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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第一章 覚醒編
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第十二話 これから


 突然のことに少し混乱する綴。


「何だかよくわかってない感じだね。それじゃあ説明するよ」


「は、はい、お願いします」


「えっとね、まず属性魔法は火、土、風、水、雷にカテゴライズされる。この時点で気づいていると思うんだが、氷は無いんだよ。正確には確認されているが我々は使えないってことなんだ」


「確認されているが使えない…」


 綴が呟くと姉さんが何かに気づき羽生を睨む。


「綴くんが妖魔だって言いたいんですか?」


「いやいや、違う違う!綴くんを検査したがコアは無かった。ちゃんと人間だって分かってるよ」


「あの、どういう?」


 いまいち会話についていけてない綴。


「ああ、それはだね、つまり、敵がその魔法を使ってるのを見たことがあるって事さ」


「あ、なるほど」


 姉さんは僕が妖魔だと疑われてると思い怒ったのか。


「それで、退魔師が氷魔法を使えないのって何でですか?」


「それは、氷魔法を使う敵が今のところ一体しか確認されていない。しかも、目撃数もかなり少ないし、写真撮って探そうにもお面つけてるからお手上げ状態。おかげで氷魔法の研究もはかどらない。困った困った」


「そうなんですか…」


「あ、それとね。他にも使えないが魔法あるんだ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、属性で言うと木。植物魔法を使うんだ。これも前者同様目撃例も少ないあんまり会わないで、またまた研究が進まない」


 ソファーの背もたれに思いっきり寄りかかり参った参ったと呟く。

 姉さんを見るとすべて知っていたのか少し退屈そうな顔をしていた。もしかしたら授業で習ったのかもしれない。


「それでだ」


 気を取り直したのか姿勢を正し少し前のめりになりながら訊いてくる。


「君を少し研究させてもらえたらなと」


「却下します」


 即答で姉さんが返す。もちろん僕も嫌だ。なにされるか分からないし。


 隣でコクコクとうなずく僕を見て同意見と分かったみたいだが、さして落胆した様子もなく続ける。


「まあそれはそうだよね。俺が同じ立場だったらモルモットはごめんだしね。承諾貰えりゃラッキーって程度だから。あまり気にしないで」


 途端、羽生の目が鋭くなる。少し身構えてしまう綴。霞も警戒したように目を細める。


「ただ、気をつけて欲しい。機関の中には俺みたいな穏健派もいれば無理やり監禁して研究しようとする強硬派もいる。こちらも注意はするがそちらも十分に気をつけてくれ」


「わ、分かりました。十分気をつけます」


 すると先ほどのような柔和な笑みに戻る。


「まあ何かあったらすぐ連絡してくれ。俺としては君とは良い関係を築いていきたいと思ってる」


 連絡先が書かれた紙を綴に渡し羽生は上着を着て立ち上がる。


「それじゃあ、俺はもう行くよ。疲れているのに長居して悪かったな」


「いえ、こちらこそいろいろ教えていただいてありがとうございます」


「いいさ、気にするな」


 気さくに笑い扉に手をかける。


「ああ、それと」


「はい」


「これは年長者としてのアドバイスな」


「はあ」


「今日のことは反省はしろ、だが後悔だけはするな。そして今回の君の行動は最善だ。だがそれが今の君のできる最善の限界だったということを忘れるな。他人や自分が傷つくのが怖かったら強くなれ、受け身の姿勢ではずっとそのままだ」


「!?」


 全部。全部その通りだ。僕がもっと強かったら、結果は別の方向に変わってた。いい方向に変わってたはずだ。自分が傷つくのが怖くて、戦うのが怖くて結局は姉さんや緋日頼りになっていた。逃げてたんだ、僕は…。


 下を向き先ほどよりも強く手を握る。血が滴るがかまわず握り続ける。


「もし今を、これからを変えたかったら、手伝ってやる。退魔高校へ転校するなら推薦状でも何でも書いてやる。…明日までに決めておいてくれ」


 扉を開け出て行く羽生。綴は立ち尽くすことしか出来ず。霞はそんな綴を見守ることしかできなかった。


********************


 羽生は扉を後ろ手に閉め中森と木城に警護を続けるようにいいその場を去る。


「もうちょっと優しく言えばよかったかな…」


 嫌、多分無理だったと思う。昔の自分を重ねてしまいさっきの言い方が優しく言う限界だっただろう。


「何をぶつぶつ言ってるんだ、桐生」


 後ろから声をかけられ振り返る。そこにいたのは先ほど合ってきた柊姉弟の母柊陽子であった。

 多分見舞いにでも来たのだろう。


「いえ、昔の自分は青かったなと思いましてね。お見舞いですか?」


「ああ、お見舞いだ。…確かにお前に似てる所があるな」


「なにがです?」


「綴と昔の自分を重ねていたんだろう?」


 どうやらお見通しのようだ。


「流石上官殿。何でもお見通しなようで」


「上官だからな。部下のことを分かっていないようでは勤まらんよ」


「そうですか」


「それで、うちの息子はなんだって?」


「答えは明日まで待つことにしました」


「そうか。…もし綴が退魔高校に行きたいようならお願いがある。あの子の指導をしてくれ。頼む」


 そう言うと深々と頭を下げる陽子。


「ちょと、やめてくださいって、そんな簡単に部下に頭下げないでくださいよ!」


 そう言われても頭を上げようとしない陽子。どうやら答えを聞くまで頭を上げるつもりはないらしい。


「ああもう、大丈夫ですよ!面倒見ますから!」


 そう言うとやっと頭を上げる陽子。


「それに、頼まれなくても元々やるつもりでしたし」


「そうなのか?」


「ええ。やっぱり、昔の自分見てるみたいでイヤなんですよ」


「そうか、それなら私は頭下げただけ損じゃないか。桐生も下げるべきだな」


 重たくなりかけた雰囲気を和らげるためか冗談を言う陽子。重たい空気は苦手なので乗っかる羽生。


「嫌ですよ。俺さっきも頭下げたばっかりなんですから」


「なんだ、霞にでもセクハラしたのか?」


「違いますって!俺の監督不行き届きですよ」


「…檜垣か?」


 流石は上官、部下のことはよく分かってると言ったのは伊達ではないらしい。ま

あ、元々陽子の実力は疑ってはいないのだが。


「はい、あいつは氷の奴に戦友をやられてますからね…」


「いくら綴が同じ魔法を使えたとしても、やったのは綴じゃないだろうに…。まあ、分かってても割り切るのは難しいか…」


「そうですね…」


「おっと、長々と引き止めてすまなかった。そろそろ私は行くよ」


「いえ、こちらも少し愚痴を言ってしまいすいません」


「気にするな。お前も、ため込まずに何かあったら言えよ?それじゃ」


 去っていく陽子の後ろ姿を見送りその場を後にする羽生。


「さて、戻って仕事終わらせよ」


 帰ったらデスクには書類が山のように積んである。そのことを思い出しげんなりする。


「めんどくさ~。京ちゃんやっといてくんないかな~」

 いつもまじめな自分の同僚のことを思い出しつつ職場に戻る羽生であった。


*********************


 血が滴る手を治癒魔法で直したあとまたベッドに腰掛ける。


 羽生が部屋を出た後ずっと同じことを繰り返し考えている。皆は怒ってないだろうか?いや、僕のせいで危険な目に遭わせたんだ、怨んで無いはずがない。


 起きた直後と変わらないくらい暗くなっている綴に霞はどう声をかけるべきか悩んでいると、突然ドアが開く。


「綴~起きてる~?」


 入ってきたのは陽子だった。


「お母さん、ノックくらいしてちょうだい」


「良いじゃないの家族なんだし。それとも何?姉弟でやましいことでもしてたの?」


「そ、そんなことするわけ無いでしょ!!」


「やだ、冗談じゃない、そんなに怒んないでよ~」


 顔を真っ赤にしながら怒る霞を軽くいなし綴の前に立つ。


「綴、元気なようで安心したわ」


「うん、そうだね…」


「そういえば、さっき羽生が来たみたいね」


「母さん知り合いなの?」


「ええ、部下よ」


「そうなんだ」


 いまだに顔を上げない綴。


「綴」


 綴と目線があうように屈む。


「あなたは今、日自分の弱さと強くなれる可能性を知ったわ。だからこんな所で止まらないで、前に進みなさい。これ以上後悔しないように…」


 母さんはそう言うと立ち上がる。


「それじゃあ帰るわね」


「え、お母さんもう帰るの?」


「長居しても悪いしね。それに仕事も残ってるし。綴が無事ならそれで良いわ」


 そう言うと母さんは本当に帰っていた。

 綴からしたら、少し考えを整理したかったのでこれ以上話さなくてすむのはありがたかった。


「今日は、もう寝るよ」


「そう、分かったわ。一応今日は私も泊まるから、安心して寝てね」


「…うん、ありがと」


 布団に入り明日のこと、これからのこと、そして自分自身のことを考えた。今日綴は今まで触れないようにしてきたものに触れてしまった。綴はもう後戻り出来ない。だからもう、進むしかない。進ならどうするべきかを考えながら、綴は深い眠りに落ちた。

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