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第七話:千年の真相と、はじまりの音色

いつも読んでいただきありがとうございます!

第7話、更新しました。

「……天狐様が封印された後のことです」


 シオリさんが古文書を指先でなぞりながら、静かに語り始めた。


「天狐様を祠にお隠しされた後、陰陽師の頭領であられた天神(あまかみ)フウマ様は、押し寄せる麒麟(きりん)の軍勢へ立ち向かわれました。フウマ様は自らの全霊力と命を引き換えに、麒麟に深い傷を負わせたのです」


『フウマが……命を捨ててまで……』

 師匠の喉から、絞り出すような声が漏れる。


「はい。その直後のことです。傷つき退いた麒麟の隙を突き、南の空から『鳳凰』と聖騎士たちが現れました。彼らは猛攻を仕掛け、麒麟の軍勢を完全に追い返したのです。……しかし、その後の出来事が悲劇でした」


 シオリさんは悲しそうに伏目になった。


「村人たちは自分たちを救ったのが天狐様ではなく鳳凰様だと信じ込み、感謝の証として鳳凰を祀る聖堂を建て、村の名すら変えてしまいました。真実を知る我が九十九(つくも)一族は追われるようにこの地に隠れ住み、お狐様が封印から解き放たれる日を待つしかなかったのです……」


 そこで一度言葉を切り、シオリさんは俺に温かい視線を向けた。


「そして……天神家の方々もまた『守護者でありながら皆を救ってくれなかった』と村人から不当な弾圧を受け、身を隠すために陰陽術を捨て、演奏家として全国に散っていったとお聞きしております。……現在、東と南の領域は、すべて鳳凰様の支配下にあります」


 深い静寂が部屋を支配した。

 師匠は深々と首を垂れ、小さな前足をギュッと握りしめた。


『……わしの力がおよばず、フウマ……すまなかった。そしてシオリ、九十九一族にも、このような肩身の狭い生活をさせてしまい……面目ない……』


 太古の神獣が、本気で申し訳なさそうに謝罪している。

 重苦しい空気が漂う中——俺は首をかしげて、素朴な疑問を口にした。


「……ねえ。話聞いてて思ったんだけどさ」

「……え?」

「鳳凰って、めちゃくちゃ良い奴じゃん」


「「……はい?」」


 シオリさんと師匠の情けない声がハモった。俺は言いたいことをズバズバと続ける。


「だってさ! 危険な時に助けに来てくれて、麒麟追い払って村を救ってくれたんだろ? だったらもう、このエリアは全部鳳凰に任せておけば良くない? 俺たちは三味線弾いて呑気に暮らそうよ!」


「と、トウマ様!? 鳳凰様は歴史を塗り替えたのですよ!?」

 シオリさんが目を丸くして驚愕する。しかし、師匠は意外にも「う〜む」と顎を撫でた。


『……いや待てよ。トウマの言うことも一理あるぞ』

「えぇっ!? 天狐様まで!?」

『鳳凰がこの地を護っておるなら、わしが表立って治める必要もない。それに……むしろ都合が良いではないか! 鳳凰の目の届かぬ隙に、自由に動いて『尾』を探せるでのう!』

「あ、尾……ですか?」


 首を傾げるシオリさんに、俺はヤレヤレと肩をすくめた。


「そうなんだよ。この師匠、封印が解けた反動で九本の尻尾の八本が世界中に飛んでいっちゃってさ。俺は解放してもらうために、しょうがなく尾を探す旅に付き合わされてるんだ」

『“しょうがない”とは何じゃ泥棒猫め! わしの髭を弦にしておいて!』

「猫じゃなくて狐だろ!」


 漫才のような俺たちのやり取りを見ていたシオリさんは、ぽかんとした後、ふっと表情を和らげた。


「……ふふっ、そうですか。生き別れた『尾』をお探しなのですね。……それなら、一つ心当たりがございます」

『なに!? 誠か!?』

「はい。この近くにある『底なしの沼』に、最近巨大な人食いナマズが出没すると噂になっておりまして。異様な霊気を纏っているそうなのです。もしかすると、お狐様の尾の影響では……」


『おおお! 間違いない、それじゃ! トウマ、すぐに行くぞ!!』

「ちょっと待てよ! また前の暴れ熊みたいに『ただの魔鉱石でした〜』っていう大外れのパターンじゃないの〜!?」

『手当たり次第に行くしかなかろうが! ぐずぐずするな!』


 飛び跳ねる師匠に俺がウンザリしていると、シオリさんが凛とした顔立ちで立ち上がった。


「それでしたら、私も同行させてください。少々ですが九十九家に伝わる術を受け継いでおりますので、少しはお役に立てるかと」

『おお! それは心強い! こやつはまだ刀もまともに振れぬヒヨッコじゃからのう!』

「誰がヒヨッコだ! ……ってか、そんな事よりさ!」


 俺は背中から愛用の三味線を取り出すと、目を輝かせてシオリさんに身を乗り出した。


「シオリさん、せっかくだから笛吹いてよ! さっき外で聴いたけどめちゃくちゃ上手かったじゃん! 俺の三味線と合奏しようよ!」

「えっ? あ、はい! 私の笛でよろしければ、喜んで……!」

『ぬ? おいトウマ、ナマズの件はどうするのじゃ!』


 焦る師匠に、俺はニヤリと笑ってみせた。


「ナマズなんて明日でいいでしょ! 最高の笛吹きと出会えたんだぞ? 演奏が先決に決まってんだろ!」

『まったく、これだから音楽馬鹿は……。……まあ良いわ、シオリの笛の音色、わしにも聞かせとおくれ』


 師匠が座敷の上にちょこんと座り直し、耳をピシッと立てる。


 ほの暗い奥の院に、澄み切った竹笛の音色と、霊力を宿した三味線の深い響きが重なり合った。

 千年の時を超えて引き合わされた、巫女の笛と陰陽師(三味線弾き)の弦。


読んでいただきありがとうございました!

麒麟を追い込んだのが鳳凰の軍団とは!

狐も自由?になれて喜んでいますね笑。

次回ナマズ退治! 尾はあるのでしょうか?


少しでも楽しんでいただけたら、ぜひブクマや評価(★)で応援してもらえると嬉しいです!

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