たららったらー。仲間をてにいれた。
辺りはどよめいているが、すごいという実感はない。
どちらかというとちょっとひいている。
勇者だなんだ言われても・・・【戦士】以外は戦うスキルじゃないのばかりじゃない?
それにしてもこのジョブとやら・・・。
【マッパー】は理解できる。しょっちゅう事件現場の地図とか見取り図書いてたからね。速記は先程も使っていたし、伝書鳩は現代技術を使って日々行っていたことだ。全体的に合点がいく。
問題は【暗殺者】だ。推測するに、こちらの世界に新聞やテレビがなく【記者】というジョブ概念がないため、記者として日々政治家や警察副署長なんかを朝から晩から付け回したりして培ってきた隠密おっかけスキルが、【暗殺者】のスキルとして割り振られただけだと思う。人殺したことないからね、私!
【魔法使い】もなぁ。
適性あると出たはずの水魔法はレベル1で、MAXなのは明らかに留学生まみれで過ごした学生時代に培ったと思われる、翻訳魔法。
全然戦う気配ないじゃん。ハリーポッター的な夢もない。あ、でもさっき言われた雨魔法ってのはほんとに私のしわざだったのかも。
なんか・・・私も、「戦闘系」じゃなくて「文化系」なのかなぁ。
ていうか私、感情の起伏、激しくないし!・・・というのは無理があるけども。てことは中途半端系?・・・ううむ。とりあえず精神衛生のために文武両道系、とでも自称しておこうか・・・。
はー。
というか、「気づいたら勇者候補としてここにいたこと」自体、納得してないんですけどね、私。
今ここが【異世界】であることも、受け入れたというより、可能性の一つとして考えているだけだ。
魔法と言わざるをえない現象を目にしたし、建物や衣服の形や素材が既知の物とまったく違う。だからここは多分知っている世界の国ではない。
だが、意識を失ってから後全部が夢か、臨死体験的なものか、はたまた死後の世界かという選択肢もいまだ高い可能性である。私よくリアルでいてナンセンスな夢見るし。
元々、1つの事を信じたとしても、他の可能性も捨て置かないのがいい記者の条件だ。そうしないと当局の発表そのままの原稿書いちゃうボンクラ記者になっちゃうからね。いつでも疑って、物事の裏を読めるようにならなきゃって新人研修で何度も言われた。
元々私は性善説派だ。
人を信じたい。人が好きだ。助けたいから、記者になった。ほっといたら私なんか騙されやすいカモネギ女に育っていたことだろう。
でも数年前の夏の出来事が私を変えた。
悪い事を平常心でする人もいる。つまりは【嘘をついている目をしてなくても悪人】っていうのがいる。それを見抜ける目が欲しかった。
物騒な【暗殺者】としての「サーチアイ」「聞き耳」なんてスキルになっちゃったけど、そういうつもりの努力が実ったと考えれば、報われたような気もするけど・・・。
盛り上がる周辺をよそに、ルシア達の救出作戦が終わって精神的にクールダウンした私。結構な勢いでもりさがっていた。
だが、この状況を把握するためにも特権階級的なものであるらしい【勇者】にはなっておいた方が得だ。
正直ここでちゃぶ台ひっくり返してもいいことは1つもない。
大神官に仰々しく名を呼ばれ、ニコニコ顔のリーケと共に壇上に上がった。リーケはまた奥の下っ端席に戻る。
私は大神官の御手直々に、何やら金メダルのような感じの勇者認定証を渡された。
「勇者になったそなたには、従来スキルレベルMAXより上位が開放される。
上位のスキルが習得できるので、これを身につけて今後も精進するように」
たららったらー。
一応素直に受け取ってみたが、メダル部分に黒い影がちらつくように見えていかにも怪しい。
「光栄でございます、大神官様」
そのまま首にはかけず、お辞儀して受け取り両手でうやうやしく捧げ持つことで誤魔化した。
後でキスカに呪いじゃないか見てもらおう。
続けて、なんだかんだと大神官の御託っぽい、ジョブ格上げの説明が始まった。メモメモ。
【女勇者】に認定された私は、各ジョブも格上げされたとのこと。格上げ後のジョブは下記の通り。
てれれってれー。
【暗殺者】→【アサシンマスター】
【戦士】→【歴戦の戦士】
【魔法使い】→【魔導士】
【マッパー】→【歴史記録者】
実績も大してないっていうのに、なんだかとんでもないタイトルを頂いてしまった。歴戦ってなんだよ。人殺してないのにアサシンマスターって、設定に無理があるよ。突っ込みどころが多すぎる。この世界の職業の多様性はどうなっているんだ。
しかもなんと、大神官の自画自賛説明によると【歴史記録者】というジョブは過去何十年も出ておらず、それこそ歴史的な価値があるという。
ええ、なんなのー。この国には新聞だけじゃなく、もしかして歴史書もあんまりないの?・・・がっかりだよ。まずは図書館で歴史書をひもとこうと思ってたのに。
どよめく人々に、こっちはひく一方だ。
壇から降りる途中、広間をさっと見回すと、私以外の勇者候補の女性は2人しか見当たらないことが分かった。
パッと見女性とわからない人や、先に検査を終えて広間をでてしまった人もいるかもしれないが。
見えた2人の片方は前にも見たキラキラ美少女で、もう魔力測定が終わったのか壁に寄りかかって美青年としゃべっていた。もう片方は列にまだ並んでいる、相当なお色気美女だ。こちらは少年と手をつないでいる。
少なくとも女性にだけは、神官や黒扉に奴隷にされる危険があること等を急いで警告しておかなくちゃ。伝書鳩スキルを使ってみることにする。手に入れたばかりのスキルの使い方はよくわからなかったが、スマホのメール送信をイメージして相手を見つめて強く念じると、メッセージが飛んだ感覚があった。
ぶっつけ本番、なんとかなるもんだ。
広間に降りても、未だざわめく神官と勇者候補達。
私は「すでに広間から出た女性がいないか気になるな。男性にも本当は教えたいけど、神官達から情報を聞き出したい手前、神官達の目の前で全員に警告を発するのも反逆分子だってばらすようなもんだよね。どうしたらいいだろ。ていうか過去の勇者候補達は皆殺されてしまったか神官に隷属にされちゃってるのかな」などと他の事を考えていた。
上の空で歩いて、出入り口横の壁際にまとまっていたルシアたちの側に戻った。
するとなぜか、ルシアが頬を紅潮させてむせび泣いていた。
いきなり泣き笑いで抱きつかれる。
「ネズミ様!なんて素晴らしい!感激で涙が止まりませんわっ!
ああっ神よ!歴史記録者ここにいでし!」
え?どうしたの?冷静さはどこいった、ルシア?
「ルシアは【歴史記録者】に憧れて司書になったんですよ」
「そうなの?」
「レアジョブなんだよ!すごいっ!私たちも自慢だよ!」
「そうなんだ・・・」
サリユやレッドベリー達もルシアほど極端ではないが、ニコニコ喜んでいる。
ジョブ名については釈然とはしないけど、皆が喜んでくれるならいいか・・・。
さっきの今で、彼女たちの笑顔が見られるだけで奇跡みたいなもんだ。
笑顔を見たら少し気持ちが上向いた。
そうだよね、いい事なんだ。これだけ騒がれれば、発言権ももらえそうだし。プラス思考で行こう。
しかし気持ちを切り替えた途端、ルシア達の薄着っぷりが気になった。神官と男ばかりの広間の中に、色んな意味で目立つルシア達を居させるのは良くない気がする。
このまま宿舎にいったんずらかるか。でも今まさに行列に並んでいる勇者候補達にむざむざ本名を名のらせるのも悔しい。神官に取材もしたい。ここで相談するのも目立つ。
ええいままよ!皆を一旦どこかに置いてまた来よう。
とりあえず行列の先頭の人にだけ急いで伝書鳩を送り、皆を連れて出入り口から出たところで、キラキラ派手な美男美少女が寄ってきた。
「ねえ、あなた今お手紙くれたわよね。ありがと!」
ニコリと美少女が笑う。仕組みは分からないが、無事伝書鳩スキルが届いたようだ。良かった。
「オレはバ・・・ふがっ」
「ごめん!ちょっと待って。
まずちょっと通り道から外れましょう」
失礼を調子で、名のろうとしたキンキラ美男子の口をがばっと塞ぎ、そこを離れる。
広間を出た通路から脇にずれて木陰に入り、辺りに人が居ないか確かめた。
そして美男子の口を塞いだ手を外す。なんとな〜く、男の方は顔だけ良くて頭悪そうに見えたので何を言い出すかヒヤヒヤして途中で手を外せなかった。杞憂だといいんだけど。
「すいません、皆に聞かれたくなかったもので。失礼しました」
「なにすんだよ!人が名のってるつーのに!」
「サイレント」
間を置かず、ルシアが中範囲防音魔法を唱えた。助かる。
「あのなー、ちょっと痛かったんだけ」
「アタシ、エンヴィーっていうの。ネズミちゃんて呼んでいいかしら?」
すねた目で見下ろしてくる超絶美男子のセリフにかぶせるように、小柄な超絶美少女が私と彼の間に割り込んで斜め下から小悪魔的笑顔で話しかけてきた。すごく可愛い。
にしても被せるその感じ、わざとだよね?
なんとなく、2人の力関係がすでに構築されているのを感じた。
「うん。よろしく。エンヴィーちゃん。
それちゃんと本名じゃないよね?」
「だいじょぶ、元々この格好だとハンネ使ってたの。平気よ」
・・・この格好だと?
「半値?それなに?」
「ハンドルネームの略。ネットゲームで使ってたやつなの」
「なら大丈夫なのかな?」
ルシアたちと目配せする。大丈夫そうだ。
ふんわり無視された美男子はすねたように口を閉じたり開いたりしつつも、諦めたのか大きな背をかがめて静かにしていた。黙ってればクールビューティも気取れるレベルの超絶美形なのに、性格は犬ころ系なんだなあ。
まあ彼の呼び名は後でもいい。
「ね、キスカこれ見てくれる?」
先ほど受け取った勇者認定メダルのヒモ部分をつまんでぶら下げて見せる。キスカだけでなくノンも反応した。
「これ、オラだって分かるくらいの呪いかかってるよ!酷いニオイだ!」
「はい間違いなく呪いですね。反抗心が萎える、かけられた人には自覚させづらいタイプです。支配者に便利な呪いですね」
「過去の勇者にもこれを渡して操ってたのかな。
隷属はしてなかったと思えばましかしら?」
「過去の事はわかりませんが、可能性は高いですね」
「キスカは呪い外せるのかな?
このメダルがないと上位スキルが上がらないってホント?」
「スキルのことは分かりかねますが、父なら解呪はできると思います」
「そっか。ありがとう。近いうちに頼みたいな」
とりあえず今はキスカに保管を頼んだ。
呪い付きの勇者認定メダル。
これで完全に大神官は黒だ。
修行を積んで強くなった勇者候補をコントロールしきれなくなるのを恐れているのか。それにしたって呪いで操るのは人権侵害だ。この国に人権という考え方がないにしても、私的にはNGだ。
これはやはりこの2人と皆に知らせておかないと。
2人に向き直り、隷属と眷属、神殿と黒扉について手短に説明した。
「2人は神官達に名前聞かれた?」
「アタシたちはスキルレベルMAXなのが幾つかあったからか、聞かれたわ」
「全員聞いてたわけじゃないみたいだぜ。
スキルが上がってるヤツにだけ聞いてるみたいだった」
「で、ハンドルネームを答えたんだよね?セーフ!よかったー」
「ほんとね。ていうかネズミちゃんいいこねえ」
「ネズミさま。
もしや同郷の方々に忠告差し上げたいとお考えでしょうか?」
ルシアが話の流れを汲んでくれた。
「うん。だけど神官達の目に見える場所で大規模情報戦だなんて難しいかなとも思って。神官達とは見た目上は友好関係を築いて情報を引き出したいし、まだ警戒させたくないかなとか。
さっき行列の先の数人にはとりあえず伝書鳩飛ばしてみたんだけど、直接話さないと信じてもらえてるか分からないし・・・」
「了解いたしましたわ。
もしよろしければ、私達で広間に戻り忠告してきますわ」
「大丈夫?皆の立場上あんまり目立つとよくないかと心配なのだけど。捕まったりしないよね?」
申し出はありがたいが、ほんの先ほどまで囚われていた彼女達を手放すのは心配だった。
「ラスタ・グリーンさん、ノンさんあたりはステルス呪文が使えるのではないでしょうか?」
「オラできるよー」
「ん」
「ステルスは無理だけど雑踏に紛れる程度ならできるよっ!」
「私もその程度であればできます」
レッドベリーとサリユも名乗りを上げてくる。
「では私を含めて5班に分かれれば、5列ありましたのでちょうどいいですね」
「大丈夫?あと、広間の外にもう出た勇者候補も気になるの」
「宿舎で会う機会はありますわ」
「それもそうだね」
「では、言って参ります。もし何かあっても、近距離であれば契約者同士分かりますので安心してくださいませ」
ルシア達はさっと身を翻して広間に戻ってしまった。
彼女達だけを行かせる事は不安ではあるが、おかげで悩んでいたことにすぐに対策がとれた。正直、助かる。
「え、と。
エンヴィー。さっきの子たちは私の・・・仲間なの。
とりあえずは急いでるから、後で紹介させてね」
「オッケーよ。
アタシ達、さっき大神官が言ってた中古装備品を取りに行こうって思ってたとこなの。早い者勝ちらしいから。
ネズミちゃんも一緒に行かない?」
「あ、うん、ありがと」
通路に戻りエンヴィーに進路を任せ歩き出す。
「ねえ、日本語が母国語同士みたいだし、よかったらしばらく一緒に行動しない?」
エンヴィーは小首をかしげ片手を口元に添えて、魅惑的な笑顔で誘ってくれた。すごく可愛い。
女性は安全のため固まっておきたいなと思っていた所なので、渡りに船だ。
いきなり仲間を決めるのは早計だが、何か不都合があったら後から距離をおいてもいい。それに彼女はなんだか信じられる気がした。表面的なブリッコの奥に、もっと深い、懐の大きさを感じる。
「ありがとう。じゃあ、しばらくよろしくお願いします」
二つ返事を返した。
「オレはバルドル。一緒に行っていいかな?」
会話解禁の雰囲気を感じ取ったのか、静かにしていたキンキラ美男子も後ろから追いついて話しかけてきた。
必要以上にキラキラして爽やかげな笑顔だ。どうでもいいが。
「まあ・・・それよりそれもちゃんと、ハンドルネーム、なんだよね?」
さっきの話聞いてたよね、と念押しの意味で無表情にチラッと見返すと、
「君には本名も何もかも全て打ち明けたいけどね☆」
キラーンッ☆
謎のセリフとともに笑顔の歯が光り、イケメン光線が発された。
「オレ、ここで君と出会えたのは運命だと思うんだ☆」
キラキラーンッ☆
「・・・・・・」
やりづらいな〜、このひと。
もともと異常に甘い国籍不明な美しいマスク。必要以上に砂糖の盛られた笑顔はアイドルとかなら一般に好まれそうだけど、私にとってはどっちかっていうと男の過剰な媚びは不愉快だ。
「あ、そう?」
だが、とりあえず害はなさそうなのでスルッとスルーした。
スルーされてちょっと固まっているが、それも気にしない。
エンヴィーは頭も切れそうだし、後で落ち着いて話をしたかった相手だし、保護すべき女子だから一緒にいるのはやぶさかではない。だけど、オマケで着いてきたバルドルは面倒だなあ。でも着いてくるならしかたない。顔だけはいいんだし、今後取材相手が女性のときには餌としてちょうどいいかもしれないな。
なぁ〜んて酷いことを考えながら、バルドルから目をそらした。つもりだった。がしかし、目をそらした先の視界にまでちょこちょこ回り込んできて、不必要にニコニコ笑いかけてくる。
「・・・なにか?」
「なんでもないよ、君と見つめ合いたいだけだYO☆」
「・・・・・・」
キラッキラの美形オーラを発しながら、甘い笑顔を途切れさせずに色々な角度で無闇矢鱈と決め笑顔を繰り出してくるバルドル。
にこっ。サラサラ(金髪がなびく)ッ!
ニコッ!ふわふわ(服がなびく)っ!
にこにこっ!!!キラーン☆
・・・はいはい、色んな決めポーズをお持ちなんですね。
写真映えしそうですね。はいはい。
って分かったけど、なんだかうざい。
「悪いけど・・・ちょっと歩きづらいよ?」
「あれ?効かない?」
あまりに邪魔なので注意すると、バルドルが不思議そうに問いかけてきた。
「だから何が?」
笑顔で話しかけられているのに無作法だと思うけど、基本的に男嫌いな私だ。半目でおざなりに返事をした。
その様子にバルドルはあっけにとられたようだ。
「エンヴィー、これまじで効いてないよ」
「みたいね」
エンヴィーは笑いをかみ殺している。
・・・こりゃ、なんの話だ?
えええー、せっかく美男子出てきたのに、うざい!
このお話には見た目美しいと変な性格である呪いでもかかっているのか?!
次回はバルドルとエンヴィーのスキル一部判明!
毎回水曜更新です!




