだけでワクワクしてきた。


 フィールドに立ち友人を見据える。緊張が高揚により上書きされる。身体を完全に支配できる感覚に元親は微笑む。


 友人の夏彦を見やると夏彦も笑みを浮かべこちらを見ていた。


*********************


「そこまで!!」


 試合が終わった。次は俺の番だ。瞑っていた目を開き外していた眼鏡をかけ直す。軽く頬を叩き気合いを入れる。


「よし」


 ベンチから立ち上がり軽く身を捻り身体をほぐす。何回か深呼吸をし目を瞑りこれから戦う相手のことを考える。


 約一週間前に出会った気さくで馴染みやすい友人。人付き合いがあまり得意でない夏彦も彼とはすぐに仲良くなることができた。夏彦から歩み寄ったわけではなく向こうから歩み寄ってきてくれた。他人に過干渉されることは苦手なのだが彼のことはすんなり受け入れることができた。きっと彼の人徳なのだろう。そんなことを考えて目を開ける。


 モニターを見ると先程のペアはもうはけていた。それを見て夏彦はフィールドに向かった。顔は自然と笑顔になっていた。彼との戦いは夏彦にとって得るものが沢山ある。噂で聞いた話では彼はAクラスの妖魔と戦い生き残ったそうなのだ。Aクラス相手に生き残るのは運もあると思うがやはり実力が無ければ生き残ることはできない。そんな相手と戦えると分かった時は心底嬉しかった。


 などと考えている内にフィールドに出る。丁度、彼も来たところなのか入り口の前にいた。それを見て定位置に歩く。


 定位置につき彼を見ると自然と笑顔になる。見ると彼も笑顔だ。


 ああ、同じ気持ちなのだろうか…。


 お互い戦うのが楽しみで仕方ない、そうならば嬉しい。


 元親を見据え夏彦は聞いてみた。


「お前も戦うのが楽しみだったのか?」

 

「おうよ!だってお前強そうだしな!基礎練習の時もお前は余裕の表情でこなしてたし。お前は?」


 そう言いながら元親は軽く準備体操をしている。


「基礎練習に関してはお前もだろ?古武術だっけか?身のこなしも綺麗だし体力もあるからな、こいつはできるやつだって一目で分かったよ。それに」


「それに?」


「お前はAクラスを相手に生き残ったってきいたからな。そんな実力者と戦えるなんて心が踊らない方がどうかしてる」


 夏彦の言葉を聞き元親はやや顔をしかめて言う。


「俺は生き残っただけだよ。倒した訳じゃねえしなにもできなかった。…まあ、そんなことはいいや。それより、さっさと始めようぜ!」


「…そうだな、そろそろ始めるか」


 お互いに武器を精製し構えをとる。常田先生が二人を見やり準備が整っているのを確認すると右手を振り上げ言う。


「始めっ!!」


 常田先生の掛け声を聞き二人が疾走する。夏彦は槍のリーチを生かし元親の射程にはいる前に突きを放つ。それを元親は少しだけ屈んでかわし距離をつめ肉迫してくる元親。突いた槍の先端を上に素早く回し槍の後ろの部分を元親に突き出す。元親は焦ることなく左手の短剣ではじき、右手の短剣で下から上へと切りつけてくる。狙いは顎だ。当たれば脳震盪のうしんとうを起こすであろうその一撃を上体をそらし何とかかわす。


 左足を少し下げバランスを崩そうとしている身体を支える。元親の左からの横なぎの一閃を地面に槍を突き立て防ぐ。


 突き立てた槍に体重をかけ体制を立て直し槍の後ろまで素早く跳び、両手で槍を掴みそのまま上に振り上げる。振り上げた一撃を元親は短剣を交差させて受け止める。夏彦は素早く槍を引き胸部目掛けて突きを放つが、元親は左へとサイドステップしそれをかわす。


 とっさに追撃をしようとするが、人体の構造上肘は外側を向いているため右腕を曲げることはできない。それを狙っての動きだと言うことに気づき歯噛みする。


「くっ!!」


 迫ってくる元親はわき腹に向かい突きを放ってくる。その攻撃を、槍を勢いよく引き戻し短剣の腹に当てて軌道をそらすことによって回避する。引いた勢いのまま右に回転し横凪に槍を振る。が、元親はしゃがんでかわし立ち上がる勢いそのまま突きを放ってくる。左肩を後ろに引き上体をやや右にそらし回避する。短剣が服を掠め内心ヒヤッとしたが、慌てることなく右足を引きバランスをとりつつ右斜め下から槍を振り上げる。


 元親がバックステップでかわしているうちにすぐさま体制を整え追撃する。連続して突きを放つがその全てを短剣でいなしかわされる。服をかすめたりもするのだがそれ以上の攻撃を当てられなかった。隙をついた元親のカウンターをかわし距離を取る。


 元親はすぐには追撃してこず夏彦の出方をうかがっている。


 わずか数分の戦闘にもかかわらず夏彦の息は上がっていた。よく見ると元親も息が上がっている。それだけ密度の濃い剣戟だったのだろう。両者ともに体力は残っているが戦闘は次の剣戟で最後になるだろう。そのことを確信し夏彦は槍を構え直す。


「…シッ!!」


 口から息を吐きながら駆ける。元親を肉迫し攻撃を仕掛ける。夏彦がこの剣戟をもって最後だと思ったのはある考えがあったからだ。


 聞いた話によると元親は精製魔法を習得したのはつい先日のことだ。元親の家の古武術は徒手格闘、つまり武器を使わない武術なのだ。武器を使わない以上、精製魔法も習う機会はない。


 そのため、精製魔法を習得したのがつい先日になったのだ。綴はそれを見て釈然としない顔で元親を見ていた。綴としては教えている自分より早く修得したのが気に入らないらしかった。数日でできるようになったことから元親には才能があるのだろうと膨れっ面で言っていたのが印象的だ。確かにたったの数日でできるようになったのは凄いと思う。


 だが、できるようになって日が浅いため形だけ作れていて中身が薄いため実戦で耐えられるとは思えない。と言うことは、何度も剣戟を続けていればいずれは壊れる。


 その考えがあったため倒すにしても倒されるにしてもこの剣戟をもって最後になるだろうと踏んだのだ。


 向こうの武器を破壊すれば俺の勝ちだ。防御に専念してカウンターを入れられれば…!


 考える間も剣戟は絶え間なく続く。しばらく続けると元親の短剣にひびが入る。


 後少し!!


 そう思い気合いを入れ引いた手を思い切り突き出す。


「はああぁぁぁっ!!」


 短剣を交差させ受け止める元親。丁度交差している所を突くと元親の短剣が音を立てて砕け魔力に戻り霧散する。砕ける短剣を見て目を見開く元親。


 これで勝ちだ!


 そう思い一度槍を引き再度突きを放つ。だが、元親のニヤリと笑い腰に手を回す。それを見て危機感を覚え突きだした槍を引っ込め後ろに下がる。夏彦が先ほどまで居た場所を短剣が通過する。服をかすめて通過する短剣を見て背筋に冷や汗が流れる。


 後ろに跳びさらに距離を取ろうとするが間髪入れずに突っ込んでくる元親。両手には先ほど壊したはずの短剣が握られていた。多分、自分の精製魔法が不完全なのを考慮して予備を腰に隠しておいたのだろう。その考えに至らない自分に歯噛みをする。


 体制の悪い夏彦に詰めてくる元親の攻撃を苦し紛れに槍で迎撃する。だが、苦し紛れの攻撃で防げるほど元親は甘くない。


 この勝負、俺の負けか…。


 そう思ったが次の瞬間予想外のことが起こった。元親の短剣と夏彦の槍が衝突すると短剣が破砕音を上げて壊れたのだ。夏彦は驚愕するも好機だと感じ攻撃を仕掛ける。元親はそれを防ごうと短剣を構えるも、先ほどと同様に短剣は槍と衝突すると砕けてしまった。勢いそのまま元親を切りつける。


「そこまでっ!!」


 先生のその声を聞き当たる直前でピタリと止める。槍を霧散させ構えをほどく。先生の方を見ると先生は声高々に宣言した。


「勝者、真田!!」


 その声が闘技場に響き渡った直後拍手が聞こえた。音の方を見ると綴が笑顔で拍手をしていた。周りの連中もそれを見て拍手をする。拍手の音が次第に大きくなる。


 同クラス他クラス関係なしに皆が握手をしているのだ。その拍手を受け夏彦は照れくさかったが素直に嬉しかった。照れくさくて少し赤らめた顔を下げていると元親がその場に後ろ向きに寝転んだ。


「ああ~くっそ~!!負けた~悔しい~!!」


 そう言うと手足を伸ばし身体の力を抜く元親を見て苦笑する。


「悔しいって言う割には良い笑顔だな」


「あたぼーよ!自分の弱点しれたわけだし得ることあったしで、俺的には万々歳だからな!」 


「そうか…それは俺も同じだな」


 身体のバネを生かし立ち上がると元親は強気な笑顔を浮かべ言った。


「だけど、次は負けねえ!ランキング戦で戦うようなことがあれば次は勝つ!」


 拳を突き出してそう宣言する元親に夏彦も負けじと勝ち気な笑顔を浮かべて言った。


「望むところだ。だけど、悪いが次も勝たせてもらう」


 夏彦も拳を突き出し元親の拳に軽くぶつける。お互いにニヤリと笑うと踵を返し控え室に戻っていった。


 元親VS夏彦の戦いは夏彦の勝利で幕を閉じた。


 


   

 

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