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3つの月と、親愛のキス

仕事の合宿と体調不良とmac故障などで間が空きました。すいません。

あらすじは同じですが、前話はかなり改訂しました。

 橋の上で皆と合流して歩きだした。


 『あの人』に似てる子ども1人にご飯をあげたというだけなのに、心が浮き立っている。

 暗い気持ちが晴れたのと同時に雲も晴れ、空には月と星が出てきた。


 星の輝きはどこから見ても同じだな・・・と穏やかな気持ちで視線をあげ、息を飲む。

 空に月が3個あった。


 ここは私の知らない国だ、隷属や魔法と呼ばれる不思議なものがある、とまでは結構冷淡に受け止めていた私だけれど。

 ここまでの奇異な光景を目にするとさすがに冷静でいられない。


 生きながらにして、太陽系外に転送された?

 むー。

 むしろ死んだとか?

 んー。


 でも我思うゆえに我あり。

 死に終わってはいない気がする。オリジナル走馬灯状態とかかもねぇ、みたいな。


 もしすでに死んでるんなら今更どうしようもないが。

 生きてるとしても、すぐ戻れなかったらクビが心配だ。

 朝刊用の原稿はデスクに預けてあったからよしとして、夕刊用と通年企画用のはまだ私の個人端末の中なんだよなー。


 こんな非現実的な状況でも、まだ仕事の〆切は気になった。


 最近は世界の狭さに鬱鬱としてたのは確かだけど、やりがいは感じてた。

 まだこれからだった。


 私、死んだんじゃないといいなぁ・・・。


 うつむいたら、ノスフェの舌が触れた指が目に入り、どきっとして首をはねあげると、前を歩くルシア達の姿が目に入った。


 細い背中を見てはっとした。


 ーーー自分のことは一旦置いておこう。


 死んでいても生きていても、ここがどこでも。

 ただ、目の前の人を助けたい。

 現実の私の世界でできなかったことができるなら、できることをしたい。

 ただの自己満足で、後悔したくないってだけだけど。


 そうと決まったら、本気でやらなきゃ!

 罪滅ぼしができるチャンスなんだ!



 暗い大河を渡ると、ばらばらの形のプレハブのようなものが並ぶ共同宿舎があった。

 宿舎という語感で英国の石造りの宿舎学校みたいなのを想像してたけど、実際はとても堅牢とは言えない感じだ。

 円錐形の建物が整然と並ぶ町並みを歩いてきた後に見ると、寄せ集めの急ごしらえにしか見えない。


 一番大きめの建物の脇にはやぐらが組まれており、てっぺんには粗末な見張り小屋があった。

 今は案の定見張りはいない。いくら皆来たばかりだって言っても、気が抜けてるなあ。


 食堂として使われているプレハブには大勢の気配があり、外までざわざわ喋る声が聴こえていた。

 何か食べ物にありつけたらしいのは幸いだが、暇なら見張りしろよ!不用心だなー。


 パーティごとに泊まれる小部屋は満室とのことだった。

 食堂組以外の者はそれぞれの部屋を定めて引きこもっているようだ。

 真っ暗な外をうろついている者はいない。

 黒髪を隠そうとマントのフードを被ってみたけど、意味なかったな。


 大河の向こう、街には街路樹位しかなかったのと対照的に、こちら岸には木が繁っており、宿舎群のすぐ側まで森が接していた。

 宿舎の両脇の川沿いには川縁ぎりぎりまで木々がせめぎあっているのを見ると、宿舎を建てるために伐採したのだろう。


 見た事のない樹種がうっそうと茂っている様子はDVDで観る分には壮観で興味深いだろうが、夜中に近くにある今は未知の生き物や伝染病に対する強い恐れを感じる。


 ・・・これ、宿舎は無視して城下町にテント生活でもした方がマシなんじゃないのかな。

 明日にでも考えなきゃー。


 ビール腹大神官の話では、この辺までは組織的な魔獣は来ないということだったが、ノンがくんくんして言うには「知能の低い野獣ならけっこーそばまできてる」とのこと。


 動物商人の娘アザラいわく、元々ここの森はまだ規模が小さい方で、熊サイズのモノはおらず、狼サイズの夜行性野獣が森の生態系のトップらしい。魔力も低く肉弾戦オンリーの奴等だ、とのこと。助かった。

 とはいえ女勇者認定された私だって人よりちょっと足が速いくらいの力しかなく、他の勇者候補たちの戦力レベルが不透明な今。狼レベルでも心配ではある。

 不安を伝えると、アザラいわく、知能の高い魔獣だとレインボー篝火が必要だが、野生の獣であれば明かりがあるだけでも寄って来ないと言う。


「じゃあまずは明かりが必要だね。・・・ん〜」

 一瞬レインボー篝火を数本奪ってこようかとも思ったけど、隙間ができて町の一般市民を危険に晒すのも寝覚めが悪い。

 ま、私たちも一般市民なんだけどね。。。


 ダメもとで、寝ながら遠距離照明の魔法が使えるかどうか聞いてみると、魔法を付加した道具がないとダメだという。

 あ、それが正にあのレインボー篝火なんだね。

 じゃあ、電気のないところですぐできる明かりといったら、プリミティブに焚き火かなぁ。


 やぐらの下の空き地で焚き火をする事にした。

 ガラクタはその辺にたくさん落ちている。

 火事が恐いので馬鹿力バルドルをおだてて石組みを作らせて、皆でキャンプファイヤーの用意だ。

 料理屋の娘ターニャによる点火で燃え上がった炎で、少しはサーチアイなしでも視界が利くようになった。


 見張りの順番は先ほど居酒屋で決めた。

 今から他に協力をあおぐのは無理だろうし、信頼できない見張りなら意味がない。今夜は私たちでローテするつもりだった。


 まずはまだ起きて飲み食いしている人の気配がある、今から丑三つ時。比較的気楽なので、悪いけど女の子メンバーに頼む。

 なんとなく危なそうな丑三つ時から明け方は、私とバルドル。

 にわかマジメ門番のロニタも見張り当番に混ざってくれるというので、彼には明け方以降を頼む事にして、雑魚寝用の男部屋で仮眠してもらうことにする。


「さて、お疲れさま。

 というわけで2人は先寝てて」

 毅然と男部屋を指差すと、バルドルが廊下でじたばたしだした。


「ぇええ〜っ!?なんでなんで〜っ?!

 オレも皆と寝たいぃ〜!!!ほらっ?危ないし、危ないしねっ!」

 危ないのはお前だ。

「はい却下ー。ロニタ!」

「はい姉御!」

「こうするんだよ、わかるね」

「ええ〜!やだやだ、ネズミちゃんロニタとばっかしゃべるしっ!みんな無視するしぃぃっ!」


 ロニタに、力負けしない腕の掴み方、腰を落として巨漢を抑えるやり方をさくっとデモンストレーションする。

「了解であります姉御!バルさん、行きますぜ!」

「やだ〜!せっかくのいちゃいちゃハーレムの初夜がぁ〜!!!」

 バルドルは力の限り暴れたが、私にデコピンされてしょぼんと力を抜いた。

「いい子だからよく寝といてね!

 見張りでは頼りにしてるからね〜♪」

「え〜んネズミちゃ〜ん!オレだけ扱い酷いぃ〜!」

 馬鹿力のバルドルは大馬鹿真面目のロニタに引きずられて退場した。


 寝られるだけありがたいんだ、甘えてないでちゃっちゃと寝ろっつの!


 あ、ロニタで思い出したけど。

「ていうかリーケ忘れてきた」

 まぁ成り行きでロニタに道案内させたから別に要らなかったんだけど。

「いいのではないですか?戦力としては期待できませんわ」

 ルシア、ビール腹大神官だけでなくリーケにもきついねー。


 私たちは廊下の反対側にある女性用雑魚寝部屋に向かった。

 大所帯なのでちょうどいい。

 ほぼ貸し切りなんじゃないかなーと思って中をのぞくと、例のお色気美女が隅のベッドですでに寝ていた。

 狸寝入りかと思ったけど、サーチアイで見ても熟睡している。

 寝るの早いなー。


 美女の真横のシーツが小さくこんもりしているのは、神殿の大広間で手をつないでいた男の子だな。

 小さい子を変な大人の男に混ぜると危険だし、まあいいか。


 最初の見張りはルシアとレッドベリーに頼む。次はサリユとラスタ・グリーン組だ。

 結界担当2人とお姉さん2人・・・うーん、有能すぎるだけに何かとこの4人の負担多いよね。

 分かってるんだけど、やはり適材適所しかない。

 彼女達には昼寝もしてもらおう。


 一番軽い結界にしても宿舎全棟の広さを長時間包むのは無理だというので、何かあったときには結界組には女性雑魚寝部屋をメインに守ってもらうことにした。


 残りのみんなには寝るように言って、私は下見をかねて見張り小屋まで二人と一緒に上った。

 一度屋根まで斜めの梯子で上がり、そこから見張り台まで長い垂直の梯子を上る。

 ショートパンツ風な服のおてんばレッドベリーは楽々と先に上っていったが、裾の長いゆったりした服のお嬢様ルシアは覚束ない様子だった。

 うーん。疲れてるだろうしなぁ。悪いなぁ。。


 ルシアを殆ど抱き上げるようにして支えながら上りきると、すでにレッドベリーはちょこちょこ動き回り、いくつかある覗き穴から下を見ていた。


「何か見える?」

「んーん、今のところ全方向、危険なものは見えないですっ!」

「よかった」

「ただ、森の奥に向けて風が吹いてるのが気がかりですね。

 この時期、夜風は海から山へ吹くんです。

 風下を特に気をつけてチェックしますねっ!」


 風は大河の上流側、つまり山いくつか越えたら魔王軍がいる側に向かって吹いていた。用心するに越したことはない。

 それにしてもなんて模範的なお返事。頼りになるなぁ。

「レッドベリーは薬師見習いだよね。

 森で薬草を摘んだりしてたから詳しいの?」

「えへ、それほどでもぉ!」


 と、褒めたらいつもみたいにきゃっきゃとなるかと思ったのに、レッドベリーはむしろ羨ましそうにこちらを見ている。


 ・・・?

 あ。

 離れがたそうにしているルシアの肩にそのまま手を置いていたから、それですかね。

 む、むう・・・。


 日本人的には照れるが、この娘達はほんの先程まで無体な目に遭っていたのだ。甘えたくても当たり前だよなと合点がいく。

 手を伸ばし、レッドベリーももう片手で抱き寄せた。


 う、これ、両手に花じゃん。

 まるで私がバルドルになったみたいな。。。

 うう、だめだそっちに考えるな。


 2人が静かに身を寄せてきたので、照れを隠してぎゅっとする。

 どちらかというと年長者の2人だから、みんなの前じゃ甘えづらかったのかな。


 そうだよなぁ。。


 ・・・辛かったよね。

 疲れてるよね。なのに休ませてあげなくて、ごめんね。。。


 すぐにうちに帰らせてあげられなくて、ごめん。

 家族や恋人の腕に勝るものはないだろうと思うけど、せめて気持ちを楽にしてあげたいよ。


 レッドベリー。

 ルシア。

 今日逢ったばかりのあなた達だけど。

 多分私も、あなた達がいるから心折れずにいられる。

 元気、出してね・・・。


 心が高まるのにあわせて、お腹から熱くなってきた熱が両腕に流れる。

 ぽぅ、と私から熱が2人に流れだし、レッドベリーとルシアの全身をあたたかい膜がおおっていく感じがした。


(元気になぁれ)


 くっついてくる赤い頭を撫で、そのままの流れで見下ろす頭頂部に口づけた。

「ひゃあんっ!」


 目の前でふぁん、とあたたかい光が散った気がした。


 私も心地好いあたたかさに酔っていたのだが、頭にキスした途端レッドベリーがびくっとして一気に距離を取ったので、驚いて一気に覚醒した。


 ・・・およ?

 何か調子乗りすぎた?

「レッドベリー、だいじょぶ?」

 なんかかわいい声出してましたけど。


 潤んだ目をして腰砕けになっているレッドベリーの様子に内心慌てる。

「えと、大丈夫?立てる?」


「だ、だだだ大丈夫でぇすっ!」

 レッドベリーはぴょーんと跳ねて立ち上がった。頬は紅潮したままだ。

「わ、私魔力分けてもらう側は初めてなので、ちょっとコーフンしちゃいましたっ!」


「え、今やっぱ私何かしてたよね?魔力あげてたってことなの?

 ・・・なんか、あの、大丈夫だった?」

「大丈夫どころか絶好調ですぅ!!眠気ぶっとび〜ですっ!」

「そ、そうなの?ならいいけど」


 さっきの顔イッちゃってなかった?

 な〜んて本人には聞きづらいので、とりあえず一番物知りキャラなルシアの顔を見てみる。


 すると冷静キャラのルシアもちょっと硬直して複雑な顔をしていた。

「今私、何したのかな?」

「無意識にしてくださったのですか?」

「え、うん、ごめん」


「いいえ!ああ!ネズミさま!

 隷属である私どもにまで魔力を下さるなんてもったいないですわ!

 更にレッドベリーさんにはマインドクリアまでかけて下さるなんて」

「マインドクリアかけてたの、私?」

「ええ、私どもは黒扉の部屋でお会いしたときからネズミさまの側にいるだけで気持ちの沈降は抑えられておりました。

 更に先ほどレッドベリーさんに口づけされたときに、彼女の負の澱を直接吸われているのがわかりましたわ」

「負の澱・・・」


「えと、何かそう大層なことしたんじゃなくて、ただ、元気にな〜れ、って思ってちゅーしただけなんだけど」

「えへへっ!おかげで元気になりましたっ!

 なんかいい気持ちですし、良く寝た後みたいに疲れも取れましたよっ!」

「そうなんだ。でもならよかった」

「はいっ!ありがとうございましたっ!」


 この世界の魔法の原理、まだよくわからない。

 去勢キックといい、よくわからないときに自然と使えてたりするからな〜。

 いざというとき意識して使えるように練習が必要だな。


「雨魔法もマインドクリアも、急所攻撃も・・・全て無詠唱でされてしまうネズミ様・・・!素晴らしいですわ」

「ありがとう。ええと、もしよければルシアにもマインドクリアの練習させてもらえないかな」

「そんな、恐れ多いですわ」


 とかなんとか口では言いつつも、ルシアの瞳は潤んでいて明らかにやって欲しそうだった。

 こういうところ、冷静が売りの文化系なのにと思うと面白いけど、私の前で素顔を見せてくれるのはカワイイ。


 私と同じくらい背の高いルシア。

 ピンクの髪もそっと撫でて、背伸びして白い額に元気にな〜れのキスをした。

体調とmac環境がまだ不良なので、今後もしばらく不定期連載にします。

でもお預けくらっててすっごい書くのが楽しいので、またぜひよろしくです〜♪


次回は、バルドルと2人きりで見張りです。

・・・ああもやっとする!

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