第十四話 決断
部屋の前に着きドアに手をかける。手に自然と力が入ってしまう。だが、開けないことには何も始まらない。大きく息を一つ吐き意を決してドアを開く。
「綴!!」
綴を見るなり元親が早足に近寄ってきて綴の肩や腕、足などを触ってくる。
「大丈夫か?どこも痛いとことか、違和感があるところもねえか?あったら言えよ、悪くならない内に治さねえといけねえしよ」
突然のことにきょとんとする綴。
「大丈夫柊くん?あの後急に倒れて心配したんだから!何ともないの?」
そこに美来まできてさらにきょとんとする。車椅子で綴の所まで良子が来ると彼女も言う。
「あの、柊くん。なんとお礼を言ったらいいか分かりませんがこれだけは言わせてください。助けていただいてありがとうございます」
そして最後に良子までこうである。罵られると心の準備をしたのでこれは想定外であったため、硬直してしまった。
はっ、と我をに帰り慌てて言う。
「いや、なんで、お礼なんて、て言うか皆その怒って無いの?」
「怒る?誰に?」
「誰にって…僕に…。だって、僕がオルトロスに立ち向かわなかったら皆が危険な目に遭うことも、四季さんがこんなことになることも…」
「なんだ、そんなことですか」
何でもない風に言う良子。
「これは、自分で決めて自分で行動した結果です。ですので、柊くんが気に病むようなことではありません」
「そうだぜ綴。俺だって、自分で決めたことだ。それに、あの時綴が行かなくても俺は行ってたよ」
「そうそう!ああいう時のために鍛えてきたんだから!むしろ戦わなかったら今まで何してたんだって感じだし!」
そういう皆の顔は無理をしてる風も無く全く自然なものだった。綴の心の重荷が少し無くなった気がした。
「綴が俺らを助けようと飛び出したのはすぐ分かったよ。俺らを守ろうと戦ってくれた奴にどうして怒れるっていうんだよ」
「そうそう。それに、最後私たち足手まといになっちゃってたしね…」
「いや、そんなことは!」
「そんなことあるんだよ綴。改めて思った、俺は弱い。だから」
「そのことも踏まえ一度座ってゆっくり話をしないか?」
部屋の奥から投げかけられた声に驚いて部屋の奥を見る。話に夢中になっていて今まで気づかなかったが、そこには羽生と中森、檜垣がいた。少し離れたところには緋日もいた。
「桐生さん…」
「おはよう、綴。今朝の調子はどうだ?」
呼び方がかなりフレンドリーになっていたが特に気にすることでもないのでそのまま話を続けた。
「おはようございます。少し気怠いですが問題ないです」
「そうか、それは良かった。…それじゃあ、皆席に着いてくれ。こちらとしてもいろいろ話したいことがある」
席に着くよう促されたので、席に着く面々。皆が席に着いたのを確認すると羽生は口を開く。
「それでは、話を始める。まずは昨日の出来事の説明をしよう。昨日出現したオルトロス、奴は使い魔だった。左の後ろ足に刻印があったからまず間違いない。奴はゲートを通ってきた、急に現れたのはそのせいだ。ここまでは大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
皆の顔色を見て大丈夫だと判断し綴が言う。元親達も綴と同じ説明を昨日聞いたのかもしれない。
綴の返事を受け羽生が続ける。
「でだ、ここからが問題だ。オルトロスは使い魔だった、これは別にどうもない。むしろ急に現れたことからして予想の範囲内だ。だが、こいつを使役していた奴に問題がある。多分死体を操っていたのもそいつだ。その使役していた奴というのが、颶風のマクスウェルだ」
出てきた名前にどんな反応をしていいか分からない。なにせ颶風のマクスウェルなどという名前は聞いたことがないからだ。元親達も頭上にはてなを浮かべている。
だが、姉さんと緋日は違った。明らかに驚愕している。
「それは、本当なんですか?」
「ああ、刻印もマクスウェルと同じものが使われていた。まず間違いない」
「あの、その颶風のマクスウェルって何ですか?」
「あれ?説明してなかったっけ?」
「ええ、されてないです」
綴の発言に一般人組はコクコクと頷く。
「そうか、それじゃあ説明するぞ。まずは、妖魔に階級があるのは知っているな?」
「はい」
「その階級の上位、つまりS級の妖魔だ。そして、その中の最上級のSSS級という級の妖魔が世界に十数体いる。さらにその中の強い六体のことを『六武神』と言っている。その中の一体が颶風のマクスウェルだ」
これを聞き綴達は始めて敵の強大さを知った。理由は分からないが最強クラスの妖魔が敵になったのだ。その事実に愕然とする綴達。
「いい機会だし他の奴らも教えてやる。堅炎のコーエン、水静のヴィヴァロフ、雷鳴のヴィレントン、氷血のプリンセス、樹神のクイーンとさっき言った颶風のマクスウェルだ。プリンセスとクイーン以外はご丁寧に全員苗字だ。まったく言うならフルネームを言って欲しいぜ」
そして今度は綴だけが驚愕する。他の皆はなるほどと頷いているが、綴はなるほどでは収まらなかった。
氷霞、そんなに強かったのか
氷魔法は使い手が綴をふくめて現在二人しかいないので氷血のプリンセスは氷霞でまず間違いないだろう。改めて氷霞の凄さを知った。
すると、あることに気づく。
「あの、それじゃあ九尾はその六武神には入ってないんですか?」
綴と同じことに気づいた緋日が質問する。その目は真剣そのものであった。両親の仇である九尾の情報は少しでも多く知っておきたいのだろう。
「ああ、入ってない。だが、強さは六武神並みだ。と言うかそもそも六武神っていうのも向こうが名乗ってるだけであってこっちが分類そた訳じゃないしな。大方、九尾は六武神と気が合わなかったから六武神には入らなかったんだろう」
「なるほど」
緋日や他の皆は気づかなかったのかもしれないが綴はあることに気づいた。それは羽生が九尾の名前を出すとき悲しみと怒りが顔に出ていた事だ。微妙な変化だったが綴には分かった。
羽生はこれ以上九尾について話したくないのか話題を変え話を続けた。
「さて、ここからは君達に関することだ、よく聞いて欲しい」
そう言いうと羽生は、綴、元親、美来、良子を見た。
「君達は今回の件で十分に自分の無力さを理解できただろう。いくら古武術をやっていようがいくら剣を教わっていようが魔法を使えなくては妖魔には勝てない。初級魔法程度じゃ歯が立たなかったろう?そこで提案だ、お前達が強くなりたいなら俺が退魔高校に推薦状を出してやる。さぁ、どうする?」
考えた様子もなく元親は言った。
「お願いします!」
そして美来も続く。
「私もお願いします!」
最後に良子も続く。
「私もよろしくお願いします!」
「おお~。言った俺が言うのもなんだけど即答だね~。因みに理由を聞いても?」
問われて元親が話し出す。
「俺、自惚れてたんです。道場で一番強いから雑魚程度なら何とかなるって思って
て、実際雑魚は倒せました。でも、オルトロスを一目見て分かったんです。こいつには今の自分じゃ絶対にかなわないって、誰も守れないって…。それがたまらなく悔しく思えました。だから、強くなりたいんです!大切な人を守れるように!」
「私も同じです。こんなに近くにいる友人ですら守れなかった。だから、せめて私の手の届く範囲だけでも守れるようになりたいんです!」
「私は、二人みたいに戦えません。こんな足になる前でも戦えなかった。三人が戦うのをただ見守るしかなかった。友人が頑張ってるのに何も出来ない自分が腹立たしく思えました。だから、後方支援でも何でも出来ることはやりたいんです」
羽生が感心したように頷き微笑む。
「うん、いいだろう。それだけの覚悟があるんなら俺も安心して推薦できる。…それでだ、君はどうするんだい?綴」
「僕は…」
聞かれてどう答えようか迷う。本当のことを言えば氷霞を危険にさらすことになる。ここは、うまく誤魔化すしかない。
「あの、僕は…」
すると、窓からコンコンと音がする。皆の視線が自然に窓に向く。そこには鳩がいた。
「使い魔ですね。開けますよ?」
羽生が許可を出し中森が窓を開けると使い魔が入り綴の所に飛んでくる。綴が手を前に出すとその手の上に止まった。
「そいつ、足に手紙が着いてるぞ」
言われ、手紙があることに気づく。
「あ、ほんとですね~。伝書鳩ですか~」
ほんわかした声で言う中森。動物が好きなのかもしれない。
手紙をとり、広げてみる。
「なんて書いてあるんだ?」
内容を確認し読んでも問題ないと思い読み上げる。
「今読みます」
『綴へ
やっぱり気が変わったわ。あなたはそちらで生きるべきよ。それに、あなたは焦りすぎてるわ、少し落ち着きなさい。いい機会だから、あなたは退魔高校に入りなさい。それと、心配しなくてもいいこと思いついたからまたすぐに会えるわ。楽しみに待っててね?
能力には多少慣れておいて。それじゃあ、次にあうまでお元気で。
あなたの愛するお姫様より』
多分、と言うか確実に氷霞だろう。
「ねえ、綴が愛するお姫様って誰かな?」
寒気を感じてそちらを見ると緋日が微笑んでいた。微笑んではいるが目は笑ってない。
「緋日、何をそんなに怒ってるんだ?」
「怒ってないわ。ただ、お姫様が誰だか気になるだけよ。で、誰なの?」
ここで名前を言ってしまったら氷霞が何者なのかバレてしまいかねない。言うわけにはいかないので話題を逸らす。
「あ、それより桐生さん」
「ん?なんだ?」
「僕も決めました」
「それで?どうするんだ?」
笑顔で言う羽生。多分僕の答えが分かってるのだろう。
「退魔師高校に入ります。ですので、よろしくお願いします!」
そう言い立って頭を下げる綴。元親と美来も立って頭を下げる。良子は座りながら深々と頭を下げる。
「よし、任された!それじゃあ早速準備をするから俺は戻る!お疲れ!」
そう言うとスタスタと歩き出す羽生。中森と檜垣もついて行く。
「ありがとうございました!」
頭を下げたままお礼を言う一同。
ピタリと足を止め思い出したように羽生は言った。
「そう言えば、理由を聞いていなかったね。差し支えなかったら教えてくれないかな?」
綴は頭を上げ言った。
「皆が僕に守られるような器じゃないって分かったのと、振られたからです」
それだけで理解したのか笑顔になる羽生。
「君達には期待してるよ、それじゃあ」
今度こそ去っていった羽生一行。
全員頭を上げ、元親が綴に言う。
「なあ、綴の理由がいまいち分かんねんだけどどういう意味だ?」
「あ、そうだね、どいうこと?」
「確かに、振られたって言ってましたし。どういう意味なんですか?」
やはり分かってない三人は綴に聞いてきたが綴ははぐらかす。
「内緒。いずれ分かる時が来るよ」
「ええ~なんだよそれ~教えてくれたっていいだろ?ケチンボ!」
「そうよ、教えてくれてもいいじゃない」
「私も気になります」
「今はダメだ」
騒ぐ三人を軽くいなしていると。
「綴くん、まだ何か書いてあるみたいよ?」
「え?」
手に持っていた手紙を見ると先ほどより紙が大きくなっていた。どうやら、折り
畳まれていたらしい。
『PS.ベッドの下のエ』
ここまで読んで綴は紙をくしゃくしゃに丸め凍り付けにした。
「もうそのネタはいいってばぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら開けてあった窓から氷の固まりを近くの川に投げる。
「何?何が書いてあったの?」
「私にはベッドの下までしか見えなかった」
「それじゃあ帰ってベッドの下を見に行きましょう」
なにやら恐ろしいことを話している緋日と霞。
「え、私も気になるから行ってもいいですか?」
「あ、私も気になります」
「どうぞどうぞ、いらっしゃい。あ、そうだ。皆今日退院何だしお祝いパーティーをしましょうよ。オルトロス討伐パーティーもかねて、ね?」
「それじゃあ私も腕によりをかけて作るわ」
なにやらベッドの下を探るメンバーが増えたようだ。ベッドの下だけで気づいたのか同情の目線を向ける元親。
どうやって切り抜けるか考えながら綴は思った。
僕が守らなきゃいけないって思って一人で焦って、氷霞に頼んでまでついて行こうとしたけど、皆が守られるより守る側に立つ人間だって忘れていた。焦りすぎて何が大切なのか見落とすところだった。こういう展開になったのは僕にとっては良かったのかもしれない。
ふと、手紙のタイミングがやたらタイムリーだったなと思い窓の外を見る。もしかしたらずっと見ていたのかもしれない。
まさか、な…。
「おーい、柊くん!ベッドの下確認しに行くんだから、早く行くよー」
「それと、お姫様のこと詳しく聞くからね?」
物思いにふけっていると突然死刑宣告が言い渡された。
「ちょ、ちょっと!それ本当に勘弁して!」
部屋を出ていくみんなを慌てて追いかける綴。今の優先事項はベッドの下の物とお姫様のことをどう誤魔化すか、それだけであった。




