第十七話 ナンパへの道
ご飯をいつもより食べ過ぎてしまい少しお腹がきつかったが着替えて学校に向かった。
途中でいつものごとく元親と合流し学校に着くと待ってましたとばかりに美来と良子がやってきた。
「ねえねえ、柊くん。転入って来週の月曜なのね!今日が金曜日だから明明後日ね!ちょっと急じゃない?」
「そうだね。桐生さんにもいろいろあるんじゃないの?隊長さんやってるわけだし」
「そういえば試験とかあるんでしょうか?転入当日に試験とかなんでしょうか?」
「そこらへんは問題ないんじゃないかな?適正がない人を推薦したりしないだろうし」
何にも考えなしにいうような人には見えなかったから大丈夫であろう。
「そうだ、四季さんの治療っていつ?土日のどっちかにやるの?」
「はい、私への施術は明日みたいです」
「そうなんだ。きっと良くなるよ」
「ありがとうございます」
華やかに微笑む良子。その笑顔の裏には確かな不安と緊張が見て取れた。こういうとき先ほどのように月並みな言葉しか言えない自分が情けなく思える。
「ん?なに、四季さん手術すんの?」
そう聞かれ元親に説明していにことに気づき、元親に四季さんを治療できる人が見つかったこと、明日手術することが決まったことを簡単に説明をした。
「なるほど、頑張って四季さん。手術ってのは医者の腕もそうだけど患者のモチベーションも大切なんだぜ?だから不安がらずに、絶対成功するって思っとかなきゃ!」
「そう、ですね。はい、絶対成功します!」
「そうそう、そのいきだよ四季さん!」
元親の言葉に笑顔で答える良子。その笑顔には先ほどまでの不安は無く純粋な笑顔だった。
元親は相手の状態を見てどういう言葉をかけるのが適切かを区別することがうまい。友達が多いからそういうことができるのか、そういうことができるから友達が多いのか分からないが、これが奴に人望がある理由の一つなんだろう。
感心しながら元親を見ていると向こうもこっちに気づき気持ち悪い笑顔を浮かべながら言った。
「なんだ、じろじろ見て?ん、もしかして惚れた?俺に惚れちゃった?」
「そんなわけないだろう。まったく、人の感心を返せ」
「なに、感心してたの?なんで?」
「何でもないよ、気にするな、顔を近づけるな気持ち悪い!」
近づけてくる顔を手で押し返す。
「気持ち悪いとは失礼な!俺はこれでもイケメンで通ってんだよ!」
「どこで通ってんだよ」
「学校」
「なら確かめてやるよ」
美来の方を向き聞いてみる。
「ねえ、こいつイケメン?」
「全然、不細工よ」
「通ってないぞ?」
「卑怯だぞ!美来に俺のことを聞いていい言葉が返ってくるわけ無い!」
「それじゃあ…」
今度は良子の方を向き聞いてみる。
「こいつイケメン?」
「…」
無言で目をそらす良子。なら答えは明白だ。
「不細工だってよ」
「何も言ってないよね!?四季さん何も言ってないよね!?」
「それはあれだ。面と向かって不細工だなんて言えるようなひどい人じゃないんだよ四季さんは」
「そうよ、これは良子の優しさなのよ」
「どんだけ俺を不細工にしたいんだよお前等は!あれだろ、面と向かってイケメンって言うのが恥ずかしいから目をそらしただけだろ!?」
「恥ずかしい奴が恥ずかしいこと言ってるから恥ずかしくてそらしたんじゃないの?」
「それだ」
「それだじゃねぇぇぇぇぇぇ!」
そんな感じにふざけあっているとチャイムが鳴り先生が来た。元親は不満げに綴を見ながら席につき、美来は顔を真っ赤にして笑いを堪えている良子を押して席に着いた。
ずっと俯いてると思ったら笑いをこらえていたのか。そのことに気づき少し安堵する。綴は不安げな良子にかける言葉が分からなかったから行動で何とかしようとした。結果あんな感じのコントみたいになってしまったが、良子の気が少しでも紛れたのなら良かった。まあ、元親の言葉で不安をぬぐい去れていたかもしれないが念には念をだ。
窓の外を見ながらそんなことを考え今日も授業が始まった。
それからの授業はこの間の事件が嘘みたいに平穏に、いつも通りに進んだ。昨日も平穏無事だったが、二日も続くといつも通りだなと実感する。
恒例となった帰りのお迎え。転入しても続くんだろうなと思いながらも帰路につく。帰り道も何もなく無事家につく。
平穏、実に平穏だ。正直マクスウェルがまた何か仕掛けてくるのではないかと内心ビクビクしていたのだが、この二日間は何もない。何もないに越したことはないのだが、何もないと逆に怪しく思えてしまい落ち着かない。
などと考えてはいるが何もないまま今日が終わり、綴は眠りについた。
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目覚ましが鳴り起床する。あくびをしながらのびをする。
このままベッドの上にいたら寝てしまいそうなのでベッドから降り着替え始める。
今日は土曜日だ。特に予定はないがやることはある。姉さんとの毎週恒例の稽古の日だ。姉さんが暇な時間に稽古をするのでどの時間でもいいように早く起きている。
ジャージに着替え終わりリビングに向かう。案の定二人とも今日も朝が早かった。
「おはよ」
「おはよう」
二人から挨拶され返事を返しソファーに座る。
「おはようさん、綴」
「おはよう、元親」
隣にいた元親にも挨拶を返す。ん?元親?
「…」
「…」
隣にいる元親と目が合う。は?元親?
「はあああぁぁぁぁぁぁ!?」
「うおっ!びっくりした!なんだよ綴、朝っぱらからでかい声出して」
「な、なんだよじゃないだろ!お前こそ、朝っぱらからなんで家にいるんだよ!」
最初こそ普通に返事をしていたが明らかにおかしい。何で朝から家に元親がいるのだろうか。
「何でって、呼ばれたんだよ霞さんに」
「呼ばれたからってこんな朝早くに来なくてもいいだろ!まだ七時半だぞ!?」
そう言うと元親は照れたようにはにかみ言った。
「だって、早くおまえに会いたかったからさ」
その言葉を聞いた瞬間全身に鳥肌が立った。
「お前、顔だけじゃなくなんかいろいろと本格的にきもいな…」
「だっから、俺はイケメンだっての!!」
「まだ言うか。…なあ緋日、元親ってイケメン?」
いすに座り静かにお茶を飲んでいる緋日に聞いてみる。
「…まあ、ゴキブリよりはましじゃない?」
「それは、さすがに傷つく!」
大して傷ついた様子もなく言う元親。タフだな…いや、目が潤んでる。結構きてる。
「そ、それじゃあ霞さん!俺ってイケメンですよね?」
心優しい姉さんに助けを求める元親。
大して考えた様子もなく姉さんは答える。
「そうね、かっこいいわよ」
「か、霞さん…」
心底嬉しそうに目を潤ませる元親。
それじゃあ面白くないので綴も聞いてみる。
「姉さん僕は?」
「もちろんかっこいいわよ」
「こいつと比べると?」
「う~ん、どっちもかっこいいから選べないかな」
これで答えが出た。綴はニヤリと笑い元親を見る。
「な、なんだよ」
「元親。僕とお前は同じくらいのイケメンらしいぞ」
「そ、それがなんだ」
「普通顔の僕と同じくらいってことはつまり、お前はそんなにかっこよくないってことだ!」
「……それ自分で言ってて悲しくないか?」
「……凄く悲しい……」
言っていて二人してズーンと沈み来む。元親をはめようとしたら自分もダメージを受けてしまった。
「なにやってんだか…」
呆れたように首を振る緋日と苦笑いをする姉さん。
すると沈んでいた元親がふと言った。
「…納得いかねえ…」
「納得しろ」
即答で返す綴に元親も即答する。
「いや、納得いかない!」
「…じゃあ、どうすんのさ?」
「綴、これから町でナンパして来るぞ!」
「いや意味が分からん」
まじめに意味が分からなかった。
「俺たちがナンパに成功したらそれは俺たちがイケメンだってことになるだろ!」
「…なるのか?いや、人には好みってのがあってだな」
「シャラップ!!何であれいくと決めたら行くぞ!」
「いや、決めたの元親だし僕じゃないし」
「いいから行くぞ!着替えろ!」
「僕着替えたばっかなんだけど」
「関係無い!着替えるんだ!」
これはもう梃子でも考えを曲げないだろう。こういうときは従った方が早くすむと経験則で分かっていた。
「はあぁ、分かったよ行くよ」
「よっし!そう来なくっちゃな!」
着替えてこようとソファーを立とうとすると姉さんが言う。
「その前に朝ご飯食べて行きなさい。元親くんも食べていく?」
「はい、ご馳走になります!」
「了解」
四人でテーブルにつき朝ご飯を食べ始めた。今日もご飯が美味しい。
「そうだ綴くん、ナンパするなら私が服を選んであげる」
妙に嬉しそうに言う姉さんに本能的な警戒心を抱きながら答える。
「い、いや大丈夫。自分で何とかできるから」
「いいからいいから」
「いや、でも…」
「…」
姉さんに潤んだ瞳で見つめられる。
それは、ずるいよ、姉さん!
結局綴がおれて頷くしかなかった。
「分かったよ。よろしくお願いするよ」
「うん、分かったよ!」
満面の笑みを浮かべ返事をする姉にさらに警戒を強くする綴。だが、了承してしまったからには任せないといけないので警戒しても何の意味もなかった。




