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バルたんといっしょ

 数秒で橋を渡り、イケメン神官に担がれたキラッキラの御輿の横に並び来た道を戻った。


「ねえ、この人たちの前ではふつーに喋っちゃっていい感じかな?」

「うん、この子達は(調教)済みよ♪」


「指渡しといた黒扉4人の件はどうなったの?」

「ラーキちゃんは隷属の担当者じゃなかったんだけど、担当者連れてこさせて話通しといたわ♪」

「じゃあ4人はもう隷属化した?」

「もち♪こうばしくて美味しかったわ〜ん。ターニャちゃんにお礼言っといてね!」

「うん、ターニャも喜ぶよ」

「悪い子しつけるのって楽しくって、ハマっちゃうかもぉ。

 今日はあの子達怪我してたしちょびっとだけだけど、ね♪」


 エンヴィーにとってのちょびっとがどの程度ちょびっとか分からないけど、いっぱしのS気取りで悪行の限りをしてた悪漢が今や本物のSのシモベに堕ちたっていうのは正直いい気味だわ。


「それにしてもエンヴィー、この短時間で4人プラスこのメンバー全員てなづけたの?さすがだね」

「やん♪これだけじゃないわよ~。流れ作業で数人ずつ可愛がればすぐだし順番待ち時間は放置プレイみたいなもんだしぃ。つれてきたのは選抜組だけよぉ♪」


 これで選抜組だけなの?

 すごいな。


「そうなんだ」

「まずは質より量ね♪ハーレム欲しかったから数でセメてみたわ♪」


 話しながらも、バチンバチンと御輿の上からご機嫌で奴隷達に軽く鞭打っているエンヴィー。

 打たれた神官ははわぁ~ん♪となって見悶えているし、打たれなかった神官は羨ましそうに震えている。


 んー。上下関係厳しそうな組織だし世の中混乱してるし、神官達もストレス溜まってたのかなぁ。私は基本暴力反対だし、神官の悪善判断は未定なんだけど、本人喜んでるならいいよね?

 ってことで、真顔でスルーした。


「そういえばその鞭どうしたの?」

 昼間エンヴィーがリサイクルでもらってたのはレイピアのはずだ。


「たまたまラーキちゃんの隣部屋が調教済の上級神官ちゃんでね~、前の主が大戦で死んだんだって。死んだ後放置が長かったからすっかり中毒症状出ちゃってて、ラーキちゃん達いじめてたら高級道具一式抱えて『ご主人様になってください』って泣きながら転がり込んできたのよ~」

「へえー。偶然ってあるもんだねえ」

 本当にひどい偶然だ。

「使い込まれた中古なんて!って最初思ったけど、まぁこんな世の中じゃリサイクルも大事よねぇ~って思い直したの♪」

「そっかー。物資足りない国みたいだし、仕方ないよね」

「うん♪人材も足りない国みたいだし、仕方ないよね〜♪」


 うむ・・・使い込まれてたってのは神官か。

 ぐふ。あの神殿、やっぱ腐ってるわ。


「それにしても、ビール腹ちゃんといい、あれだけの組織を作り上げたやつらのわりには歯応えがないわ。何か拍子抜けよねぇ~」

「それ私も思った。偉い人は戦から逃げちゃったとかかもね」


 にしても、たった一晩でよくぞそこまで!

 内偵にうってつけのお方だわ。

 ほんと敵じゃなくてよかったー。


「じゃあアタシ寝るから。

 アタシお肌の為に7時間は寝ないと起きないから、よろしくねん♪

 ・・・ってあれ、ネズミちゃん寝てたんじゃなかったの?」


 雑魚寝部屋前の廊下までくると、作りたての勇者新聞などが広げてあったため、起きて作業していたのがばれた。


「流石に今から寝ようかなって思ってたとこ。震災以降、夢で起きちゃうしショートスリーパーなんだー」

「そっか〜。早く寝なね」

 エンヴィーはかわいく欠伸しながらするっと雑魚寝部屋に入っていった。


 親衛隊の神官達は男用雑魚寝部屋に行くのかと思いきや、女性用雑魚寝部屋の前にいそいそと並んで座禅を組んで、無我の境地に入っていった。

 えーと・・・なにこれ?



 私も廊下を片付けてベッドに入った。


 暗闇の中で目を閉じると、路地で会った風変わりな少年の顔が浮かんだ。

 少年と呼んでいい年頃なのに、やけに達観した目をした白髪の子供。多分この世界に来たばかりの私には想像もつかないほど苦労をして生き抜いてきたのだろうなと思う。

 なのに最後は笑っていた。ちょっと歪んだ笑いだったけど。

 強いなあ。

 交わした言葉は少しだったけど。なんでかお陰で頭痛も取れたし、また会いたいな。

 日本の子どもみたいに、ゲームやテレビに夢中になって平和な暮らしをさせてあげたいな・・・。


 そのうちふっと意識がなくなる。

 久しぶりに睡眠薬無しで眠りにつけたのであった。


 

 はっと我に返ったら、そろそろサリユ達と交代の時間だ。

 2時間寝たかどうかだが、頭はすっきりしていた。

 マインドクリア、自分にも効いてるのかな。


 男雑魚寝部屋に気配を殺して入る。

 間抜けな顔をして寝ていたバルドルを起こして、一緒に見張りに出勤した。


「ねずみちゃぁん〜」

 2人で見張り台に上ると、当たり前のように後ろからバルドルに抱きつかれた。

「おいもー寝ぼけんな」

「まだ眠いよぉ〜。抱っこしてよお」

「ふざけんな」


「ほら、ここの穴から全部の方角見えるからね。

 はい、んで、あっちの方に魔王軍がいる森があるらしいし風下だから、特に気をつけてね」

 バルドルを背負ったまま説明しつつ全方位をチェックした後、不意をついて振り落とそうとする。

 が、おんぶお化けは結構しぶとかった。


 甘えただなぁ。

 女好きとはいえ精神がお子ちゃまなバルドルは、慣れない環境の中で、誰かにくっついていたい気持ちなんだろう。

 へんなの。こんなに造形が整ってて巨大なのに、子犬に見えるんだからなぁ。


「じゃあ5分だけね」

 バルドルがハグ以上しなそうなのが分かったので、へなっとしている金髪をちょっとだけ撫でてしばらくそのままにさせておいた。


 はい5分経過。


「は〜いぼく〜、5分ですよ剥がれて」

「や〜だ〜」

「甘えんな」

「がんばって起きたんだからご褒美〜」


 ばきっ!


「揉むな!」

「いじわる〜へるもんじゃないのに〜」

 ああもう調子乗ってるときのこいつの防御力高すぎでしょ!

「くっついてたら見張りの意味ないでしょ!

 ほらもー背中くっつけてていいからそっち向いて!

 そっちの180度はバルドルが見ててよね!」


 攻防の末、ある意味目が覚めてきたらしいバルドルの金髪ごしに3つの月が見えた。


「そういえば月が3つ見えるの気づいてた?」

「うん!かっこいいよね」

「う〜ん。魔物って本当にいると思う?」

「いるよー!ドラゴンとかいてほしい!」

「まじで。ところで魔物って食べられると思う?」

「えーどうかな。それは考えた事なかった」

「そなの?ただ殺すのは私の流儀に反するからどうかなと思って。で、バルドルはここ、地球のどこだと思う?」

「だーから異世界だって!」


「なんで普通に受け止めてるの?」


「オレ一人暮らし始めてからはネトゲ廃人だったし。

 魔法とか奴隷とか魔物とか、こっちの世界の方が慣れ親しんでた世界に近い感じなんだよね」

「そーなんだ。私達元々住んでた世界が違うのかな」

「えー失礼だな~。でもちゃんとたまには大学行ってたよお」


 背中合わせに座り、喋らず夜風に吹かれていると、辺りは異常に静かだった。

 食堂組も、さすがにもう寝静まっている。


「ねえ、ネズミちゃんはスーツ来てるしOLさんなんでしょ?」

「えー。新聞記者でおーえるっていえるのかなあ。まあオフィスには勤めてるけど。」

「えー!おーえるはおーえるでしょ」

「バルドルネット世界の住民なんでしょ?けっマスゴミが!とか思ってない?」

「そんなことないよー。女の人が記者とか、大変そうじゃん〜。だからネズミちゃんしっかりしてるんだね」

「褒めても何もでないよ!ちゃんと見張りしてる?」

「してるしてる〜」


 私の世界では殺人事件や、汚職問題なんかが日常茶飯事だった。

 朝から晩までどこで死体遺棄だのどこで幼児虐待致死だの胸が悪くなるようなニュース速報が流れていて、交通事故や火事だったら1人死亡したくらいではニュース扱いされない。自分の国なら多重追突事故10人死亡でトップニュースになるけれど、イラクの爆弾テロで100人死んだとしてもしょっちゅう過ぎて注目されない。

 そんな、世界。


 へらへらしたバルドルの雰囲気は、ある意味口を軽くさせた。ここで重たくシリアスされちゃったら話しづらいもの。

 それにバルドルとも仲間としてやっていくからには、世の中には怖い事があるんだよって事を話しておきたかった。

 こいつはのほほんとしすぎてるから心配性になった位でちょうどいい。


「眠気覚ましに怖い話していい?」

「えーしてして〜」

「大学生のとき、外国の夜の路地でね、子供に怪我させて囮にして、女の人を拉致する現場に立ち会っちゃったの。

 私もあのとき酷い目にあってたかもしんない。それがショックで記者になったんだ」

「へー怖い」

「怖いよね。

 今も私たちの世界で、召使い兼性奴隷にするために誘拐された女の子がいる。生きたまま内臓取るためお腹切られた男の子がいる。それを世界に伝えたかったの。

 でも実際仕事にしてみたら、世界的に見たらそんな事件しょっちゅう過ぎて、逆に1つ1つは載らないレベル。

 現実の方が映画より怖いっしょ?」


「きゃー怖ーいっ」

 これだけ怖い話をしてもバルドルは明るく抱きついてきた。お化け屋敷での女の子か。


「もお。てなわけで、日本にいると見えないだけで、私たちの世界にも怖いこといっぱいあったんだよって話。

 ここが異世界だってんなら、ますます私たちの知らないような怖いことがその辺に転がってるはずなんだよ!

 ね、だから気をつけて見張りしよ!」

「は〜い!わかった!」

「はいは伸ばさんでいい」

 素直だとそれはそれでやりづらいな。


 あっ、そういえばコイツにもマインドクリアかけてやった方がいいのかな。寝不足なのは本当だろうし。

 むー。

 私もあの夏までは彼氏的な子くらいはいたが、イチャイチャ経験は人より少ない。だからこそ黙ってれば超絶美男子のバルドル相手に変に意識しないで済んでるわけだけど。

 ん〜。

 男の子相手にキスするとしたら、6年ぶりなんだけど。微妙に恥ずかしいな。


 頬や額でいいとはいえちゅーするのを一瞬躊躇っているうちに、空気を切り裂く鋭い音が聞き耳をかすめた。


 ビュッ! ーーーダン!


 矢の音だ。

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