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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第二十一話 転校初日


 どうすればいいんだ…。

 ソファーに座りテーブルに両肘を置き口の前で手を組む。碇ナントカさんスタイルだ。って今はそんなことはどうでもいい。今考えなければいけないことは明日どう学校に行くかだ。


 選択肢は3つ。一つ、女子用の制服で通う。二つ、女子用ジャージで通う。三つ、学校に行かない、だ。

 うん、答えは決まってるな。


「明日は休もう…」


「ダメに決まってんでしょうが」


「そうよ、転入初日は休んだら印象良くないわよ?むしろインパクトを与えて早く覚えて貰わないと」


「もうすでに格好がインパクト強いんだよ!」


 男が転校初日に女装してきたらインパクトが強すぎる。忘れられない転校初日だ。


「なら大丈夫ね、行きましょう」


「やだよ!」


 くっそう、完全に楽しんでやがるな二人とも。

 だが、無い物ねだりをしていてもしょうがない。


「でもまあ、仕方ないな…諦めてジャージで行くよ…」


「そうよ、諦めなさい」


「諦めも肝心よ」


 完全に他人事だな。

 そこで、綴はひらめく。

 他人。そうか、他人だ!


「ふっ、ふふふっ」


「ど、どうしたの?」


 突然笑い出す綴に若干引きながら問う緋日。


「ちょっと、出かけてくる」


「どこに?」


「元親の家」


 この時点で気づいたのか緋日は慌てて立ち上がりドアの前に移動する。

 チッ!勘が鋭い幼なじみだ!


「退いてくれ緋日…君を傷つけたくない」


「行かせるわけにはいかない。あなたは元部君から制服を奪う気でしょう?…なら、ここで止める」


 無駄にシリアスに言う二人。姉さんは動じずお茶を飲んでいる。いつの間に用意したんだか…。


「そうか、なら仕方ない…悪いが、ここで散って貰う!」


「散るのはあなた、その願い成就できずに儚く散りなさ、って最後まで聞きなさい!」


 台詞の途中で緋日に肉迫する。投げ技を繰り出すために右手で襟を掴もうとするがしゃがんでかわされてしまう。緋日はそのまま右手で襟をつかみ左手で右腕を掴む。


 まさか!!


 左足を下げ左にくるりと身をひねり投げられる。緋日に向かって息をいよく向かって行ってので勢いそのまま投げられてしまう。とちょうどドアが開き誰かが入ってくる。


 緋日はドアに背中を向けていたので勢いをそのままに投げると後ろに投げるしかないので、必然入ってきた人物にぶつかってしまう。


「ただいま~疲れぎゃあっはっ!」


「うっぎゃ!」


「あ」


 入ってきた人物を巻き込み地面にぶつかる。

 倒れて人物はプルプルと震え怒気に満ちた顔を上げる。


「あ…」


 さっと耳を塞ぐ姉さん。


「あんたたちなにしてんのおぉ!!!!!!!!」


 と同時に綴にげんこつが飛ぶ。


「ふぎゃっ!」


 そのまま綴を押しのけ緋日にもげんこつを飛ばす。


「イタッ!」


 げんこつの主、母さんはふんっと鼻から息を吐き腰に手を当てる。


「全くもう!何やってるのよあなた達は!稽古なら庭でやりなさい!」


「お母さんお帰り」


 プンスカ怒っている母さんを者ともせずお帰りを言う姉さん。


「あ、霞、ただいま」


 と、怒りを引っ込めふつうに返す母さん。因みに僕と緋日はあまりの痛みにうずくまっている。


「で?何があったの?」 


 痛みが和らいだ後ことの顛末を話す。


「カクカクシカジカ」


「ウンヌンカンヌン」


「あんたらバカにしてる?」


 妙な連携を見せる綴と緋日に呆れながらも、確かに怒気をはらんだ表情で言う。どうやら、伝わらなかったらしい。


「「いえいえ、滅相もない」」


 二人ともブンブンと首を振り否定する。因みに今は床に正座している。

 今度は真面目にすべて話したら母さんは呆れたように頭に手を当ててため息をはく。


「はあ…いい年こいて何やってんのあんたらは…」


「楽しくて」


「つい」


「はあ…」


 ため息をつきながらソファーに座る母さん。姉さんは母さんの前にお茶を出す。


「ありがと」


「いいえ~」


「全く、あんた達も霞みたいに少しは落ち着きなさい」


 お茶を一口飲むとテーブルに置く。


「まあ、制服の件は羽生にげんこつの一つでも入れておくわ」


「とっておきをお願い」


「できれば、いたずら心も飛ばしておいて」


 二人の注文にまたため息をはく母さん。


「とりあえずあたしは寝るから、五月蝿くしないでね」


 そう言うと、お茶を一気に飲み部屋から出ていった。

 とりあえず今思うことを言うと。


「…頭、めっちゃ痛い…」


「…そうね…」


 二人は立ち上がりソファーに座り直す。


「服は、ジャージ着て行きます…」


「それがいいと思う…」


 二人はしばらく痛みに頭を抱えていた。


********************


 色々あったが運命の転入初日。え?あの後どうしたのかって?静かにいい子にしてたよ。げんこつ痛いし。

 とまあ、それは置いといて。今は玄関にいる。格好は勿論女子用ジャージだ。


「それじゃあ行きましょう」


 トコトコ歩き始めるいつもの三人。もうなれたね視線とか、うん。だが、今日は視線を感じると言えば感じるのだけどいつもとは感じが違う。まあ、いいか。

 しばらく行くと制服を来たちゃらい奴を発見。元親だ。向こうはこちらに気づくと手を振ってくる。


「おはよう、元親」


「おはよ、綴。本当に女子用なんだな」


「これしかないからな」


 元親と美来、良子には手違いがあって女子用のジャージというのは話してある。


「でも、似合ってんぞ」


「にやけて言うな気色悪い」


「へいへい」


 しばらく歩くと退魔師学校の生徒が増えてきた。学校が近いのだろう。先ほどからちらちらと視線を感じるがよくよく考えたら美人二人にチャラ男がいるんだ目立たないはずもない。しかも姉さんは学年二位なので知ってる人も多いのだろう。


 学校に着くと姉さん達は生徒玄関、僕らは一旦職員室に向かった。あらかじめ場所を教えて貰っていたので迷うことなくついた。一応ノックをしてから中に入る。


「失礼します」


「失礼します」


 先に綴が中に入り挨拶をし次に元親が中に入り挨拶をした。


「ああ、来たか。こっちだ来たまえ」


 奥の簡易応接間のようなところから顔を出す男性教師に呼ばれ歩いていく二人。元々桐生から説明があったので職員は綴の格好に驚いてはいなかった。


「さて、揃ったね」


 着くとそこには美来と良子がすでにいた。良子は車椅子ではなく普通に立っていた。思わずおめでとうと言いたくなったがこらえる。


「それじゃあ、まずは自己紹介といこうか。私は一学年の学年主任を務める佐伯十五-さえき とうご-だ。よろしく頼むよ」


 佐伯十五の見た目は二十台後半ぐらいだった。眼鏡をかけ長い髪の毛を後頭部に束ねている。顎には無精ひげを生やしており一見するととても学年主任が務まるとは思えない風貌だった。


「それじゃあ、次は君」


 十五は一番端にいる美来を指差した。


「あ、はい。紙野美来です。よろしくお願いします」


「四季良子です。よろしくお願いいたします」


「柊綴です。よろしくお願いします」


「元部元親です。よろしくお願いします」


 順番に挨拶をして頭を下げる。


「はい、よろしく~。それじゃあ、クラスに移動しようか」


 そう言うと席を立つ十五。


「あ、あの、クラスは皆一緒なんですか?」


「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?」


「はい、初耳です」


「そうかそうか、失敬」


 そう言いつつもスタスタ歩き始める十五。職員室を出て廊下にでる。


「一ついいですか?」


「ん?なんだい?私に答えられることなら何でも聞いてくれ?」


「僕たちが同じクラスに置かれる理由って何ですか?」


「ああ、確かに珍しいよね。五人一緒にクラスが同じって。それは、そのクラスだけ偶然転校とかが多くてね。退魔師学校は元々自分にあわずに辞めていってしまう子が多いんだ。それでたまたま、このクラスで転校が重なっちゃったてわけ。あんまり珍しいことでもないよ」


「そうなんですか…って、五人?四人ではなくて?」


「ああ。あれ?これも言ってなかったっけ?君たちと後一人いるんだよ」


「そうなんですか」


 なんだか少し嫌な予感がしつつもきびきび歩く綴。しばらく歩くとある教室の前で止まる十五。


「はい、ここが君たちの教室。一年三組だ。ちょっと待っててくれ」


 そう言うと十五は教室に入っていき担任とおぼしき女性に話しかけている。話はすぐにすみ十五が出てくる。


「それじゃあ入ってくれ」


「はい」


 十五に言われ、僕、元親、美来、良子の順番に入ってく。一列に並び教室の前に立つ。クラスを見回すと後ろの方の席には緋日がいた。向こうも気づいたらしく小さく手を振ってくる。その他のクラスメートは綴がなぜジャージを着ているのかとか、あいつちゃらいなとか話していたが担任の女性が手を二回はど叩くとすぐ静かになる。


「はい、静かに!えーっと、今日からこのクラスの新しい仲間だ。それじゃあ、自己紹介を頼む」


「あ、はい」


 促され一歩前にでて口を開く。


「ひいりゃっ!」


 噛んでしまった。最悪の出だしだと言うことは言うまでもないだろう。何人かクスクス笑っている。その内の一人が元親だ。後でしばく。

 気を取り直して一度咳払いをしてからしゃべりだす。


「柊綴です。今は訳あってジャージをきています。皆さんどうぞよろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀をして一歩下がる。今度は元親が一歩前にでて自己紹介を始める。


「元部元親だ、よろしく。こいつとは幼なじみだからこいつ共々よろしく!」


 僕の肩を叩きながら言う元親。多分、僕が友人を作るのが苦手なのを知っていてやってくれたのだろう。しばくのは無しにしてあげよう、うん。

 次に美来が自己紹介を始める。


「紙野美来です!どうぞよろしく!」


 元気よく挨拶をする美来に、クラスの男連中は少し色めき立つ。それもそうだろう。美来は友人贔屓無しにしても普通に可愛いのだ。クラスの男連中が色めき立つのも仕方ないだろう。

 最後に良子が自己紹介をする。


「四季良子です。皆さんどうぞよろしくお願いします」


 綺麗な動作で一礼する良子に男子がまたまた色めき立つ。良子は落ち着いた感じの大和撫子なので男子受けは良いと思っていたが、まさかこれほどとは思ってもいなかった。女子も何人か顔を赤らめている。

 四季さん凄いな…。


 少しざわめくクラスに先生が手を二回叩くと静かになる。


「よし、それでは以上だ。本当は、もう一人いるんだが所用でで遅れるらしいからーーーー」


「遅れてすみません」


 先生の台詞に声が割って入ってくる。声の方、つまり、前の扉の方を見るとそこには、人形のように整った顔立ちに真っ白な絹のような綺麗な白髪の少女が立っていた。

 クラス、全員が見とれる中、綴と緋日だけが目を見開き硬直していた。少女は綴と目が合うとにっこりと微笑む。それにより金縛りが溶けたかのように硬直が溶ける。


「…氷霞?」


 そう、五人目の転校生は氷霞だったのだ。

 氷霞は微笑みかけながら綴に近づき手を取る。


「久しぶり綴。また会えて嬉しいわ」


「え、あ、久しぶり…。でも、なんで?」


 驚きのあまりのきちんと言葉にならないが氷霞はそれだけで理解してくれたらしく答える。


「私も桐生さんの推薦を受けたのよ。詳しいことはまた後で、ね?」


 そう言うと綴から手を離し先生に向き合う。


「遅くなってしまって申し訳ありません。今からでも自己紹介をしてもよろしいでしょうか?」


 先生も硬直から溶けると、慌てたように言う。


「あ、ああ、構わんよ」


「ありがとうございます」


 一礼し今度はクラスメートの方を向く。


「お初にお目にかかります。私は、姫乃木氷霞ひめのぎひょうかともうします。以後お見知りおきを」


 そう言うと、綺麗な所作で一例をする氷霞。その姿はどこかのご令嬢のようであった。


 挨拶が終わったタイミングでちょうどホームルーム終了のチャイムが鳴る。


「はい、それじゃあ、一時間目は私の授業だから柊達への質問タイムに当てる。それと、急な転校だったためこいつ等は学校のことをよく知らない。皆教えてやってくれ、以上だ。授業には遅れるなよ。お前達は空いている席に一度座っていてくれ、それじゃあ」


 そう言うと、先生は教室から出ていく。

 適当な席に着き鞄を机の脇にかける。空いてる席は全て最後列だったので、皆で一列に座る形になる。席順は、窓際から、クラスメイト、綴、氷霞、元親、美来、良子の順番だ。とりあえず、クラスの皆は次が質問タイムになるので綴達を質問攻めにするつもりはないようだ。だが、興味はあるのかチラチラと視線を感じる。

 鞄から教材を出し引き出しにしまい終わると緋日がやってくる。


「綴、もっとなんか言ってもよかったんじゃないの?」


「無理、あれが僕の限界。て、そんなことより…」


 チラッと氷霞の方を盗み見ると目があってしまう。どうやらずっと綴のことを見ていたらしい。


「なんで、氷霞が学校に?」


 しかも、よりにもよって退魔師学校にだ。氷霞にとってはかなりリスキーなことだ。それに、桐生さんの名前がでたのも気になる。


「綴と同じ学校に通いたかったからよ。いけない?」


「いや、いけなくはないけど…」


「なら良いじゃない。…それと」


 氷霞は綴から視線をはずし緋日を見る。そう言えば緋日は氷霞のことを知っていた。と言うことは二人は知り合いなのだろうか?


「久しぶりね、緋日」


「…やっぱり、あの氷霞なのね…」


 二人の間にやや冷たい空気が流れる。え?この二人仲悪いの?


「あの日以来ね」


「そうね。傷は…大丈夫そうね」


「ええ、もう三年も前のことだし、それに誰かさんのお陰でその日の内に完治した

わ」


「それならよかったわ。傷跡が残ったら大変ですもの」


 二人の間の空気が更に冷たくなっていく。比喩的表現ではなく物理的にだ。


 これは、止めないとまずいな…。


「二人ともいい加減にしろ。寒い」


「あら、失礼」


 氷霞がそう言うと温度が徐々に戻っていく。前の子地味にガタガタ体を震わせてるけど大丈夫かな?


 二人はまだにらみ合っていたが少しするとお互いに目をそらす。

 何があったのか気になるが、怖くて聞けない。

 元親達の方を見てみると楽しそうに談笑している。いいな、できればそっちに混ぜて欲しい。ここ怖い。


 その後は二人に話しかけられるが、お互いを牽制しあってか全く違う話題で話をされるのでどちらにどう答えるべきか四苦八苦した。




 





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