第五十五話:レジスタンスのリーダーと、奪われた拠点
半壊したアーチの上に佇み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるバイオリンの男。
トウマたちが一斉に警戒の視線を向ける中、助け出された女性がはっと顔を上げ、男に向かって声を張り上げた。
「……お兄ちゃん! 」
「ええっ!? お、お兄ちゃん!?」
トウマとアーサーがハモるように素っ頓狂な声を上げた。
アーチから軽やかに跳び降りてきた男は、バイオリンを背中のケースに収めると、フードを脱ぎ捨てて溜め息をついた。
「無事でよかった、リリス。……怪我はないか?」
「ええ、この旅の演奏家さんたちが助けてくれたの!」
男は妹の無事を確かめると、どこか申し訳なさそうな、しかし誠実な眼差しでトウマたちへと向き直った。
「すまなかった。……助けてくれたこと、改めて礼を言う。俺の名はクリス・ローレンス。……そして妹のリリスだ。ここでは人目が多すぎる……ひとまず俺の家へ来てくれ」
◇
クリスに案内されたのは、村の端にある雪に埋もれた古い木造の家屋だった。
暖炉に火が入れられ、部屋がパチパチと温かい温もりに包まれる中、トウマたちは温かいお茶を受け取りながらテーブルを囲んだ。
「さて……まずは俺の正体から話さなければな」
クリスは壁に立てかけられたバイオリンに視線を落とし、静かに口を開いた。
「俺は、北の大陸で闇の軍団に抗戦を続けている『レジスタンス』のリーダーを務めている。……実は、この村は俺たちの潜伏拠点の一つだったんだ」
「レジスタンスのリーダー……!?」
ソフィアが息を呑む。クリスは苦く顔を歪めて頷いた。
「ああ。だが先日、どういうわけか魔物どもにこの村が潜伏拠点だと知られてしまった。……奴らは俺たちを炙り出すために村を急襲し、リリスが逃げ遅れて捕まってしまったんだ。俺はクルトの街で情報を集めつつ、助け出す機会を伺っていた」
そこへ、コートの胸元から師匠(天狐)がひょっこりと顔を出した。
『ふむ……それで酒場にいた我らにあの魔物の情報を流したというわけか。お主、あの魔物が我が尾の力を宿しておることに気づいておったな?』
天狐の鋭い指摘に、クリスは隠すことなく深く頷いた。
「……そうだ。あの氷の大魔獣が纏っていた常軌を逸した邪気と、ゆらゆらと輝く【妖の尾】。クルトの酒場でお前たちの奏でる音色を聴いた時、胸の奥から湧き出る異常な霊気を感じた。……お前たちならあの尻尾の力を打ち破り、リリスを救い出せるかもしれないと賭けたんだ。……危険に巻き込んでしまい、本当にすまなかった」
クリスが頭を下げると、トウマは笑顔を見せて明るく笑い飛ばした。
「なーんだ、そういうことだったのか! 頭を下げないでよクリスさん! 理由はどうあれ、困ってるリリスさんを助けられたんだから、俺たちは全然気にしてないよ!」
「トウマさんの言う通りです。リリスさんがご無事で、本当に良かったです」
シオリも優しく微笑み、リリスの手をそっと握った。クリスは二人の温かさに毒気を抜かれたように目を見開き、やがてフッと柔らかい笑みを漏らした。
「お前たち……本当にいい奴らだな」
だが、その和やかな空気も束の間。クリスは突如真剣な表情へと戻り、立ち上がった。
「だが……ゆっくりお茶を飲んでいる時間はない。魔物どもにこの拠点が割れた以上、ここはもう安全じゃない。あの大魔獣が倒されたと知れば、すぐに首都ザイールからさらなる大軍勢が押し寄せてくるはずだ」
「なっ……大軍勢が!?」
アーサーが立ち上がる。クリスは背中にバイオリンを背負い直し、リリスの肩をしっかりと抱いた。
「ああ。この村の住民はすでに地下通路から避難させ始めている。俺たちも一刻も早く、ここから離れた場所にある『レジスタンスの隠れ施設』へ移動するぞ! 連中が追手を差し向けてくる前に急ぐんだ!」
「了解! クリスさん、案内を頼むよ!」
トウマ、シオリ、アーサー、ソフィア、そして三聖獣たちも一斉に立ち上がった。
闇の軍団の追手が迫る中、一行はクリスとリリスと共に、レジスタンスの本拠地が存在するさらなる深部へと向けて疾走を開始するのだった!
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