第二十四話 勘違いは続く
戻ってきた夏彦にご飯を食べながら事の顛末を話す。
「なる程な、そんなことがあったのか…」
「お前、結構騒いでたのに気づかなかったのか?」
「全然」
こいつはマイペース過ぎるな…。
改めてそう思う綴であったが気になることがあったので話題を変えた。
「まあ、いいや…。それより、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」
「ん?なんだ?」
「二年の二人組が順位がどうのって言ってたからさ」
「ああ、それか。順位ってのは…」
いろいろ説明してもらったが要約すると、この学校には学年ごとに順位があるらしい。順位を決める方法は半年に一回行われる順位を決める大会があるらしい。そこで、トーナメント形式で行われるらしい。総当たりでないのは時間がかかるのと審判や生徒が疲れがたまって怪我をしやすくなるからである。
順位を決めるわけは生徒達の向上心を煽るためと、上位十五名には実地訓練を行う権利を与えるためらしい。実地訓練にでる理由は生徒達の実力アップもあるが単に人手が足らないからと言うのもあるらしい。危険の伴う事を進んでやることをしたくない人が全国には山ほどいる。一応各都道府県に一校ずつ学校はあるものの毎年募集定員未満というのはざらにあるらしい。そのため高等部の全学年のトップ十五、総勢四十五名が駆り出される。昔よりも段々と退魔師の人数は増えていっているらしいが、それでも人手不足なのだそうだ。
因みに、綴は霞の学年の順位を知ってはいたが、普通の高校みたく学力で二位だと思っていたらしい。それに霞には二位になったとしか聞いてないので何の二位だったかは聞いていなかったのだが、夏彦の説明でそれが戦闘力での二位だと初めて知ったのである。
「なる程、よくわかったよ」
「そりゃよかった。あんまり説明うまい方じゃないからうまく伝わってるか心配だったんだけどね」
「きちんと伝わったから安心しろ」
夏彦の説明を聞き綴は生徒会長は何位なのか気になった。二学年の十三位と十五位がすぐに逃げたのだから順位は高いはずだ。て言うか、あの二人案外凄いのな。
「なあ、生徒会長って何位なんだ?」
「一位」
「なる程…」
それは、逃げ出すのも分かる。いくら十三位と十五位でも一位には勝てないだろう。一から十五までの力の差がよほど拮抗してない限りは勝てる見込みは無いだろう。
「ちなみに言うと、生徒会長は二年の後半の順位決めの一位が選ばれるんだよ。副会長とか書記とかは会長が選ぶんだ」
「へ~」
「っと、そろそろ昼休みも終わりそうだからさっさと食べちまおうぜ」
「ん」
箸を進めながらまたもや気になることを聞いてみた。
「そう言えば、夏彦は何位なんだ?」
「俺達はまだやってないよ。夏休みに入る少し前にやるんだよ。このやる日付は全学年共通な」
「ほ~」
それでは、綴達もその順位決めには出られるのだろう。夏休みに入る少し前と言うことは開催されるのは七月中。今が五月の終盤なので残り一ヶ月とちょっとと言うところだろう。できれば実戦経験を積んでおきたい綴はどうにか上位十五位に食い込みたいと思うのであった。
話をしていたせいで少し食べるのが遅くなってしまったがなんとかチャイムが鳴る前に食べ終わり教室に戻ることができたのであった。
*********************
教室に戻るまでの間夏彦から次の時間の授業の説明を受けていた。五時間目は外で魔法修練(実習)の時間なのだ。魔法修練(実習)とはその名の通り魔法を学ぶ時間だ。実習は五クラスある内の二クラスずつ合同で行われる。日によって合同になるクラスが違ったりする。実習があることから想像できると思うが座学もあるが今日の五、六時間目は両方とも実習になっている。
因みに、退魔師学校では体育がない。体育をやる代わりにその時間を実習に当てているのだ。あと、これは余談だが、体育は無いが体育祭や球技大会はあるらしい。どれも、魔法を絡めて行ったりそうでなかったりと競技によって違うとか。夏彦も新入生なので詳しくは知らないらしい。
そんなことを話しながら歩いていると教室についた。教室の扉を引くと中では男子が着替えをしていた。男子共は扉を開けた綴を確認したとたんに慌てたように体を隠した。その反応を見た綴は、呆れたように目を瞑り息を吐くと声を大にして言った。
「女子か!!」
「「「お前がな!!」」」
男子共に即座にそう返されたじろぐ綴。最初はなんで?と思ったが、自分の外見のことだと気づく。そのことに少しイラッとしたがそれを押さえて気になることがあるので聞いてみた。
「大体、なんで更衣室があるのに教室で着替えてるんだよ?」
そう、この学校には男女ともに更衣室が設けられているのだ。数の方も全学年が利用可能なようになっているため、更衣室が使えないという事はないのだ。なのになぜ教室で着替えているのか綴は不思議で仕方なかった。
「移動が面倒くさいからな。それに別に見られて恥ずかしいわけでもないし」
綴のその問いに答えたのは着替え中の男子共ではなく夏彦であった。夏彦の言ったことに一つひっかっかりを覚えたので聞いてみた。
「でも、見られて恥ずかしがってるぞ?それも男に」
「それは、綴が美少女だからだ」
「僕は男だ!少女じゃない!」
「こりゃ失敬」
全く反省した風もなく言ってくる夏彦にむうっと頬を膨らませる綴。しばらくそうしていたが、それも不毛だと思いふうっと息を吐きやめる。
「まあいいよ…僕は着替える必要ないから先に校庭に行ってる」
「おう」
綴はそう言うと歩き始めた。綴が教室からでると男子は一斉に着替えを再会する。認識では男だと分かっていても外見が美少女なので自然と体が固まってしまうのだ。数瞬の間を置いて焦って体を隠すもその後に相手が男だと気づく始末。認識に体が正常な反応をしてくれないし、認識も少しの間書き換わってしまう。そんなことがあるためクラスの男子は綴とどう接していいのかが分からないのであった。
そのことに気づいた夏彦は、一人校庭に向かう綴の背中を見つめポツリともらす。
「…嫌われてるわけじゃないんだよ、綴は…」
夏彦は、綴が他人と距離を取ろうとする傾向があることに気付いていた。元親や良子の誘いに応じなかったのも相手に気を使わせてしまうと言うのもあるが、自分が知らない人間に踏み込むことを嫌がってると言うのもあるのだと思う。多分綴自身は気づいていない。無意識に行われていることなのだろう。その性格と男子の反応、そのせいで綴は自分が嫌われていると錯覚しているのかもしれない。そして、嫌われるなら近づかない方がいいとでも思っているのかもしれない。
殆ど憶測だが、距離を取ろうとするってのはあってる気がする。初めてあったときも会話に参加せずに本を読んでいたし。
とまあ、いろいろと思うことはあるのだが今は取りあえず。
「着替えるか…」
そう呟くと教室に入り後ろ手に扉を閉めるのであった。
夏彦の綴を案じる視線には気づかぬまましばらく歩いていると、綴はいく人もの視線を感じた。その視線は敵意のこもったものではないのだが、見られているというのはどうにも落ち着かないものがあった。そのため、それを改善すべく何が理由なのかを考えてみることにした。
自分が女顔なのはここ最近でよく分かった。皆が自分を女だと勘違いしていたことから嫌と言うほど。だが、今はその女顔が理由ではないのだろう。なぜなら、今の綴の服装は女子用ジャージなのだから。女顔である綴はむしろ男子用のジャージを着ているときよりしっくりときているはずである。
そこまで考えると、自分が女顔だと言うことを踏まえた自己解析にげんなりする。だが、それでも解析を続ける綴。
「う~ん」
だが、いくら続けても答えはとうとう出てこなかった。分かれば改善の余地も見えてくると思うのだがさっぱり分からない。分からないことは考えてもしょうがないとスッパリ諦める綴。
実際の所は綴が可愛いのでついつい目が行ってしまうだけなのだが、鈍感&自己過小評価な綴には少し頬を赤らめながら熱い視線を送る男子生徒と少なくない女子生徒の視線に気づくはずもなかった。
*********************
クラスの皆より一足早く校庭に着いた綴は手持ち無沙汰でやることが全くなかった。校庭にはまばらに生徒が集まってきてはいるがひとりとして知っている人がいなかったので校庭の端っこで体育座りをしていると急に声をかけられた。
「うわ~可愛い人だね!みない顔だし!あ、もしかして転校生!?」
元気な声をかけられ、声の方を向いてみるとそこには髪を短く切った女子生徒が立っていた。体育着を着ているのと見たこと無い顔であったので違うクラスの人なのかもしれない。
そんなことを考えつつも、可愛いと言われてどう答えたものかと考えていると、
「ああ!ごめんね、急に話しかけちゃって!ビックリしたよね?」
こちらの困惑に気づいたのか申し訳無さそうに謝ってくる少女。それに、綴も答える。
「ううん、大丈夫だよ」
「そう?なら良かったよ!」
綴の言葉を聞くとすぐに笑顔に戻る。少女は、思い出したという顔をして綴に問いてくる。
「そう言えば、名前聞いてなかった!聞いてもいいかな?」
「あ、うん。僕は柊綴。今日転校してきたんだ、よろしく」
「うん、よろしく綴ちゃん!」
「ちゃ、ちゃん?」
「うん!」
元気に頷く彼女。また説明しなくてはいけないのかと思いげんなりしつつも口を開く。
「あの」
「あ、そうだった!」
だが、綴の台詞は彼女の声に遮られる。
「まだ名乗ってなかったね!わたしは麗奈!新洞麗奈!よろぴくぅっ!」
「よ、よろしく…」
なんだか元気な子だなと思う綴に麗奈は隣に腰を下ろすと矢継ぎ早に質問をしてくる。
「何で転校してきたの?て言うか、五人も転校生いたよね?全員知り合い?てか、その中に恋人とかいる?いたらその人に嫉妬しちゃうな!こんな可愛い子羨ましいよ!」
「待って待って、落ち着いて!ゆっくり、一つずつ質問して。ね?」
質問をまくしたてながら顔を近づけてくる麗奈に身を引きつつも手を前に出してストップとジェスチャーを出す。ジェスチャーが通じたのか身を引いてくれる麗奈に一つずつ答えていく綴。
「転校したのは自分の弱さを実感したからだよ。他の転校生も全員知り合いだけどその中に恋人はいない。全員良い友人だよ」
「そうなんだ~」
納得したようにうんうん頷く麗奈。
「どうしたの、麗奈?」
すると麗奈誰かが話しかけてきた。二人してそちらを見やるとそこには赤毛の女子生徒がいた。
「あ、セレナ!」
セレナと呼ばれた女子生徒は麗奈にはにかむと綴を見る。
「こちらは?」
「あ、この子はね柊綴ちゃん!今日転校してきたんだって!」
「そうなんですか…。私の名前はセレナ・クロスフィールド、よろしくね」
「あ、はい。よろしく…」
「ふふ、シャイなのね。…そうだ、そろそろチャイム鳴るから集まらないと」
見ると校庭には人が集まっていた。教師もいるのでセレナが言ったとおりそろそろ集まった方がいいのだろう。
「それじゃあ、行くね!」
「あ、うん」
そう言うと立ち上がりセレナと共に行く麗奈。すると今更ながらに気づいた。
「女子じゃないって言うの忘れてた…」
そんなことを言いながら、綴も腰を上げみんなのもとへと歩いていった。
綴が戻るとすぐにチャイムが鳴り授業が始まる。
春が訪れ少し暖かい日差しの中校庭に集まる二つのクラス。先生の話を体育座りで聞いているとボーッとしてしまう気温。
「春眠暁を覚えず…」
ぼそりと呟く綴は、体育の先生の常田剛汰の話を右から左に受け流し微睡んでいた。
常田は浅黒い肌にムッキムキの筋肉、角刈りにした短い髪の毛にジャージの姿だ。快活で元気な声で何か説明をしているが綴はずっと上の空。
ふと、左腕にトントンと何かが当たる。何事かと左側を見る。トントンと肘を当ててきたのは氷霞だった。どうしたのかと小首を傾げて訴えると氷霞は声を抑えて言ってくる。
「寝ていると先生の話を聞き逃すわよ?」
「まだ寝てないよ。少し眠いだけ。でもありがと」
言われ、もうちょっとまともに聞こうと思い眠気を払うように首を二、三度振る。
だが、先生の話は終わったらしく「長話ですまない」と言い体育会系な笑顔で締めくくっていた。
「終わっちゃったよ…」
「まったく…相変わらず抜けてるのね…」
「そうかな?」
「そうよ」
そんなことを話していると、みんなは立ち上がり移動しようとしていた。どうやら男子と女子に分かれているようだ。
「それじゃあ」
「うん」
ちょっとした挨拶を交わし分かれようとするが後ろからの声に止められる。
「綴ちゃん!」
綴ちゃん。綴をそう言うのはこの学校で今は一人しかいない。振り返りその人物、麗奈を見やると麗奈は不思議そうに小首を傾げながら綴りに問う。
「綴ちゃんそっちちゃうでしょ?こちゃこいこっちゃこい!」
そう言いながら近づいてきて腕を引っ張ってくる。困惑しながらも綴は、麗奈にまだ自分が男だと説明していないことを思い出す。
「ま、待って麗奈!僕男の子だから、あっちだから!」
「またまた~そんなこと言っちゃって~」
完全に冗談だと思っているのか笑顔で腕を引っ張る。
ずるずると引きずられているとこちらの様子に気づいた元親がやってくる。
「どうした綴?何かあった…ってのは、ちょっと考えれば分かるか…」
「さすが元親…話が早くて助かる。助かるついでに助けてくれ」
「ん?お兄さん何か?」
「ん、あ~っと、こいつこっちだから連れにな」
元親が率直に言うと麗奈が一瞬ポカンとした顔をする。が、笑顔に戻ると元親に言う。
「またまた~お兄さんまで~冗談がお好きなんですから~」
「いや、マジなんだけど…」
そう言うとまたぐいぐいと腕を引いてくる麗奈。そんな感じでぐだぐだとやっていると先生に声をかけられた。
「お前たち何やっとるんだ?みんなもう分かれてるぞ?」
言われ、周りを見ると元の場所にいたのは綴と元親と麗奈の三人だけであった。
先生に問われ説明しようと口を開くが、麗奈に遮られてしまう。
「大丈夫です!少しふざけすぎただけなので!行こう、綴ちゃん」
「え、あ、ちょっと!」
急に腕を引かれたたらを踏んでしまう綴は、抵抗することもできずに引っ張られてしまう。元親は何か言いたそうな顔をしていたが諦めたのか後ろを向いて戻っていってしまった。
いや、諦めた訳じゃないな、あいつ振り返る瞬間笑ってやがった。絶対こっちのが面白いからとか思ってるぞあいつ。
それに気づきちょっとイラッと来たので、
「麗奈、ちょっとだけ離してくれるか?」
「うん?おう!」
麗奈がパッと腕を放すとすぐに元親の元まで走っていき一メートルくらい手前で
跳び、そその背中に跳び蹴りを食らわせる。
「何諦めてくれとるんじゃこらあああぁぁぁ!!」
「ぐへっ!?」
元親は背中を仰け反らせて吹っ飛び顔面から地面に落ちる。地面と熱いキスを交わした元親は口に入った砂をペッと吐くと振り返り綴を睨む。
「何すんだよ!俺のファーストキスが校庭に奪われちゃったじゃないか!」
「そんなことはどうでもいい!!お前、もっと真剣に僕を助けろよ!絶対面白がってただろ!面白がって最後何も言わずに去ろうとしただろ!」
綴の発言に元親は悔しそうな顔をしていった。
「気づいてたのか…。クソッ!もっとポーカーフェイスがうまければっ!!…まあいい。おい、そこの女子!」
「え、あ、なに?」
元親は麗奈に呼びかけた。麗奈は最初は唖然としていたが元親に呼びかけられ我に返るとこちらに小走りでやってきた。
元親は何を考えているのかと警戒していると、元親は言った。
「この危険な綴ちゃんをそっちに連れて行ってくれ」
「んな!?」
元親は綴を売ったのであった。
麗奈は鷹揚に頷くと
「あい、任された!!」
と言って綴を引っ張っていった。油断していた綴は腕をがっちりホールドされて連れて行かれる。
「離すんだ麗奈!僕はあっちだ!断じてこっちではない!」
「はいはい、分かった分かった」
「分かってない!全然分かってない!元親怨むからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま連れて行かれ列に並ばされる。逃げ出そうとしたが麗奈にずっと腕をホールドされていたので逃げ出すことはかなわず、その日は女子に混じって実習を行った。
後で聞いたのだが、氷霞、緋日、未来、良子、夏彦の五人は面白そうだから止めなかったらしい。こんな時ばっかり息の合う皆であった。
とまあ、そんなことがありながらも転校初日は無事(何事も無かった訳ではないが)に過ごすことができた。
取りあえず分かったこと、それは、
「…早く桐生さんに服届けてもらわないと…」
と言うことであった。
誤解が深まらない内に届いて欲しかったのだが、それが届いたのは一週間後の事であった。




