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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第二十五話 模擬戦

 転校初日から四日後の金曜日、綴の制服は未だ届くことはなくもうすでに着ることに違和感のなくなってしまったジャージで今朝も登校した。


 今日も午前中はそつなくこなし昼休みも過ぎ、午後の授業に入った。金曜日の午後の授業は実習を二時間連続で行う。クラスは麗奈のクラスと合同だ。

 校庭に出て準備体操を済ませて整列すると、常田先生は相も変わらず元気な声で話を始めた。


「今までは基礎体力づくりをしてもらっていたが今日はちょっと皆の実力を見せてもらおうと思う!」


 その理由は、五月も終盤に差し掛かってきているので学年ランキング戦のために実力を見ておきたいとかなんとか。補足だがランキング戦は実は自由参加らしい。戦闘向きで無い生徒もいるかららしいのだが、以前の夏彦の説明の時には聞かされなかったので後で聞いてみると、夏彦は自分が出ることを前提に話していたため説明をし忘れたのだという。

 そんなこともあり、先生が自ら生徒の実力を見て向いてるやつとそうでないやつを見極めたりするらしいのだ。


 なお、この実力をみると言うのもランキング戦に参加する希望者だけらしい。他の生徒は今後に役立てるために見学する。


「よし、それじゃあ希望者は前に出てこい!」


 そう言われ綴は立ち上がり前にでる。前に出て行く人の中で当然見知った顔も出てくる。先ほど言った夏彦や元親、美来に緋日、それに氷霞もいる。


 氷霞…手加減してくれよマジで…。

 そう思い見ていると、氷霞と目があった。彼女は心配しないでと目で訴えてきた。まあ、実習の授業を見ているとある程度力はセーブしているらしく見た目の身体能力は綴とさほど変わらなかった。

 良子と麗奈、セレナは参加しないらしく姿はない。


「ふむ、四十人か。まあ、多い方だな。よし、それでは二人一組でペアを作ってくれ!その二人で模擬戦をやってもらう!」


 言われすぐに動き出す綴。もともと組めと言われれば誰と組むかを決めていたのだ。目的の人物の所まで行き声をかけた。


「僕と組まないか、緋日」


 そう、緋日だ。緋日とは姉さんの稽古の時に時たま剣を交わしているのだ。それに、相手の力量がどれほどのものなのか知っていた方がどれくらい力を使っていいのかが分かるためでもある。そのような理由で僕は緋日に声をかけた。


「ええ、もちろん、私も綴を誘おうと思ってたの」


「それなら良かったよ。お互いの力量を知ってた方がやりやすいしね」


「それもそうね…だけど」


「だけど?」


「こう言ってはなんだけど、相手になるのが綴ぐらいしかいないってのもあるわ」


 聞く人が聞けばなにおと思うかもしれないが、綴としては納得する言い分だった。なぜなら、緋日も姉さんとたまに剣の撃ち合いをしているからだ。剣の撃ち合いをしているからと言うとそれだけのことと思うかもしれないがそれは違う。何せ中途半端に剣を振れる人が姉さんと剣の撃ち合いをしたところで撃ち合いにすらならないのだから。姉さんの圧倒的技量の前では防ぐのがやっとで攻撃に転じることができない。防御に徹するので一方的に打ち付けられてるのみ。そのため、撃ち合いにはならないのだ。

 

 だが、緋日は違う。緋日は姉さんの攻撃を防ぎ時には受け流し、その時できた隙をねらいカウンターを仕掛ける事ができる。姉さん相手にそんなことができるのは僕が見てきた中で更に僕を含め両手の指で数えられるほどだ。


 因みに、姉さんの剣の技量はとてつもなく凄い。僕は多少の善戦はできるが今まで勝ったことは一度として無い。それどころか剣のみの戦いで姉さんが負けたところを僕は一度として見たことがない。それだけ姉さんは剣を持たせると凄いのだ。


 そんな化け物じみた姉さんの相手をしていては周りの人では物足りないのも仕方のないことであろう。


 だが、それでも周りの人に聞かれれば反感を買ってしまうのも事実。なので周りに聞かれないよう顔を近づけて声を潜めて言う緋日。だが、


「それは聞き捨てならないな」


 緋日のその発言を耳ざとく聞きつけ声をかけるやつがいた。声の方を向くとクラスでは見たことのない顔なので他クラスの生徒なのだろう。声の主は、筋骨隆々で背丈は百八十を優に越えるだろう。短く切ってある前髪の下には好戦的な笑みを浮かべていた。


 その、男子生徒を見た緋日は心底面倒くさそうな顔をすると言った。


「何かしら、重森くん」


 この二人は、どうやら面識があるらしい。初対面の綴が入っても場を荒らすだけになると思い静観を決め込む。


「だから、聞き捨てならねえって言ったんだよ、神崎」


「聞き捨てならないもなにも事実でしょう?あなたじゃ私には勝てないわよ。去年の模擬戦でぼろ負けしたの忘れたの?それに、盗み聞きとは趣味が悪いんじゃない?」


「それは、昔の話だッ!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る重森。どうやら、緋日にぼろ負けしたのは本当らしい。


「お前に負けてからな、体を鍛えたんだよ。もうあの頃の俺とは違ぇ!」


 ゴリさんの発言に呆れた風に息を吐く緋日と綴。これに関しては綴も呆れざるを得ない。

 その二人の態度に重森はさらに怒気を強める。


「なにがおかしい!」


「だって、ねえ…」


 緋日はそう言うと僕を見てくる。同意なので鷹揚に頷いてみせる。


「だから、なにがおかしいって聞いてんだよ!」


「あのね、体をいくら鍛えようが一緒に技も鍛えなくちゃそんなの筋肉ダルマがた

だ棒を振ってるのと同じよ。そんな攻撃私に当たると思ってるわけ?」


「なっ!?」


 先ほどよりもさらに顔を真っ赤にする重森。否定しないところからすると、どうやら図星らしい。


 どうやら重森は少し思いこみが激しく一度思いこむと周りが見えなくなるタイプらしい。そのため、当たり前のことも失念してしまう。


 そんなことを考えているとふと視線を感じる。見てみると常田先生がこちらを見ていた。先ほど重森が怒鳴ったので何事かと見ているのだろう。

 これ以上やると先生が来てしまうので綴は場を落ち着かせに入った。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。これ以上やると常田先生来ちゃうから。この話はこれでお終い、いい?」


 綴としては面倒ごとは避けたいので止めに入ったのだが、どうやら重森にはそれが気にくわないらしく語気を強めて言ってくる。


「なんだよてめぇは、今まで黙ってたんだから最後まで黙ってろよ!それに部外者が話に入ってくんじゃねえよ!」


「ちょっと、綴に当たらないでよ。…もう良いわ、行きましょう。これ以上は時間の無駄」


 そう言って、綴の手を引いてこの場を去ろうとするが手を引かれている綴の肩を重森が掴んで止める。


「待てよ!話は終わってないだろ!」


 唾を飛ばしながら言う重森に緋日がそろそろ我慢の限界に達した。


「いい加減にしてちょうだい。…いいわ、そんなに身の程を知りたいなら相手をして上げる」


 堪えきれない怒気を孕んだ緋日の声に重森は一瞬たじろぐがすぐに顔に笑みを張り付かせる。その笑みは最初のように不適な笑みをしていたが、綴には虚勢を張っているようにしか見えなかった。


「…やる気になってくれたかよ。それじゃあ」


「ただし」


 重森の台詞を遮り緋日が言う。


「な、なんだよ…」


「これで私が勝ったらもう変に突っかかって来ないでちょうだい」


「良いだろう。…んじゃあ、その代わり…」


 そう言うと重森は下品な笑みを浮かべて緋日を見る。その笑みを向けられ緋日は不快感を露わにする。


「その代わり、お前が負けたら何でも一つ俺の言うことを聞いてもらうぜ」


「…いいわ。どうせ、負けるのはあなたなんだから」


「ちょっと緋日!」


 重森の提案を飲む緋日に慌てて待ったをかけようとする綴に、緋日は綴を見て言った。


「大丈夫よ、私の強さはあなたが知ってるはず。それとも、私を信じられない?」


「そう言う訳じゃないけど…」


「そう、なら信じて」


 緋日にそう言われてしまうと綴には反論の余地はなかった。綴が黙ってるのを肯定と受け止め緋日は重森に向き直る。


「それじゃあ重森くん、闘技場で…。行きましょう綴」


 それだけ言うと緋日は後ろを向き歩き始めようとして止まる。緋日は綴の顔を見ると言った。


「そう言えば、綴のペアがいなくなってしまうわ。どうしましょ?」


「あ…」


 綴も失念していた。緋日が重森と組んでしまうと必然的に綴の組む人がいなくなってしまう。どうしたものかと考えていると声をかけられる。


「それなら私と組みましょう」


 そう言って声をかけてきたのは氷霞であった。どうやら氷霞の方も組む人がいないらしくあぶれていたらしい。他に組める人も余っていないので綴は二つ返事で承諾し氷霞と組むことにした。


 ペアが決まり一度集まるとそのまま闘技場と呼ばれるところへと移動を開始した。校庭でやるのではないのかと緋日に聞いてみたところ、曰わく、校庭は基礎運動や武具の扱いの時には使用するが、事魔法が絡むと使えないらしい。その理由は、校庭に穴があいたり校舎に流れ弾が飛んできたりして修繕に費用がかかったり危険だったりするかららしい。なので、魔法を組み込んだ戦闘訓練や模擬戦は闘技場やそれらに適する施設で行うんだとか。


 それでは、闘技場とは何なのかと聞いてみると、曰わく、闘技場とは魔法戦闘訓練時専用室というのが正式名称らしい。長いので生徒や教員も闘技場と呼んでいるらしい。闘技場は対魔法用特殊加工ガラスなどその他衝撃吸収剤など物理的なものにも対応できるものを使っているらしいので、ある程度の威力の魔法や斬撃や銃撃にも耐えられるそうである。


 そんな説明を聞きながら闘技場に向かった。闘技場は一見すると体育館のようにも見えたが、中に入ると体育館とは全く違った。闘技場は楕円形になっておりサッカースタジアムのような観覧席も設けられていた。観覧席の最前列には対魔法用特殊加工ガラスが二メートル程の高さまで延びている。実際に戦うであろう所は固い地面となっており、凸凹などがなくきちんと馴らしてあった。


「よし、それじゃあ模擬戦をするものは控え室へ、見学するものは上に行ってくれ」


 常田先生がそう言うと各々行くべき所に歩き始める。綴もみんなの後に続き歩く。


 歩く綴の隣に氷霞が並ぶ。顔を見ると何やら少し真面目な話らしい。

 氷霞は綴と目を合わせると声を潜めて言った。


「綴、あなたの力のことなんだけど」


 どうやら、綴の氷魔法の話らしい。多分、力を使うなと言いたいのだろう。そのくらいは綴も心得ているのでハッキリと頷き言ってみせる。


「ああ、分かってるよ。使うなってことだろ?大丈夫、僕でも氷霞の懸念していることは分かっているよ」


 実際、氷魔法を使えばクラスの皆からは確実に距離を置かれるだろう。いや、クラスメートだけではない、学校中に噂が流れて姉さんや緋日、元親達にまで迷惑をかけることだろうからそれだけは避けたい。


 そう思っていたので、氷霞の次の一言にはかなり驚愕した。


「いいえ、逆よ。使いなさい」


「え?」


 氷霞はなにを言っているのか?力を使え?そんなことをしたら確実に先程懸念したことが現実のものになるだろう。


 氷霞の真意が分からず声を出せずにいると氷霞が口を開く。


「いい、綴。力を使っても何の支障も無いわ。逆に、使わなかったらただでは済まないと思いなさい。私も、少し本気を出すから」


 そう言うと氷霞は綴を置いてさっさと歩いていってしまう。いつの間にか止まっていた足を動かし綴も歩き始める。


 綴には氷霞の真意は分からなかったが、模擬戦で本気を出さなければ重傷になることは理解ができていた。


*********************


 模擬戦のトップバッターは緋日VS重森だった。綴の大本命である試合が最初に見れるので柄に合わず少しワクワクしていた。


 模擬戦をする生徒は、今行われる試合の次の試合のペアは控え室へ、それ以外は上の観覧席で見学という形になっていた。一度控え室に向かったのは場所を知ってもらうためらしい。


 とまあそんなわけで、綴は今観覧席で試合を見学している。因みに綴の順番は一番最後である。


「始まるぞ」


 隣に座る夏彦に言われ意識をフィールドへと向ける。フィールドには十メートル程離れたところに二人が立っていた。それぞれの手には魔法により精製された武器が握られている。緋日の手には日本刀、重森の手には肉厚な大剣が握られていた。両者の武器は相手を切らないように刃を潰した形で精製されている。


 試合開始前の緊張感がその場に漂う。綴は緊張で唾を飲み込む。少しの静寂の後、常田先生が力強く右手を腕に振り上げた。


「始めっ!!」


 その声を合図に戦闘が始まった。


「!?」


 勝負は一瞬だった。勝ったのは…


「勝者、神崎!!」


 一息の内に相手を屠ったのは緋日であった。膝から崩れ落ちていく重森を見ても大半の者は何が起こったのか分からなかっただろう。だが綴にはちゃんと見えていた。


 緋日は合図が上がった瞬間に自身に加速魔法をかけ思い切り踏み込み重森を居合いで切り捨てたのだ。余りの速さに度肝を抜かれたが驚くのはそこだけではない。緋日の一連の動作には一切の無駄がなく流れるような太刀筋であった。その姿はさながら流麗。そんな言葉が似合うほど緋日のその一撃は美しかった。


 緋日は刀を消すと綴のいる方を向き笑顔でブイサインを送ってきた。その笑顔に綴も思わず微笑み呟く。


「全く、僕の知り合いはとんでもないのばっかりだ」


 緋日VS重森。この戦いは開始たったの数秒で緋日が勝利をもぎ取り幕を閉じた。


*********************


 その後の試合はしばらく退屈なものが続いた。最初の試合がインパクトがありすぎだったため仕方ないと言えば仕方はないのだが、それでも退屈なものには変わりなかった。


 勿論だからといって試合を見ていないわけではない。退魔師になりたての綴にとってはどんな試合も観察して良いところは真似しなくてはいけないのだから。


 そして、九試合目が終わり次の試合に差し掛かる。この時綴の気分は少し高揚していた。


 それが、顔に出ていたのか分からないが後ろの席の美来に声をかけられる。


「何だか楽しそうだね~柊くん」


「それは、勿論!だって次は」


 一度後ろを振り向き美来を見たが直ぐにフィールドに視線を戻す。次のペアが現れたからだ。その次のペアとは、


「次は元親VS夏彦なんだから!」


 元親と夏彦なのだ。


 二人がフィールドに入り十メートル程距離を開けてお互いに止まる。


 二人は同時に武器を精製して構える。元親は刃渡り三十センチの短剣を二本、夏彦は二メートルはある槍を構えている。


 常田先生が二人を見やり準備が整ったのを確認すると、右手を上に振り上げ宣言した。


「始めっ!!」


 今、元親VS夏彦の戦いが幕を開けた。


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