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就寝前ルーティンからの、女王様のお帰り♪

 さてもう寝るのかと思ったでせう。


 ところがいかんせん朝刊の〆切は26時前後。まだまだ今は地球時間にして22時くらい。新聞業界人にとってはこれからが修羅場のお時間なのでした。

 一般人なら眠くなるべき時間に目が冴えてくるという恐ろしい職業病。ええ、はい、この私めもご多分に漏れず睡眠リズム障害なのですっ!


 てなわけで4人に無理させて私の時間を空けてもらったのは、寝るためというより至急のTO DO項目をつぶしときたかったためなのでした。ええ、はい、心配性と言わば言え。


 なんかちょっとナチュラルハイな私。

 まずは宿舎の安全確保の続きですっ!

 部屋には戻らず気配を消し、シュビッシュビビッと素早く各棟を巡回する私。ええ、はい、もはや不審者です。

 でも非常口マークがある世界じゃなし、退却経路は自分で把握しないとねっ!みたいなテンションです。


 プレハブ風建物は5~10軒で長屋風になっていました。

 その列が8列あり、だいたい真ん中辺りに橋からの入り口、雑魚寝部屋と見張り台、食堂があり、その外側に焚き火があります。

 私なら端から端まで見える広さですが、地上からだといかんせん建物の影に死角が多いのが気がかりですねっ!


 そして巡回のもう一つの目的は、勇者候補内不穏分子チェックですっ!

 地球各地に戦争・紛争中の国・地域はありますし、そんなんじゃなくてもどこでもいついかなるときにも、サイコパスやヤク中などの攻撃的な人間はいますので、不作為に召還された2〜300人中に数人くらい、思い詰めた目をしてポッケに自爆用爆弾を持った人やメスで生き物を切り刻むのが趣味の人がいたっておかしくない計算です。

 でも、今夜のところは目立って不穏な者は見つかりませんでした。まあ、そういう方はそういう方でサーチアイをくぐり抜ける術を持ってたりしてどっかに隠れてるかもしれませんね。シュビッ、シュビビッ!


 ともあれ従来レベルMAXのサーチアイでも透視は無理ですが、ドア穴などからの覗きには有効でしたし、外から聞き耳をたてればたいていの会話は拾えました。

 もしかしてスキルアップしたら透視さえできちゃうかも私っ、みたいな予感も感じつつ。もう私ったらアサシンマスターっていうよりストーカーマスターですよね!シュビッ、シュビビッ!


 食堂に集まっていた勇者候補達の会話を盗み聞きしてみたところ、彼らの多くは神殿の大広間で先に出て行っていた者達らしいです。

 侍女達に無理矢理一晩だけ食事提供を頼み、自分たちだけで独占したというわけですね。さすが行列の先に並んだだけあって要領がよさそうな連中ですこと。まあこの程度のことならいいんですけどっ!

 問題は、本名を大神官に伝えたかもしれない彼らが将来敵に回らないよう気をつけないと、ということだけですなっ!シュビッ!


 他に聞き耳立てて分かった事は、この宿舎は第1期勇者候補達自らが開拓して建てたものだということ。だから不格好なりに多少地球人には見慣れたテイストなわけですね。

 という流れで、私もガラクタ置き場を浚ってみると、壊れて放置された地球由来製品を見つけましたぁっ!

 う、うう、そろそろ我ながら自分のテンションが痛くなってきたです〜っ!


 ***自重して静かにトラップ作成中***


「ふう、できた・・・」


 見つけたガラクタを使い、大学時代夏休みにアフリカでトマスさんのおじいちゃん達に教わったトラップを作った。

 手仕事をしたおかげでテンションが下がった。

 ・・・ちょっと精神が疲れてたっぽいな、私。


 遠い目終了。


 仕掛けに触れると金属片がカラカラ音を立てるというだけの子供だましトラップだが、ないよりましかなというわけで、幾つか作って見張り台から死角になる東北と南西の端にライン状に設置した。

 【ストーキング】と【聞き耳】スキルの合わせ技で金属片に魔力を込めてマーキングすると、遠くからでも特定の金属片の音が聞き分けられるようだ。


 多少安心したので、真ん中の焚き火の側に戻って、寝る前のストレッチと型習いを始めた。


 魔王を倒せとかいう名目で召還された我々だけど、当局の思惑は置いといて、あわよくば平和に暮らしたい。

 グランドマスターの言う通り、君子は逃げるが勝ちだ。

 逃げれないなら、話し合い・・・もしくは金で解決が望ましい。それでも無理なら戦うしかないが。


 今のところ、完全敵認定なのは黒扉だけだ。神殿と王宮は完全な敵ではないが油断できない相手だといえる。

 魔王軍というのはまだ得体が知れない。実は見た目や宗教が違う人間対人間の戦争を魔王軍討伐という言葉で正当化しているのかもしれないし、接触するまで判断できないなと思う。中世の魔女狩りやナチスのユダヤ排除みたいなもんだったら、とても手は貸せないしな。


 魔王が本物だとしても、人と魔物の対立の理由が分かるまでは安易に殺したりしたくない。

 ビール腹大神官の傲慢さを見ると、人間側が正しいとは一概に言えない気がするからな〜・・・。

 他に第四勢力がいるのかも含め、追って判断かな・・・。

 

 頭ではそんなことを考えながらも、身体は突き、受け、蹴り、と慣れ親しんだ型に沿って動いていた。

 眠めのときの方が無我の境地になれる。


「ふぅ・・・」


 一息ついて、汗を拭って膝を屈伸する。


 今日は色んなスキルを試したけど、まだ徒手格闘は手加減してしかやっていない。

 一度本気を出してみよう。

 キャンプファイヤーの石組みから大きめの瓦礫を1つ取って、組み手の相手とした。


「ふぅ〜・・・」


 もう一息ついて、一度頭を空にする。


 瓦礫を斜め上に投げる。

 放射線を描いて落ちてくる軌道下に一瞬でたどり着き、瓦礫の”芯”を突くつもりで拳に力とスピードを加える。


「しっ!」

 バキィッッ!!

 

 掛け声とともに拳が芯を突いた途端、瓦礫は砂となって散った。


「失敗したー!」


 ぺっぺっ!

 芯を突くのには成功したが、口に思いっきり砂が入ってしまった。

 とはいえ瓦礫は脆く感じた位で、拳に全く痛みはない。我ながらすごい。


「ん〜。なんかロニタが一撃で倒れた意味が分かったかも」

 これなら、狼相手でもいける気がする!

 けっこう安心した私は、砂をはらうと見張り台に手を振って建物に戻った。


 女子雑魚寝部屋の前の廊下に蝋燭などを持ち出して、準備完了。


 さて、前置きが長かったが、これでやっと新聞の試作作りに入れるよ〜。

 

 本来ならニュースのメニューは偉い人々が会議で決める。記者が書いた記事にはデスクと校閲のチェックが何重にも入り、思ったままの内容で通らないこともある。

 会議で決まったメニュー建てに沿って何面のどこに載るかが決まるから、自分にとって大ニュースでも中面のベタ記事にすぎないことも多い。

 でも、今日は私が唯一の記者であり編集局長でありカメラマンでもあるわけで。


 自分の好きに新聞が作れるっ!


 目が覚める。

 ビール腹大神官に見せる手作りの試作品とはいえ、内心わくわくしていた。



 朝刊トップはなんといっても勇者候補召喚だ。

 録音を早送りして確かめながら、記者ノートを見つつ、ざかざか書いていく。


 本記は基本ごますりに徹してこんな感じにしてみた。

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◎本日午後、勇者候補召喚成功

 本日午後、我らが誇る一番広い国の大神殿にて第3回勇者候補召喚が厳粛な雰囲気のもと行われた。

 黄金の髪輝く世にも美しい大神官様によれば、召還後すぐに勇者と認定された者が出たという。当世大神官様が優秀な人材召喚に成功したことは永く歴史に刻まれるべき偉業だ。

 国民と勇者候補が一致団結して人類存亡の危機に立ち向かうことが必要だ。各員の出自に気を取られず、平等な平和のために総力を結集せよ。

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 うう、自分で書いててむずがゆい。

 主語をはっきりさせない新聞の書き方だからよくわかんなくなっているが、最後の一文は私個人の願いでもある。


 他にズームは大神官の説明色々、サイド・雑観に神殿でのざわめきの様子、勇者候補代表としてエンヴィー、バルドルのコメント、自民の声として居酒屋のマスターのコメントをまとめた。


 そしてビール腹大神官へのごますり第2段として、多少美化した大神官を念写してみた。


 念写は、意外にあっさりできてびっくりするほどだった。

 写す場面をしっかり思い浮かべて紙を指で強く擦れば、あら不思議。炙り出しみたいに写真とイラストの間くらいの精度の画像が浮き上がってくる。

 その後気になるところを更に擦ってビール腹を少し痩せさせるなど、画像補正も思いのまま。私ったら人間Photoshopだよ!


 そして下心ありのセカンドニュース。

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○本日夕方、黒扉大捕り物

 本日夕方大神殿近くの路地裏地下室にて、黒扉に所属する男4人が女性らへの暴行の現行犯などで逮捕された。第一発見者である神官と近隣住民によると、女性が正当防衛で抵抗したため男らはそれぞれ指や局部を欠損するなど重傷を負ったという。

 神殿は男らに未成年者略取、監禁などの余罪があるとみて、男らに拘束されていた民間人十数名を保護し、事情を聞いている。

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▽現場を目撃した人の話

 被害者が無事見つかりよかった。大きな顔でひどいことを続けた黒扉どもが手だの脚だの折られていたのは痛快だ。全員捕まってほしい。

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 勇者候補個人と、ではなく神殿VS黒扉の構図ができればいいなという下心もあって、勇者候補の言葉は出していないが別に嘘も書いていない。

 もちろんプライバシー保護のため被害者の呼び名は伏せ、表現を最小限にした一方で、黒扉への宣戦布告を兼ねてボコボコにされた犯人四人の念写付きにしてやるぞ。

 これでイラッとして他の黒扉が出てきてくれれば、神殿経由にしろ直送にしろ、取っ捕まえてエンヴィー様の奴隷にしてやるぅ〜!みたいな。

 いかん、またテンション上がってきた。


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▽体験者募集中

 冒険者ギルド:初心者向け経験値アップキャンペーン中

 騎士団:体験入隊受付中

 国軍:体験入隊受付中

 格闘技複合道場:各種体験入場受付中

 医術師学校:体験入学受付中

▽受講者募集中

 召還魔法初級講座:勇者候補優待価格あり

 攻撃・防御魔法初級講座:勇者候補優待価格あり

 薬草初級講座:勇者候補優待価格あり

 など

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 こんな感じで一番下の段に、神殿で案内していた講座などの場所と時間、値段を並べて書いて、一丁上がり。

 手作り感ある”勇者新聞”第1号ができた。

 書き足りないけど、ぺらっとA4一枚の壁新聞ならサイズ的にこの程度で一杯だ。


 とりあえず満足したところで、手帳に今日通った辺りの簡易地図を書き込んでいると、サリユとラスタ・グリーンが起きてきた。

 2人にもマインドクリアの練習をさせてもらって、ルシアとレッドベリーと交代してもらった。



 さてじゃあさすがに戻って寝るか、と気を抜いた途端、上からサリユ達の緊迫した声が降ってきた。


「あれ、なに?」

「ネズミ様っ!謎の一団が近づいています!」


(なに!もお、タイミング悪いんだからっ!)

 外に飛び出すと、橋の向こうに光り輝く神輿みたいなのを戴いた見るからに怪しげな白装束の一団が近づいてきていた。


「・・・んっ?」

 見た瞬間、とくに殺気は感じなかったのであれっと思う。

 意識を集中してサーチアイと聞き耳を全開にする。


 しゃらしゃらしゃらしゃら・・・神輿の金飾りがこすれ合って、なにやらムーディーな音を立てている。

 魂を抜かれたようなうっとりした顔つきで神輿を担ぐ男達。

 オカルト新興宗教か。

 もやっとするが、お揃いの白い衣装はどう見ても神官服だった。


 ん〜。


 これ、多分・・・。


(もしかして、失礼ですがエンヴィーさんですか〜)


 安心して眠い目つきになってしまいつつ、一応伝書鳩を飛ばしてみる。

(はぁ〜い♪今夜のとこはとりあえず味見だけして帰ってきたわ〜ん♪)

 味見だけでこの人数ですか?エンヴィー様。


(おつかれさま、おかえり〜)


 なんてことはない、一瞬驚いたけど謎の神輿はエンヴィー様のお帰りでした。


 まだ24時すぎだ。朝帰りってほどでもない。

 夜の女王エンヴィー様にとっては普段肉欲とはかけ離れた生活を送っている神官達程度なんて、朝まで費やす程の歯ごたえはない相手だったってことなのかしら。

 エンヴィー様、恐るべし。

きりがいいので一旦。

あ、バルドルとの見張りにたどり着かなかった・・・。

すいませぬ。次こそバルたんといっしょです。

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