第十九話 二度あることは三度ある
元親に買って貰った服を着て店の外に出た。ちなみに元々着ていた服はお店の人に紙袋を貰ってその中に入れている。
綴は店を出て早速理由を聞いた。
「それで、何で買ったんだよ」
そう、何故元親は綴に服など買ったのか、である。どうせ買って貰うなら男物の方が良かった。それに、この服はそれなりに値段が張っていたので買って貰った身としては少々気が引けてしまう。
綴がそんなことを考えてるとはつゆ知らず、元親は答える。
「何でって、プレゼントだよ」
「僕はお前からこんな服貰っても嬉しくないぞ」
「いや、俺からじゃない」
「はあ?お前お金払ってたじゃないか」
「金は払ったが俺じゃない」
何が言いたいんだこいつは。
思ったことが顔にでていたのか元親は綴が何も言わずとも説明をしだした。
「実は、霞さんから綴に何か買ってやってくれってお金を渡されたんだ。頑張ったご褒美にって。あ、これ内緒だったんだ…」
なるほど、納得がいった。だが、納得できないことがあった。
「だからって、何で女物の服を買うんだよ!」
「似合うから!」
「ふざけんな!もっと違うの買ってくれよ!」
「まあまあ、似合うんだからいいじゃないか。これからは、女装を趣味にしてみたら?」
「いやだよ!…まったく、姉さんは何で元親にお金渡したんだよ…」
「お前、渡されて素直に受け取らないだろ。だからだよ」
実際、綴は受け取らなかっただろう。小さい頃から何かある度に何かしらプレゼントを貰っていたので気が引けてしまうと言うのだ。
「それはそうだけど…」
でも何でよりによって元親なんだよ。くそう、もっとましなのが良かった。
見るからにテンションが下がっている綴に元親が言う。
「あー…悪ふざけがすぎたよな…悪い。その代わりと言っちゃあ何だが今日は奢ってやるってのはどうだ?いや、奢らせろ」
「…別にいいよ。そこまで落ち込んじゃいない」
「いや、明らかに落ち込んでるだろ。いいから、奢られとけ、な?」
「…分かったよ…奢られてやるよ」
「よし、そう来なくっちゃな!それじゃあ、まずはどこ行く?」
「ん~本屋だな。新作小説買いたいし」
「よし分かった。んじゃあ行こうぜ」
このデパートには本屋が二つあるのだが、綴は小説が多くおいてある本屋に向かった。
本屋に着くなり元親はしかめっ面になりうへぇとうめき声を出した。本屋にはなるべくなら会いたくない奴がいたからだ。思わず綴もうっと声を漏らす。
二人の声に気づきこちらを向く。
「ああ、さっきの…」
そう、そこにいたのは先ほど綴をナンパした四人の少年の内の一人だ。向こうもげっと言う顔をしている。ちなみに、綴に声をかけてきた奴ではない。チャラいが眼鏡をかけていて少し落ち着いた感じの少年だった。
「ど、どうも…」
とりあえず挨拶をする綴。
「どうも」
「あっ…」
返事を返され次はどうしようかと視線をさまよわせていると少年が手に持っているものに目がいき思わず声を出してしまった。
少年は綴の目線を追うと手を持ち上げた。
「ああ、これ?これがどうかした?」
「え?あ、いや、何でもないです」
本当は何でもないわけはない。少年が持っていて本は綴が買おうとしていた小説の新刊だった。しかも最後の一冊。
「もしかしてこれが欲しいとか?」
「い、いえ!決してそんなことは…」
実際は欲しいので言葉が尻すぼみになってしまい、説得力がない。
「…欲しいなら譲るよ。幸い、このデパートには本屋二つあるしね」
「いいんですか!?…でも、悪いのでいいです」
「それに、さっきは連れが迷惑かけたし」
「い、いえそんなことは」
たじろんでいる綴に元親は小声で言う。
「綴、貰えるもんは貰っとけよ」
「元親は黙ってろ!」
小声で言ってくる元親に同じく小声で返す綴。
「そうだよ、彼氏さんの言うとおり。貰えるものは貰っとかないと損だよ」
どうやら聞こえていたらしい。
「違います!彼氏なんかじゃないです!それと、本も悪いのでいいです」
慌てて訂正する綴。だが少年には照れ隠ししているようにしか見えなかった。
「別にいいよ。元々連れが向こうの本屋にいるし、そっちで合流するつもりだったからちょうどいいし。だから、遠慮する必要はないよ」
「でも…」
「…ああ、めんどくさい…」
少年は頭をがしがし掻くと、綴の手に無理やり本を持たせ去っていった。案外いいやつなのかもしれない。
「良かったな、綴」
「僕としては少し釈然としないけどな…」
「向こうがいいっていったんだから気にすることはねえよ」
「お前はもう少し気にした方がいい」
会話をしつつ他の目当ての新刊を見つけ会計をして貰う。
その後は元親や、自分の服を選んだりしていた。服を選んでいるとグ~っと元親のお腹が鳴った。
「ははっ、そろそろお昼にでもするか?」
「そうだな、そうするかな。それじゃあ、服買って行こうぜ」
「ああ」
会計を済ませると綴たちはフードコートに向かった。レストランもあるのだがフードコートの方が楽でいいのでそっちにした。
フードコートでハンバーガーを買い席に着くと隣からげっと言う声が聞こえた。まさかと思いそちらの方を向くと先ほどのナンパ男と愉快な仲間達がいた。
「げっ」
元親もうめき声を出す。数秒間の沈黙のうちに先ほどの眼鏡の少年と目が合う。思えば、先ほどお礼を言っていないことに気づき慌ててお礼を言う。
「あ、あの、先ほどはありがとうございました」
「…いいって、気にしないで」
「え、なっつん何かあったの?」
どうやら眼鏡少年はなっつんと言うあだ名らしい。
「何にもないよ」
「ええ~何にもなく無いじゃんか~。ねね、何があったか教えてくんない?」
「え?」
急に話を振られて驚きながらも説明する。
「あ、えっと、なっつんさんが後一冊しかない本を譲ってくれたんです」
「へ~なっつん優し~」
「おい、余計なこと言うな。それにあだ名の後にさんをつけるな」
「あ、すみません。本名知りませんでしたので…」
「…はあぁ、俺の名前は真田夏彦だ」
「あ、ちなみに俺は深見祐樹ね!」
「俺は奏本宗也」
「俺は新海水面な」
先ほど積極的にナンパをしてきた奴が新海水面らしい。
「で?そっちは?」
「はい?」
「名前だよ。こっちにだけ名乗らせるつもりか?」
そうだった、こっちは名乗ってないんだった。
「あ、はい。僕は柊綴です」
「俺は元部元親だ」
「そう、よろしくな~!」
その後少しこの四人組と話をしていたが最初の印象と違い皆気さくでいいやつだった。夏彦は少し素っ気ないところもあったが聞けば普通に返事をしてくれる。
「それで、元親よ。どうやってこんなかわい子ちゃんと付き合うようになったんだよ?」
どうやら、宗也と元親はすっかり意気投合したみたいで名前で呼び合っていた。
「いや、俺こいつと付き合ってねえよ?」
「またまた~照れ隠しはいいて~」
「いやいや、ほんとだって。それにこいつ男だし」
「そんなわけ無いだろ、こんな可愛いのに」
「いや、それが事実なんだって」
宗也は最初は冗談かと思っていたが元親のまじめな顔を見てだんだんと笑顔を引っ込めていく。
「え、まじで?」
「まじで」
「え、でも女物の服着てるし…」
と水面が言う。
「それ、綴の姉貴が着せたやつ」
「声も高いし…」
と祐樹が言う。
「声変わりして低くはなってるぜ?」
「か、可愛いし…」
そして最後に宗也が言う。
「姉貴に似てるんだよ。姉貴も可愛いし」
そう言うと元親は綴と霞が二人で写った写真を四人に見せる。
元親以外の全員が綴を見る。途中から本を読んでいた綴は静かになったので顔を上げると皆が見ていたのでびっくりする。
「な、なに?」
「…お前、男なのか?」
皆の心を代弁して夏彦が答える。
「そうだけど、最初に言ったじゃん」
「う」
「う?」
「「「嘘だろおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」」」
突如叫び出す三人。夏彦だけは自制心でなんとか叫ぶのを押さえている感じで顔は驚愕していた。
当然、急に叫び出すので周りから注目されてしまう。
「ば、ばっかお前ら!周りに迷惑だろうが!すみません、お騒がせしました!」
叫んだ後固まる三人に変わり綴が周囲にペコペコ頭を下げて謝る。
席についても三人は放心していた。
「何でそんな格好…」
夏彦のその言葉で我に返った三人もこくこくと頷いている。疑問は皆同じらしい。
「姉さんに無理矢理着せられたんだよ。あ、これは元親が買ってくれたやつだけど」
「そう、なんだ…」
数秒の沈黙の間に綴は読書を再開した。
「こんなに可愛いのに…男?」
「世界はどうなってるんだ…」
しばらく、元親を含む五人は世界のあり方について語り合っていた。
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小説が読み終わって顔を上げると外は夕日が射している頃だった。
「うわっ、もうそんな時間?」
五人を見て見るとまだ話し合っている最中だった。
「よく飽きないなお前ら…」
「ことの元凶はお前何だぜ綴」
「わけわからん…」
読み終わった本を鞄にしまう。
「それじゃあ、帰ろうか元親」
「ん、ああ、そうだな。それじゃあな」
「あ、ちょっと待った」
帰ろうとした二人を夏彦が引き止める。
「せっかくだからメアドでも交換しないか?」
「お、いいねそうするか!」
「ああ、僕も構わないよ」
そういうと夏彦とメアドを交換した。宗也とかのは夏彦が送ってくれるらしい。
「それじゃあ」
「ああ、じゃあな」
今度こそ四人と別れ帰路につく。
デパートを出て大通りにでると元親が口を開く。
「いや~それにしてもいいやつだったなあいつら」
「そうだな。初めはただのナンパ男だと思ってたけどな」
それから他愛もないことを話しながら歩いた。あまり外に出て遊びに行かない綴はなんだか新鮮な感じがした。たまにはこう言うのもいいなと思いながら元親との会話を楽しむ綴であった。




