第十三話 選択
微睡みの中誰かに身体を揺すられる。まだ寝ていたいので無視をする。そうするとまた揺すられる。鬱陶しく思い寝返りをうつ。
「起きないと、ベッドのしたの…」
「だからそれはむぐっふぅ!?」
急に誰かに口を押さえられる。
「静かにして。霞が起きちゃう。分かった?」
「(コクコク)」
頷くと手を離してくれる。とりあえず頷いたが相手が誰だか暗くて分からない。どうやらまだ夜らしい。ただ、ベッドのしたの件を知っていることから考えると…。
「氷霞か?」
「そうよ、こんばんは。夜這いに来ちゃった」
「冗談はよしてくれ、今はそんな気分じゃないんだ」
「あら、暗いのね。どうしたの?」
「何でもないよ。それより、何しに来たんだこんな夜中に?」
「ちょっとお話ししに来たのよ、外行かない?」
綴としても氷霞には訊きたいことがいくつかあったので誘いを受けることにした。
「ああ、かまわない。僕も氷霞に訊きたいことがあるんだ」
「そう、それじゃあ行きましょ」
そう言って氷霞は開いている窓に足をかける。どこから入ったのかと思ったらどうやら窓から入ってきたらしい。ぜんぜん気づかなかった。
「屋上で良いわよね?」
「ああ」
綴に手を差し出してくる氷霞。
「上まで飛ぶから、手を握って」
言われたとおりに手を握ると引っ張られ、抱き寄せられる。
「え、ちょっ」
「それじゃあつかまってて」
どこに?と言おうとしたが、氷霞の声に遮られる。
「浮遊」
氷霞は浮遊魔法をかけ病院の屋上に向かう。屋上に着くと抱き寄せていた手を離してくれる。
「とうちゃ~く」
ベンチを見つけ座る。適度な距離をおいて座ったが、氷霞は詰めてくる。氷霞の方を見ると照れたように微笑み言う。
「こうした方が暖かいと思って」
「そ、そう」
「…それで?訊きたいことって?」
こう慕ってくれてると言いづらい。だが、言わないと進めないので言うしかない。
「あ、ああ、そうだな。それじゃあ単刀直入に言わせてもらう。氷霞、君は、人間?それとも妖魔?」
「…」
急激に氷霞の笑顔から先ほどの暖かみが消える。笑顔は残しているもののその表情は冷たい氷のようであった。
「何故、そんなことを聞くの?」
「答えてくれ。僕には大切なことなんだ」
「それを聞いてどうするつもり?私が妖魔だったら殺す?」
「いや、殺さない。僕には君を殺せない。それ以前に勝てない」
そう、最初に会ったときから確信していた。彼女には勝てない。絶対的な力の差を感じる。彼女の能力を付与してもらった今でも勝てない。
「まあ、そうでしょうね。…いいわ、答えてあげる。私は…」
「…」
「私は妖魔よ」
「…やっぱり」
実は羽生の話を聞いたときに少しは予想はしていた。敵でしか見たことがない。毎回同じ仮面と言うことは同一人物。そして氷の魔法。一番決定的なのは氷の魔法なのだが、もしかしたら他に氷の魔法を持ってる妖魔がいるかもしれないとも思っていたが、どうやら当たっていたらしい。
「ちなみに、氷霞以外に氷の魔法を使えるのは?」
「あなただけよ」
と言うことは仮面の正体は氷霞で間違いないらしい。
「それを知ってどうするの?」
「どうもしないよ。事実確認しただけさ。て言うか言っちゃっていいの?僕が誰かにバラしちゃうかもしれないってことは考えないわけ?」
「それはないわ。あなたはそんなことしない」
「根拠は?」
「無いわ」
「無いのか。まあ、言わないけどさ」
氷霞は、先ほどの氷の笑顔とは違う恐れるような目をして言った。
「それで、どう?怖い?私が妖魔だと知って」
「いいや、全然」
「即答ね…。理由を聞いても構わない?」
「ああ、だって僕を助けてくれたから。それは、僕に利用価値があるってことだ
ろ?なら殺されることもないと思ったんだ。それに…」
言葉につっかえる。この先は、言うのが恥ずかしい。自分が思ってるだけで実際はそうではないのかもしれない。僕が言いよどんでると氷霞が聞いてくる。
「それに?」
意を決して言ってみる。
「…君は僕を傷つけられない…そんな気がするんだ。何というか…理屈じゃなく、その、何だろうな?」
「なんだろうなって。私はあなたじゃないんだから分かるわけ無いじゃない。でも、そうね、私はあなたを傷つけられない。あなたが言った通り理屈とかじゃないわ。私の感情でそうしてるの」
「…そ、そうなのか」
理屈ではなく感情でと言われ少し気恥ずかしさを感じる。この時にはさっきのような氷の笑顔ではなく、いつも綴に向けている温かい笑顔に戻っていた。
「それと、頼みがある」
「頼み?」
「ああ」
「何?言ってみて」
「僕をーーーーーー」
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朝目を覚ますと、部屋には誰もいなかった。体を起こしベッドから降りて入院着から私服に着替える。私服は多分姉さんが持ってきてくれたんだろう。着替え終わったタイミングを見計らってたように扉が開く。
「あ、ごめんなさい。まだ寝てると思って…。着替えてたのねすぐ出るわ」
「いや、着替え終わってたから大丈夫だよ、姉さん」
「そう、なら入るわね」
部屋には行ってくる姉さんは手に袋を提げていた。多分姉さんの朝食だろう。時計を見てみると8時を少し過ぎた頃だった。
「綴くんの病室には朝ご飯を運ばないように頼んであるらしいから、買ってきたものを食べてね」
「へ?なんで?」
「昨日桐生さんが言ってた『綴くんのことを快く思わない連中』対策らしいわ。ご飯に毒盛られても嫌でしょう?」
それはそうだ、毒を盛られて嬉しいと思う奴なんて凄く変わった奴だろう。僕だったら、そんな奴とは敵でも関わりたくはない。
「そう言えば、今日は皆に会えるかな?」
「ええ、会えるわ。さっき中森さんに聞いてきたから」
「そっか、良かった…」
「それじゃあ、ご飯食べちゃいましょう」
「そうだね」
ソファーに座った姉さんの対面に座り姉さんが袋から出してくれたものを食べる。結構いろいろ買ってきたみたいでそれなりに量があったが、昨日のお昼から何も食べてない僕はペロリと平らげてしまった。
「ふふ、いっぱい買ってきて良かったわ」
「ありがとう、姉さん」
「どういたしまして。あ、そうだ綴くん、今日皆に会うわけだけど病院の一室を借りることになったの。何でも桐生さんからお話があるんですって」
「分かった。それで、何時に行けば?」
「九時に来て欲しいみたい」
今が八時半だから少しゆっくりしていられるな。
「十時までには終わるかな?」
「それは分からないけど、何か予定でも?」
「うん、ちょっとね」
本当はちょっとした用事なんかじゃない。これは昨日氷霞に頼んだ事とも関係していた。遡ること昨日の夜中、氷霞に頼み事をした時刻。
「僕に戦い方を教えてくれ!」
「…理由を聞いても?」
「自分の力不足でクラスメイトに怪我を負わせてしまった…。次は姉さんや緋日かもしれない。そう思うと、今日みたいに何も出来なかった自分が歯がゆく思える。もう誰も、傷ついて欲しくない。自分の手の届く範囲だけでも守れるような力が欲しいんだ。だから、僕に戦い方を教えてくれ!」
考えるように右手を顎に持って行く氷霞。しばらくそうしていると口を開き言った。
「ええ、いいわよ。戦い方を教えてあげる」
「っ!!ありがとう、氷霞!」
「ただし、私は妖魔、いつ正体がバレるか分からない。だから、ここからは二択よ」
「二択?」
「ええ、まず一つ目。さっきも言った通り頻繁には会いに行けないからたまに戦い方を教えるしか出来ない。あなたの魔法が知れ渡ってしまったから余計に会いにくくなる。まあ要するにゆっくり強くなる感じね」
「それで、二つ目は?」
「二つ目は、あなたが私に付いて来るの。人の世を捨てて私に付いて来れば私が付きっきりで教えてあげられる。…さあ、どちらを選ぶの?」
僕にはゆっくりしてる暇はない。いつ次の敵が来るか分からない。先日の術者もまだ倒してない。だから僕の答えは決まっていた。
「二つ目だ。君について行くよ、氷霞。例え人の世を捨てても僕には守らなきゃならない人達がいるんだ」
それが綴の答えだった。例え巻き込んでしまった元親達に嫌われても、僕は元親を嫌いになれない。
「そう…分かったわ。それじゃあ明日の十時に病院の近くにある公園に来て」
多分迎えに来てくれるということだろう。場所を公園にしたのは姉さんや緋日に会わないためだろう。
「分かった」
そして、僕らの話は終わり病室に戻してもらうと僕は眠りについた。因みに氷霞はこれといった用事は無かったそうだ。
少しの間昨日のことを思い出していると姉さんが話しかけてくる。
「大丈夫よ。皆綴くんのことを嫌いになったりしないわ。安心して」
「そうだといいな…」
現実逃避気味に昨日のことを考えていたが姉さんの言葉で皆のことを思い出す。皆、愛想の悪い綴と仲良くしてくれたいい人ばかりだ、そんな人達に嫌われるのは辛い。特に元親は小学校からのつきあいだ、美来と良子とは比べものにならないほど自分は傷つくだろう。
霞はこれ以上話しかけてはこなかった。綴を気にしてかは分からないが綴にはありがたかった。こうして九時少し前まで綴は時間をつぶし皆の元へ向かった。




