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派手すぎる喧嘩

 全速力で壁を垂直に走り降りる。

 行きがかりのついでに、キスカ兄の首を締め上げていた黒扉の足の甲に着地した。


「はいお邪魔っ!」


 メリメリッ!!


「ギャアァァァ!?」


 すごい音を立てて黒扉の足が地面にめり込む。

 十分なダメージを与えたのを横目で確認すると、ワンモーションで立ち直ってすぐさまバンビを追う。


「マナ、アザラ、再捕縛ッ!」


 指示を飛ばしつつ走る。横たわる巨体の側を通る一瞬、フッとグリコの生気が感じられた。

 よかった、生きてる!

 ならとにかく今はバンビだ。


 加速しながら背後に向けて伝書鳩を飛ばす。


======

グリコは生きてる!全力で助けて!!

======


 あの弓矢の名手が敵だとして、バンビを1人にするのが狙いだとしたら。想像するとゾッとする。どんなにしっかりして見えても小学生だ。


 私に防御系のスキルはない。【隠密】で隠れることにより攻撃自体されもしないってのが基本姿勢で、いざ受けたらダメージを食らうのは必至だ。

 元々習っていた護身術でも【危うきには近寄らない、危うきが近づいてきたら逃げる、避ける、どうしようもなくて攻撃受けるしかなかったらその攻撃の力を受け流してカウンターする】のが流儀だ。団体戦練習もあったが、集団に襲われた場合に自分が逃げおおせる為の技しか磨いていない。

 自分一人なら避けてカウンターすることで身を守れるけど、他の人を守るとなったら避けられない分何かを犠牲にするしかない。


(とりあえず私の腕1本につきバンビを1回防御できる。合わせて2回分だ)


 足さえ無事なら逃げ切れる。

 バンビの頭と胴体を守るシミュレーションをしながら走った。



 町外れから王都へ続く街道はもうもうと色とりどりの煙に覆われていた。

 バンビの行った先から爆音が続く。

 今まではクールに後衛に徹していた彼が、今は我を忘れている。


 【忘我状態が一番危険だ】


 いつも言われていたグランドマスターの言葉が思い出される。

 早く追いつかなきゃ。今のままでは不意の一撃で殺されてしまう恐れがある。


 視界は悪かったが爆音で方向は分かった。ぎゅんぎゅん飛ばして追いかける。


 走りがトップスピードになった頃、改造キックボードに乗りゴーグルをかけたバンビの後ろ姿が見えた。


 ガガガガガガ!

 ボボボボボボボボ!


 小刻みに揺れるボードの後ろからカラフルな爆煙が出ている。すごいスピードだった。でかいリュック持ってるなとは思ってたけどあんなの入ってたのか。

 ボードの後ろからだけでない、本人からも熱気がすごい勢いで立ち上がっている。怒りで膨張した真っ赤なオーラ。


 煙の発生源に近づき、爆煙を抜けたためやっと周りが見えた。


(・・・うわあ、やってくれちゃってた)

 街道沿いの建物が飛び飛びに爆破され崩れ落ちていた。

 八百屋か何かが破壊されたのか、果物や焦げた野菜が道に飛び散っている。

 下敷きになった人のうめき声が聞こえた。


「バンビ待って!」


 もう町外れではなく市街地だ。神殿と王宮も右奥に見えている。爆音に怯えたのか道に歩いている人はいない。が、バンビが爆破したのはどれも民家のように見えた。死傷者が出ていてもおかしくない。

 軍や騎士団が出てきたら面倒だし、敵ではない人を傷つけたらバンビだって後で傷つくはずだ。


「バンビ落ち着いて!」


 なだめようと後ろから叫ぶが返答はない。


 結局大通りを一直線に進んできてたわけだけど、バンビには敵が見えてるのかな?私にもまだ見えてないんだけど・・・。

 それにこんな状態で相手の殺気を感じないのは奇妙だ。バンビにも怪我はないようだった。


 追いついたのでやっと落ち着いて周りをサーチする。

 バンビの前方、立ち並ぶ円錐状の屋根の上を跳んで移動していた小柄な人影が立ち止まるのが見えた。弓矢を背負っている。

(あれか?!)


「!!深追いしちゃだめッ!」

 止めようとした瞬間、同じく人影に気づいたバンビが攻撃する。


「チューインボムッ!!」


 ドガーン!!!!


 小柄な人影はわざとかと思うくらいバンビの一撃目をギリギリまで待ってから避け隣の建物に飛び移った。


「くそ逃げんな死ねッ・・・ボムインサイド!!!」


 バンビはキックボードのハンドルから手を離し腕にオーラを溜め、赤いビームを放った。


 ボムッッ!!ジジ・・・ドガガーン!!!!


 衝撃波が当たった屋根が内側から赤く発熱したかと思うと爆発する。

 だが小さい人影はまたギリギリで跳んで逃げ、ふっと消えた。


「え?!」

 見失ったかと思ってサーチを強めると、だいぶ先の屋根の上をぴょんぴょん移動していた。

 なんてことだろう。よく見ると相手も子どもかもしれない。少なくとも相当小柄な人物だ。後ろ姿は黒巻き毛の短髪。チョコレート色の肌が露出した茶色っぽい半袖半ズボンから、子鹿のような細い手足が伸びていた。


 ガラガラガラガラ!! 

 ドガーン!!

 ガシャーン!

 バラバラバラ・・・ズズーン!!!!!


 走りすぎた後ろから破壊音がやってくる。

 振り返ると建物が二棟とも半壊していた。また何かの店だったようだ。商品が散らばる。


「クソッぎりぎりで逃げやがってからかってんのかよふざけんな死ね!」

 語気を荒げ、地面を蹴り後を追うバンビ。

 しかし新技の負担が大きかったのか、ガクッと魔力が減っている。爆走ボードも不安定になっていた。


(ああもう!子どもの喧嘩にしては派手すぎる!!)


 追いついたので安心できるかと思ったら今度はバンビ本人の暴れっぷりに困るという事態。


「ねえバンビ落ち着いて!まわり民家だよ?!」

「頭に血を上らせちゃダメだってば!!ねえ!」

 追いついて並走しながら声を掛けるが、イっちゃった目をしたバンビは聞いていない。


 説得を諦め、急いで往復伝書鳩を送る。


======

ミーエ!グリコの容体報告して!

======


(無事だよね?!無事って言って!!)


 グリコが殺されたと思っているからこその暴走だ。

 頼む、軽傷であってくれ。


 じりじりしながら走っているとありがたい内容の返事が返ってきた。


======

ネズミ様!グリコさんは眠っているだけでした!

眠り草のボールを口に入れられていました!

======


(助かった!ありがとう神様!)


 早速バンビに叫ぶ。

「バンビ!グリコは生きてる!!」


「!」

 ずっと無視だったバンビが反応を示した。

「眠り草ボールで眠らされただけだって!」

 続けて叫ぶと、やっと返事が返ってくる。


「・・・それほんとネズミさん」

「ほんとだよ!ミーエからの伝書鳩!だから落ち着いて!」

「でもだからといってアイツは許さねー」

 口調はまだ怒っていたが目つきはマシになってくれた。助かる。


 改めて距離を縮めて話しかける。

 ドドドドド!

「でもあの子逃げるだけでなんか変じゃない?」

「アイツオレらをわざと追いつかせてる気がする」


 冷静になった途端まともなコメントをするバンビ。

 確かに茶色い人影は何度も立ち止まりバンビを追いつかせてからここまで連れてきていた。


 ところで、このまま南へこの猛スピードで進むと、王都の都市部なんてすぐに突っ切ってしまいそうだ。

 今までお揃いの円錐屋根がぎっしりの町並みが続いていたが、そろそろ建物群の端が見えていた。両脇に建物が並ぶレンガ造りの道が、建物まばらな土の道に変わる。その先は多分ルシアが言っていた王都郊外なのだろう。


 今のところバンビには攻撃をしてこない相手だが、無傷でおびき寄せるのが罠だったらその目的地には何があるのか?

 ・・・んー。わからんけど、ならせめて。


「ちょいと失礼」

「なにすんの」

 よいっとキックボードに片足失礼して、バンビの細い肩に手をのせ身を寄せる。汗ばんだ頭に口を付けて、随分魔力の減ったバンビに魔力を分けるついでにマインドクリアをかける。

「イライラと腹ペコなおった?」

「もう子どもじゃねーんだから過保護やめてよね」

「え〜もう子どもじゃないの」

 今度はからかうつもりで身を寄せると、つむじは甘い子どもの匂いがした。


 魔力が戻ると二人乗りしているのにスピードが戻る。思いっきりガタガタ爆走していたボードも主人が落ち着いたせいかスムーズに走るようになる。


「ねえバンビ、私が追いかけるからバンビは一旦戻ってグリコちゃんを看病するってのはどう?」

「ヤダよ今更戻れるかよアイツはやっつける」

「いやでもさ、罠かもしんないでしょ」

「ならネズミさん1人でいくのも危険じゃん」

「じゃあ放置して2人で帰っちゃうってのはダメ?」

「ヤダ」


 話は通じるようになってくれたバンビだが、このまま帰るのは嫌なようだ。

 うう。。でもこのままバンビを連れてくのは私がヤダな。てか相手も子どもかもしれないなら尚更これ以上無駄に争いたくない。


「あ、そうだ!」

 なんで気づかなかったんだろ!


======

こちら、勇者ネズミ!

目的はなんですか?話し合いましょう!

======


 遅ればせながら、伝書鳩を飛ばしてみた。

 名前は知らなくても目標が見えていれば送れる。

 翻訳魔法を込めているから何語でも分かるはずだ。


「伝書鳩飛ばしてみた!」

 ついドヤ笑顔でバンビを見ると、無言で「えー今更」みたいな顔をされた。


 ドドドドドド!


 しばらく無言で走っていたが、返事はない。

「あれっおかしいな」

 受け取られてる感じはあるんだけどな。

 横を見ると「ほらみろ」みたいな顔をされた。ゴーグル越しでも表情は分かる。

「返事こねーね」

「もっかいしてみるって!」


======

追いかけてごめんね!

あのピンクの魔獣っぽいのはこの子の家族なの!

魔獣じゃないんだよ!

だから怒ってこの子は追いかけたの!

もう攻撃しないので、話し合いましょう!

======


「・・・・・・」

「ほらやっぱ返事こねーし」

「うーどうなんだろやっぱむ・・・ん?!」

「え」


 急に、先を走っていた茶色い人影がこっちをむいたと思ったら消えた。

 そこは円錐建物群ではなく、黒い鉄格子が嵌められた平屋建てが並んでいた。

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