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ご降臨

「ひえ〜」

「やべぇ」

「ぎゃあ無理ィ!」


 もう一体の巨大黒グール相手に足止めを頑張るバルドルによって、ヤケになったような嵐が吹き荒れている。

 口ではやばそうなこと言ってるけど、しゃべれてるうちはまだ大丈夫だ。


 もう一体の巨大黒グールは川底に沈んだ。

 とりあえず今のうちにっ!


======

ロッカ!篝火は大丈夫!?

======


 往復伝書鳩を送り、風で巻き上がる髪をおさえながらサーチアイを使う。


======

商店街の皆で予備持ってきました!

======


 伝書鳩を受けステルスを解除したのか、川際に走りよるロッカのごついお父さん達自警団の面々がパッと見えた。

 先程歪んで隙間が開いてしまった篝火と篝火の隙間を埋めるように、レインボー松明を力を会わせて追加設置している。

 松明、ポータブル式レインボー篝火なのか。

 作業自体は慣れたもののようだが、堤防が部分的に半壊してしまったので(つまり大規模破壊獣=私が崩壊させてしまったので)足元が危ない。申し訳ない。


======

グールを町に入れるな!

逃げきれた人は結界の篝火を守れ!

======

ルシア!エンヴィーはどう?

======

 

 すぐに返信がある。


======

エンヴィー様のご様子が変ですわ!

こんなときにすいませんっ!

======


 え?と思う隙に私の集中が途切れたのか、腐った泥の臭いと共にグールが浮き上がり、黒緑色の触手が松明の整備にあたる人々に伸ばされる。


「危ないっ!」


 ズン! ドボォオオ!!

 ニアミス!また水の手を借りて水圧をかけて沈ませる。だがグールも負けずに触手を長く伸ばす。

 ギチュギチュ!

 ザバァー!!

 ミチミチッ!

 ザバザバザバ!!


 水中で容赦なく暴れるグールと私の力任せの攻防。

 伸ばされた太い触手がバチッと結界に当たり、ロッカ達は衝撃ではね飛ばされた。致命傷はいなそうだが状況は芳しくない。

 相手に水属性部分もあるせいか、単に窒息で弱るとかはないようだ。魔力消耗が激しい。息が乱れるし頭痛がボディーブローしてくる。目の前にあるのは壊れかけた結界。


 時間はかけられない。

 肩で息をしながら、僅かな隙にルシアの声のしたキラキラ御輿の方を見る。ロッカ達から大分後方、四角い建物の陰に神輿はあった。


 バチッ!バチバチッ!


 なぜか御輿を中心に放電現象が起こっていた。

 バルドルの暴風、私とグールの上げる水しぶきと大雨。

 合わせてモンスター台風直下のような様相だ。


 それでも神官達は見上げたシモベ根性を見せて、御輿の支え棒を手離さず念仏というか呪文を唱え続けていた。

 ルシアたちは多少離れてラスタグリーンのシールドに入り見守っている。

 見ただけだとエンヴィーが襲われているのか、エンヴィーが雷をおこしているのか分からないものだが・・・。


 どうする?私は私で手が離せない。ままよ!


 思った瞬間。

 グールの触手と荒浪が渦をなす大河の上を、あの人がスーッとこちらへ渡っていた。

 白い長髪は風になびく様子もない。

 息をのむ。


「お姫様は毒リンゴで夢の中。魔女の手先はそばにいる」


 彼女は水面を滑るように近づくと、私の耳元でそう呟いて消えた。

 一瞬時が止まったようだった。


 お姫様。夢の中。

 これ、エンヴィーのこと?

 魔女の手先って、もしかしてシモベのフリして側にいるの?

 毒リンゴって、呪いかなにか?

 さっきは動転していたから呪いの眠りかもしれないなんて気が回らなかった。ルシアやキスカ達も側にいて何も言わなかったし。

 そうなると・・・


「にゃんだあれキモイ!グリコやっつけるう!」


 耳元で甲高く叫ばれ思考が中断され、見るとぐるぐる両腕を振り回すバーサーカー兎の巨躯が真横にあった。やめてくれ、爪があぶない。

「だめグリコ!やめろってさすがにあれはお前が食われたらオレが困る」

 嬉々として飛びかかろうとするバーサーカー兎は、腰程にも背丈のないバンビにピンクの丸ぁるいしっぽを掴まれズリズリ止められている。

「ぎにゃー!やれるってばぁはなせぇ!」

「めっ!グリコ!」

 なんて無差別攻撃型女子なのか。しかしいいコンビだな。


 というかこの子達がここにいるってことは。

 気配を探ると射手集団の気配はなくなっていた。

 他の有象無象はどうやら食われた以外は逃げ切れたようだ。

 なら時間稼ぎ終了でいい。

 エンヴィーを助ける!


 ドガァン!!! バリバリバリ!!

「うわーんネズミちゃん〜、もう無理〜!」


 いいタイミング(?)で建物の壊れる爆音とバルドルの悲鳴が聞こえた。

 振り返ると人やナマコのバラバラ死体を十分に飲み込んだ陸地のグールが更に巨大化して宿舎を乗り越え、川へ向き直って進んできていた。


「バルドル!一緒に飛んでっ!」

「ふえええ怖かったよおお」

「エンヴィーの元へっ!私を真上でおろして!」

「また無視するしぃ。行くよー」

 3人でバルドルに掴まりビュゥッと大河を一気に越え、キラキラ神輿に迫る。


 ドガッ!!!バリバリーン!!


 シモベ達の制止する声を横に、帯電する神輿の屋根を派手に蹴破る。足に電撃ダメージがきたが今はかまわない。

 屋根や飾りと共に、半透明の魔法陣のようなものも飛び散った。


「エンヴィー!」

 見れば床と一部の壁しかなくなった神輿の中では、男がエンヴィーのスカートをまくり上げ、下肢を開いて右手を股間に突っ込もうとしていた。


「何をする!」

 バキバキッ!! ベチョッ。


 とっさに男の右手を思い切り踏みつける。

 激しく手の骨が折れた音以外に何かが潰れた音がした。

 悲鳴を上げてしかるべきなのに、男は土偶のような空洞の目つきで表情を変えない。

 ラーキ達より飾りが多い衣装を着ている。こいつが超絶Mの上級神官か。


 無抵抗の相手にこれは内心気が引けたが、上級M神官の周りには魔法陣のような幾何学模様が宙に浮いている。無表情で何かを呟き続けるそいつを放ってはおけなかった。

「覚悟!」


 バキィッ!


 仕方なく回し蹴りで首を折って黙らせた。

 ブチンッ!と何かとの繋がりが切れる音がし空中の魔法陣が解け落ちると、神輿も地面にガタンと落ちた。


 瞬間、エンヴィーがガバッと飛び起きた。


「くおのぉー!!

 今寝たとこだってのにぃ!お肌が曲がり角曲がっちゃうじゃないのよぉ!何事よ?!」


 そして自分の股間を覗き込んで潰れた何かを発見し叫ぶ。

「何これぇ?!きったないわね!つぶれたカエルなんか誰こんなとこ置いたの?!」

 自己申告通り、途中で起こすと寝起きは最悪のようです。

 しかしそんなエンヴィーに果敢に話しかけた者がいた。

「それは金の王宮に伝わる操虫(あやつりむし)ですわ。主・隷属関係なく、人を操るのに使いますの。眠りの呪い結界の中でエンヴィー様を操ろうとしていたのですわね」


 見ればルシア達が近寄ってきていた。

 ラーキ達は持ち手を持ったまま涎を垂らして気絶している。だから神輿が倒れたんだね。

「はぁ?!何それ?!

 どこの誰にしろアタシを馬鹿にしたうえ乙女の睡眠を邪魔したなんて、許さないわよぉ!!!」


 ゴロゴロゴロゴロ!!


 エンヴィーの怒りに合わせて雷鳴が鳴る。

 彼女にしてみたら、ベッドで寝て起きたら壊れた神輿の中で起きた上に大嵐、というトンデモ事態だ。しかし怒髪点のエンヴィーは躊躇を見せず、目の前の上級神官に見向きもせずに神輿の残骸を乗り越えバリバリ放電しながら外に降りた。

「アタシを怒らせても誰も得しないってこと、思い知らせてあげるッ!」

 怒りのあまり目がイッていた。


 座った目で辺りを一周睨め付けたが、特に操虫のボスは発見できなかったようだ。

「もぉ!出てきなさいよ黒幕の女ぁ〜!!」

 同じく操られていたと思われるラーキ達の腹や股間を蹴って回る。ていうか女ってなんで分かるんだろ。勘かな。

「オラ!オラオラオラ!吐き出せ虫をぉ〜♪」

 ゲボゲボ。

 気絶しているラーキ達は抵抗の術無く、それぞれ操虫を排出し我に返った。


「こぉのぉ〜♪アタシじゃなく他の女に操られおってぇ〜!普通のお仕置きじゃすまないわよっ!誰なのよ黒幕はっ!!吐けっ!吐け吐けぇっ!!」

 目を見開き笑いながら彼らを蹴るエンヴィーのゆるカール金髪はゴーゴンみたいに宙に浮き、バリバリ放電していた。

 仲間ながら、ちょっと怖い。


 あまりの光景にちょっとじっと見てしまっていた私。

 

 ドカァーン!!!

 ゴリゴリゴリ!!


 気づけばグールが2体がかりで篝火に体当たりをしていた。篝火と松明がパリパリ光りながら歪む。さっきできた隙間からはすでに触手は入り込んでいる。倒れていたロッカの仲間が数人絡めとられていた。

 もう一撃来られたら破られそうだ。やばい。

 咄嗟に防ごうとするが、私もバルドルも魔力がカスカスだった。


「エンヴィー!!お取り込み中済まないけど!

 今はあっちの敵をお願いできない?!」

「ん?あーあのお化けね。おーけーイライラするぅ♪やったげるわよぉッ♪♪♪」


 エンヴィーはその大きく可愛らしい瞳に機嫌を悪くした苛めっ子女王様そのもののような表情を浮かべ、両手を広げて嵐の空へ高く掲げた。


「天駆ける雷(いかづち)よ、アタシに従え!」


 ゴロゴロゴロゴロ!!

 バリバリッ ゴロゴロゴロゴロ!!


 エンヴィーを中心に、元々あった広範囲の雨雲がどんどん帯電していくのが分かる。雷雲が渦をなし、明け方の空がどんどん黒くなっていく。空気が静電気を帯びたように肌がビリビリした。


「薙ぎ払え」

 エンヴィーは掲げた両手をさっとクロスさせ降ろした。


 ピカピカッ!!!

 バリバリバリバリバリバリ!

 ドガッ!ドガアアアアアン!!!!!


 耳をつんざく雷鳴、激しいオゾン臭。

 川の中の2体のグールに向け数十本の稲妻が四方から飛んだ。


 バリバリッバリバリバリ!! 


 自然の摂理を無視した雷電が巨大な黒躯を包み込む。


 ビシャアアアン!!


 2体は悶えた後動かなくなり川へ倒れ込んだ。


 暗闇に稲妻の光で浮かび上がる、小首をかしげ破壊の悦に浸る笑顔のエンヴィー。

 正に雷女帝降臨、といった光景だった。



「どうだっ?」

「や、やったー?」

「今度こそやったのか?!」

「ずるーいグリコなんもできなかったあ」

「グリコはよくがんばったよ」


 などなど声は聴こえても、流石に慎重になったのか人々はすぐには近づかない。

 私はおそるおそる川縁に近づいてサーチアイ全開で川底を伺った。再度見誤ることは許されない。

 慎重に何度もサーチする。


 うん。今度こそ・・・大丈夫。


 私の気が抜けたおかげで雲が晴れ、空が急激に明るくなり朝日が山の端から見えてきた。


======

グール生命反応、無し。

みんな、お疲れさまでした!!

======


 わあっ!と歓声が上がる。


 顔なじみのメンバーが駆け寄ってきてぐじゃぐじゃにハグされる。私はエンヴィーに飛びつく。


「エンヴィーよかったー!ありがとお!」

「あん・・・なんかアタシったら取り乱しちゃって恥ずかしいワん♪」

「ネズミちゃんオレをほめろおおおおお!」

「バルドルもすごかったみなおしたよー」

「ネズミ様っ!」

「レッドベリー!みんな!ありがとう!!」

「ネズミ様!とにかく足のお怪我の治療をっ!」


 まあ全体的に驚いたけど、さっき潰れた虫の横に見えたエンヴィーの息子さんには特に驚いた。

 なんていうか、彼女、ふたなりさんだったのですね。

 確かに何か男女の軛(くびき)の概念からは離れた人だなあと感じてたけど。


「えーと。じゃあとにかく篝火の応急処置してから、報告すべきとこにして、怪我手当して、亡くなった人の調査して・・・」


 まあエンヴィーがエンヴィーであるならどっちにしろかわいいからいんじゃないですかね・・・とか思いながら、思いついたままにこれからやることを羅列していると、急に頭がぼーっとしてきた。

 視野が丸ーく狭まってきて、とうとう目の前しか見えなくなる。

 あ、これヤバい。仕事で5連徹のときと同じだ。


「限界・・・ご めん・・・ あとは たの む・・・」


 そこで、私の異世界2日目の意識は途切れた。

 次回はレッドベリーちゃんのつぶやきです。

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