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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第二章 転校編
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第十六話 早朝


 また夢を見ていた。この間と同じ夢だった。この間と変わらずに進む夢。いや、一カ所だけ変わっていた。氷霞の後ろに立つ女の顔のもやが消えかかっていた。それは、夢が進むに連れて薄くなっていく。あともう少しでもやが完全に消えるというところで綴の意識は覚醒した。


 夢から覚め目を開くと部屋の中は少しだけ明るかった。窓を見てみると日が上り始めている。時計に目を向けると時刻は五時だ、どうやら昨日はそのまま眠りについてしまったらしい。部屋の電気は姉さんあたりが消してくれたのだろう。

 よく眠りについたので眠気は無く朝の弱い綴にしては頭がスッキリしていた。


「最近この夢ばっかだな…」


 この夢のせいで寝付けず寝不足になるということは無いが自分の目玉がえぐられるのを見るのは気分がいいものではなかった。


 ふと、のどの渇きを覚え水を飲もうとしたに降りるともう姉さんが起きていた。自分の部屋の時計が遅かったのかと思い時計を確認してもまだ五時半くらいだ。綴の時計と変わらない。

 早すぎだろう…。


「おはよう、姉さん」


 とりあえず朝の挨拶をする。


「ああ、綴くん、おはよう。今朝は早いのね」


「昨日は結構早くに寝ちゃったからね。姉さんこそ早いね、毎朝この時間なの?」


「今日はたまたまよ。いつもは六時くらいに起きてるわ」


 それでも六時には起きてるのか…。規則正しい姉である。

 台所に行き冷蔵庫から水を取り出し飲む。


「おはよう」


 ふいに後ろから声をかけられて驚きつつも振り返ると、そこには緋日がいた。パジャマを着ているのでまだ寝起きなのだろう。


「おはよう。緋日も朝早いね。毎日これくらいに起きてるの?」


「ええ、朝は走り込みをしてるから」


「そうなんだ。…ねえ、その走り込みついて行ってもいい?」


「別に構わないけど」


「ありがとう。それじゃあ着替えてくるよ」


 リビングから出て部屋に行き、ジャージに着替えてからしたに降りる。玄関で緋日を待っていると程なくして緋日がやってくる。


「それじゃあ、行きましょう」


「ああ」


 外に出て軽く準備運動を済ませ走り出す。退魔高校に通っているだけあって緋日はかなりのハイペースで走っていた。

 朝の早い時間帯の町には外に出ている人は少なく新鮮な感じがした。夜中の町を走るのとはまた違った感じが味わえたので緋日について来て良かったと思う。


 大分走ったところで前を走る緋日を見ると軽い呼吸を繰り返すだけでまだまだ余裕の表情。綴にあわせてペースを遅くしてくれているのかもしれない。対して綴の方はというと、呼吸は荒くなり、ペースも落ちてきていた。最初の内は街並みを楽しむ余裕があった綴であったが今はそんな余裕は皆無である。

 緋日は後ろの綴をちらっと見ると近くの公園に入っていった。続いて綴も入っていく。ペースを落とし止まる緋日。


「少し休憩にしましょう」


「あ、ああ、分かった」


 息も絶え絶えに言う綴はそのままベンチに向かってあるいていく。ドカッと腰を下ろし足を投げ出す。目を閉じて呼吸を整える。


「ひゃあっ!」


 しばらくそうしていると急に首筋に冷たい何かが当たり変な声を上げ少し飛び跳ねてしまう。


 何が起こったのか分からず混乱していると、後ろから微かな笑い声が聞こえ振り返る。そこにはいたずらが成功した(まあ、実際にいたずらは成功しているが)子供のような笑顔で笑っている緋日がいた。手には缶のスポーツドリンクを持っていた。どうやら首に当たったのはそれらしい。


 緋日は笑いながらそれを差し出してきた。素直に受け取りながら愚痴る。


「普通に渡してくれればいいのに」


「くっ、ふふふ、ごめんなさい、つい出来心で」


 まだ、笑いが収まらないのか笑いながら隣に座る緋日。


「ひゃあって、かわいい声出すのね」


「う、うるさい!しょうがないだろ、びっくりしたんだから」


 そう言いながらプルトップを開けスポーツドリンクを飲む。


「ブフゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


 が、得体の知れない味と変な刺激に驚き吹き出してしまう。

 今度はお腹を抱えて笑う緋日。


「ゲホッ、ウエッ!な、何これ!何なのこれ!凄い変な味したんだけど!」


 綴の問いに笑いながら答える緋日。


「ふふっ、そ、それは『熱血スポーツドリンク 青春の汗の味』だよ。くふっ、まさか、ラベルも見ないで飲むとは、ふふ、アハハハハハハハ!」


 途中までは笑いをこらえていた緋日だが最後にはこらえきれずにまた笑い出してしまう。


「なに、何なのその味!何でこんなの作ったの?てか、何でこんなの買ってきたのさ!汗の味って何なのさ!」


 なんだか喉が痛い。それに焼けるように熱い。何だ、何を材料にしてあるんだあの飲み物は!


 水でもなんでもいいから、いや、熱血スポーツドリンクだけは勘弁だが、何か普通のものが飲みたい!


 ふと、緋日の飲み物が目に入る。


「緋日、ちょっとそれちょうだい!」


 緋日の手から飲み物をひったくり、今度はラベルをきちんと確認してから飲む。


「ふぇっ!?」


 緋日が素っ頓狂な声を上げていたが、今は気にしている場合ではない。


「ぷっはあぁ!ああ、助かったぁ…。あ」


 半分ほどまで貰うつもりが残り全部飲んでしまったらしい。


「ごめん、緋日全部のんじゃ…緋日?」


 緋日はなにやら顔を赤くして口をぱくぱくさせている。まるで鯉みたいだ。


「どうしたの?」


「か」


「か?」


「かんせ」


「かんせ?関節技?」


「違う!か、間接キス…」


「あ…」


 いわれて初めて気づき顔が赤くなる。

 う、うわあ、どうしよ、何も考えてなかった。


「ご、ごめん、その、あの、ええっと…」


「い、いいの、いたずらいした私が悪いんだし。その、何というか、ごめんね?」


「あ、いや、大丈夫」


 それっきり顔を赤くしたまま俯いてしまう二人。

 気まずい。気まずすぎる。ああ、何であのとき気づかなかったんだ僕はぁ!


「あの」


 何とか他の話題を探そうとしていると、緋日の方から話しかけてきた。


「今日は何で付いてきたの?」


 どうやら向こうも同じことを考えていたみたいである。ありがたく綴も向こうの考えに乗っかる。


「あ、ああそのこと?それは、今朝は早く起きすぎちゃってやること無かったから。それに」


「それに?」


「体力付けなきゃって思ったからさ。これからは、妖魔と戦う日々を送ることになるわけだしね。体力だけじゃなくて、力も、技術も。僕にはまだ足りないものが多すぎる。経験だって少ない。だから、少しでも強くなれたら、母さんや父さん、姉さんや緋日に少しでも近づきたいと思ってね」


 これは偽らざる綴の気持ちであった。オルトロス戦はある意味不意打ちみたいなものだ。オルトロスが焦りから早く回復していれば綴りは負けていた。だから、運が良かったとしかいいようがない。だから、少しでも強くなりたいと思い緋日についてきた。


 そう思っている綴には緋日の次の言葉は願ってもないことだった。


「そう、それなら、私も稽古をつけてあげる」


「え、ほんとに?」


「ええ、これからは私も霞さんと一緒に稽古を付けてあげる。まあ、用事が無い日

になっちゃうけど」


「それでも構わない!ありがとう、緋日!」


 綴の言葉を聞いて優しく微笑むとベンチから立ち上がり言った。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。後半分くらいだから頑張りましょう」


「ああ、行こう!」


 緋日に続いて綴も走り出す。帰りは行きのルートを逆にたどっていった。緋日はペースを少し落としてくれてはいたが、それでも家につく頃には綴はへとへとになっていた。玄関のドアを開け中にはいると靴を脱ぎそのまま廊下に倒れ込む。


「はあ、はあ、ああ~しんどかったぁ…」


「お疲れ様、二人とも」


 寝っ転がりながら声の方を向くと姉さんが立っていた。手にはペットボトルを二本持っている。


 近寄ってきてペットボトルを渡してくれる。


「はい、どうぞ」


「ありがとう。…よし、大丈夫そう」


 さっきのこともあるので一応ラベルを確認する。ちらっと緋日の方を見ると気まずそうに目をそらされる。


「何が大丈夫そうなの?」


 小さい声でいったつもりが姉さんに聞こえていたらしい。


「あ、いや、何でもないよ」


 そう言いつつ姉さんに視線を戻すとあることに気づく。そして、つい口をついて言ってしまった。


「姉さん、パンツ見えてる」


 そう、パンツが見えてるのだ。最初は飲み物に気を取られていて気づかなかった

が、注視するものが無くなった途端に気づいてしまった。


「え?わっ、きゃっ!」


 姉さんは慌ててスカートを押さえたが寝っ転がって廊下に付いてしまった僕の汗

で前に滑ってしまう。そして、僕の顔に姉さんの膝がめり込む。


「ひぎゃはっ!?」


「あ、ご、ごめんね綴くん?」


 慌てて立ち上がる姉さん。鼻にクリーンヒットしたので鼻血が出てきた。これは決して姉さんのパンツを見たからというわけではないぞ断じて。先述の通り鼻にクリーンヒットしたからだ…多分。

 そんなことを考えている綴に緋日は冷たく言い放つ。


「自業自得よ、変態シスコンくん」


「違う。僕は断じて変態じゃない」


「シスコンは否定しないんだ?」


「しないさ。姉さん大好き」


 そう言いながら姉さんの方を向くと、姉さんの顔は照れているのだろう少し赤らんでいた。


「あ、ありがとう。私も好きよ?」


「おう」


 綴は男らしく答えたが地味に女顔なので似合ってなかった。


「…はあ…私シャワー浴びてくるわね」


 緋日はあきれた様子で去っていった。


 だがそんなことよりも綴はまだ気になることがある。そう、姉さんのパンツがまだ見えていることだ。

 姉さん、少し距離を置こうか…。天然っぽい所がある姉さんが僕は少し心配です。


 じっと黙っていると今度は姉さんの方から気づいたらしく先ほどと同じく、スカートを押さえ、汗で滑り、綴の顔に膝をめり込ませた。


「ふぎゃあっ!」


「あ、ああ~ごめんね綴くん!」


 今度は、言わなかったのに…。何が正解だったのだろうか…。


 もちろん、正解と言えば気づかれぬように顔を逸らし何事もなかったかのように振る舞うことだと思うのだが、こういうハプニングにはなれてない綴は言うか黙るかしかできなかった。


 姉さんに手を引いて起こしてもらい少し頭がくらくらするので肩を貸してもらいながらリビングのソファーにドカッと座り込んだ。鼻血はしばらくは止まらないだろう。ティッシュで鼻を押さえながら今の時刻を確認すると六時半を少し過ぎたところであった。大体五十分近く走っていたのだろう。


「頑張ったな、僕…」


 だが、緋日は息も切らさずにやってのけていた。ペースも落としていたし、もしかしたらいつもはもっと距離を走っていたのかもしれない。そのことに気づき感心する。


「やっぱり凄いな~緋日は」


 僕も毎朝走り込みをしようかな?などと考え込んでいるうちに鼻血は止まったらしい。

 しばらくして緋日がシャワーから上がったので、鼻血も止まったので綴もシャワーを浴びることにした。 

 脱衣所で服を脱ぎシャワーを浴びる。身体にべっとりと付いた汗が流されていくと身体がスッキリした。お風呂から上がり体を拭きドライヤーで髪を乾かした。


「ふ~さっぱりした~」


 リビングに戻ると朝食の準備ができていた。


「ご飯の用意できてるから食べちゃいましょう」


「うん、分かった」


 今朝は走ったのでお腹がかなり空いていていつもより多くご飯を食べた。

 





 

 

 

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