最初の夜の、ざっくばらんな夕餉
「怯えさせる勢いで忠告しておきましたわ♪」
「オラがんばったよ!」
「ん」
「わたしもがんばりましたあっ!」
「ありがとう皆。すごく助かったよ」
くったりしたイケメンエリート神官を連れたエンヴィーと別れ、私はルシア達と合流した。
「ほんとありがとね、えらいな〜。よしよし」
一番小さいノンと、それなりにお姉さんのはずなんだけど妹キャラのレッドベリーの頭をよしよしする。2人とも褒められると自慢げな顔で嬉しそうだ。かわいい。皆の心が壊れてなくて、ほんとよかった。
「お腹すいてない?疲れたでしょ?」
「だいじょぶです」
「う、うん」
と言いながらも、きゅ〜、ぐる〜、とお腹の虫が鳴った子が複数。言葉で刺激しちゃったかな、ごめん。
ほんとは私がおごりたいとこなんだけど。
よく働いた後輩にはおごる。良い悪いは別にして、これは男社会で暮らすと身に付く習慣だ。
でも今私が持ってる現地通貨って、さっき黒扉の連中からラスタ・グリーンとノンが押収したものなんだよね・・・。申し訳ないけど、と2人に聞くともちろん恩人である私が使っていいという。いい子達で涙出そう。
本来彼女たちには慰謝料あげたいくらいなんだけどな。だが宿舎の賄いは朝御飯だけらしいし、私もバルドルも無一文出発。皆に空きっ腹抱えて寝てねって言うわけにもいかない。言葉に甘えて使わせてもらって、元手ができたらそれぞれにお金を持たせて帰郷させたいなあ。
バルドルとは廊下で落ち合った。服や道具がぱんぱんにつまった尋常じゃなく大きな箱をぶんどってきていた。
「わー。まじたくさん持ってきたね。ありがとー」
「「「ありがとうございます、バルドル様」」」
この馬鹿力、まちがいなく【戦闘系】だ。女の子のためなら火の中水の中ってことか。なんにせよありがたい。
バルドルの戦利品を階段下の隠れスペースでルシア達がおのおの選別していく。
「その服着た〜い」
「これどう?合うかな?」
「ん〜。あんたにその色はどうかなぁ」
いつもの防音&目隠し結界内なので皆リラックスしてわいわい山分けしている。
シンプルな物は普通のワンピースみたいだけど、装飾的な物となると見慣れないデザインだ。でも皆何でも似合うよ。
「あら、裏市場の粗悪品のようですが一応杖もありましたわ」
「あー!オラ使ってみたい〜」
箱の底からルシアが取り出したのは、細い棒だった。
初心者が魔法を習う場合は杖を使う事が多いという。流派、属性によっては大人になってからも使うそうだ。
あの夏、人買いの男達がふりかざしていたのもこんな棒だったな。なんの変哲もない棒だけど、魔法用の杖だったのか。・・・あれ?ていうかあれは普通に私の世界のアフマド君の国で起った事だよね?なら違うか。
「ノンさんは習う機会がなかっただけで、潜在能力は高そうですわ。いいかもしれませんわね」
「うん!オラ修行したい!強くなるの!」
「空き時間に幾つか魔法を試してみましょうね」
「やったー!」
道で暮らしていたというノンと、大きな図書館に勤めていたという洗練されたお嬢様らしきルシア。意外な組み合わせは不幸な偶然から産まれたものだけど、隷属になった同士仲良さそうで、なんか不謹慎だけど癒されるな。
きゃっきゃとしている皆をほのぼの見守る私の横で、バルドルは楽屋のアイドルを見るスケベ親父みたいな表情でにっこにこしていた。まあ笑顔は大切ですよね。幸せホルモンが出るしね。しかし、これだけの美形がスケベ親父に見えるって、酷いミラクルだ。
当のバルドルは、典型的な騎士ってイメージのいぶし銀の全身鎧を着け、何だか魔王みたいな黒いロングマントと金髪を靡かせていた。室内だが魔法風による意味のない演出がされている。
勿論【剣士】なので剣を背負っていた。ハエたたきどころかイノシシくらいつぶせるんじゃないかという位巨大な洋剣だ。腰になど下げられるサイズではない。
「ねえ、それ重くないの?」
思わず聞いてしまう。
「オレもそう思ったんだけどさぁ、やっぱ剣士たるもの巨大なロングソード使いたいじゃん!・・・オレに近寄るとけがするぜ的な!カッコいくない?」
正面に剣を構えて、これでもかと魔法風で黒いマントと髪をなびかせ、犬歯を見せて凶悪っぽい笑顔を決めるバルドル。・・・見る人が見たら素敵なのかもしんないけど、言っとくけどそれ、完全に魔力の無駄使いだ。エコになれよ。
「バルドル美形のくせに、邪気眼系チューニビョー入ってるよね?しかもなりきれてもいないよね?」
風は止み辺りは一瞬しんとした。
「ええ?!ひでえ!分かってるから言わないでくれ!
ともかく、こっち来て重さをあんまり感じなくなったんだよね。普通に振り回せたし、いーかなって。やっぱり肉体強化とかされてんのかな?」
「私もやけに早く走れるようになったし遠く見えるようになったよ」
「やっぱそーなんだ」
「バルドルって本来光の神の名前なのに黒いマントなのって、それもカッコいいからって理由なの?」
「なんだよお。カッコいい物はカッコいいじゃん。
それにほら今オレ背がすげー高いからぁ。長いマントは売れ残ってたんで青、赤、緑、茶色って全部もってきたぜ♪気分によって変えるんだ〜。オシャレだろ?」
「やけにカラフルだね。サッカー選手が勝って背負う国旗みたい」
そういえば、この夏はサッカーワールドカップのブラジル取材の応援頼まれてたんだよね。それまでに現場復帰できないかなぁ。
「ネズミちゃんまた上の空で色気のないコメントするし、オレだけ扱いひどい・・・」
そこで先に着替えを終えたサリユが話に入ってきた。
「バルドル様、黒のマントは闇の手の者と勘違いされるため、普段使いにはお薦めいたしませんわ。買い物などがしづらくなります。代わりに戦闘時に敵に油断させるのには使えますので、とっておいてはいかがでしょう」
「そうなんだ。ありがとう美しい水色の髪のお姉さん。オレはバルドル。気に入った服はあったかい?お役に立てたなら幸いだよ☆=」
さっそく色男モードに表情をチェンジして、ばさぁっと黒マントを外したバルドルがキラキラを飛ばす。ていうか名前もう呼ばれてるってのに名のるなよ自意識過剰男め。
「ありがとうございます。私は水・氷属性なので水色の服を頂きました」
サリユはスルッとスルーして平常心顔で答えた。ガクッとなるバルドル。
サリユはクールビューティに説明を続ける。
「ネズミ様、バルドル様、この世界では色と魔法属性は密接な関係を持っており、関連色を身につければ魔法の精度が上がると言われています。
ポピュラーなものとしては、水属性なら青や水色、炎属性なら赤やオレンジ、風や植物属性なら緑色、土や鉄属性なら茶色の衣服を身に付けることをおすすめいたします。逆に、自分の属性を隠したいときはネズミ様のようなグレーや、神官服のような白の衣服が使われます」
そうなんだ。じゃあマントはグレーのままでいいや。今度インナーをゲットするときは青を選ぼうっと。
そういえば、神官達だけじゃなくてエンヴィーも白い服とマントだったな。
「白は光属性とかじゃないの?」
「理論上はそうですが、光、闇属性の勇者候補は例がありません。
仮にいらしても、この国の神殿の測定器では測れません。
南の海にあるという光の神殿に行くか、各地に散っているという光の巫女様に会えれば分かるそうです。闇については分かりません。
後、これもレア属性ですが、雷属性の方は黄色や白を好むそうですよ」
「やっぱしゲームでも光や闇ってレアだもんな〜」
スルーされて黄昏れていたバルドルが立ち直ってのんきなコメントをした。
「お待たせいたしましたわネズミ様、バルドル様。
準備できましたわ。
誠にありがとうございます」
皆身支度ができたようだ。あれっ、サリユ、実は皆の生着替えからバルドルの目をそらす役割だったんだね!
「じゃあ宿舎に行く道すがら夜ご飯いこっか。バルドルも一緒に行こ」
「おおー!いいねいいね」
何にも気づいていないバルドルは嬉しそうだ。
誘ったのは、勝手に女の子をテイクアウトされては困るから私の目の届く所にいてもらった方がいいってだけなんだけどね。
王都出身の数人から宿舎への道の説明を受けながら神殿を出て豪華絢爛な門の所まで来たところで、1人の侍女に呼び止められた。
見ると先ほどここで門番にセクハラされていた子だ。黒目が大きくて潤んだ瞳、清楚に結わえられたくるくる焦げ茶の髪。田舎から出てきたばかりっぽい感じだがとてもかわいらしい。こりゃー狙われるね。
「あの、女勇者様。先ほどは助けて頂いてありがとうございました。お見苦しい所をお見せし申し訳ありませんでした。
私、侍女見習いのレーニアと申します」
「レーニアちゃんて言うんだ〜。オレはバルドル。黒めがちなその目。とってもかわいいね☆=」
「バルドルごめんどいて。
さっきは大丈夫だった?他の子の危険が迫っていたから、急いでて現場に置いてっちゃったけど、ごめんね。
その後門番から嫌がらせ受けたり解雇されそうになったりしたら私に言って。神官に繋がりができたし少しは力になれると思う」
「いえっ、そんな・・・。
それなんですけど、あの・・・」
レーニアが言いにくそうに後ろを示す。
そこにはなんと、無言で土下座をする坊主頭の男の姿があった。
「え・・・あれさっきの門番・・・?」
「はい。あの、ぜひお詫びがしたいと言うので・・・」
チャラ男門番、茶髪ロンゲかなんかじゃなかったっけ。
けげんそうにする私を見て、レーニアもまた言いづらそうにうつむく。
「ええと、あの・・・門番さん、反省の証として髪を剃るって急に言い出して。
私が止めても、心は変わらないって言って先ほど断髪されたところなんです」
ええと・・・もしかして、去勢キックではなかったけど「恥を知れ!」って思って蹴ったから、恥を知るようになったとかそういうことですか。また変なクリティカル出たな。んー、まあよかったけど。
「ちゃんと謝ってもらえたの?」
「はい」
「レーニア次第だよ。許すも許さないも。私はどっちでもいい」
この純朴そうな子が許せないと思うほど酷い事もしてたんなら、こんなヤツ一生不具にしてやってもいい。
うつむいたままのレーニアの肩に手をやって、頭を撫でた。
「どっちでも私は味方するよ」
「・・・許します、私・・・」
優しい子だなあ、ホントいい子ばかりだ。
「じゃあ、彼女に免じて私も許すよ、門番君。
名前を聞いていい?」
すっかり硬派キャラに生まれ変わったチャラ男門番は頭を地面に擦り付けたまま、やっと口を開いた。
「お許し頂き感激の至りであります。本当にすいませんでした!
不肖ロニタ、今後は神殿の性的不祥事を微力ながら取り締まる所存であります!」
「ロニタ、顔を上げて。
許す代わりに課題を渡すよ。
君は門番の割に弱すぎる。女の一撃でやられて恥ずかしくないの!もっと力をつけて、女性をほんとの意味で守って欲しいの。ちゃんと頑張ってね」
「はいっ!姉御!ついていくであります!」
がばっと最敬礼されてしまった。いいけどなんかノリが謎だ。
レーニアに話を聞くと、一般兵だったレーニアのお父さんとお兄さんは大戦の前哨戦で魔物に殺されたが、大戦で多くの戦死者が出過ぎたため遺族年金制度が破綻し、最近支給が止まった。そのため就職して母と祖母の生活を支えているという。泣ける話だ。
魔王が勢力を伸ばし出してから、セクハラ、枕強要は神殿や王宮では日常茶飯事だという。
ストレスのはけ口が下の立場に向かっているんだな。どこの国でもある事だが、誠に嘆かわしい。
・・・その報い、存分にエンヴィー様のスパルタ調教としてその身に受けるがいい。
「おばあさんとお母さんの為に耐えてたんだね。なのにぶちこわして、ごめんね」
「いえ!そんなことないです!
女勇者様があの人をぶっ飛ばしてくださって、私、すっきりしました!!」
泣きそうになっていた大きな瞳が、門番の吹っ飛ぶ様子を思い出したのか、くすっと笑いを作った。
「それならよかった。また何かあったら頼ってね。
私はネズミ。ほんとはそんなに強くないんだけど、先ほど勇者の任を受けました。最初は不本意でしたけど、女の勇者が出た事で少しでも女性の地位が向上するならいいと願ってやみません。他の侍女の皆にも何かあったらネズミに伝えてくださいな、と伝言してもらえる?」
「わかりました!ネズミ様!私で出来る事ならなんでもご協力いたします!」
とりあえずは今後も連絡が取れるようにのど飴を割って食べてもらった。制服少女メルメに続く眷属2人目だ。
そして、夜でも安全に食事がとれる場所がないか尋ねた。
案の定、夜は居酒屋みたいな所しか開いておらず、今は治安もあまりよくないという。
そこで、レーニアの亡父の元同僚がやっているという町外れの店を紹介してもらった。宿舎も同じ方向の町外れなので助かる。
ネイティブの情報源は貴重だ。聞いてよかった。
「ありがとうレーニアちゃん☆また会おうね☆=」
「今後変な動きがないかバルドルも気をつけてあげてよね」
という感じで神殿を後にした。
シフト時間が明けているロニタが道案内してくれるという。
門を少し離れてから、感動したようにバルドルが拳を握ってばたばたし出した。
「リアルメイド服の破壊力すごすぎる!!レーニアちゃんかわいすぎ!!ネズミちゃんグッジョブだよ!!ていうかロニタてめー爆発しろ!」
「はっ。誠にすいませんでありますが爆発しかたがわからないであります」
巨大なバルドルに首根っこ掴まれてぶらぶらしつつロニタは無表情に謝った。
馬鹿な子2人か。
「バルドル手を離して。
言っとくけどああいう純情な子で遊んだらあんたにもおしおきなんだからね!」
「ひえーこえー!わーったよ!ちゃんと割り切れたお姉さんを狙います!」
「聞くけど、蹴られたい?」
「へ?なんで?」
「蹴られて嬉しい趣味の子を蹴ってあげたらおしおきじゃなくなっちゃうから一応聞いただけよ?聞かれる意味分かんないの?」
「ふえ〜」
「もーいちいち泣くなこの遊び人!
遊んでないでちゃんと唯一無二同士の相手を探せって意味だよ!」
あああもうまた無駄な会話をしてしまった。
先ほどは周りを見る余裕があまりなかったが、城下町の建物は円柱の壁に円錐型の屋根が付いたものばかりで、私たちの世界では見慣れない外観が面白い。色とりどりで大小あれど、形はほぼお揃いだ。
屋根の先端はとがっているが、それ以外は角がない。円柱の外壁が曲線で円錐の屋根に遷移している。漆喰のような感じの素材感。どういう作り方なのかな。
出入り口はたいてい1つで、窓は小さくて少ない。その窓から明かりが漏れだしているので中に人がいる事は分かるが、夜だからか外には人っ子一人歩いていない、不思議な夜の町の光景だ。
地球においては極端に熱いか寒いかという地方で窓は小さいが、今晩のこの地域は曇りで日本の春・秋程度の気温だった。さっきの雨は私が降らせたにしろ、空気中に十分水分があるのが感じられ、乾燥地帯という感じはしない。
こんなに窓が少なくて建物内が湿らないだろうか。カビが存在しない世界なのか、魔法で何とかしてるのかな。
神殿から続く敷石の大通りが切れると、道は土が剥き出しになり、人馬が通らない所には緑の草が生えていた。草木も見慣れない種類だが、葉が大きすぎず細すぎず厚すぎずの所をみると、この土地は温暖湿潤と考えて良さそうだ。
さすが王都、いい気候の地域にあるということか。
でも屋根がとがっているってことは冬には雪が降るのかな。石造りの構造物も散見するけど、地震はないのかな?などなど。
皆と話しながら興味深く町並みを見つつ歩いて、町外れの居酒屋に着いた。
傷跡だらけの剛毅なおっちゃん店主やごついウエイターさん達から、生活や通貨などの基本現地情報を教えてもらいながらお腹を満たす。
食事は食材こそ全て不明だったが、一見地球のどこかにもありそうな火の通った食事だった。基本は炒め物と煮込み系だ。主食は、これまた小麦粉ともトウモロコシ粉とも違ったが、ピタパンのようなものだった。
免疫や腸内細菌がこの地の人とは違いそうだから、生ものが出なかったのはありがたい。
肉類は固かったが、空腹というスパイスもありどれもとても美味しく頂けた。
ここは店主とウエイター達が元一般兵なので、町外れの割に比較的安全だという。軍がまともに機能していた頃に怪我などで早期引退したメンバーで、数少ないマトモな生き残りなのだとか。
飲み食いしながら身内でも情報交換する。もちろんここはルシアのサイレント付きだ。
「さっきの大神官の言い方、妙だったんだよね。真名を知るのは夫婦のみだとか何か、文化的制約があるの?」
「今のような物騒な世の中になるまでは、人が人を奴隷にする事はありませんでした。隷属儀式は正式な夫婦の契りとしてのみ行われていたそうですわ」
「指食べるのが?!」
「はい、指を食べるのが」
「そうなんだ・・・」
「指が欠けることの意味が違ってしまった今では、婚儀はせず事実婚が多いみたいですわね。
ただ大神官様のような政略結婚の場合は儀式こそが大事なのですが。まああの方あまり意気地があるとは言えない方なので、多分髪を食べたか血を舐めたくらいで済ませたんだと思いますわ。
さきほど久しぶりにお姿見ましたがお腹周りは増えててもお指はお変わりございませんでしたし。」
なんかルシア、ビール腹大神官のこと憎そうだね。何か因縁があるのかな。
それにしても結婚式のメインイベントが酒の酌み交わしやケーキ入刀ならぬ、お互いの指食べって・・・。
所変わればなんとやらってやつだなあ・・・。
「え〜っと、じゃあ普段の食事に人肉はないよね?」
「さすがにそれはありませんわ。
祖先から続く魔力を分けてもらうという意味で葬儀で子どもが親の親指を食べる、というしきたりが残っている地域もありますが、それも基本的に儀式的な意味合いですし。
食事としては、家畜や魔王の支配下にない地域の野獣、魚を主に食しますわ」
「そうなんだー。植物は?農耕もされてるの?」
「私が捕まる前なら、王都でも家庭菜園程度はありましたが、今日歩いてみた感じでは荒れてしまっていましたわ。
ですが戦争の被害が少ない南側に行けば多分まだ農村は続いているはずですわ」
「・・・あの、私の実家も、王都の南隣の町、です。南は、年中、緑が多いんです、よ」
ふだんあまり話さない花屋の娘、ロージィも小さな声で恥ずかしそうに会話に混じった。
そっか、ロッカみたいに王都の子だけじゃなくて、近くの町村からも連れてこられてるんだね・・・。早く返してやりたいな。
「それにしても、ネズミちゃん物欲全然ないのに情報には貪欲だよなあ!」
「当たり前じゃん命も金も情報次第だよ!
いわゆるの方の【ペンは剣よりも強し】も私は信じている!」
「えー!へんなのー!
普通、異世界トリップした勇者っていったら姫と結婚して幸せに暮らすか、魔王を倒して元の世界に帰ってモテモテになってメデタシメデタシだよ。
悪党だって楽に倒せたんだろ?心配しすぎじゃない?」
「何そのめでたしめでたしって。楽観的すぎ!
バルドルはゲームのし過ぎじゃない?」
「やーまあ確かにオレはゲーム廃人でしたけどね。。。
にしたって、明日の着替えよりも神官のストーキングを優先するのは訳がわからんよ!女だろお前!」
「はい女ですが何か。
あのね、国の重鎮クラスの人はすぐまた明日って会えるとは限らないの。
風呂飯衣服は1日2日後回しでも何とかなるけど、生の情報は逃したら朝刊に間に合わないんだよ!」
「え?なになに朝刊って?何の話〜?」
「あ、あー。
あんまり言いたくなかったけど、私○▽新聞の記者なんだよ。毎日、夕刊朝刊の〆切時間に向けて逆算して生活する癖がついてるの。ちなみに深夜2時過ぎが朝刊〆切だよ」
「えーそうなんだ。風呂飯衣服より情報って、ほんと変な女〜」
お互いお酒が入るとくちさがない。
「どうでもいいし。
それよか明日の予定相談しよ」
さっき書き留めたTO DOリストのページを開いて、皆の意見を募る。
記者としての仕事では秘匿情報が多いから、デスクにしか相談できないけど、今は違う。なるべく相談しよっと。
食べ終わり一定の相談も終えると、テイクアウトできる食事、日持ちしそうな乾物、そしてもちろんお酒を買って店を後にした。
夜でも事件が起こるかもしれないし私は夜更かしだし、非常食は必須。お酒は取材先に貢いだり口を割らせたり、万能アイテムだ。
値段はご時世の割にリーズナブルだそうだ。料理屋の娘ターニャが言うんだから間違いないだろう。よし、また来よ。
宿舎は、王都を逆Y字型に囲む川を上流側に渡った川縁にあるという。
居酒屋を最後に商店街が切れると店の明かりがなくなり、ラスタ・グリーン達の出した魔法の明かりが頼りだった。例のように、路地は完全に真っ暗だ。
石造りの大きな橋まで来ると、見渡す限りたくさんの篝火が帯状に立っていた。川と北の森から来る野生の魔獣避けだという。
ラスタ・グリーンの明かりとは違う、色がくるくる変わる不思議な魔法の火だった。
川を渡った所に宿舎が見える。
宿舎・・・、城下町を守る篝火の向こう側じゃん。あからさまに魔獣避け要員に喚ばれたんだな、勇者候補。
これは、見張りが必要かな。
橋を渡りかけたとき、右手の川縁に人の気配がした。
ーーーあの女性!?
気配を感じて、二度見する。
チラチラ万華鏡のように光る篝火に照らされて、堤防に立ち川風を受けるその人の白い長髪が、闇夜に揺らめいていた。
くったりしたイケメン・・・。
どう食べられてしまったのかしら・・・?
想像に任せまする。
てなわけで次回はとうとう白髪のあの人登場?!




