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第五十六話:潜む影と、ソフィアの真眼

 クリスに案内されたのは、極寒の雪山を深く穿って作られた、レジスタンスの『地下秘密施設』だった。


 巨大な岩の扉を抜けると、そこには大勢の同志たちが集い、首都ザイールの奪還に向けて慌ただしく準備を進めていた。


「すごい……こんな大きな地下基地があったなんて」


 シオリが感嘆の声を漏らすと、クリスは背中のバイオリンケースに手を置きながら、小さく頷いた。


「ああ。ここなら追手も容易には近づけない。……さあ、奥で作戦会議を始めよう」


 施設の一室にある作戦室。大きな北の大陸の地図を囲み、クリスやレジスタンスの幹部たちが集まった。

 トウマたちも席に着き、これからの動きについて話し合おうとした——その時。


 ソフィアが優雅に、しかし氷のように冷ややかな静けさを纏って立ち上がった。


「クリス殿……本題に入る前に、解決しておかなければならない非常に重大な『懸念』がございますわ」


「懸念……? 何のことだ、ソフィア殿」


 怪しむクリスに対し、ソフィアは愛用のタクト(指揮棒)の先を、そっと地図の上に示してみせた。


「北の谷の村の秘密拠点があそこまで正確に急襲されたこと……そして、リリス殿が狙われたタイミングの不自然さです。……この中に、闇の軍団へと情報を漏らしている『スパイ』がいます」


「なっ……!? スパイだと!?」


 作戦室に激震が走った。幹部たちが一斉に騒ぎ出し、「俺たちの中に裏切り者がいるというのか!」「そんな馬鹿な!」と怒号が飛び交う。


 その中で、クリスの右腕として長年レジスタンスを支えてきたサブリーダーの男——アロイが、眉をひそめて前に出た。


「おいおい、旅の演奏家さんよ。俺たちは命を懸けて闇の軍団と戦ってきた仲だ。根拠もないのに仲間に疑いをかけるのはやめてもらおうか」


 アロイは穏やかな顔つきで制しようとしたが、ソフィアの視線はブレない。


「根拠なら、今から作りますわ。……クリス殿、今夜『偽の出撃計画』を流していただきたいのです。……炙り出しましょう、内部の毒虫を」


 ◇


 その夜。


「明朝、西の港から闇の軍団の輸送船を急襲する」という偽の情報が、レジスタンス内部の限られた幹部にだけ伝えられた。


 暗く静まり返った秘密施設の裏口。吹雪が吹き荒れる極寒の暗闇の中、影丸とトウマ、そしてソフィアが気配を完全に消して潜伏していた。


「……トウマ、息を殺せ。来るぞ」


 影丸の低い囁きに、トウマはゴクリと生唾を飲み込んで頷く。トウマの手には、一本の愛刀がしっかりと握られていた。


 やがて、施設裏の暗がりから、一人の人影が滑り出てきた。

 その人物は周囲を警戒しながら懐から一羽の「漆黒の伝書鳥」を取り出し、足に小さな暗号文を括り付けようとしていた。


「……そこまでですわ」


 闇の中から、ソフィアが静かに姿を現す。


「ッ……!? 誰だ!!」


 人影が驚いて振り返り、フードが捲れ上がった。月光に照らし出されたその顔は——サブリーダーのアロイだった。


「アロイ……! やっぱり、あんたがスパイだったのか!?」


 トウマが刀に手をかけて飛び出す。アロイは驚愕に顔を歪めたが、すぐに開き直ったように不気味な薄笑いを浮かべた。


「ケケッ……気づくのが遅かったな! 俺は最初から闇の軍団様から遣わされた使者よ! こんな勝ち目のないレジスタンスなど、最初から売るつもりだったのだ!」


 アロイは懐から短剣を抜き放ち、暗闇へと逃走を図ろうと跳び上がった。


「逃がさん」


 だが、頭上から降り立った影丸の電光石火の縄術が炸裂!

「ぐわぁっ!?」と声を上げる間もなく、アロイは全身を頑丈な忍縄で一瞬にして縛り上げられ、雪原へと転がり落ちたのだった。


 ◇


 作戦室へと引きずり込まれたアロイを見て、クリスは苦痛と激怒に震えていた。


「アロイ……! 貴様、俺や仲間たちを……妹のリリスまで売っていたのか……!」


「ハハハ! 怒れ怒れ、クリス! だがもう遅いぞ! 麒麟はすでに北の山奥にある『嵐の祭壇』に囚われ、闇の力で操られている!もはや聖獣でもなんでもない、 お前たちに救出などできるものか!」


 アロイの吐き捨てた言葉に、作戦室の温度が一気に下がった。

 クリスは冷たくアロイを見下ろすと、幹部たちに身柄を拘束させた。


「裏切り者の処理は後だ……。判明したのは大きな収穫だぞ。操られた麒麟様がいるのは、首都ではなくやはり『嵐の祭壇』か」


 クリスは地図の北に位置する険しい山地を指し示した。ソフィアも深く頷き、タクトをトントンと手の中で弄る。


「ええ。スパイを排除した今なら、こちらの作戦が敵に漏れる心配はありませんわ。……問題は、正気を失った聖獣『麒麟』を、いかに傷つけずに正気へと戻すか、です」


 トウマは三味線をベベンと弾き、力強く頷いた。


「よし! スパイの罠も突破したし、次は麒麟様を助ける番だね! クリスさん、ソフィアさん、さっそく『麒麟救出作戦』の会議を始めよう!」


 後顧の憂いを絶った一同は、嵐の祭壇に囚われし麒麟を救い出すため、作戦卓へと再び集うのだった——!


読んでいただきありがとうございました!


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