総攻撃っ!!
「ネズミ様危ないっ!
シールドコア!!!」
背後からレッドベリーに飛びつかれ球状結界が全身を覆った瞬間、バシバシィッとすごい音がして飛びかかってきたナマコ達は撥ね飛ばされた。
やばい、怒りで我を忘れてた。
はっと我に返る。
ギチュギチュ!
ネチャヌチョッ!
ギチギチギチ!
シールドコアの透明な壁を破ろうと、 再び集まった約20匹のナマコどもが私たちの体から半径約30㎝の所で押しくらまんじゅうしている。
ぬめぬめした触手、半透明なナマコどもがシールド壁にべっとりしているのが間近に見える。胃?の内容物も透けて見えるので、かなりえぐい。
吐き気がするような泥の匂いがした。
赤ナマコどもはどしゃ降りを浴びて弱り、押しくらまんじゅうには加わらなかったが、青と緑は濡れてかえって活性化したようにも見える。
「レッドベリー、炎出せる?」
「ハアッ すいません、今はきびしいですっ ハアッ」
両手を広げて結界を維持するレッドベリーの額には玉のような汗が浮き出ていた。
「わかった。散らすね!」
私も両手を上げて神経を集中し、半径300m分の豪雨を透明なロウトで頭上に集めるようにイメージした。
何も触っていないのに、掲げた両手がすごく重くなるが、なんとかいったん溜める。
「ーーー埋ぅまぁれぇええ!!!」
バッと両腕を降り下ろし、ドーンと天空から落ちる滝をシールドに群がるナマコたちにぶつけた。
ザアーーッ ズズン!!!!
ドシャアアアア!!!!
周辺にいた赤ナマコは完全に活動停止し、何匹かは川に流された。
群がっていた青と緑ナマコは水の重みで2、3m地面に食い込んで土砂に埋もれ動かなくなった。
「よし!レッドベリー!私は向こう側の赤を倒す!
余力あったら緑の燃やしてね!行こう!」
「はい!」
レッドベリーをおんぶしたまま反対側に走り、またホップステップジャンプで多少崩れている前線を飛び越え、赤ナマコに近づいた。
前線における戦況を見ると、緑ナマコと青ナマコは半減していたが、赤ナマコはほとんど手付かずで減っていなかった。どころかやけに元気よく活動していた。
色を気にせず広範囲をまとめて燃やしたら、緑は死んでも赤は元気になるし、まとめて濡らしたら赤は死んでも青は元気になる。3種類の弱点と強みがバラバラだから、一気に3種類倒すのは難しい。移動しつつ分業で倒していくしかない。
うう、ていうかほんのさっきまでどうやって逃げるか考えてたんだけど・・・。
もうここまできたらやっつけるしかないかな。
最初の豪雨で、燃えていた建物は消火されていた。もう全面的な雨は必要ない。
塩で動かなくなった青ナマコに雨をかけずにすむよう、自分の頭上半径1mだけに雨を降らせるよう調節する。
降らすのは大変だがいったん降らせてしまえばコントロールはできるようだ。
=======
【ご案内】
赤は任せてください!!
青と緑は避けて通ります!
=======
一斉伝書鳩で宣言して、まず目の前の赤ナマコに雨の滝を浴びせた。
ジュワァァア!!
熱い石鍋を洗うような音を出して赤ナマコが機能停止する。
「さっ次!」
ジュワァァア!!
次に目に入った赤ナマコ2匹に駆け寄り、まとめて集中豪雨を浴びせる。水の勢いで地面にポツポツ穴があく。
「さっ次!」
シュビビッ!
ジュワァァア!!
人間達と混戦中の緑ナマコと、すでにしおれている青ナマコを避け、ジグザグ移動しながら赤ナマコに端から滝や豪雨を浴びせていく。
ホップステップ!
ジュワァァア!!
「さっ次!」
シュビビッ!
ジュワァァア!!
私たちの周辺だけ円形にどしゃ降りが降るのに気づいた人間達はぎょっとして後ずさってくれ、私たちは彼らが後ずさってできた隙間を走り抜ける。
「さっ次!」
ジュワァァア!!
「クリムゾン・フレイム!」
ゴォオオオ!!!
たまたま進路に緑ナマコがいたときは、背中のレッドベリーが軍用火炎放射器みたいな獄炎で瞬殺した。
・・・文化系、じゅうぶんすごい。
てな感じで、たった数分程度で赤ナマコは全滅、動いている緑ナマコは数えるばかりとなった。
傾向と対策、完璧。
上空で様子を見ていたバルドルが屋根に降り立ち、ターニャを降ろして大剣を振りかぶった。
「それじゃ仕上げだ〜!皆下がれ〜!」
人間達は我先にと建物の影に下がった。
後には動きの遅いナマコの生き残りだけが残る。
「我が気高き風の神剣よ、愛らしきエプロンの女神の力と融合し、敵を切り刻む刃となれ!
ソルティーストーーーム!!!!」
なにやら中二病な呪文?を唱え、いい笑顔をしたバルドルが大剣を一振りした。
ゴオォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
塩吹雪が巨大な竜巻状に巻き起こり、辺り一面を真っ白にした。
風の刃が生き残りの緑ナマコを縦横無尽に切り刻む。
「レッドベリー!しっかりつかまって!」
塩が目にしみ、咄嗟に目を覆う。
ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!
しばらく暴れ回っていた塩吹雪が収まると、少量残っていた青ナマコは機能停止していた。緑ナマコの切れ端がピクピクしているくらいで、あたりに動くものはない。
沈黙が訪れる。
よかった。
しかしバルドル、あんな呪文どこで習ったんだろう。自作かな。
「やったか?!」
「やった・・・のか?」
「やったー!」
「やったぞー!」
長屋の影に隠れていた人々が顔を出し、ハイタッチなどして口々に喜び始めるのもつかの間。
ーードガァン!!
今の嵐で全壊した1列目の長屋の向こうで、激しい音がした。
「ぎゃああああ!」
全壊した建物の下から、男が飛び出してきた。
男はさっき助けて置いてきた三年寝太郎だ。真っ青になっている。ていうかいい意味でしぶとい。
「生き残りいたのっ?!」
そちらに駆け寄りながら尋ねる。
「ととと、共食いしやがったぁああ!」
ギチュギチュ!ギチギチギチ!
精一杯走る寝太郎の背後から、のそりと這って出た特大サイズのグールが鎌首をもたげた。
建物の瓦礫を軽々乗り越えたそのサイズは、まるで2階建てマンションだ。
人々は動きを忘れ見上げてしまう。
「で・・・でかい」
「何だあれ?!色が・・・」
「黒い・・・」
「げげっ!やばいよネズミちゃん!オレゲーマーだったし自分と敵とのレベル差は判るんだよっ!あいつ、そーとーレベル上げしてから挑まないとなボスクラスだぜ!まじレベル差ありすぎる!」
「奇遇だね。ゲーマーじゃないけど同じ気持ちだよ」
「ええ〜。どうしよお!どうするう?」
黒いグールはぐじゃぐじゃの不規則な形で、もうナマコと言えるような姿ではなかった。
透明度はもうなく、体躯の至る所にある醜悪な穴からゴプゴプと臭気を吐き出している。緑ナマコの自爆時のような触手、青ナマコのような水分の多い艶めいた皮膚、赤ナマコのような燃え滾る固い皮膚、全てがモザイク状に表面に出ていて、不規則な動きで混ざり合っている。
正直、今まで見た生き物の中で一番気持ち悪かった。
背中のレッドベリーの腕をついぎゅっと握る。
これはもう・・・
======
総攻撃しかないっ!!!
=======
傾向と対策を練っている暇はなかった。リーチが大きい分動きが速い。危険だ。
「雨よ!」
内心ぞっとしつつも、反射的に両手を掲げ最大級の豪雨と滝を叩き付けた。
ザアアアーー ズズズン!!!!
ドシャアアアア!!!!
激しい地響きと共に黒グールは地中に埋まった。
が、ブブブと震えるような仕草を見せた後、艶めいた青黒い部分がぎゅるぎゅると体内を走ると活力を取り戻し、黒緑色の触手を出してズズ・・・と濁流渦巻く穴から這い上がり始めた。
「次、炎行きます!クリムゾン・フレイム!」
レッドベリーの掛け声で火炎攻撃があちこちから寄せられ、這い上がりうねり狂う触手達を燃え上がらせた。
「クリムゾン・フレイム!!」
追い打ちをかける火炎攻撃とレッドベリーの2射目の巨大な炎が、穴から這い出した黒グールの全身を炎で覆い、大火事のような熱風が辺りを襲う。
「俺たちの番だ!ソルティ〜〜ストーム!!」
まだ火の勢いが冷めぬうちに、バルドルとターニャコンビが放った潮嵐の刃が燃え盛るグールをまっぷたつにした。
ゴッ!!!
・・・ドドーン!!!!
ズズーン!!!!
2枚におろされたグールの半ピラはズズンと倒れ、もう片方が倒れたショックで決壊した濁流と共に土手にずり落ちた。
「やった・・・! ・・・え!?」
バルドルがターニャと喜びのハイタッチをしようとした瞬間。
ちぎれたグールがグチョグチョッと両方別々に動き出した。
共食いの後はプラナリアかい!
総攻撃が効かないなら、こりゃ無理だ。
======
皆、町へ退避っ!!
======
一斉伝書鳩を送った矢先。
グチョ・・・グチョグチョ。
片方のグールが素早いスピードで川を渡り始めた。
======
訂正!総力で篝火を死守!
逃げ場がなくなる!!!
======
とはいえ死守って言っても篝火の保守の仕方は私は知らない。単に壊されないよう戦うしかない。ロッカ達はもう着いているのだろうか?
私とバルドルは川を飛び越えられる気がするけど、他のメンバーは橋を回って向こう側から迎え撃ってもらうしか・・・?
一瞬悩んで立ち往生したのが運の尽きだった。
ギチュギチュ、ミチミチ!
今度は陸に残った半ピラグールが、そこかしこに散らばるナマコの破片を吸い取って背後でミチミチ膨らんでいた。
たまたま側で棒立ちになっていた数人が、四方八方に延びる触手に巻き込まれ、見る間に取り込まれた。
おーけー、こりゃだめだ。
======
やっぱり撤収!ラスタ達も逃げてっ!
======
レッドベリーと一緒にターニャも橋へ走らせた。
辺りは我先に橋へ走る者、恐怖に動けなくなる者、無我夢中で森へ逃げ込む者などパニック状態だった。
「やばいやばいやばい!」
膨らむグールの迫力にのまれ棒立ちになったバルドル。
「は〜いしっかりしてちょ〜」
もはや酷すぎる状況に冷静になるしかない。立ちすくむバルドルのお尻をぱしっと叩いて背中合わせになる。
「バルドルはそっちの時間稼ぎしてちょ!」
「え〜やばいってやばいってやばいって!怖い怖い怖い!」
「えーだいじょーぶ!倒すんじゃなくて足止めだけなら頑張ればできる!」
「え〜やだやだやだ生き残ったら褒めちぎってよねネズミちゃんのバカー!」
多少やれる気になったバルドルの相手を放置してグールに集中する。
川を渡ったグールは一度体当たりしてレインボー篝火に弾かれてから、隙間を探すようにギチュギチュと体当たりを続けている。
続けて体当たりされ、数本の篝火が歪んだ。
「川よ!手を貸してっ!!」
手じゃないけど。水だけど。
自分で突っ込みつつ、さっき雨水をロウトで集めたときの手応えを思い出し、両手で川の水を塞き止めるようにイメージする。
「くっ・・・」
「グール!動くなぁっ!!!」
ザバアーーンッ!!!!
川の流れに逆らって波を作り、グールを川底へ引きずり落とした。
「ハァッ よし! ハァッ・・・」
無茶な事をしたからか、初めて魔力の消耗をはっきり感じた。
しかも慣れない事をしたので堤防の一部がえぐれてしまった。
「うう・・・肉を切らせてしまった」
私の水魔法・・・大味なのが問題だな。




