第十八話 ナンパする、される
ご飯を食べ終わった後何故か僕の部屋ではなく姉さんの部屋に連れて行かれた。
「姉さん、着替えるなら服は僕の部屋にあるんだけど…」
「大丈夫大丈夫。私、綴くんに似合う服たくさん持ってるから♪」
やたら嬉しそうに鼻歌を歌う姉さんに綴の不安は増していった。
「とりあえず目を瞑っていてちょうだい」
「え、いや、でも」
「い・い・か・ら」
何とも言えぬ威圧感を感じ姉さんの指示に従い目を瞑った。瞑った目の上から目隠しをされる。
なに、なにされるの僕は!?
「それじゃあ、お着替え始めましょうね~」
服に手をかけられ慌ててその手を止める。
「まって、服は自分で脱ぐから?!」
「大丈夫、私にすべて任せなさい。パンツまでは脱がさないから」
「そういう問題じゃないよ!そもそも姉に服を脱がされるって言うのが恥ずかしいんだよ!」
「昔は私が着替えを手伝ってあげてたんだから、今更でしょ?」
「それは、幼稚園までの話だろ!?」
「いいから任せなさい」
先ほどのような威圧感をはらんだ言葉で一瞬止まってしまう。その一瞬のうちに手を後ろに回され縛られる。
「さあさあ、それじゃあ仕切り直して始めるわよ~」
手を縛られてしまってはもう抵抗はできない。無念なり。
服をスポポポ~ンと脱がされる。上着を脱ぐときに縄は外されたがパンツ一丁にされているのでもう抵抗しても意味ないなと思い抵抗はしていない。
鼻歌を歌いながら次々と服を着せていく姉さん。まあ、服を脱がされるのは恥ずかしいが姉さんは服のセンスがいいので任せて問題はないだろう。それに、ここしばらくの間いろいろと心配ばかりかけていたので着せ替え人形になるぐらい我慢しよう。
最後に、ズボン(多分ショートパンツだろう)を履かされ、そして頭に何かを被せられる。
なんだこれ?首とかくすぐったい。
「よおうし、でっきた~」
そう言いいながら目隠しをしたまま手を引っ張られ多分リビングの前まで連れてこられる。そこで目隠しをはずされる。案の定そこはリビングの扉の前であった。
「それでは、お披露目タ~イム」
姉さんは僕の後ろから扉を開け僕をリビングの中へと押す。
リビングでは二人ともソファーに対面に座っていた。
「「ブフウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」」
二人はこちらを見ると飲んでいたお茶とコーヒーを盛大に吹き出した。ちなみにお茶が緋日でコーヒーが元親だ。
「な、なんだよ二人とも。なんか変か?」
姉さんの服選びのセンスはいい方なのでこういう反応をされると今回は失敗だったのか不安になる。
むせてせき込みながらも緋日と元親はフォローを入れる。
「あ、ああ、いや、似合ってはいるわよ」
「ただ、かなり意外だったというか…。それってお前の趣味、とか?」
「ん?ああ、いや、姉さんの趣味何じゃないか?姉さんの用意した服を着てるわけだし」
二人は納得したように、ああ~と声を合わせる。
「な、なんだよ」
「いや、そうだな、お前鏡見た?」
「見てないけど」
「そうか…」
そう言うと元親は席を立ち綴の向かいに立ち携帯を構え写真を撮る。しばらく何かの操作をした後画面を綴に見せてくる。
「これが今のお前さんだよ」
元親の見せてくれた写真に驚愕し数秒間硬直する。
「な…」
この部分で察したのか元親は両手で耳をふさぐ。
「なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
元親の携帯に映っていたのは女装した僕の姿だった。
「なにこれなにこれ!なんなのこれ!姉さんなにしてんのさ!」
姉さんに詰め寄り両肩を持ち前後に揺するも、姉さんは幸せそうな顔で僕を見つめ言った。
「だって似合うと思ったんだも~ん。そしたら案の定似合っちゃうからお姉ちゃんつい嬉しくなっちゃってね」
「ついじゃないよ!ああん、もう!僕着替えてくる!」
姉さんの肩から手を離し二階に向かおうとするが後ろから肩をつかまれて止められる。
「綴、ナンパにいこう」
「何でだよ、嫌だよ!せめて着替えてからじゃないとやだよ!」
「いや、その格好でいこう」
「嫌だ!絶対に嫌だ!」
「嫌か、そうか、なら仕方ない」
そう言うと携帯を操作した後画面を綴に見せてきて言う。
「ならばこの写真を俺の友人全員に送る」
「んな!?」
そんなことをされたらたまったもんじゃない!綴は友人が少ないが、元親は他校にもたくさんいる。その全員ってことは軽く百人は越えるだろう。
そのことに気づき焦りながら携帯を奪おうとするが携帯を上に持ち上げられてしまう。
「待て!その写真消せ!」
ぴょんぴょん跳ねて取り上げようとするがうまくかわされてしまう。
「ダメだ。それに、俺のデータを消しても第二第三の刺客がいる」
そういい元親は緋日に視線を向ける。緋日と姉さんはさっき元親と緋日が吹き出した飲み物を布巾で拭いていたが、いったん手を止めてポケットから携帯をとりだし笑顔で綴の女装写真を表示した携帯を見せてくる。
「拡散かナンパか。どっちがいい?」
もはや選択の余地はなかった。元親の方で拡散されると知り合いに会いづらくなるし、姉さんや緋日の方で拡散されると転入した後皆の目線が突き刺さり居心地悪いこと間違いなしだ。
「ナンパにさせていただきまーーーーーー」
言葉を発している途中であることに気づく。
そうだ、今日の予定をすっかり忘れてた!形勢逆転だ!
ニヤリと笑いながら続きを言う。
「ーーーーーーすと言いたいところだが残念だ。今日は稽古があるから遊んでいる暇は「あ、今日私用事があるから稽古無しよ」なんだと!?」
途中でセリフを遮り姉さんに言われる。
だが、まだだ!
「それじゃあ緋日は「私も同じく」なんだって!?」
またしても遮られて言われる。
ううっ、万策つきた…。
「それじゃあ行くか」
「ううっ、くっそぉう」
襟元を持って引きずられながら外に連れ出される。
「「いってらっしゃ~い」」
二人に見送られ綴は人生初の女装ナンパに向かうのであった。
ドナドナ歌いたくなってきたわ。
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目的地に向かう途中流石に人が増えてきたので自分で歩くことにした綴。通行人の視線が痛かったがなんとか綴と元親は無事に目的地についた。目的地は駅前である。駅前を選んだ理由すぐ目の前に大型のショッピングモールがあるのでナンパには最適だと考えたのだ。
ショッピングモールに入りホールで立ち止まる二人。休日のしかも九時を過ぎていたので人はかなり多かった。
「さて、じゃあ始めるか」
「ほんとにやるのか?」
「おう!」
「て言うか、僕はこの格好で女の子をナンパするのか?」
「いや、男をナンパしてこい」
「それ僕がイケメンかどうかを判断する材料になんないだろうが」
「お前はイケメンじゃない、安心しろ!」
「それはそれで腹が立つな」
といってる間も元親は抜かりなく可愛い女の子を探していた。
「でも、それなら僕はしなくていいんじゃにか?」
「お、可愛い子発見!」
「聞けよ…」
「んじゃあ行ってくる!」
「あ、ちょい!」
そう言うと颯爽と女の子の元に行ってしまった。なんて早さだ…。
「ふうぅ」
息を吐きながら柱に寄りかかる。
さて、僕はこれからどうしようかな。男をナンパしろと言われても僕は正直やりたくない。いや、僕だけじゃ無いだろう。この世の大半の男性は男をナンパしろと言われたらやりたくないと答えるであろう。
かと言ってこの格好で女の人を口説くのはいやだ。え?男の子なの?と言われても傷つくし、何より絶対に変態扱いされるだろう。
さてどうしたものかとこれからのことを考えていると不意に声が聞こえた。
「お姉さん、今お暇?」
お姉さんてことは僕じゃないだろう。そう思いまた考え事に集中すると、今度は肩をたたかれて言われた。
「お姉さんってば」
声の方を向くと四人の男が立っていた。柄の悪い格好をしているわけではないが元親並みにちゃらい。
あんまり関わりたくないので素っ気なく返す。
「何ですか?」
「いや、今暇かなって聞いたんだけどね」
「暇ではありません。連れを待っています」
「連れって、ここきてすぐに女の子ナンパしにいっちゃったあれでしょ?あんな男ほっといて俺らと遊ばない?」
「すみませんがお断りします」
「何でさ?」
「あれでも友人なので…それと」
「ん?」
「僕は男なのでお姉さんではなくお兄さんです。勘違いしないでいただきたい」
勘違いを訂正すると男たちは一瞬ぽかんとしたかをおするがすぐに持ち直し笑い始める。
おい、やめろ。大声で笑うな。皆注目してるだろう。て言うかなにがおかしいんだよ。
疑問に思ったのですぐに聞いてみた。
「なにがおかしいんですか?」
「だって、君どう見ても女の子でしょ?何々、そう言う設定とか?ぷふっ!」
「いや、ほんとに男なんだって」
「はいはいわかったわかった、男の子男の子。って言うことで遊びに行こう」
「何がて言うことでだ。行かないと言ってるだろう」
「ええ~いいじゃ~ん」
そう言うと馴れ馴れしく手をつかもうとしてくるが、それは誰かの手につかまれ妨害される。
「ああ?何すんのさ」
「悪いね、こいつ俺の連れなんだ。手を引いてくれよ」
手をつかんだのは元親だった。おお、なんか少女マンガのヒーローっぽいぞ。だが騙されること無かれ、ここにいるキャストは全員男だ。
そんなことを考えつつもこれ幸いにと歩きだす。
「やっと戻ってきたか、行くぞ元親」
「はいはい」
元親も手を離し付いてくる。男たちは興味をなくしたのか追っては来なかった。
良かったよ面倒ごとにならなくて。
「ありがとな、助かった」
「なに、いいってことよ」
実際は元親がいれば絡まれることも無かったのだと思うのだがそれを言ってもしょうがないので言わないでおく。
「それで?成果は?」
「んっふっふ~」
待ってましたと言わんばかりにどや顔をする元親。
「気持ち悪い顔すんなよ」
「ひっでぇ!…まあいいさ、成果はなんと!」
と言いながら携帯を出してくる。
「じゃじゃ~んお姉さんのメルアドゲット!しかも三件も!これはもう俺がイケメンだってことでしょう!」
確かに十分経つか経たないかで三件なら凄いのだろう。
「それは凄いな、流石にこの短時間で三件なら申し分ないな、うん」
「ふっふ~ん、だろう?」
だが、ここであることに思い当たる。この短時間で元親がイケメンであると証明されてしまったということはだ。
「僕たち、もうここにいる意味なくないか?」
「ん?あ…」
元親も思い至ったのだろうどうしようって顔をしている。
しばらく焦ったようにあたふたしていると何かを思いついたのか慌てて口を開く。
「じゃ、じゃあさ!俺とこれからデートしない?」
「気持ち悪いこと抜かすな!」
「冗談だよ。それじゃあ、そこらへんの店を見て回らないか?俺服とか買いたいし」
「はあ、なら始めからそう言えよ…。まあ、それなら構わない、僕も買いたい本があるしな」
「おし、それじゃあ行くか!」
目的が決まり歩き始める二人。
「そう言えば、お前ナンパされてたな」
「やっぱりそうなのか…あんまり考えたくなかったんだけどな…」
ふと服屋の店先においてある鏡に自分の姿が映り思わず立ち止まる。自分の姿に違和感を感じないのがむなしくなってきて早々に立ち去ろうとしたが店員さんに声をかけられた。
「お客様何かお探しですか?」
鏡を見ていただけなのだがどうやら鏡の前の台に畳んでおいてある服を見ていたと勘違いされたらしい。
「あ、ああ、いいえ。大丈夫で」
「お客様は綺麗ですからこういう服が似合うと思いますよ!」
「え、いや、あの」
断ろうとしたのだが遮られてしまった。しかも店員さんは嬉々として綴にあれやこれやと服を進めてくる。あれが似合うこれが似合うと言いながら綴のからだに当ててくるが、正直分からなかった。ただ一つ分かることは、綴は男なので素では決して似合わないだろうというてんだけであった。
そう考えている内に店員さんがまた一人増えた。あれが似合うこれが似合うと議論をしている。
ヤバい、どうしよう。
困惑している間にまた一人増えた、今度は私服だから普通のお客さんだろう。更に増えてしまい困惑していると店の中の人が何事かと集まってくる。そして話を聞くなりまた議論が始まる。
騒ぎはどんどん大きくなり店の前にちょっとした人溜まりができる。
なぜだ!何故こんなに人が集まってくるんだ!?
その理由は至極簡単なものだった。綴は霞に顔がよく似ているのだ。幼少の頃は姉妹に間違われるほどであった。最近では言われることが少なくなったので似なくなってきたのかと思っていた綴だが、実際のところは皆が見慣れてしまったのと、霞が中学の二年から退魔師学校の中等部に転校してからは言われることが少なくなっただけだったのだ。なので、綴の顔は少し男の子っぽい面影はあるがいまだに霞によく似ていた。そんな、綴が女装をしたのだから美少女に見えないわけがない。その見た目が原因で人集りができているのだ。普通顔だと思いこんでいる綴はそんなことには当然気づかない訳であるが。
現実逃避気味に人集りができている理由を考えてい内に上から下までの全ての服や装飾品がそろっていた。
店員さんはキラキラした目でそれを持ち言ってきた。
「ささ、お客様、これを試着してみてください」
「え、いやその…」
「さあさあ」
ぐいぐいと服を押しつけられそのまま更衣室に押し込められる。
これは、着ないとダメなんだろうか…。一瞬自分が男だとバラした方が楽なのだろうかとも思ったのだが、こんなに大騒ぎになってしまったのだから、乗り切れたとしてもモール内でばったり会うこともあるかもしれない。それは気まずくなるから避けたい。となると、やはり着るしかないのだろう。
「はあぁ…」
自然とため息がでるが腹をくくって服を着る。
ああ、僕、ほんとになにしてるんだろう。
ナンパをするつもりがナンパをされ、その上こんなことにまで。
「お客様、お着替えは終わりましたか?」
「あ、は、はい…」
正直この格好で出るのは恥ずかしい。できればこのカーテンは開けたくないがずっとここにいても仕方がない。
覚悟を決め勢いよくカーテンを開けると、感嘆の声が聞こえた。
「…予想以上に似合ってますね…」
「…ええ、お似合いですよお客様」
「おお、ほんとだ。似合ってるぞ、綴」
「も、元親!?」
そうだ、勢いに押されていて忘れていたが元親もいたんだった!!
そう思うと、急に恥ずかしさがまして一気に顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。
この状況を知っている友人に見られ恥ずかしくなっただけなのだが、周りの人には彼氏に褒められて恥ずかしがっているようにしか見えなかった。
「何を言う!似合ってるわけ無いだろう!」
「いやいや、似合ってるよ。あ、そうだ。店員さんあれ全部買うからレジ通してもらえない?服はそのまま着ていくから値札だけ切っちゃってください」
「お、おい」
「かしこまりました。それではこちらへ」
そのまま、レジへ向かう店員さんと元親。もう一人の店員さんは値札を切っている。
仲のいいカップルだなと思う店員さんとお客さん。その中で綴はひとりだけ置いてけぼりであった。
…何故こんなことに…。
元々書く予定のない話でしたがムラってきて書きました。
過去話の内容を少し増量しようと思います。




