第六十五話:陰陽の宿命! 操られし天神カズマ(中編)
重々しい漆黒の扉を押し開き、トウマとシオリはついに王宮の最奥——『玉座の間』へと辿り着いた。
紫黒色の妖気が渦巻く広大な空間。その玉座に腰掛けていたのは、漆黒の狩衣を纏い、額に不気味な鬼の紋章を浮かべた一人の男だった。
「……よくぞここまで辿り着いたな、ネズミども」
男がゆっくりと立ち上がる。その瞳は血のように赤く染まり、人間とは思えぬ禍々しい『鬼の妖気』を全身から放っていた。
天神フウマの弟——天神カズマである。
トウマの肩から、神々しい九本の尾を背負った天狐が飛び出し、必死の声を張り上げた。
『……カズマ!! カズマよ、目を覚ますのじゃ!! ワシじゃ、天狐じゃ!! お主の兄・フウマと共に戦った天狐じゃぞ!!』
かつての戦友の必死の叫び。しかし、カズマの冷酷な瞳には微かな揺らぎすら浮かばない。
「天狐……? ククッ……下等な聖獣どもが。貴様らの言葉など、今の我には一切届かん」
カズマはせせら笑いながら、腰の黒塗りの刀を静かに抜き放った。刃から立ち上るのは、空間すら腐食させる紫黒の鬼気だ。
「我の目的はひとつ……貴様ら聖獣どもを全て殺してその血を捧げ、深海に眠る『鬼の封印』を完全に解き放つこと。そして、この下品な世界を死と絶望で満たすことだ!!」
『な……何じゃと!? 聖獣を殺して鬼を解き放つだと……!?』
天狐が絶句する。カズマの精神はすでに鬼の意思に完全に侵され、己の誇りも正気も失われていたのだった。
「だめだ……説得は通じない……! 師匠、行くぞ!!」
『……分かった! 頼むぞ、トウマ!!』
トウマの覚悟に応え、天狐がまばゆい黄金の光となってトウマの身体へと吸い込まれていく
トウマの背後に美しく神々しい九本の光の尾が展開し、手に握りしめた刀に九つの尾すべての威光が満ち溢れた!
「行くぞ……カズマさん!! あなたを絶対、鬼の手から救い出す!!」
「フッ……我が鬼の陰陽術の前に、消え去るがいい!」
カズマが黒刀を空中に一閃!
「鬼流陰陽術・『黒蛇冥界陣』!!」
空間から無数の漆黒の蛇が溢れ出し、死の妖気となってトウマとシオリへ襲いかかる!
「させないっ!! 『風神・雷神……疾風迅雷突!!』」
シオリが前に飛び出した! 背中の風と雷の翼を爆発させ、青い電光と黄金の旋風を交差させて黒蛇の群れを一瞬で叩き斬る!
「トウマさん、今です!!」
「おうっ!!」
トウマが愛刀を強く握り直し、踏み込む!
刀身に【狐火】の激しい炎と【雷】の電撃、さらに【光】の浄化光を同時に纏わせ、光の軌跡を描きながら凄まじい一閃を繰り出す!
ズバババババァァァンッ!!
「ぬうっ……!? 刀に複数の能力を宿して叩き込んでくるか!」
カズマが黒刀で受けるが、トウマの重厚な刀撃に押されて後退する。間髪入れず、シオリが超高速の風でカズマの背後へ回り込み、風と雷の刃で挟み撃ちの連撃を繰り出す!
シュババババッ!!
ふたりの息の合った怒濤の連続攻撃が、カズマを着実に押し込んでいく!
「やったか……!?」
シオリが叫んだ、次の瞬間——!
「——甘いな」
ゴォォォォォォンッ!!!!
カズマの身から爆発した紫黒の鬼気が、トウマの刀撃とシオリの風雷を一瞬で吹き飛ばした!
「なっ……!? 攻撃が……押し返された!?」
カズマの瞳が凶悪に光る。1000年の時を経て鬼の力を得た天神一族の陰陽師——その地力は、トウマたちの想像を遥かに絶する領域に達していた!
「『鬼神二重印・獄炎破邪殺』!!」
カズマが空中に描いた二重の血印から、灼熱の鬼火と空間を切り刻む妖気の刃が全方位へと解き放たれる!
「ぐああああああっ!?」
「きゃあああああっ!?」
トウマとシオリは直撃を受け、玉座の間の壁へと激しく激突! 衝撃でトウマの刀が手元から弾き飛び、二人は血を流して床へと崩れ落ちた。
「ハハハ! 伝承の天狐も、風神雷神の力も、我が『鬼の陰陽術』の前には赤子同然! 終わりだ、ここで死ねぇっ!!」
カズマが黒刀を振り上げ、倒れ伏すふたりへ向けて冷酷に足音を響かせる。
刀を失い、絶体絶命の危機に追い詰められたトウマとシオリ。
カズマは黒刀を構え、笑みを浮かべていた。
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