第二十三話 食堂で騒動
午前中の授業が全て終わって昼休み。お昼を食べる時間だが綴は只今ボッチである。そうなった訳を簡単に思い出してみよう。
授業が終わってすぐ元親に声をかけられた。
「綴、あいつらと一緒に昼飯食べるんだけど一緒にどうだ?」
元親は親指で男子生徒を指さす。元親は一時間目の間に多数のクラスメイトと意気投合したらしくもうクラスに溶け込んでいた。元親としては綴の性格を知っているのでボッチにならないための心遣いなのだろう。だが、仲の良くない綴がいても
お互い気を使ってしまうだろう。
「いや、遠慮しておくよ。向こうも僕がいると話しづらいだろうしな」
「……そうか、分かったよ。それじゃあ、行ってくるわ」
「ああ、行ってらっしゃい」
こうして元親の誘いを蹴った後に気づいた。
転校初日にボッチ飯は辛いな…。
どうしようかと考えいるとまた声をかけられる。
「柊くん」
顔を上げて確認すると声の主は良子だった。
「どうしたの、四季さん?」
「はい、お昼ご飯のお誘いに来ました」
それは魅力的なお誘いだったが。
「お~い良子~!みんな待ってるから早く~!」
良子を呼んだ美来の方を見ると誘いには乗れないと判断した。美来の周りには女子しかいない、つまりその輪の中に入れば男子は綴だけになる。それはさすがに居心地が悪いしまたもや気を使わせてしまうだろう。
「ごめんなさい、すぐ行くわ!それで、どうしますか?」
「とても魅力的なお誘いだけど遠慮しておくよ。女子の中に男子一人だと気を使わせてしまうしね」
「…そうですね、配慮が足りませんでした、すみません」
申し訳無さそうに謝る良子に綴は慌てて首を振る。
「そんな、全然!寧ろ誘ってくれて嬉しかったよ!…これに懲りずにまた誘ってくれると嬉しいな」
「分かりました。それではみんなが待ってるので行きますね」
「うん、わざわざありがとう」
そう言うと良子は美来達のもとへと行ってしまった。
知り合い三人がダメとなると残りは、氷霞か緋日。だが、氷霞は授業が終わると足早に教室を出ていってしまった。緋日はクラスの友人に誘われて食堂に行ってしまったのでもう誘う相手も誘ってくれる相手もいない。
以上の事があり今は完全にボッチ飯確定である。姉さんの所に行くことも考えたが姉さんは姉さんで友人関係があるだろうし行くわけにはいかない。つまり完全に詰みなのである。
どうするかなとうなだれながら考えていると、ふと声をかけられる。
「綴はボッチ飯か?」
顔を上げるとそこには夏彦がいた。
そうだ、居眠りばっかりしているから忘れてたけどこのクラスには夏彦がいたんだった!
「このまま行くと確定だな」
「それじゃあ、食堂で一緒に食わないか?」
「行く!」
「んじゃあ、行くか」
綴はカバンから弁当を出して立ち上がり、夏彦について行く。しばらく歩いても会話がないので綴は今日半日考えていた疑問をぶつけてみた。
「なあ夏彦」
「何?」
「僕ってそんなに女顔か?」
その質問に夏彦は即答で返す。
「ああ、女顔だ」
「まじか…」
即答で言われると軽く傷つく。
「俺だって最初は女だと思ったしな」
「それは、僕が女装してたからだろ?」
「してなくても間違えてたと思うよ」
「うっそだ~」
「嘘じゃないさ。良い例が身近にいるじゃないか」
え?いたっけ、そんな失礼な奴?
まるで分からないと言う顔をしていると夏彦が答えをいう。
「眠里先生だよ。男用の学生服着た写真見ても女だと思ってただろうが」
「ああ…」
綴が嫌そうな顔をする。
そう言えばそうだった。余りにショッキングで忘れていたよ。
「どう見ても男に見えないか?」
最後の悪足掻き、いや、最後の希望をかけて聞いてみる。
「見えない」
だが、希望は呆気なく散った。
「なんたって背も低いし声も高いし髪も長めだしな」
「ぐっ!」
そして更に追い打ちをかけてくる夏彦。綴の心のライフポイントはガリガリ削れていった。
「それに、名前も男女どっちでも使えるし」
「がはっ!」
最後にとどめを刺す夏彦。この時点で綴のライフポイントはゼロ。自分で切り出しておいてまさか自分で傷つくとは思わなかったよ…。べ、別に良いけどね!姉さんはイケメンって言ってくれるし!…なんだか悲しくなってきた…。
と、一人落ち込んでいると夏彦に声をかけられる。
「ほら、綴ついたぞ。ここが食堂だ」
「おおっ!」
食堂に入ると中は思っていたより数倍広く全校生徒の半数が入りそうであった。全校生徒は一学年二百人。全校合わせて六百人になる。転校や退学なんかも合わせると多少前後するが、およそ六百人の半数、つまり約三百人は入りそうなほど広かった。食堂の広さに思わず感動していると夏彦に促される。
「ほら、行くぞ。席取らないと」
「お、おう!」
先に歩き始める夏彦にあわてて追いつき隣に並ぶ。食堂が珍しく周りをキョロキョロしていると夏彦が声をかけてくる。
「あ~それとな…」
「うん?」
「お前は女顔だけど分類的には美少女?だから、あんまり気にしなくても大丈夫だぞ?」
先ほどの話のフォローのつもりかそんなことを言ってくる。だがそれは決してフォローではない。寧ろ追い打ちだ。
「つまりはあれか…」
「?」
「僕はどう見ても男に見えないということなんだな?」
「まあ、そうなるな…」
「はうっ!」
最後の肯定を聞き食堂を見ることによってテンションを上げ回復していた綴のライフポイントはまたゼロになった。あまりの衝撃に呆けていると夏彦が心配して声をかけてくる。
「お、おい、大丈夫か?」
心配するならもっとオブラートに包んで欲しい。
「だいじょうび…」
「なんだよだいじょうびって…ったく、ボーッとしてないで行くぞ、席無くなっち
まう」
綴がなぜ呆けていたのか気づいてない様子の夏彦。ここで綴はある結論に至る。
夏彦は天然なんだな!
そうじゃなきゃあれだけ追い討ちをかけてくる理由が分からない。しっかりしてそうなのに意外な一面を発見したな。
しばらく席を探していると丁度窓際の席が二つ空いていた。食堂は四階にあるので眺めが良かった。それに学校はちょっとした山の上にあるのでそれのお陰もあるのだろう。そんな良い場所なので今まで空いていたのが不思議であったが、運が良かったとのだと思い腰を下ろす。夏彦が席に着かないのでどうしたのだろうと思い見やる。視線だけで理解したか元からそのつもりだったのか夏彦は言う。
「俺は弁当無いから何か買いに行くけど綴はどうする?」
「僕はお弁当あるからいいよ。それに席とっとかなきゃだろ?」
「それもそうか。それじゃあ、行ってくる」
「おう」
夏彦の背中をしばらく見送る。順番待ちの列に並んだのを確認すると綴は窓の外を眺める。ここからは綴の暮らす家とこの間まで通っていた学校も見ることができた。ついこの間まで通っていたのにずいぶんと懐かしく感じる。慣れない環境での授業などを受けて疲れたからそう思うのかもしれない。しばらく物思いにふけっていると急に敵意のある声で声をかけられる。
「おい」
声の方向などでおそらく自分に声をかけたのだろうと思い声の方を見やるとそこには柄の悪そうな二人組が立っていた。両方とも下品に制服を着崩していた。二人とも筋肉はほどほどについており片方はオールバックでもう片方は坊主頭であった。いかにもザ・ヤンキーと言う感じであった。
声に敵意を感じたので何か悪いことをしたのかと思い答える。
「なんでしょうか?」
二人は綴が振り返ると一瞬キョドりながらもすぐに元の怒ったような表情に切り替え答える。
「悪ぃけどそこは俺らの特等席なんだ。つうわけで退いてくんねえかな?」
視線を感じ綴がちらっと周りを見ると、綴の周りに座ってる人達は目をそらす。だが、様子は気になるようでチラチラと見てくる。その視線には綴への哀れみが込められているような気がした。
綴が黙ってるのがかんに触ったのかイライラした声音でオールバックが言う。
「聞いてんのかよ、退けって言ったんだけど?」
事ここにいたって綴はなぜこの席が空いていたのかが分かった。この席に座っているとこの二人に絡まれるからだ。
綴は思わず
「うわ、めんどくさ…」
っと言ってしまった。
周りがシーンとした。他の席で食事をしていた人も急に静かになった一帯があったので何事かと綴の方を見てくる。
オールバックと坊主頭はワナワナと体を震わせると言った。
「てめぇ舐めてんのか!あんまし俺ら舐めてっとぶっ飛ばすぞ!?」
「そうだぞてめぇ!二学年十五位と十三位舐めんなよ一年風情が!?」
怒らせてしまってから気づく。やっぱこいつ等めんどくせえ…。どうしようと思い夏彦が並んだ方をみるが食堂のメニュー選びに夢中になっていた。
こんだけ騒いでんだから気づいてくれよ夏彦!天然な上にマイペースなのかよ!
夏彦からの援軍は期待できないのではあ、とため息をはく。
「…あの、特等席とか言ってますけど、食堂のルールとしてあるんですか?」
「あ?ある分けねえだろ」
「それじゃあ、理屈にかなってないんでお断りします」
「おい、あんまり生意気言ってんじゃねえぞまじで?」
そう言うと坊主頭は周りに水を纏わせる。続いてオールバックも周りにも風を纏わせる。なんだかめんどくさいことになってきた。まあ、始めからめんどくさかったけどね。
「学園内は授業や放課後の部活動以外での魔法の使用は禁止じゃありませんでしたっけ?それに周りの人にも迷惑ですよ」
その人事で完全に切れてしまったのか坊主頭が怒鳴る。
「まじで舐めてんじゃねえぞクソアマ!」
怒鳴りながら魔法を放つ。周りが悲鳴を上げる。これはさすがにまずいと思いながらも動きが遅れてしまう。脅しの道具として使うだけだと高をくくっていたが本当に攻撃してくるとは思っていなかったのだ。
水魔法が迫ってきて思わず目を瞑る。だが、いつまで立っても痛みは来ず、恐る恐る目を開けるとそこには誰かの背中が見えた。制服の色から察するに男だ。男は右手を二、三度振ると言った。
「校内での魔法の使用は特定の条件下にある時以外禁止だぞ、お前ら」
「せ、生徒会長!!」
生徒会長と呼ばれた男を後ろから見上げる。身長は180センチはあるだろう。足もすらりと長い。
「今回はまだ初犯だから見逃すが、二年が一年にやって良い行為じゃない。それと、周りにも迷惑だ、以後慎むように」
「は、はい!すいませんした!」
そう言うと二人はそそくさと食堂を後にする。あまりの展開の早さに思わずボーッとしてしまう綴。だが、すぐに我に返りお礼を言う。
「あ、ありがとうございました」
生徒会長は振り返ると柔和な笑みを浮かべて言う。
「なに、生徒会長としての職務を遂行しただけさ」
振り返った生徒会長の顔はどこぞのアイドルかと思うほどイケメンだった。生徒会長のネクタイのピンを見ると色は緑だ。この学校では学年を色の付いたネクタイピンで区別する。赤が一年、青が二年、緑が三年だ。ネクタイピンは学年が上がるごとに学校から配布されるので学年が一つ上がるごとに色が持ち越しされるのではなく、ずっと固定なのだ。さっきの二人組は青色なので二年だ。まあ、自分から二年と言っていたが。生徒会長は三年生だ。
「そうですか。それでもありがとうございます」
「そうだ、名乗ってなかったね。僕の名前は笹木咲人だ。笹の葉の笹に木刀の木で笹木、名前は咲く人とかいて咲人だ。よろしく」
「僕は柊綴です。よろしくお願いします」
柊と言う名を聞いて会長の目の色が変わる。
「ほう、君が噂の転校生か…。二年の柊のおと…妹か?」
「言い直さなくてあってます…」
一瞬、何かを考えたような素振りを見せる会長。結論が出たのか鷹揚に頷き言った。
「そうか、それはすまない」
一人でうんうん頷いてる会長を見ているとなんだか少し不安だったが気にしないことにした。
「それでは、連れの所に戻るとするよ」
「あ、はい。お世話になりました」
会長が去っていくのと入れ違いで夏彦が帰ってきて一言。
「何かあった?」
「あったよ、バカ!」
「?」
本当に何があったか分からないのか首を傾げる夏彦。悲鳴まで上がったのに気づかないなんてどんだけマイペースなんだこいつ…。




