第五十一話:北の大陸への路(みち)と影丸の報せ
5章のはじまりです。
鳳凰の村の大聖堂。広げられた世界地図を前に、ソフィアを中心とした作戦会議が始まっていた。
フサフサとした七本の尾を揺らしながら、師匠(天狐)が地図に描かれた最北の地——『北の大陸』を鋭い眼差しで見つめる。
『我が失われた尾は残り二本……。気配を追う限り、やはり残る尾も北の大陸にあるのは確実じゃ。しかし問題は……あの北の大陸が、全土を囲むような断崖絶壁に覆われているということじゃな』
「断崖絶壁……?」
アーサーが腕を組みながら眉をひそめると、トウマが思い立ったようにポンと手を打った。
「だったらさ、鳳凰様や朱雀に乗って空から行けばいいんじゃない? 上空から飛んでいけば、断崖絶壁なんて一っ飛びで直ぐに着くと思うんだけど!」
だが、トウマの提案にソフィアは優しく首を横に振った。
「いいえ、トウマ。空からの侵入は危険すぎるわ。聖獣様の巨大な気配で上空から侵入すれば目立ちすぎる……それこそ、北の大陸全域の魔物が一斉に集まってきて、空中戦で取り囲まれてしまうわ」
「う……確かに、囲まれたら逃げ場がないか……」
トウマが苦笑いして引き下がると、ソフィアは地図の一点をタクトの先で指し示した。
「断崖絶壁を避けて潜入するには……北の大陸で唯一、海に面した港町『クルト』から入るしかないわ。ただし、極寒の北の大陸へ渡る定期便の船なんて今やどこにも存在しない。それに、あの大軍勢の魔物が東や西の大陸へ押し寄せてきたことを考えれば……北の大陸に潜む魔物の量は、私たちの想像を絶するはずよ」
船も出せない、魔物の蔓延る危険地帯——。
攻め込む手立てを失い、重苦しい静寂が聖堂を包みかけたその時。
サッ……!
天井の影から、静まり返った聖堂の床へと一人の忍が滑り込むように舞い降りた。
漆黒の装束を纏った男——天神家に仕える仲間、『影丸』だ!
「影丸……!? どこに行っていたの?」
トウマが驚くと、影丸は静かに膝をつき、仮面の奥の瞳を光らせた。
「……忍びとして、北の大陸への渡航手段を探っておりました。ソフィア殿のおっしゃる通り、クルトは絶海の孤島のごとき難所。……しかし、拙者に一つだけ心当たりがございます」
「本当か、影丸!?」
アーサーが身を乗り出す。影丸は深く頷いた。
「昔……拙者が任務の最中、海で遭難していたクルトの若い漁師を助けたことがございます。名をサイ・ハーデス。今は故郷であるクルトへ戻り、現地で密かに生き延びているはず。きっと助けてくれるはず……拙者の隠密用伝書鳩を飛ばし、協力を仰いでみましょう」
「サイ・ハーデス……これは頼もしい!」
ソフィアの瞳に希望の光が宿る。
「影丸、伝書鳩の手配をお願いするわ。返事を待つ間、私は東の大陸の駐屯軍と協力して、クルト沖まで渡れる頑丈な遠洋航行船を準備しましょう」
「はっ。承知いたしました」
影丸が影のようにスッと姿を消すと、トウマたちは一気に動き出した。
◇
それから数日後。
東の大陸の港には、ソフィアが手配した氷海にも耐えうる重装甲の軍用船が停泊し、出航の準備が整えられていた。
旅の準備を整えたトウマ、シオリ、アーサー、ソフィア、そして三聖獣(天狐、青龍、鳳凰)が港に集まる中、空から一羽の漆黒の伝書鳩が飛来し、影丸の腕へと留まった。
小筒から丸められた小さな紙を取り出し、目を通す影丸。
「影丸、サイ殿からの返事か……!?」
アーサーが尋ねると、影丸は安堵の息を漏らし、静かに頷いた。
「……サイから返信が届きました。『影丸殿の頼みとあらば、命を賭して協力しよう。クルトの沖合にて待つ』とのことです」
「やった……! これで北の大陸への足がかりができたぞ!」
トウマが拳を握り締め、嬉しそうにシオリと顔を見合わせる。シオリも心強そうに頷いた。
「サイ殿が待っていてくれるクルトの沖合まで船を進め、そこで合流して港町クルトへ潜入する……完璧な手順ね」
ソフィアがタクトを掲げ、船の甲板を指した。
「皆さん、準備はいいかしら? いよいよ、すべての元凶が潜む極寒の地——『北の大陸』へ向けて出航します!」
『うむ! 我が最後の二本の尾を取り戻し、北の大陸の異変を解き明かすぞ!』
天狐がフサフサの尾をなびかせて声を張り上げると、トウマたちは力強く船へと乗り込み、サイ・ハーデスが待つ極寒の北の海へと舵を切るのだった!
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